運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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7 王女殿下と木精編

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 驚愕する声を挙げたのは、クズ男だ。

 何がびっくりなのかと言われると、少し返答に困る。

 たぶん、広場の地面に突っ伏した状態のデルティ殿下を、王太子殿下が拾い上げたから、だろうとは思う。

「よく頑張ったデルティ」

 逆五芒陣の中で平然とする王太子殿下。

 足元の逆五芒陣が王太子殿下の魔力を吸い上げようとして。
 でも、殿下は三聖の主だものだから《魔力隠蔽》していて、吸い取れる魔力が身体の外にまったく漏れ出さなくて。
 それでもって、王太子殿下の身体と空気が触れ合う境界がバチバチバチバチッと凄い音を立てて反応している姿。

 うん、まぁ、普通に怖いよね。

「なんで、こんな状況なのに、兄さまは平然としていられるのよ?!」

 まずは拾い上げてくれたことにお礼を言おうよ、ありがとうって。

 と、心の中で私はつぶやく。

 王太子殿下の方は気にした風もなく、デルティ殿下の質問に答えていた。

「五強が五本集まったところで、三聖に敵うはずがなかろう?」

 身も蓋もない言い方。

 傲岸不遜な物言いにカチンときたのか、リグヌム以外の五強の視線が王太子殿下に集中する。
 視線で射抜こうとするような、鋭い視線がじっと殿下に降り注いでいる。

 それでも王太子殿下は変わらず、気にした風もなく、言葉を続けた。

「しかも、うち四本は不完全。勝負になるはずもない」

 王太子殿下の乱入で、アキュシーザとリグヌムはそれぞれ身を引き、アクアもすーーーっと下がってフォセル嬢のそばに行く。

 王太子殿下のそばに寄ってこようとしていたトリビィアス殿下と専属護衛には、手を挙げて、その場に待機させ、デルティ殿下ともつれていっしょに落ちたダイアナ嬢はといえば、

 地面にうずくまって痛がる振りをして、王太子殿下の気を引こうと頑張っていた。

 いや、本当に痛いのかもしれないけど。

 デルティ殿下を押して、結果、いっしょに落ちたしね。

 そもそも、デルティ殿下を落とそうとした人物を王太子殿下が助けてくれる、そう考えられるところからして、頭がおかしいと思う。

 当然、王太子殿下は、必死に痛がるダイアナ嬢は無視。

 ダイアナ嬢には目を向けることもせず、入り口前のクズ男を見上げていた。厳しい表情で。

「どうやら王太子殿下も、この演出がお気に召したようですね」

 会場の招待客にでも聞かせるように、明るくハキハキとした声を出すクズ男。

 え?

 私はどこで何をしてるのかって?

 もちろん、

 王太子殿下の指示で、逆五芒陣の外側で待機して合図待ち。

 デルティ殿下の補佐官風の格好なので、今回の私はあくまでもサポートに徹する。サポートな鎮圧要員なので、目立たず騒がず。

 その割に、王太子殿下とデルティ殿下の間に遠慮なく座ってたけどね。

 前に出て注目されるのは王太子殿下の役割だ。招待客は半分寝ぼけた状態になってるので、おぼろげな記憶として残る。

 その王太子殿下は、厳しい表情に感激した口調という、なんともアンバランスなことをやってのけた。

「あぁ。さすがは筆頭殿。素晴らしい演出だな」

「そうでしょう。なにせ、『五界』が揃いましたので」

 対してクズ男の方は、挑発するような態度を崩さない。

 多少のことではお咎めなしだと、確信しての行動だろう。現に今まで、王家も中枢部もそれを通してしまったのだから。

 けれども、

 今回ばかりは様子が違うのをクズ男は見逃していたのだ。




 調子に乗るクズ男を、王太子殿下は余裕そうな笑みを浮かべて、逆に挑発する。

「さらに、こんな演出はどうかな?」

 と。

 でなくても、逆五芒陣による魔力吸い上げと殿下の《魔力隠蔽》が反発しあってバリバリしてるので、怖さが倍増。

 王太子殿下の挑発の言葉と同時に、殿下の右手がさっと掲げられた。

 そして、


 パチン


 と指を鳴らすと、




 パリン!




 それが合図であったかのように、逆五芒陣が砕け散る。

「魔法陣が砕け散ったわ」

 そう。言葉通り砕け散ったので、砕けた破片がキラキラと空中に漂う。

 さらに、もう一度、王太子殿下が指をパチンと鳴らすと、キラキラが大きく膨らんだ。かと思えば、ふぃっと膨らみが破裂するように消え失せたのだ。

 跡形もなく。

 招待客は光が消え失せると同時に、夢から目覚めた。現実とも夢とも思えないような体験に、全員が興奮して喋り始める。

 これにはクズ男もすぐには言葉が出てこない。

「さすがは王太子殿下。粋な演出でしたね。それではみなさま…………」

 言葉が出ないクズ男に代わって、トリビィアス殿下が締めの挨拶をして、お披露目会は終幕となった。

 いろいろとわだかまりは残ったけれど。




 招待客が順番に移動をし始めて、三聖の展示室入り口前から仮主たちが強制移動となって、その様を私は同じ場所から、ぼーーーっと眺めていた。

 リグヌムへの圧を解除し忘れたことを除けば、私の仕事は概ね良好だったと思う。

 にしても、

「人使いが荒すぎる」

 私はひとりごちた。

 王太子殿下の合図で逆五芒陣を破壊したのは私なのに。すっかり、王太子殿下の『演出』扱いされているのは、ちょっと腹正しい。

 腹正しくても、私がやったとなると、いろいろ面倒臭いことになるので、名乗り出るのも悪手。

 破壊するための魔法陣を準備して、魔力圧をきちんと計算して、魔力圧で被害が出ないようにさらに魔法陣を用意して、と、そーーーんな面倒で緻密なことをしたのは、

「私なのに!」

 あ。

 思わず、声に出してしまった。

 変な人に思われる。

 声に出してから口を押さえても遅いけれど、やってみると、どこからともなくケルビウスが現れた。

 詳しく言うと、私の斜め後ろから、ふらーーーっと現れたのだ。

 そこにはフィリアがいたはずで、見るとフィリアがギョッとしている。この様子では突然、現れたんだろう。

 突然、現れたケルビウスは、甘い声を出して私に抱きついてきた。
 大人の女性の柔らかな身体の感触、甘くて良い匂いもする。杖だけど。

「まあまあ、エルシー。お疲れさま」

 ケルビウスは声も甘い。

「ルビーお姉さま、いや、ケルビウスも観察、ご苦労さま」

 私がプライベート口調から業務口調に切り替えて応じると、ケルビウスは身体を離して綺麗に一礼した。

 くっと顔を上げると、ルビーお姉さまとしての顔ではなく、三聖の一つ、ケルビウスの顔がそこにある。

「で。見えたんでしょ?」

 私のセラフィアスが鎮圧専門であるならば、ケルビウスは観察と記録が専門。

 ケルビウスはすぐさま、ルビーお姉さまの顔に戻り、私の質問にこう答えた。

「まぁねぇ。ナイショだけど。うふ」

 うん、何かしらの収穫はあったようだ。
 気になることが多々あるお披露目会だったけれど、これで、一段落。

 私もそろそろ、ここからお暇しよう。
 そう思って席を立つのだった。
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