451 / 573
7 王女殿下と木精編
5-11 そしてその後のダイアナ
しおりを挟む
「まったく!」
ガチャン!
怒鳴り声とともに何かが割れる音がして、わたくしは肩をすくめました。
「なんだ、あいつは!」
ガチャン!
またもや、何かが割れる音。
音が聞こえるたび、わたくしはただただ目をつぶり肩をすくめて耐えるしかありませんでした。
それは、わたくしの隣に座る研修生も同じだった模様。
声を荒げているのはこの部屋の主、王宮魔術師団の筆頭様です。
アルゲン大公妃だけ、平然としていました。
「ディルス君、荒れてるー」
「茶化すのは止めてくれ」
ソファーの、筆頭様に一番近い場所に優雅に座り、ケラケラと艶やかに笑っています。
筆頭様の様子を見て、後ろに控えている大公妃付きの侍女は、真っ青な顔で震えているというのに。
三聖の展示室前でのお披露目会が、追い立てられるようにして終了となった後、わたくしたちも移動となりました。
元よりお披露目会が催される予定だった場へ。
移動したわたくしたちを待っていたのは、すでにあつらえた雰囲気の仕立て上げられた場。
お披露目会にはいらっしゃらなかった国王陛下や王妃殿下も御前にいらっしゃいました。
御前に招かれ、一通り、挨拶と紹介が済むと、陛下たちは奥に下がられて終了です。
わたくし、五強の主となりましたのに。
しかも、史上初の五強の主の二本持ちですのに。
たったこれだけですの?
チヤホヤと誉めそやかされるまではいなくても、もっと称えていただけるとばかり思っていました。期待外れすぎて、国や王家の対応にがっかりです。
それとも、
特定の優秀な人物だけ持て囃しすぎると、変な恨みを抱かれることもあると聞きました。
もしかしたら、その対策であっさりとした態度だとしたら?
そう考えると、すべて辻褄があいますわね。
それにわたくし、筆頭様の邪魔をさせまいと、王女殿下を突き飛ばしてしまっていましたわ。
その辺りを掘り下げられて、不敬だなんだと難癖つけられるのも困りものです。
多少の不満は飲み込んで、現状で我慢しましょう。
わたくしがそう結論づけて、お披露目会後のちょっとした催しを乗り切りました。
たくさんの招待客の方々に声をかけていただき、我が家門、セイクリウスの名も上々です。
王女殿下とのことで、相変わらず、王太子殿下には無視されているような形ではありましたけど、王族は王太子殿下だけではありませんわ。
わたくしの良さをとても買ってくださるデュオニス第二王子殿下。
この方が、わたくしが目立つよう華やかに立ち回ってくださったので、最後にはわたくし、とても満たされた気持ちになりました。
そうして催しが終了して。
そのまま帰宅しようとした矢先に呼び出されたのが、筆頭様の執務室です。アルゲン大公妃とあの研修生もいっしょ。
何の用件なのか、話が始まる前から筆頭様の機嫌は芳しくなく、大公妃が、筆頭様の怒りの火に油を注いでおりました。
「だいたい、ディルス君。何が不満なの? 五強がぜーーーんぶ覚醒して、ディルス君が注目されて、計画通りじゃないの」
大公妃の指摘はまさにその通りなのです。
新しく五強の主となったすべてが、筆頭様の関係者。
何か秘策でもあるのかと、一番注目を集めたのが筆頭様でした。
ですのに、
筆頭様にとって、何かがうまくいかなかったようです。
お披露目会最後の魔法陣のことでしょうか。考えられるのはあれしかありません。
「まさか、ディルス君。わたくしにナイショで何かやろうとしてる、とか?」
「あのなぁ、僕の研究内容をホイホイと他人に教えるわけがないだろ」
「ディルス君、ひっどーーーーーい。協力してあげてるのに」
「協力の対価として、美容液も作ってやってるし、五強のお披露目会で注目も集められたじゃないか」
「うふ。まぁ、そうよねぇ」
お二人は、ソファーの隅に座るわたくし共ことなど意にも介さず、会話を続けています。
研究内容、協力、対価、などなど。気になる言葉はありますが、詳しい説明はなく、わたくしはただ聞いているだけ。
「若くて美人で、地位もお金も名声あって、その上、五強の主だなんて。わたくし、凄すぎない? うふふふふふふふ」
「本当なら金冠が手に入れば良かったんだけどな。まぁ、五界が使えそうだからな」
「うふ? ディルス君、何か言った?」
「あぁ、これで、次の段階に研究を進められる、ってな」
筆頭様のおっしゃる研究とは、どす黒い魔力の塊、人工魔力結晶と呼ばれるもののことでしょう。
そうです。
わたくしが食べているもの。
そしておそらくは、研修生と大公妃も同じように口にしているもの。
指示通りのペースで食べ続ければ五強の主になれるとは、もの凄い研究成果です。筆頭様はこれをさらに研究されるつもりのよう。
味もどうにかしていただければ、と、心の中で意見を述べたところで、大公妃が気になる発言をしました。
「そうそう、若さを維持するだけでなくて、取り戻すのも出来るようになるのよね?」
思わず、耳を疑います。
若さを維持、取り戻す?
もしかして、
この人工魔力結晶に若さを維持する効果まであるということかしら。
わたくしの顔に笑みが広がりそうになるのを、必死の思いで隠します。
「研究の進み方、次第だな」
「今回も期待してるわよ、ディルス君」
バサッとドレスの裾を翻す音とともに、大公妃が立ち上がりました。
お付きの侍女が二人がかりで大公妃のドレスの裾を持ち上げます。十分な広さの部屋なのにドレスで狭く感じるほど。
わたくしはその場で立ち上がり、頭を下げました。大公妃を見送るために。
わたくしに続いて研修生も立ち上がり、倣って頭を下げるのが目の端に映ります。
ゆっくりゆっくりとわたくしの前を通り過ぎる時、頭を下げたままのわたくしに、大公妃が声をかけてきました。
「あら、あなたたちもお疲れさま」
ようやく、わたくしどもに気がついた、とでもいうように。
大公妃になる前は末端の子爵令嬢に過ぎなかった、そんな人物から、道端の小石でも眺めるような物言いをされても、ぐっと我慢します。
「ディルス君も元気になって良かったわよね。ミレニア様が死んでから、げっそりしてたから」
視線も向けずにそうつぶやく大公妃。
筆頭様に背を向けているので、声はおそらく筆頭様には届いていないことでしょう。
完全に通り過ぎ、わたくしが頭を上げるタイミングで、聞こえてはならない言葉が聞こえてきました。
「でも、さっさと死んでくれて、せいせいしたけど」
ハッとして筆頭様を見ましたが、筆頭様には聞こえなかった様子。
今度は大公妃の方を見ましたが、すでに姿はなく、パタンと扉が閉まる音が部屋に響くだけでした。
ガチャン!
怒鳴り声とともに何かが割れる音がして、わたくしは肩をすくめました。
「なんだ、あいつは!」
ガチャン!
またもや、何かが割れる音。
音が聞こえるたび、わたくしはただただ目をつぶり肩をすくめて耐えるしかありませんでした。
それは、わたくしの隣に座る研修生も同じだった模様。
声を荒げているのはこの部屋の主、王宮魔術師団の筆頭様です。
アルゲン大公妃だけ、平然としていました。
「ディルス君、荒れてるー」
「茶化すのは止めてくれ」
ソファーの、筆頭様に一番近い場所に優雅に座り、ケラケラと艶やかに笑っています。
筆頭様の様子を見て、後ろに控えている大公妃付きの侍女は、真っ青な顔で震えているというのに。
三聖の展示室前でのお披露目会が、追い立てられるようにして終了となった後、わたくしたちも移動となりました。
元よりお披露目会が催される予定だった場へ。
移動したわたくしたちを待っていたのは、すでにあつらえた雰囲気の仕立て上げられた場。
お披露目会にはいらっしゃらなかった国王陛下や王妃殿下も御前にいらっしゃいました。
御前に招かれ、一通り、挨拶と紹介が済むと、陛下たちは奥に下がられて終了です。
わたくし、五強の主となりましたのに。
しかも、史上初の五強の主の二本持ちですのに。
たったこれだけですの?
チヤホヤと誉めそやかされるまではいなくても、もっと称えていただけるとばかり思っていました。期待外れすぎて、国や王家の対応にがっかりです。
それとも、
特定の優秀な人物だけ持て囃しすぎると、変な恨みを抱かれることもあると聞きました。
もしかしたら、その対策であっさりとした態度だとしたら?
そう考えると、すべて辻褄があいますわね。
それにわたくし、筆頭様の邪魔をさせまいと、王女殿下を突き飛ばしてしまっていましたわ。
その辺りを掘り下げられて、不敬だなんだと難癖つけられるのも困りものです。
多少の不満は飲み込んで、現状で我慢しましょう。
わたくしがそう結論づけて、お披露目会後のちょっとした催しを乗り切りました。
たくさんの招待客の方々に声をかけていただき、我が家門、セイクリウスの名も上々です。
王女殿下とのことで、相変わらず、王太子殿下には無視されているような形ではありましたけど、王族は王太子殿下だけではありませんわ。
わたくしの良さをとても買ってくださるデュオニス第二王子殿下。
この方が、わたくしが目立つよう華やかに立ち回ってくださったので、最後にはわたくし、とても満たされた気持ちになりました。
そうして催しが終了して。
そのまま帰宅しようとした矢先に呼び出されたのが、筆頭様の執務室です。アルゲン大公妃とあの研修生もいっしょ。
何の用件なのか、話が始まる前から筆頭様の機嫌は芳しくなく、大公妃が、筆頭様の怒りの火に油を注いでおりました。
「だいたい、ディルス君。何が不満なの? 五強がぜーーーんぶ覚醒して、ディルス君が注目されて、計画通りじゃないの」
大公妃の指摘はまさにその通りなのです。
新しく五強の主となったすべてが、筆頭様の関係者。
何か秘策でもあるのかと、一番注目を集めたのが筆頭様でした。
ですのに、
筆頭様にとって、何かがうまくいかなかったようです。
お披露目会最後の魔法陣のことでしょうか。考えられるのはあれしかありません。
「まさか、ディルス君。わたくしにナイショで何かやろうとしてる、とか?」
「あのなぁ、僕の研究内容をホイホイと他人に教えるわけがないだろ」
「ディルス君、ひっどーーーーーい。協力してあげてるのに」
「協力の対価として、美容液も作ってやってるし、五強のお披露目会で注目も集められたじゃないか」
「うふ。まぁ、そうよねぇ」
お二人は、ソファーの隅に座るわたくし共ことなど意にも介さず、会話を続けています。
研究内容、協力、対価、などなど。気になる言葉はありますが、詳しい説明はなく、わたくしはただ聞いているだけ。
「若くて美人で、地位もお金も名声あって、その上、五強の主だなんて。わたくし、凄すぎない? うふふふふふふふ」
「本当なら金冠が手に入れば良かったんだけどな。まぁ、五界が使えそうだからな」
「うふ? ディルス君、何か言った?」
「あぁ、これで、次の段階に研究を進められる、ってな」
筆頭様のおっしゃる研究とは、どす黒い魔力の塊、人工魔力結晶と呼ばれるもののことでしょう。
そうです。
わたくしが食べているもの。
そしておそらくは、研修生と大公妃も同じように口にしているもの。
指示通りのペースで食べ続ければ五強の主になれるとは、もの凄い研究成果です。筆頭様はこれをさらに研究されるつもりのよう。
味もどうにかしていただければ、と、心の中で意見を述べたところで、大公妃が気になる発言をしました。
「そうそう、若さを維持するだけでなくて、取り戻すのも出来るようになるのよね?」
思わず、耳を疑います。
若さを維持、取り戻す?
もしかして、
この人工魔力結晶に若さを維持する効果まであるということかしら。
わたくしの顔に笑みが広がりそうになるのを、必死の思いで隠します。
「研究の進み方、次第だな」
「今回も期待してるわよ、ディルス君」
バサッとドレスの裾を翻す音とともに、大公妃が立ち上がりました。
お付きの侍女が二人がかりで大公妃のドレスの裾を持ち上げます。十分な広さの部屋なのにドレスで狭く感じるほど。
わたくしはその場で立ち上がり、頭を下げました。大公妃を見送るために。
わたくしに続いて研修生も立ち上がり、倣って頭を下げるのが目の端に映ります。
ゆっくりゆっくりとわたくしの前を通り過ぎる時、頭を下げたままのわたくしに、大公妃が声をかけてきました。
「あら、あなたたちもお疲れさま」
ようやく、わたくしどもに気がついた、とでもいうように。
大公妃になる前は末端の子爵令嬢に過ぎなかった、そんな人物から、道端の小石でも眺めるような物言いをされても、ぐっと我慢します。
「ディルス君も元気になって良かったわよね。ミレニア様が死んでから、げっそりしてたから」
視線も向けずにそうつぶやく大公妃。
筆頭様に背を向けているので、声はおそらく筆頭様には届いていないことでしょう。
完全に通り過ぎ、わたくしが頭を上げるタイミングで、聞こえてはならない言葉が聞こえてきました。
「でも、さっさと死んでくれて、せいせいしたけど」
ハッとして筆頭様を見ましたが、筆頭様には聞こえなかった様子。
今度は大公妃の方を見ましたが、すでに姿はなく、パタンと扉が閉まる音が部屋に響くだけでした。
28
あなたにおすすめの小説
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
【完結】身代わりとなります
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
レイチェルは素行不良の令嬢として悪名を轟かせている。しかし、それはレイチェルが無知ゆえにいつも失態をしていたためで本人には悪意はなかった。
レイチェルは家族に顧みられず誰からも貴族のルールを教えてもらわずに育ったのだ。
そんなレイチェルに婚約者ができた。
侯爵令息のダニエルだ。
彼は誠実でレイチェルの置かれている状況を知り、マナー講師を招いたり、ドレスを作ってくれたりした。
はじめは貴族然としている婚約者に反発していたレイチェルだったがいつのまにか彼の優しさに惹かれるようになった。
彼のレイチェルへの想いが同情であっても。
彼がレイチェルではない人を愛していても。
そんな時、彼の想い人である隣国の伯爵令嬢フィオラの国で革命が起き、彼女は隣国の貴族として処刑されることが決まった。
そして、さまざまな思惑が交錯する中、レイチェルは一つの決断を下し・・・
*過去と未来が行ったり来たりしながら進行する書き方にチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんがご了承ください。
婚約破棄でお願いします
基本二度寝
恋愛
王太子の婚約者、カーリンは男爵令嬢に覚えのない悪行を並べ立てられた。
「君は、そんな人だったのか…」
王太子は男爵令嬢の言葉を鵜呑みにして…
※ギャグかもしれない
結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)
愛はリンゴと同じ
turarin
恋愛
学園時代の同級生と結婚し、子供にも恵まれ幸せいっぱいの公爵夫人ナタリー。ところが、ある日夫が平民の少女をつれてきて、別邸に囲うと言う。
夫のナタリーへの愛は減らない。妾の少女メイリンへの愛が、一つ増えるだけだと言う。夫の愛は、まるでリンゴのように幾つもあって、皆に与えられるものなのだそうだ。
ナタリーのことは妻として大切にしてくれる夫。貴族の妻としては当然受け入れるべき。だが、辛くて仕方がない。ナタリーのリンゴは一つだけ。
幾つもあるなど考えられない。
家出を決行した結果
棗
恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。
デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。
自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。
※なろうさんにも公開しています。
妖精隠し
棗
恋愛
誰からも愛される美しい姉のアリエッタと地味で両親からの関心がない妹のアーシェ。
4歳の頃から、屋敷の離れで忘れられた様に過ごすアーシェの側には人間離れした美しさを持つ男性フローが常にいる。
彼が何者で、何処から来ているのかアーシェは知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる