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7 王女殿下と木精編
6-0 終わり
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お披露目会が終わり、王城では五強が全員揃った興奮で持ちきりのまま、翌日を迎えた。
私は私で別な興奮に包まれている。
五強を利用した逆五芒陣をぶち壊す、というかなり派手なことをしたのに、注目されずに済んだこと。
まったく、王太子殿下様々である。
私が殿下の位置にいたなら、逆五芒陣をぶち壊した上、セラフィアスで五強(リグヌム以外)とクズ男を殴り倒していたわ。
そして、順番は逆になるけど、デルティ殿下がしっかりとリグヌムをコントロール出来るようになったこと。
名のある杖持ちの魔術師としては、まだまだ不安な部分があるにはあるけど。私から見てもだいぶ良くなった。
魔力コントロールも、態度や表情も、そして王族としての心持ちも。
私にとって、この二つの事柄は何よりも代え難い『良かったこと』になった。
そう。
良かったことが一度に二つも出来たのだ。これは興奮するだろう、私でなくても。
私も周りも興奮している中、目の前の人物も同様に興奮のただなかにいる。
「やった! これで特訓は終わりね!」
て。
誉めたとたんにさっそくこれか。
「あのね、デルティ殿下。私が『直接』監視しての特訓は終わりになるけど、特訓自体は続くんだからね」
すかさず釘を刺す。ざっぷりと。
「えええええ! リグヌムを呼び出せるようになったのに?」
ねぇ、リグヌム、とそばに控えるリグヌムに目配せでやり取りをするデルティ殿下。
この辺も成長が著しい。
言葉を使わず、杖と意思疎通まで出来るようになったということ。
お披露目会前のデルティ殿下と同じ人物と思えない。よく短期間でここまで育ってくれたものだわ。
まぁ、今日はお披露目会の翌日。
お披露目会でいろいろあって、魔力は使い切るし、落ちて負傷したりもしたので、デルティ殿下の特訓はお休みで。
なのに私は相変わらず、王女宮に呼び出されて、デルティ殿下のお茶に付き合っていたのだ。
ゆっくりお茶が出来るのも、基礎体力と魔力コントロールの特訓にあてていた午前中だけ。
お昼以降は、当然のように勉強と王族教育が待っている。
今までサボった分はそうそう解消はしないくらいの量になって、重くデルティ殿下にのし掛かっていた。
まぁ、自業自得である。
とにかく、今は、この半ボケ状態の殿下をどうにかしないと。
私は、はぁぁぁぁぁぁ、といつも以上に長く長くため息をついてみせる。
ビクッとなるデルティ殿下、とつられてビクつくリグヌム。
そんな二人を横目で見ながら、私はお茶をすすった。
「リグヌムを呼び出す以外は出来ないでしょ。それとも何か出来るの?」
「えっっっっと、ほら! 逆五芒陣の魔力吸い上げを止めたわ!」
ちょっと自慢げな顔で言い返すデルティ殿下。
リグヌムがビクビクしたままなのに、気がついてない。
「魔法陣の破壊は出来なくて。けっきょく、ユニー兄さまがやってくれたけど。わたくしもやれば出来るのよ!」
シーーーーーーーーーン
頭が痛すぎて返す言葉も出てこない。
私の表情を見て、デルティ殿下が首を傾げてきた。
「どうして、エルシアは無反応なのかしら。わたくしの武勇伝なのに」
「あのね、デルティ殿下。あの魔法陣、ぶち壊したの、私だから」
仕方なく真実を告げる。
「そんなわけないわ! あれはユニー兄さまが! パチンと指を鳴らして!」
と勢いよく喋り出したのが、途中で止まった。ようやく、何かに気がついてくれたらしい。
「そういえば、指を鳴らしただけで、魔法陣は壊せるのかしら?」
そこか。そこからか。
私なら出来なくはないけど。
それでも、あの規模の魔法陣、指を鳴らしただけでの破壊は不可能に近い。
「不測の事態に備えて、魔法陣はあらかじめ用意しといたの。《破陣》をね」
「な、なるほど」
「で、招待客の魔力を吸い取るような物を向こうが仕掛けてきて。王太子殿下の合図を待って、魔法陣を発動させたってわけ」
考え込むデルティ殿下。
「どうして《破陣》だったのかしら。向こうがどんな手で来るかは分からなかったはずでしょ?」
「どんな手で来ようが、魔法陣ならぜんぶ、これでぶち壊せるから」
何気なく答えた言葉に、デルティ殿下が大きく反応する。
「《破陣》て、そんなに汎用性があって強力な魔法だったかしら。わたくしは、あまり記憶にないのだけれど?」
「そもそも、勉強してこなかったよね」
「うっ、痛いところを」
デルティ殿下に本当に勉強した記憶があるとしたら、おそらく、そちらの方が正しい知識なんだと思う。
だって、私の《破陣》は、
「鎮圧のセラ特別版の《破陣》だし、そうそう、他の魔法陣には負けないから」
私が丹誠込めて練りに練り上げた魔法陣なのだ。
「それになんだか、」
と言いかけて、私は言葉を止めた。
なんだか、三聖の展示室が私の行動を後押ししてくれているようだったから。
そのくらい、呆気なく魔法陣を組み上げて発動できたのだ。
三聖の展示室は古代リテラ王国時代の遺物の一つ。遺物ではあるけど、建物なんだから魔導具ではない。当然、意思もない。
だから、後押ししてくれるはずもないのに。
あの場が地盤の魔力の吹き溜まりで、特別な場でもあったから、そう感じてしまったのかも。
私はそう思うようにした。
「なんだか、って途中で止めないでもらえるかしら。続きが気になるんだけれど」
「うん、なんだか、デルティ殿下の頑張りを見て、やる気をもらえたから」
デルティ殿下の目を真っ直ぐに見て、そう言い直すと、殿下は顔を真っ赤にする。
もしかして、意外と照れ屋?
今回の五強の騒動。
人工魔力結晶の問題も仮主の問題も、けっきょく何も解決はしていない。
本当は呑気にお茶を飲んでいる場合ではないのかもしれないけれど、今日くらいは、のんびりして、デルティ殿下の頑張りを称えてもいいような気がする。
午後はまた勉強なので、半日だけの休暇になるけど。
久々の休暇を噛みしめて味わうように、私はお茶のカップを傾けて、私の言葉に対するデルティ殿下の反応を楽しむ。
真っ赤になった顔はそのままで、何かを言おうとして口を開いては閉じ、をデルティ殿下は繰り返した。
しばらくして、とうとう、意を決して口を開く。
「まぁ、わたくしのやる気と頑張りが、エルシアにも伝わったようで良かったわ!」
何を言い返そうか悩んでいた様子だった割には、意外と素直な言葉。
そして照れ隠しに、ふんっ、と息巻くデルティ殿下の姿をとても好ましく感じたのだった。
私は私で別な興奮に包まれている。
五強を利用した逆五芒陣をぶち壊す、というかなり派手なことをしたのに、注目されずに済んだこと。
まったく、王太子殿下様々である。
私が殿下の位置にいたなら、逆五芒陣をぶち壊した上、セラフィアスで五強(リグヌム以外)とクズ男を殴り倒していたわ。
そして、順番は逆になるけど、デルティ殿下がしっかりとリグヌムをコントロール出来るようになったこと。
名のある杖持ちの魔術師としては、まだまだ不安な部分があるにはあるけど。私から見てもだいぶ良くなった。
魔力コントロールも、態度や表情も、そして王族としての心持ちも。
私にとって、この二つの事柄は何よりも代え難い『良かったこと』になった。
そう。
良かったことが一度に二つも出来たのだ。これは興奮するだろう、私でなくても。
私も周りも興奮している中、目の前の人物も同様に興奮のただなかにいる。
「やった! これで特訓は終わりね!」
て。
誉めたとたんにさっそくこれか。
「あのね、デルティ殿下。私が『直接』監視しての特訓は終わりになるけど、特訓自体は続くんだからね」
すかさず釘を刺す。ざっぷりと。
「えええええ! リグヌムを呼び出せるようになったのに?」
ねぇ、リグヌム、とそばに控えるリグヌムに目配せでやり取りをするデルティ殿下。
この辺も成長が著しい。
言葉を使わず、杖と意思疎通まで出来るようになったということ。
お披露目会前のデルティ殿下と同じ人物と思えない。よく短期間でここまで育ってくれたものだわ。
まぁ、今日はお披露目会の翌日。
お披露目会でいろいろあって、魔力は使い切るし、落ちて負傷したりもしたので、デルティ殿下の特訓はお休みで。
なのに私は相変わらず、王女宮に呼び出されて、デルティ殿下のお茶に付き合っていたのだ。
ゆっくりお茶が出来るのも、基礎体力と魔力コントロールの特訓にあてていた午前中だけ。
お昼以降は、当然のように勉強と王族教育が待っている。
今までサボった分はそうそう解消はしないくらいの量になって、重くデルティ殿下にのし掛かっていた。
まぁ、自業自得である。
とにかく、今は、この半ボケ状態の殿下をどうにかしないと。
私は、はぁぁぁぁぁぁ、といつも以上に長く長くため息をついてみせる。
ビクッとなるデルティ殿下、とつられてビクつくリグヌム。
そんな二人を横目で見ながら、私はお茶をすすった。
「リグヌムを呼び出す以外は出来ないでしょ。それとも何か出来るの?」
「えっっっっと、ほら! 逆五芒陣の魔力吸い上げを止めたわ!」
ちょっと自慢げな顔で言い返すデルティ殿下。
リグヌムがビクビクしたままなのに、気がついてない。
「魔法陣の破壊は出来なくて。けっきょく、ユニー兄さまがやってくれたけど。わたくしもやれば出来るのよ!」
シーーーーーーーーーン
頭が痛すぎて返す言葉も出てこない。
私の表情を見て、デルティ殿下が首を傾げてきた。
「どうして、エルシアは無反応なのかしら。わたくしの武勇伝なのに」
「あのね、デルティ殿下。あの魔法陣、ぶち壊したの、私だから」
仕方なく真実を告げる。
「そんなわけないわ! あれはユニー兄さまが! パチンと指を鳴らして!」
と勢いよく喋り出したのが、途中で止まった。ようやく、何かに気がついてくれたらしい。
「そういえば、指を鳴らしただけで、魔法陣は壊せるのかしら?」
そこか。そこからか。
私なら出来なくはないけど。
それでも、あの規模の魔法陣、指を鳴らしただけでの破壊は不可能に近い。
「不測の事態に備えて、魔法陣はあらかじめ用意しといたの。《破陣》をね」
「な、なるほど」
「で、招待客の魔力を吸い取るような物を向こうが仕掛けてきて。王太子殿下の合図を待って、魔法陣を発動させたってわけ」
考え込むデルティ殿下。
「どうして《破陣》だったのかしら。向こうがどんな手で来るかは分からなかったはずでしょ?」
「どんな手で来ようが、魔法陣ならぜんぶ、これでぶち壊せるから」
何気なく答えた言葉に、デルティ殿下が大きく反応する。
「《破陣》て、そんなに汎用性があって強力な魔法だったかしら。わたくしは、あまり記憶にないのだけれど?」
「そもそも、勉強してこなかったよね」
「うっ、痛いところを」
デルティ殿下に本当に勉強した記憶があるとしたら、おそらく、そちらの方が正しい知識なんだと思う。
だって、私の《破陣》は、
「鎮圧のセラ特別版の《破陣》だし、そうそう、他の魔法陣には負けないから」
私が丹誠込めて練りに練り上げた魔法陣なのだ。
「それになんだか、」
と言いかけて、私は言葉を止めた。
なんだか、三聖の展示室が私の行動を後押ししてくれているようだったから。
そのくらい、呆気なく魔法陣を組み上げて発動できたのだ。
三聖の展示室は古代リテラ王国時代の遺物の一つ。遺物ではあるけど、建物なんだから魔導具ではない。当然、意思もない。
だから、後押ししてくれるはずもないのに。
あの場が地盤の魔力の吹き溜まりで、特別な場でもあったから、そう感じてしまったのかも。
私はそう思うようにした。
「なんだか、って途中で止めないでもらえるかしら。続きが気になるんだけれど」
「うん、なんだか、デルティ殿下の頑張りを見て、やる気をもらえたから」
デルティ殿下の目を真っ直ぐに見て、そう言い直すと、殿下は顔を真っ赤にする。
もしかして、意外と照れ屋?
今回の五強の騒動。
人工魔力結晶の問題も仮主の問題も、けっきょく何も解決はしていない。
本当は呑気にお茶を飲んでいる場合ではないのかもしれないけれど、今日くらいは、のんびりして、デルティ殿下の頑張りを称えてもいいような気がする。
午後はまた勉強なので、半日だけの休暇になるけど。
久々の休暇を噛みしめて味わうように、私はお茶のカップを傾けて、私の言葉に対するデルティ殿下の反応を楽しむ。
真っ赤になった顔はそのままで、何かを言おうとして口を開いては閉じ、をデルティ殿下は繰り返した。
しばらくして、とうとう、意を決して口を開く。
「まぁ、わたくしのやる気と頑張りが、エルシアにも伝わったようで良かったわ!」
何を言い返そうか悩んでいた様子だった割には、意外と素直な言葉。
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