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7 王女殿下と木精編
6-1 その後
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話は前日のお披露目会後の催し終了後にまで遡る。
なんでそこまで遡らなければならないかというと、デルティ殿下があの後どうなったとか、こうなったとか、そういう話を聞きたがったからだ。
正直、面倒臭い。
面倒臭いけれど、デルティ殿下は言わば関係者。
なので、差し障りのない範囲で、昨日、王太子殿下と話した内容を語って聞かせた。
その最中に、ふと、グレイの話が出たのを思い出したのだ。
なんでも、王太子殿下とグレイは古くからの付き合いだそうだ。
まぁ、グレイは元アルゲン大公子。
大公家の人間として、王太子殿下との関わりが子どもの頃からあったのだろう。
王太子殿下の話では、グレイの実母、アルゲン大公妃は婚姻前から、かなーり大変な人物だったようだ。
その大公妃が、あろうことか、五強の仮主の一人として登場。
国も王家もさぞかし、頭を抱えただろう。
周りが大公妃に振り回され過ぎていて、かわいそうに思えてくる。
「あの大公妃のせいで、グレイアドも苦労したんだ」
王太子殿下の話も、大公妃の部分では終始こんな調子だった。
「そもそも、アルゲン大公は、元ルベル公爵令嬢と婚約中に、あの大公妃との間に子どもが出来たんだよ」
ゲホッ
マジか!
私の実父も大概だけれど、それを上回るクズがいたのか!
大人なのに婚約解消するまで待てなかったのか。
グレイだって、私が十六になるまで(そして、勘違いして婚姻届に署名するまで)変なことはしてこなかったのに。
ところが、殿下の次の言葉で、私の憤慨は一気に消沈した。
「不実の子ども、出来てはいけない子どもだったわけだな」
思考が止まる。
思考だけでなく、呼吸や鼓動まで止まったように感じてしまった。
グレイ、そんな風に周りから思われていたんだ。生まれがどうかなんて、グレイのせいではないのに。
急に目の前が滲む。ギュッと握りしめた拳にも力が入る。
そんな私の感情を無視して、王太子殿下はどんどん話を進めた。
「それが『真実の愛』のおかげで、一時期は、真実の愛の結実と言われるようになった」
「一時期だけ、なんですか?」
一時期だけ、という言葉に違和感を抱いた私は、思わず聞き返す。
殿下は目元にも口元に苦々しい笑みを浮かべた。
「グレイアドのヤツ、見た目が王子さまっぽくないだろう?」
本物の王子さまが、困った聞き方をしてくるので、返事に詰まる。
「えーーーーーっと。それはまぁ。王子さまというより騎士団長?」
うん、風格からしたら、ヴァンフェルム団長にも負けてないし。
「アルゲン大公妃は、キラキラした王子さまな容姿が好みなんだ。色で言えば金髪碧眼。
比べて、グレイアドはどうだ。筋肉隆々、黒髪黒眼。容貌も両親のどちらにも似ていない」
「黒髪黒眼は仕方ないじゃないですか!」
私だって黒髪だ。容貌はお母さまに似ているらしい。瞳の色も同じ金眼。なのに、実父は私の黒髪だけを見て、散々、嫌っていたっけ。
グレイはどんな幼少期を送ったんだろう。
私がグレイに出会ったときには、グレイはすでに自立していたように思う。年にして十二歳。十二歳で自立せざるを得なかったんだ。
そう思うと、今度は胸がキュッと締め付けられる。
「容貌は弁護しないんだな」
「見た目は、ベイオス閣下にそっくりですよ?」
「あぁ。だから、アルゲン大公の母親の血筋が色濃く出たんだろう。しかし、アルゲン大公妃の好みではなかったんだ。
対して弟の方はキラキラしい子どもに生まれて、後の流れは知っての通りだ」
「酷くないですか?」
親なのに、容姿が好みがどうかで、子どもを区別するなんて酷い話だ。
私の両手は、いつの間にか堅く握りしめられていて、手に汗が浮かんでいた。
「私は、グレイアドがアルゲン大公家を離れられて良かったと思ったよ」
王太子殿下は私の質問には直接答えず、自分の心の内を吐き出す。
「人間の価値観なんてものは一朝一夕で変わるものではない。
アルゲン大公家で窮屈な思いをしながら生きるよりは、ニグラート辺境伯家でのびのび生きた方がいい。グレイアドの性質的にも辺境伯家の方が合ってるしな」
どこか遠い目をする王太子殿下。
殿下は殿下なりにグレイのことを心配してくれているんだな。
しんみりしたところで、王太子殿下はパンと手を打った。過去を振り払うように。
「そういうわけだ、我が再従妹殿。親友のグレイアドをよろしく頼む。多少の暴走や執着は目をつぶってもらいたい、というのがこちらの願いだ」
グレイに保護されているのは私の方なのに頼みごとをされてもな、と、言ってやりたい気持ちになったけど。
グレイの過去を聞いた後では言い返す余力は残っておらず、黙ってコクリと頷いたのだった。
「と、そんなわけで、王太子殿下からも後押しされてるから。第三王子殿下とのことは諦めて」
王太子殿下の最後の部分の言葉だけを切り抜いて、デルティ殿下に伝える私。
嘘は言ってない。
「エルシアとトリビィアス兄さまなら、ちょうどいいと思ったのに」
何が『ちょうどいい』のか、ちょっと良く分からない。
「ところで、エルシア。あの絵本、まだあるのかしら。ほら、金冠の絵本よ」
「あぁ」
魔導語が読めないからって、途中まで読んであげたんだった。意外と記憶力がいい。
私はクラヴィスに声をかけ、金冠の絵本を持ってこさせる。
この絵本は、私に残された唯一のお母さまの形見。なくさないよう、クラヴィスに保管を頼んでいたので、持ってくるのも一瞬だった。
その本を片手に、デルティ殿下へ尋ねる。
「持ってるけど、突然どうしたの?」
「突然じゃないわ! わたくしが催促しなかったら、続きを読む約束を忘れたままだったでしょう!」
まぁ、そうなんだけどね。
私は渋々、口を開いた。金冠の絵本を読むために。
そこには、昔、読んだのと少し印象が違う金冠の物語が広がっていて、デルティ殿下は私の読む物語に、そっと耳を傾けるのだった。
『冠を従えた魔術師は、その後、とある騎士から愛を告げられる。
あなたとこれからの人生を共にしたい。
そうして静かに始まった魔術師の恋は、いつしか燃え上がったが、終わりはとてもあっけなかった。
他に人生を共にしたい人が出来た。
愛する騎士に告げられた、この一言で終わりとなったのだ。
悲しみに沈む魔術師の前に、今度は魔導具師が現れる。
ずっとあなたのことを、見守ってきた。
一輪の青い花を差し出しながら愛を告げる魔導具師を、魔術師は信じることが出来なかった。悲しみが魔術師の心を覆っていたから。
ところが、一輪だった青い花が、魔術師の庭いっぱいに咲き誇るようになる頃。魔術師と魔導具師は結ばれた。
ようやく掴んだ幸せを、噛みしめる魔術師。
冠は、仕える魔術師が悲しむ様も喜ぶ様も、ただ静かに見守るだけだった。
いくつかの季節が過ぎて、魔術師は魔導具師の子どもを身ごもった時。ふとしたはずみで、魔術師は魔導具師の真実を知る。
騎士が魔術師を裏切ったのは、魔導具師の策略だったということを。
冠は仕える魔術師のため魔導具師に呪いをかけようとするが、魔術師はそれを断った。魔導具師への報復は自分の手で行うからと。
代わりに魔術師は、自分の命と引き替えに、冠にあるお願いをする。
生まれてきた子の幸せを、自分の代わりに見守ってほしい、と。
こうして、冠は魔術師の命をもらい、魔術師の子どもをいつまでもいつまでも、見守ることになった。その子の命が尽きるまで。
今もどこかで、冠はその子を見守っているのかもしれない』
なんでそこまで遡らなければならないかというと、デルティ殿下があの後どうなったとか、こうなったとか、そういう話を聞きたがったからだ。
正直、面倒臭い。
面倒臭いけれど、デルティ殿下は言わば関係者。
なので、差し障りのない範囲で、昨日、王太子殿下と話した内容を語って聞かせた。
その最中に、ふと、グレイの話が出たのを思い出したのだ。
なんでも、王太子殿下とグレイは古くからの付き合いだそうだ。
まぁ、グレイは元アルゲン大公子。
大公家の人間として、王太子殿下との関わりが子どもの頃からあったのだろう。
王太子殿下の話では、グレイの実母、アルゲン大公妃は婚姻前から、かなーり大変な人物だったようだ。
その大公妃が、あろうことか、五強の仮主の一人として登場。
国も王家もさぞかし、頭を抱えただろう。
周りが大公妃に振り回され過ぎていて、かわいそうに思えてくる。
「あの大公妃のせいで、グレイアドも苦労したんだ」
王太子殿下の話も、大公妃の部分では終始こんな調子だった。
「そもそも、アルゲン大公は、元ルベル公爵令嬢と婚約中に、あの大公妃との間に子どもが出来たんだよ」
ゲホッ
マジか!
私の実父も大概だけれど、それを上回るクズがいたのか!
大人なのに婚約解消するまで待てなかったのか。
グレイだって、私が十六になるまで(そして、勘違いして婚姻届に署名するまで)変なことはしてこなかったのに。
ところが、殿下の次の言葉で、私の憤慨は一気に消沈した。
「不実の子ども、出来てはいけない子どもだったわけだな」
思考が止まる。
思考だけでなく、呼吸や鼓動まで止まったように感じてしまった。
グレイ、そんな風に周りから思われていたんだ。生まれがどうかなんて、グレイのせいではないのに。
急に目の前が滲む。ギュッと握りしめた拳にも力が入る。
そんな私の感情を無視して、王太子殿下はどんどん話を進めた。
「それが『真実の愛』のおかげで、一時期は、真実の愛の結実と言われるようになった」
「一時期だけ、なんですか?」
一時期だけ、という言葉に違和感を抱いた私は、思わず聞き返す。
殿下は目元にも口元に苦々しい笑みを浮かべた。
「グレイアドのヤツ、見た目が王子さまっぽくないだろう?」
本物の王子さまが、困った聞き方をしてくるので、返事に詰まる。
「えーーーーーっと。それはまぁ。王子さまというより騎士団長?」
うん、風格からしたら、ヴァンフェルム団長にも負けてないし。
「アルゲン大公妃は、キラキラした王子さまな容姿が好みなんだ。色で言えば金髪碧眼。
比べて、グレイアドはどうだ。筋肉隆々、黒髪黒眼。容貌も両親のどちらにも似ていない」
「黒髪黒眼は仕方ないじゃないですか!」
私だって黒髪だ。容貌はお母さまに似ているらしい。瞳の色も同じ金眼。なのに、実父は私の黒髪だけを見て、散々、嫌っていたっけ。
グレイはどんな幼少期を送ったんだろう。
私がグレイに出会ったときには、グレイはすでに自立していたように思う。年にして十二歳。十二歳で自立せざるを得なかったんだ。
そう思うと、今度は胸がキュッと締め付けられる。
「容貌は弁護しないんだな」
「見た目は、ベイオス閣下にそっくりですよ?」
「あぁ。だから、アルゲン大公の母親の血筋が色濃く出たんだろう。しかし、アルゲン大公妃の好みではなかったんだ。
対して弟の方はキラキラしい子どもに生まれて、後の流れは知っての通りだ」
「酷くないですか?」
親なのに、容姿が好みがどうかで、子どもを区別するなんて酷い話だ。
私の両手は、いつの間にか堅く握りしめられていて、手に汗が浮かんでいた。
「私は、グレイアドがアルゲン大公家を離れられて良かったと思ったよ」
王太子殿下は私の質問には直接答えず、自分の心の内を吐き出す。
「人間の価値観なんてものは一朝一夕で変わるものではない。
アルゲン大公家で窮屈な思いをしながら生きるよりは、ニグラート辺境伯家でのびのび生きた方がいい。グレイアドの性質的にも辺境伯家の方が合ってるしな」
どこか遠い目をする王太子殿下。
殿下は殿下なりにグレイのことを心配してくれているんだな。
しんみりしたところで、王太子殿下はパンと手を打った。過去を振り払うように。
「そういうわけだ、我が再従妹殿。親友のグレイアドをよろしく頼む。多少の暴走や執着は目をつぶってもらいたい、というのがこちらの願いだ」
グレイに保護されているのは私の方なのに頼みごとをされてもな、と、言ってやりたい気持ちになったけど。
グレイの過去を聞いた後では言い返す余力は残っておらず、黙ってコクリと頷いたのだった。
「と、そんなわけで、王太子殿下からも後押しされてるから。第三王子殿下とのことは諦めて」
王太子殿下の最後の部分の言葉だけを切り抜いて、デルティ殿下に伝える私。
嘘は言ってない。
「エルシアとトリビィアス兄さまなら、ちょうどいいと思ったのに」
何が『ちょうどいい』のか、ちょっと良く分からない。
「ところで、エルシア。あの絵本、まだあるのかしら。ほら、金冠の絵本よ」
「あぁ」
魔導語が読めないからって、途中まで読んであげたんだった。意外と記憶力がいい。
私はクラヴィスに声をかけ、金冠の絵本を持ってこさせる。
この絵本は、私に残された唯一のお母さまの形見。なくさないよう、クラヴィスに保管を頼んでいたので、持ってくるのも一瞬だった。
その本を片手に、デルティ殿下へ尋ねる。
「持ってるけど、突然どうしたの?」
「突然じゃないわ! わたくしが催促しなかったら、続きを読む約束を忘れたままだったでしょう!」
まぁ、そうなんだけどね。
私は渋々、口を開いた。金冠の絵本を読むために。
そこには、昔、読んだのと少し印象が違う金冠の物語が広がっていて、デルティ殿下は私の読む物語に、そっと耳を傾けるのだった。
『冠を従えた魔術師は、その後、とある騎士から愛を告げられる。
あなたとこれからの人生を共にしたい。
そうして静かに始まった魔術師の恋は、いつしか燃え上がったが、終わりはとてもあっけなかった。
他に人生を共にしたい人が出来た。
愛する騎士に告げられた、この一言で終わりとなったのだ。
悲しみに沈む魔術師の前に、今度は魔導具師が現れる。
ずっとあなたのことを、見守ってきた。
一輪の青い花を差し出しながら愛を告げる魔導具師を、魔術師は信じることが出来なかった。悲しみが魔術師の心を覆っていたから。
ところが、一輪だった青い花が、魔術師の庭いっぱいに咲き誇るようになる頃。魔術師と魔導具師は結ばれた。
ようやく掴んだ幸せを、噛みしめる魔術師。
冠は、仕える魔術師が悲しむ様も喜ぶ様も、ただ静かに見守るだけだった。
いくつかの季節が過ぎて、魔術師は魔導具師の子どもを身ごもった時。ふとしたはずみで、魔術師は魔導具師の真実を知る。
騎士が魔術師を裏切ったのは、魔導具師の策略だったということを。
冠は仕える魔術師のため魔導具師に呪いをかけようとするが、魔術師はそれを断った。魔導具師への報復は自分の手で行うからと。
代わりに魔術師は、自分の命と引き替えに、冠にあるお願いをする。
生まれてきた子の幸せを、自分の代わりに見守ってほしい、と。
こうして、冠は魔術師の命をもらい、魔術師の子どもをいつまでもいつまでも、見守ることになった。その子の命が尽きるまで。
今もどこかで、冠はその子を見守っているのかもしれない』
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