今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi

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1 宰相が迎えに来た

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「今更困りますわね」


カーラはハンバーガーを片手に、そっけなく答える。


「どうか、この通りでございます、カーラ様」


背後に控えるアドニア王国の宰相ゼムが困り果てた顔で首を垂れた。

ここは日本国のモシバーガーの店内。
ファンタジックで立派な身なりの初老の男が一介の女子高生に頭を下げている。
その異様な風景に、店内の客たちは興味津々、チラチラこちらに視線を向ける。


「ねえ、カーラちゃん。この人に捨てられたみたいだけど、もう許してあげたら?」

「そうよ、このおじさん、お金持ってそうだし。お小遣いもらおうよ」

「そんなに単純な話じゃありませんのよ?」


カーラと同じテーブルでバーガーセットを食しているのは”ふたば”と”こよみ”。
カーラが現在通っている高校の良きクラスメイト。
アドニア王国とこの国とでは文化も文明も時間軸さえ違う。
それなのにこの二人は一風変わって見えるはずのカーラを快く受け入れてくれた。
日本人とは懐中ふところが深い民族だ。

宰相は辛抱強くカーラへの説得を続けた。


「王弟殿下の陰謀により廃妃とされてしまった件は、陛下に必ず復位をお願いしますゆえ」


そう、カーラは元王妃。本当はこの世界”日本国”の人間ではない。
王弟の特令で廃妃とされてしまったカーラは、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となった。

ボロボロになり、行くあてもなく彷徨っていたカーラは親切な老夫婦に拾われ、異世界日本で女子高生として学園生活を満喫していたところだ。


「どうか、お願いでございます」


はるばるアドニア王国から転送装置でやってきた宰相ゼムが懇願する。


「カーラ様の盾の神獣の加護が失われたせいで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖しております。街は破壊され、農地は荒廃し、人口が激減いたしました。王弟殿下の暴走を止めることができず、カーラ様を追放してしまったのは全てわたくしの過ちです」


宰相の言葉にズキと心が痛んだ。


やはりわたくしは元王妃ですわ。
王国の民が苦しんでいる姿を想像するととても辛い…


それに、カーラは知っていた。
宰相ゼムは最後までカーラを庇い続けてくれたことを。
ゼムは先王から王家に仕えている忠実な賢臣。
悪人はこの者ではなく、王弟なのだ。


「陛下は?ルアヌ様はすぐにわたくしを復位してくださるとおっしゃっているの?」


「それは……」


流暢にカーラに説いていた宰相の口ぶりがにわかに鈍る。


「陛下が不在の隙をつかれて王弟の罠にはめられ強引に廃妃にされてしまったけれど、陛下の一声で復位できるはず。陛下は遠地に視察に行かれていたけれど、もう戻られた頃ですわよね?」


「実は、実はカーラ様……どうか、落ち着いてお聞きください」



何…?その不吉な前置きは。



「ルアヌ陛下は、視察先にて、アンデッドに噛まれ……現在アンデッド化が進行しております」



え?



宰相の声が耳元でゆがむ。


最愛の、陛下が、アンデッド化ですって……!?


「護衛は何をしていたの!!!!」


カーラの剣幕に店内の客たちがぎょっと振り向く。
宰相は恐縮しながら言う。


「ルアヌ陛下の護衛は視察先にて全員殺されておりました。王弟殿下の差金でしょう。口惜しい限りです」


ショックのあまりカーラの手から落ちたバーガーが床に散らばる。
ふたばとこよみが心配げにカーラを見る。
宰相が畳み掛けるように続ける。


「希望はございます!陛下はまだ完全にはアンデッドになっておりません!アンデッド化の解除さえできれば、陛下はきっとお元気になられます!」


一旦アンデッド化が完了してしまった者が元の姿に戻る事例は、王国建国以来、記録にはない。


「そう……時間がないのね」


涙は出なかった。それどころではなかった。
アンデッド化解除なんて、どうしたらいいかわからない。


それでも。


王弟の裏切りで死の淵で苦しんでいる、最愛の陛下を救わなければ──
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