【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ

文字の大きさ
35 / 41

第35話 #放課後の告白練習会

しおりを挟む
 金曜の午後。
 授業が終わると同時に、教室の前で桜井先生が唐突に宣言した。

「さて諸君。今日のHRは“特別実践企画”だ」
 黒板にチョークで書かれた文字は――

 『放課後の告白練習会』

「…………」
「…………」

 教室中が、時を止めた。

「おいおい先生、それ本気っすか」悠真が笑いながら手を挙げる。
「当然本気だ。青春とは誤解と実践である。理論だけでは成長しない」
「“青春=誤解+実践”って数式あったか?」
「今作った」

 先生が満足げにチョークを置く。
 俺は頭を抱えた。
 この人、真面目にふざけるタイプの最強生物だ。

「ルールは簡単だ。ペアをランダムで決め、互いに“告白”の練習をしてみる。
 もちろんフィクションである。だが、心を込めることが大事だ」

「“心を込める”って、どっち方向に!?」
「それは各自の誠意に任せる」
「自由研究か!」

 くじ引きの紙が回る。
 俺の席にも白紙の紙片。
 ――絶対に引きたくない名前が一つだけある。
 いや、“引きたくない”というより“引いたら終わる”。
 運命は、いつだって空気を読まない。

 紙を開く。

 『七瀬ひより』

 ――合掌。

「うわあ」悠真が覗き込み、ニヤリと笑った。
「やっぱ引くと思ってた」
「お前、裏で細工したろ」
「してない。運命が仕組んだ」
「運命に訴訟起こしたい」

 ひよりは反対側で同じ紙を見て、小さく息を呑んでいた。
 でも、目が合った瞬間――少しだけ、笑った。

 放課後、教室の前方が“特設ステージ”になった。
 椅子が二つ、向かい合わせに置かれている。
 周りでは見物モードのクラスメイトたち。
 俺は壇上に上がる前から、心臓がドラム缶を叩いていた。

「次、真嶋&七瀬ペア!」
 教室がどよめく。
「キター!」「絶対本音出るやつ!」
「#放課後の告白練習会」

 タグ予告すんな。

 ひよりが隣に立つ。
 いつもと変わらない穏やかな顔。
 でも、手に持ったスケッチブックが少しだけ震えていた。

「……大丈夫か?」
「はい。練習ですから」
「……そうだな」

 先生がカウントを取る。
「三、二、一――始め!」

 ざわつく教室。
 見つめ合う二人。
 俺は、視線を合わせることができなかった。
 けど、ひよりが静かに言った。

「蒼汰くん。私から、いいですか?」
「……お、おう」

 ひよりがスケッチブックを胸の前で抱える。
 まるで盾みたいに、でもそこに守りたい何かがあるように。

「えっと……。
 “好きです”――」

 一拍置いて、続けた。

「誤解でも、練習でも、どっちでもいいんです。
 だって、こうして言葉にできた時点で、
 本当になってしまう気がするから。」

 教室が静まり返った。
 “練習”のはずの言葉が、どこにも逃げ場を残していなかった。

 先生がわざとらしく咳払いする。
「……非常に良い。次、真嶋の番だ」

 心臓が、嫌な意味で祭り太鼓。
 こんなの“練習”で返せるわけがない。
 でも、俺は立ち上がって、目を逸らさずに言った。

「……俺も、“好き”って言葉は、正直まだ重い。
 けど、もし“本番”が来たら、
 その相手は――多分、七瀬なんだと思う。」

 教室の後方で、「おおおおおおっ」と声が上がる。
 誰かが拍手した。
 そして、StarChatの通知音が一斉に鳴る。

───────────────────────
StarChat #放課後の告白練習会
【校内ウォッチ】
「真嶋→七瀬“本番で言う”発言」
コメント:
・「#練習の域を超えた」
・「#告白未遂」
・「#青春アクシデント」
───────────────────────

「……だぁあああ、もうやっぱり拡散された!」
「止めても無駄です」ひよりが笑う。
「“先生も投稿してる”って流れてきた」
「先生!?」

───────────────────────
StarChat #放課後の告白練習会
【桜井先生@担任】
「青春とは、練習のつもりで本番を迎えることだ。」
コメント:
・「#先生が締めた」
・「#人生の授業」
───────────────────────

「……先生、上手くまとめんなぁ」
「でも、先生の言葉、少し好きです」
「俺は嫌いだ」
「ふふっ。じゃあ、半分こですね」
「また使い方おかしい」

 授業後。
 片づけをしていると、ひよりがそっと声をかけてきた。
「さっきの“本番の相手”って」
「……あれは、その、練習だから」
「そうですね」
「……でも、練習って便利な言葉だな」
「はい。逃げ道にも、約束にもなります」

 ひよりが笑う。
 その笑顔の意味を、俺はまだうまく言葉にできなかった。
 ただ、心臓がさっきより静かに動いている気がした。

 夜。
 StarChatを開くと、ひよりの新しい投稿が上がっていた。

───────────────────────
StarChat #放課後の告白練習会
【七瀬ひより@2-B】
「“練習”の中に本音を隠すのは、ずるいです。
 でも、言えてよかったです。」
コメント:
・「#リハーサルの続き」
・「#好きの練習完了」
───────────────────────

 画面を見ながら、ため息をひとつ。
 ――ずるいのは、たぶん俺の方だ。

 心の中で、言葉がこぼれる。
 “練習”の終わりが、“恋の始まり”かもしれないって。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。 この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...