34 / 41
第34話 #すれ違いの廊下と小さな手紙
しおりを挟む
“噂”が落ち着くには、だいたい三日かかる。
けど、“沈黙”が落ち着くには、もっと時間がかかる。
俺とひよりの間にある今の空気は、まさにそれだった。
気まずいとか、嫌とか、そういうんじゃない。
言葉にできない“間”が増えた。
少しだけ、怖い沈黙。
昼休み。
いつもなら隣の席からひよりの「蒼汰くん、これ見てください」って声が飛んでくる。
でも今日は、それがない。
代わりに机の上には、小さな封筒。
名前の代わりに、星のシールが貼られていた。
――手紙。
今どき、紙のやりとりとか新鮮すぎる。
中を開くと、淡いインクの文字が並んでいた。
蒼汰くんへ
今日の放課後、少しお話できますか。
――ひより
たった一文。でも、その一文が心臓を掴んで離さなかった。
放課後。
指定場所は廊下の一番奥、光が傾いて差し込む場所。
誰も通らない、放課後の空気が好きな人間しか知らない静かな通路だ。
ひよりは窓辺に立っていた。
風で髪が揺れて、制服のリボンが夕方の光を受けてきらめいていた。
「来てくれて、ありがとうございます」
「呼び出したのお前だろ」
「はい。でも、来てくれるか不安でした」
「……来るよ、そりゃ」
ひよりがスケッチブックを胸に抱えていた。
その表紙には、見覚えのあるタイトル。
『誤解ノートⅡ』
「……続編かよ」
「はい。前回、完結しませんでしたので」
「誤解にシーズン制導入すんな」
ひよりが少し笑って、それから真面目な顔に戻った。
「あの……この前のこと、ちゃんとお礼を言いたくて」
「この前?」
「噂のときです。
あの言葉、すごく勇気が出ました」
「別に勇気なんか――」
「ありました。
だって、“そうなってもいいと思ってる”って、
本音がちゃんと聞こえたから」
俺は一瞬、息を飲んだ。
あのときは勢いだった。
でも、彼女には“本音”として届いていたらしい。
ひよりはスケッチブックを開く。
そこには、新しいページ。
“噂”と“声”をモチーフにした絵。
群衆の中、たった一人の女の子が小さなランプを持って立っている。
「これ、私です」
「だろうな」
「周りの“声”がどんなに騒がしくても、
この灯だけは、消したくないと思いました」
「……灯、か」
「はい。夏祭りで見つけた“秘密の灯”。
あの夜からずっと、胸の中で灯ってる気がします」
「……お前、ほんと詩人みたいだな」
「先生の影響です」
「先生、罪深いな」
ひよりが照れ笑いをして、続けた。
「でも、その灯、少しだけ揺れてます」
「どうして?」
「誤解が怖くて」
「……それは、俺も同じかも」
沈黙。
でも、前みたいな重さはなかった。
お互いに“怖い”を共有できる分、むしろ少しだけ温かい沈黙だった。
突然、廊下の向こうから声が飛んできた。
「おーい、真嶋ー!」
悠真の声だ。
「……このタイミングでくるなよ」
「ん? 何してんだ、二人で。廊下でシリアスな空気出して」
「出してねぇ!」
「#廊下の二人現象、発生中~」
「タグ立てんな!」
ひよりがくすっと笑う。
「悠真くん、元気ですね」
「元気すぎるんだよ」
「でも、ああいう人がいてくれると安心します」
「まあ、確かに。バランス取れてんのかもな」
悠真はピースサインをして去っていった。
その背中に向かって俺が小さく呟く。
「お前、空気読めてるようで読めてねぇぞ」
再び二人きり。
夕焼けが廊下の床を真っ赤に染める。
その中で、ひよりが小さな封筒を差し出した。
「これ、今日の“手紙”の本当の意味です」
「本当の意味?」
「読んでください」
封筒を受け取って開くと、
中には、昨日の手紙と同じインクで、
たった一文だけ。
“言葉にできないときは、目を見てください。
それだけで伝わるから。”
顔を上げると、ひよりがこちらを見ていた。
まっすぐ、逃げ場のないほど真剣に。
「……お前、ずるいよ」
「先生にもよく言われます」
「褒められてねぇぞ」
ふたりで笑った。
光がゆっくりと傾いて、影が長くなる。
沈黙が、初めて“心地いい”って思えた。
夜。
StarChatの通知が光る。
───────────────────────
StarChat #すれ違いの廊下と小さな手紙
【七瀬ひより@2-B】
「伝えたい言葉が見つからないときは、
目を見て、心で話します。」
コメント:
・「#沈黙の会話」
・「#言葉より灯」
───────────────────────
画面を見ながら、俺は思った。
この“沈黙”は、きっともう誤解じゃない。
言葉よりも確かな、“理解”の始まりだ。
けど、“沈黙”が落ち着くには、もっと時間がかかる。
俺とひよりの間にある今の空気は、まさにそれだった。
気まずいとか、嫌とか、そういうんじゃない。
言葉にできない“間”が増えた。
少しだけ、怖い沈黙。
昼休み。
いつもなら隣の席からひよりの「蒼汰くん、これ見てください」って声が飛んでくる。
でも今日は、それがない。
代わりに机の上には、小さな封筒。
名前の代わりに、星のシールが貼られていた。
――手紙。
今どき、紙のやりとりとか新鮮すぎる。
中を開くと、淡いインクの文字が並んでいた。
蒼汰くんへ
今日の放課後、少しお話できますか。
――ひより
たった一文。でも、その一文が心臓を掴んで離さなかった。
放課後。
指定場所は廊下の一番奥、光が傾いて差し込む場所。
誰も通らない、放課後の空気が好きな人間しか知らない静かな通路だ。
ひよりは窓辺に立っていた。
風で髪が揺れて、制服のリボンが夕方の光を受けてきらめいていた。
「来てくれて、ありがとうございます」
「呼び出したのお前だろ」
「はい。でも、来てくれるか不安でした」
「……来るよ、そりゃ」
ひよりがスケッチブックを胸に抱えていた。
その表紙には、見覚えのあるタイトル。
『誤解ノートⅡ』
「……続編かよ」
「はい。前回、完結しませんでしたので」
「誤解にシーズン制導入すんな」
ひよりが少し笑って、それから真面目な顔に戻った。
「あの……この前のこと、ちゃんとお礼を言いたくて」
「この前?」
「噂のときです。
あの言葉、すごく勇気が出ました」
「別に勇気なんか――」
「ありました。
だって、“そうなってもいいと思ってる”って、
本音がちゃんと聞こえたから」
俺は一瞬、息を飲んだ。
あのときは勢いだった。
でも、彼女には“本音”として届いていたらしい。
ひよりはスケッチブックを開く。
そこには、新しいページ。
“噂”と“声”をモチーフにした絵。
群衆の中、たった一人の女の子が小さなランプを持って立っている。
「これ、私です」
「だろうな」
「周りの“声”がどんなに騒がしくても、
この灯だけは、消したくないと思いました」
「……灯、か」
「はい。夏祭りで見つけた“秘密の灯”。
あの夜からずっと、胸の中で灯ってる気がします」
「……お前、ほんと詩人みたいだな」
「先生の影響です」
「先生、罪深いな」
ひよりが照れ笑いをして、続けた。
「でも、その灯、少しだけ揺れてます」
「どうして?」
「誤解が怖くて」
「……それは、俺も同じかも」
沈黙。
でも、前みたいな重さはなかった。
お互いに“怖い”を共有できる分、むしろ少しだけ温かい沈黙だった。
突然、廊下の向こうから声が飛んできた。
「おーい、真嶋ー!」
悠真の声だ。
「……このタイミングでくるなよ」
「ん? 何してんだ、二人で。廊下でシリアスな空気出して」
「出してねぇ!」
「#廊下の二人現象、発生中~」
「タグ立てんな!」
ひよりがくすっと笑う。
「悠真くん、元気ですね」
「元気すぎるんだよ」
「でも、ああいう人がいてくれると安心します」
「まあ、確かに。バランス取れてんのかもな」
悠真はピースサインをして去っていった。
その背中に向かって俺が小さく呟く。
「お前、空気読めてるようで読めてねぇぞ」
再び二人きり。
夕焼けが廊下の床を真っ赤に染める。
その中で、ひよりが小さな封筒を差し出した。
「これ、今日の“手紙”の本当の意味です」
「本当の意味?」
「読んでください」
封筒を受け取って開くと、
中には、昨日の手紙と同じインクで、
たった一文だけ。
“言葉にできないときは、目を見てください。
それだけで伝わるから。”
顔を上げると、ひよりがこちらを見ていた。
まっすぐ、逃げ場のないほど真剣に。
「……お前、ずるいよ」
「先生にもよく言われます」
「褒められてねぇぞ」
ふたりで笑った。
光がゆっくりと傾いて、影が長くなる。
沈黙が、初めて“心地いい”って思えた。
夜。
StarChatの通知が光る。
───────────────────────
StarChat #すれ違いの廊下と小さな手紙
【七瀬ひより@2-B】
「伝えたい言葉が見つからないときは、
目を見て、心で話します。」
コメント:
・「#沈黙の会話」
・「#言葉より灯」
───────────────────────
画面を見ながら、俺は思った。
この“沈黙”は、きっともう誤解じゃない。
言葉よりも確かな、“理解”の始まりだ。
10
あなたにおすすめの小説
恋人、はじめました。
桜庭かなめ
恋愛
紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。
明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。
ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。
「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」
「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」
明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。
一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!
※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)
※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想などお待ちしています。
クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい
みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。
それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。
願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。
スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。
ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。
※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。
三年間片思いしていた同級生に振られたら、年上の綺麗なお姉さんにロックオンされた話
羽瀬川ルフレ
恋愛
高校三年間、ずっと一人の女の子に片思いをしていた主人公・汐見颯太は、高校卒業を目前にして片思いの相手である同級生の神戸花音に二回目の告白をする。しかし、花音の答えは二年前と同じく「ごめんなさい」。
今回の告白もうまくいかなかったら今度こそ花音のことを諦めるつもりだった颯太は、今度こそ彼女に対する未練を完全に断ち切ることにする。
そして数か月後、大学生になった颯太は人生初のアルバイトもはじめ、充実した毎日を過ごしていた。そんな彼はアルバイト先で出会った常連客の大鳥居彩華と少しずつ仲良くなり、いつの間にか九歳も年上の彩華を恋愛対象として意識し始めていた。
自分なんかを相手にしてくれるはずがないと思いながらもダメ元で彩華をデートに誘ってみた颯太は、意外にもあっさりとOKの返事をもらって嬉しさに舞い上がる。
楽しかった彩華との初デートが終わり、いよいよ彩華への正式な告白のタイミングを検討しはじめた颯太のところに、予想外の人物からのメッセージが届いていた。メッセージの送り主は颯太と同じ大学に進学したものの、ほとんど顔を合わせることもなくなっていた花音だった。
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2025.12.18)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
男女比5対1の女尊男卑の世界で子供の頃、少女を助けたら「お嫁さんになりたい!」と言って来た。まさか、それが王女様だったなんて……。
楽園
恋愛
「将来、あなたのお嫁さんになりたい」
10年前、俺は魔法の力で一人の少女を救った。
……そして現在。ここは男女比5:1の女尊男卑の世界。
男は女に「選ばれる」ためだけの存在する。
俺、アルトは、前世の記憶と女でさえ持っていない無限の魔力を隠し、父と静かに暮らす「モブ」になるはずだった。
「待っていましたわ、アルト」
学園で再会したあの時の少女は、驚くべきことにリリアーナ王女だった。
どうやら彼女、あの日の「約束」を本気で果たしに来たらしい。
(俺の平穏なモブ生活が……!)
最強を隠したい男と、その秘密ごと彼を手に入れたい王女の、すれ違い学園ファンタジー!
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?
志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。
父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。
多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。
オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。
それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。
この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています
ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる