33 / 41
第33話 #誰かの噂と本当の声
しおりを挟む
夏祭りから三日。
まだ、指先にあの“灯”の感触が残っていた。
あの夜の光と、花火の音と、ひよりの笑い声。
何をしていても、不意に思い出してしまう。
それは嬉しくて、ちょっと恥ずかしくて――
だから、俺はつい、スマホを見るたびにStarChatを確認していた。
……で、今日も懲りずに後悔している。
───────────────────────
StarChat #誰かの噂と本当の声
【校内ウォッチ】
「真嶋&七瀬、ついに付き合ってる説浮上」
コメント:
・「#夏祭りの手つなぎ証拠写真」
・「#真嶋がデレ期突入」
・「#ひよりちゃん沼」
───────────────────────
「……いや、俺、何も言ってねぇのに」
呆れ半分、照れ半分でスマホを机に伏せた。
これが“誤解”の最上位種、“確信的噂”である。
「おーい真嶋、見たぞ」
悠真が、昼休みのトレーを持って滑り込んでくる。
「祭りで手つないだんだって?」
「お前もウォッチ勢か」
「いや、俺は現地目撃勢」
「てめぇ現地にいたのか」
「ほら、俺、たこ焼き屋バイトしてたろ?
“お二人さん、いい雰囲気でしたね~”って、屋台裏で話題だったぜ」
「……誰情報網広げてんだよ」
悠真はニヤニヤしながらジュースを飲む。
「でもまあ、よかったじゃん。噂になんねぇより」
「噂で済むならな」
「お?」
「……ひより、こういうの気にするタイプだから」
「なるほど。誤解の耐性はあるけど、誤解されるのは苦手と」
「お前、心理分析すんな」
放課後。
廊下を歩いていると、聞こえてきた。
小さな声、でもはっきりとした単語。
「七瀬さんって、やっぱ真嶋くんと付き合ってるの?」
「どうだろ。でも祭りの写真、あれ絶対そうでしょ」
「“沈黙の続編”とかタグつけてたし、リアル恋愛じゃん」
立ち止まりかけて、結局やめた。
噂の中に踏み込むのは、野次馬と同じだ。
だけど、胸の中で何かがざらついた。
――本当の声を、誰も聞こうとしない。
それが一番、きつい。
美術室のドアを開ける。
ひよりはいつも通りの笑顔だった。
スケッチブックを開いて、鉛筆を走らせている。
「……よう」
「こんにちは、蒼汰くん」
「今日も描いてるのか」
「はい。“噂の構図”を練習してます」
「なんだその物騒なテーマ」
「桜井先生の追加課題です。“噂と真実の境界を可視化せよ”」
「あの人、課題で人生を試してくるよな」
冗談っぽく言ったつもりだった。
でも、ひよりの筆先は少しだけ止まっていた。
「……蒼汰くん」
「ん?」
「今日、少しだけ噂の声を聞きました」
「……そっか」
「“付き合ってるの?”って」
「……」
「私、答えられませんでした」
「いや、答えなくていい」
「でも、何も言わないと“そうなんだ”って受け取られます」
「何か言っても“否定した”って言われるだけだ」
「じゃあ、どうしたらいいんでしょう」
彼女の目が少しだけ揺れていた。
まっすぐな人ほど、誤解を抱え込む。
それを知ってるから、俺は少しだけ深呼吸して言った。
「……何も言わなくていいよ」
「でも――」
「俺が、ちゃんと話す」
放課後の廊下。
昇降口前に数人のクラスメイト。
スマホを見ながらざわついていた。
たぶん、StarChatの噂スレ。
俺はその中に入って、ため息をついてから声を出した。
「なあ、お前ら」
「うわ、本人きた」
「ま、真嶋?」
「その“付き合ってる説”の話だけど――」
みんなが息を呑む。
教室の隅で、先生の花瓶より緊張感があった。
「“まだ、そうじゃない”。でも、そうなってもいいと思ってる」
一瞬、静寂。
そして、スマホのシャッター音が数個。
「#真嶋、男前発言」
「#まだ、そうじゃない」
「#進行形恋」
――ああ、終わった。
誤解はまた増えた。でも、それでいい。
夜、メッセージが届いた。
【ひより:ありがとうございます。】
【ひより:少し、救われました。】
【蒼汰:誤解は消えなかったけどな】
【ひより:でも、真実が増えました】
その言葉の優しさが、画面越しでも伝わる。
───────────────────────
StarChat #誰かの噂と本当の声
【七瀬ひより@2-B】
「誰かの噂より、自分の声を信じます。」
コメント:
・「#真実を選ぶ」
・「#沈黙の告白」
───────────────────────
タイムラインにその言葉が流れた瞬間、
俺はやっと笑えた。
噂は風だ。
でも、風が止んだあとに残る声が、きっと本当なんだと思う。
まだ、指先にあの“灯”の感触が残っていた。
あの夜の光と、花火の音と、ひよりの笑い声。
何をしていても、不意に思い出してしまう。
それは嬉しくて、ちょっと恥ずかしくて――
だから、俺はつい、スマホを見るたびにStarChatを確認していた。
……で、今日も懲りずに後悔している。
───────────────────────
StarChat #誰かの噂と本当の声
【校内ウォッチ】
「真嶋&七瀬、ついに付き合ってる説浮上」
コメント:
・「#夏祭りの手つなぎ証拠写真」
・「#真嶋がデレ期突入」
・「#ひよりちゃん沼」
───────────────────────
「……いや、俺、何も言ってねぇのに」
呆れ半分、照れ半分でスマホを机に伏せた。
これが“誤解”の最上位種、“確信的噂”である。
「おーい真嶋、見たぞ」
悠真が、昼休みのトレーを持って滑り込んでくる。
「祭りで手つないだんだって?」
「お前もウォッチ勢か」
「いや、俺は現地目撃勢」
「てめぇ現地にいたのか」
「ほら、俺、たこ焼き屋バイトしてたろ?
“お二人さん、いい雰囲気でしたね~”って、屋台裏で話題だったぜ」
「……誰情報網広げてんだよ」
悠真はニヤニヤしながらジュースを飲む。
「でもまあ、よかったじゃん。噂になんねぇより」
「噂で済むならな」
「お?」
「……ひより、こういうの気にするタイプだから」
「なるほど。誤解の耐性はあるけど、誤解されるのは苦手と」
「お前、心理分析すんな」
放課後。
廊下を歩いていると、聞こえてきた。
小さな声、でもはっきりとした単語。
「七瀬さんって、やっぱ真嶋くんと付き合ってるの?」
「どうだろ。でも祭りの写真、あれ絶対そうでしょ」
「“沈黙の続編”とかタグつけてたし、リアル恋愛じゃん」
立ち止まりかけて、結局やめた。
噂の中に踏み込むのは、野次馬と同じだ。
だけど、胸の中で何かがざらついた。
――本当の声を、誰も聞こうとしない。
それが一番、きつい。
美術室のドアを開ける。
ひよりはいつも通りの笑顔だった。
スケッチブックを開いて、鉛筆を走らせている。
「……よう」
「こんにちは、蒼汰くん」
「今日も描いてるのか」
「はい。“噂の構図”を練習してます」
「なんだその物騒なテーマ」
「桜井先生の追加課題です。“噂と真実の境界を可視化せよ”」
「あの人、課題で人生を試してくるよな」
冗談っぽく言ったつもりだった。
でも、ひよりの筆先は少しだけ止まっていた。
「……蒼汰くん」
「ん?」
「今日、少しだけ噂の声を聞きました」
「……そっか」
「“付き合ってるの?”って」
「……」
「私、答えられませんでした」
「いや、答えなくていい」
「でも、何も言わないと“そうなんだ”って受け取られます」
「何か言っても“否定した”って言われるだけだ」
「じゃあ、どうしたらいいんでしょう」
彼女の目が少しだけ揺れていた。
まっすぐな人ほど、誤解を抱え込む。
それを知ってるから、俺は少しだけ深呼吸して言った。
「……何も言わなくていいよ」
「でも――」
「俺が、ちゃんと話す」
放課後の廊下。
昇降口前に数人のクラスメイト。
スマホを見ながらざわついていた。
たぶん、StarChatの噂スレ。
俺はその中に入って、ため息をついてから声を出した。
「なあ、お前ら」
「うわ、本人きた」
「ま、真嶋?」
「その“付き合ってる説”の話だけど――」
みんなが息を呑む。
教室の隅で、先生の花瓶より緊張感があった。
「“まだ、そうじゃない”。でも、そうなってもいいと思ってる」
一瞬、静寂。
そして、スマホのシャッター音が数個。
「#真嶋、男前発言」
「#まだ、そうじゃない」
「#進行形恋」
――ああ、終わった。
誤解はまた増えた。でも、それでいい。
夜、メッセージが届いた。
【ひより:ありがとうございます。】
【ひより:少し、救われました。】
【蒼汰:誤解は消えなかったけどな】
【ひより:でも、真実が増えました】
その言葉の優しさが、画面越しでも伝わる。
───────────────────────
StarChat #誰かの噂と本当の声
【七瀬ひより@2-B】
「誰かの噂より、自分の声を信じます。」
コメント:
・「#真実を選ぶ」
・「#沈黙の告白」
───────────────────────
タイムラインにその言葉が流れた瞬間、
俺はやっと笑えた。
噂は風だ。
でも、風が止んだあとに残る声が、きっと本当なんだと思う。
10
あなたにおすすめの小説
恋人、はじめました。
桜庭かなめ
恋愛
紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。
明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。
ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。
「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」
「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」
明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。
一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!
※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)
※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想などお待ちしています。
クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい
みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。
それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。
願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。
スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。
ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。
※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。
三年間片思いしていた同級生に振られたら、年上の綺麗なお姉さんにロックオンされた話
羽瀬川ルフレ
恋愛
高校三年間、ずっと一人の女の子に片思いをしていた主人公・汐見颯太は、高校卒業を目前にして片思いの相手である同級生の神戸花音に二回目の告白をする。しかし、花音の答えは二年前と同じく「ごめんなさい」。
今回の告白もうまくいかなかったら今度こそ花音のことを諦めるつもりだった颯太は、今度こそ彼女に対する未練を完全に断ち切ることにする。
そして数か月後、大学生になった颯太は人生初のアルバイトもはじめ、充実した毎日を過ごしていた。そんな彼はアルバイト先で出会った常連客の大鳥居彩華と少しずつ仲良くなり、いつの間にか九歳も年上の彩華を恋愛対象として意識し始めていた。
自分なんかを相手にしてくれるはずがないと思いながらもダメ元で彩華をデートに誘ってみた颯太は、意外にもあっさりとOKの返事をもらって嬉しさに舞い上がる。
楽しかった彩華との初デートが終わり、いよいよ彩華への正式な告白のタイミングを検討しはじめた颯太のところに、予想外の人物からのメッセージが届いていた。メッセージの送り主は颯太と同じ大学に進学したものの、ほとんど顔を合わせることもなくなっていた花音だった。
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2025.12.18)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
男女比5対1の女尊男卑の世界で子供の頃、少女を助けたら「お嫁さんになりたい!」と言って来た。まさか、それが王女様だったなんて……。
楽園
恋愛
「将来、あなたのお嫁さんになりたい」
10年前、俺は魔法の力で一人の少女を救った。
……そして現在。ここは男女比5:1の女尊男卑の世界。
男は女に「選ばれる」ためだけの存在する。
俺、アルトは、前世の記憶と女でさえ持っていない無限の魔力を隠し、父と静かに暮らす「モブ」になるはずだった。
「待っていましたわ、アルト」
学園で再会したあの時の少女は、驚くべきことにリリアーナ王女だった。
どうやら彼女、あの日の「約束」を本気で果たしに来たらしい。
(俺の平穏なモブ生活が……!)
最強を隠したい男と、その秘密ごと彼を手に入れたい王女の、すれ違い学園ファンタジー!
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?
志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。
父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。
多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。
オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。
それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。
この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています
ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる