【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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4章

外伝5「騎士団長カイラス、今日も受難の日」

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 世に“勇者”と呼ばれる男は数多い。
 だが、実際のところ彼らの日常がどれだけ「勇ましい」かは、だれも知らない――
 たとえばグランツ砦の騎士団長、カイラス・ヴァルドレンの場合も、そうであった。

    * * *

「――カイラス様、猫がパンをくわえて食堂を走り回っています!」

 早朝、まだ寝ぼけまなこのカイラスのもとに、朝番の兵士が駆け込んできた。

 「猫……?まさか、また例の“盗み食い王子”か……!」

 彼が“盗み食い王子”と呼んでいるのは、砦に居着いた三毛猫だ。
 村から救援で連れ帰った動物の一匹で、どうにも食い意地が張っている。
 しかも、砦の厨房のパンは特に大好物らしい。

 カイラスは勇ましく鎧の胸当てを装着――しようとしたが、急ぎすぎてベルトがねじれてしまう。
 「ああっ、また変なとこで締めてしまった……!」
 大急ぎで食堂に駆けつけると、すでに子どもたちと猫の追いかけっこが始まっていた。

 「まて~! パン返して!」「にゃー!!」

 カイラスも、幼き砦の未来のために(そしてパンの名誉のために)、全力疾走で猫を追いかける。
 が、あっさりと足をもつれさせて床に転がる。

 「団長、しっかり!」

 レオナートの呆れ声が響く。
 騎士団長カイラスの朝は、今日も平和と騒動で幕を開ける。

    * * *

 パン事件がようやく収束したあとも、カイラスには「団長らしい仕事」が待っていた。

 ――厨房でノクティアに「今朝はコーンスープの味見をお願いします」と呼ばれ、
 張り切って飲んだところ「熱っ!?」と盛大に吹き出す。

 「まったく、子どもみたいですね」
 と、ノクティアは笑いながらタオルを差し出す。

 エイミーはその様子を見て、こっそり「やっぱりカイラス様はちょっと天然だと思う」と耳打ち。
 カイラスは聞こえていないふりをしつつ、何やら涙目でパンをかじった。

    * * *

 その日の昼、今度は畑の見回りへ。

 砦の農作業は最近、子どもたちが主役になりつつあった。
 「カイラス様、これ雑草ですか?」「これは抜いていい?」
 聞かれるがままに「それは……たぶん、雑草だ」「いや、それは……えっと……」

 農業知識ゼロのカイラス。
 しまいには、「団長の言うとおりにしたら花壇がすっからかんになりました!」と子どもに泣かれる始末。

 「な、なんてことだ……」

 ちょうど通りかかったノクティアが、思わず笑いをこらえる。

 「カイラス、団長の仕事もいいけれど、畑の監督は私に任せてくれる?」

 「……すまない」

 渋々うなずく騎士団長を、子どもたちが心配そうに見つめていた。

    * * *

 午後になると、砦で新たな騒ぎが持ち上がった。

 兵士たちが大声で騒いでいる。
 「団長! またカラスが畑を荒らしています!」
 「ええい、俺が行く!」

 カイラスは今度こそ勇ましく走り、畑に向かった。
 畑では確かにカラスが堂々と麦をついばんでいる。

 「この不届きものめ――!」

 カイラスが剣(もちろん棒切れ)を振り回して追いかけるが、カラスは賢く、団長の頭上すれすれを飛び回る。
 見守る子どもたちや兵士たちは「団長がんばれー!」と声援。
 最後は転びかけて泥だらけになりつつも、カラスを撃退することには成功した。

 「これが……俺の、砦の平和のための……戦い……!」

 だが、農作業着のまま泥だらけのカイラスに、ノクティアは再びタオルを持って駆け寄る。

 「大丈夫? もうちょっと落ち着いて動こうか」

 「う、うむ……」

    * * *

 夕方、今度は食堂で「味見事件」が再発。

 「今日は私がデザートを作ったの。カイラスも一口どうぞ」とノクティアが差し出す。
 カイラスは素直に口に入れるが――

 「……!! こ、これは……!!」

 レオナートが耳打ちする。「ノクティア様、今日のお菓子、砂糖と塩を間違えたらしいです」
 カイラスは一瞬悶絶したが、顔色を変えず「う、美味いぞ……」と言い切った。

 「団長、優しすぎる……」
 エイミーと子どもたちが感動していた(その後ノクティアが顔を真っ赤にして平謝りする羽目になった)。

    * * *

 夜。
 泥と汗と笑いと(味の微妙なデザート)で満ちた一日が終わる。

 カイラスは塔の上で静かに夜空を見上げた。
 「……今日も平和だったな」

 そこへノクティアがやってくる。

 「カイラス、今日はたくさん頑張ったね」

 「……俺は、もう少し格好よく団長をやりたいものだが」

 ノクティアはそっと微笑む。

 「そんなカイラスだから、みんな砦が大好きなんだよ」

 カイラスは照れ隠しに空を見上げ、
 「……よし、明日こそは完璧な団長でいよう」と密かに誓うのだった。

 しかし――翌日もきっと、砦のどこかで新しい騒動がカイラスを待っているに違いない。
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