【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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6章

87話「守るべきもの」

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 王都の空が、不穏な魔力の渦でゆっくりと染まっていく。
 新月の夜、静けさは嵐の前の予感をはらみ、人々は窓を閉め、遠くから響く鐘の音に胸をざわつかせていた。

 ノクティアは王都の中央広場に立っていた。
 肩には魔導士会の外套、胸の奥には決意と少しの不安。
 その傍らに、リュゼルとカイラス――どちらも普段以上に険しい表情で彼女の隣に立っている。

 「ノクティア、準備はいいか?」
 カイラスが静かに問う。

 「ええ、やるしかないもの」
 ノクティアは微笑み、手のひらに青白い魔力を灯す。

 リュゼルも、王子の威厳よりも“ひとりの男”としての決意をその瞳に宿していた。

 「王都と人々のために――そして、君のためにも。もう絶対に、誰も失いたくない」

    * * *

 敵は王都地下に眠る“封印魔術”を操る黒幕・オルグレン侯爵の遺した“魔導災厄”だった。
 侯爵自身は倒れたものの、彼の魔力は地下迷宮に呪詛の核として残り、今や王都全域を飲み込もうとしている。

 「地下広間の封印陣が……暴走寸前です!」
 魔導士会の若者が駆け寄り、顔を蒼白にして報告した。

 「広場と地下が繋がっている。もし完全に暴走すれば、王都が――」
 リュゼルの声に、場に緊張が走る。

 「行こう。俺たち三人なら、絶対に守れるはずだ」
 カイラスの力強い言葉に、ノクティアとリュゼルが頷いた。

    * * *

 三人は地下迷宮の大扉をくぐる。
 光も届かぬ闇の奥、呪いの気配が重くのしかかる。

 「ここが……封印の間……」
 ノクティアは魔導の気流を感じ取り、魔法陣の中心に立つ。

 「封印を解くには、“三位一体”の魔力が必要です」
 リュゼルは王家の血に宿る特殊な魔力を手に取り、カイラスは護剣を構えた。

 「俺は剣で道を切り開く。ノクティアは魔力を、リュゼルは制御を頼む」
 カイラスの指示に、三人は呼吸を合わせる。

 「“守るべきもの”があるから、絶対に負けない」
 ノクティアの声が、封印の間に力強く響いた。

    * * *

 魔力の嵐が巻き起こり、地下広間に“魔導災厄”が姿を現す。
 黒い影、幾重にも渦巻く異形の腕、空間そのものがねじれるような威圧感。

 「来るぞ――!」
 カイラスが前に出て剣を振るう。強大な魔力が弾き返されるが、ノクティアがすかさず回復と補助魔法を展開。

 「カイラス、右側! リュゼル、封印陣の制御を!」
 ノクティアは的確に指示を飛ばし、三人の連携は今までになく冴えていた。

 リュゼルも渾身の力で王家の魔力を封印陣に流し込む。

 「ノクティア、頼む! “君の力”がなければ、この災厄は沈められない!」

 「絶対に、みんなを守る――!」

 ノクティアは砦の仲間たち、王都の友、そして大切な人たちの顔を思い浮かべる。
 心に灯る、たしかな“愛と希望”。

 魔導災厄の怒号が轟くなか、ノクティアは最大級の浄化魔法を発動した。

 「――光よ、闇を祓え!」

 まばゆい閃光が迷宮を満たし、災厄の影を一気に吹き飛ばす。
 カイラスがその隙に災厄の核を剣で断ち切り、リュゼルは魔力を増幅させて封印を完成させた。

    * * *

 空間が静寂に包まれる。
 闇が晴れ、残るのは三人の息遣いと、どこか新しい希望の気配。

 「……やったのか?」
 カイラスが剣を収める。

 ノクティアは崩れ落ちそうな身体を支えつつ、ふたりに微笑みかけた。

 「うん、終わった。……三人で、王都を守れた」

 リュゼルが静かに、けれどはっきりと言った。

 「君がいたから、僕たちはここまで来られたんだ」

    * * *

 地上に戻れば、夜明けの王都に安堵と歓喜の声が広がる。

 エイミー、レオナート、下町の子どもたち、市民も魔導士も、みんなが三人の無事を祝福してくれる。

 ノクティアは胸の奥からこみ上げるものをこらえきれず、涙をひとつ零す。

 (私には、守りたい“居場所”がこんなにもたくさんあったんだ――)

 カイラスとリュゼルは互いに視線を交わし、
 「……ありがとう、ノクティア」「お疲れさま、ノクティア」
 と同時に言い合い、どちらも微笑む。

    * * *

 事件は終わった。
 けれど――

 恋の答えは、まだ出ていない。
 それぞれの想いが、静かに夜明けの王都に溶けていく。

 ノクティアは両手を胸に重ねて、そっと誓う。

 (私は、これからも――守りたいもののために、生きていく)

 そして彼女の物語は、新しい未来へと歩み始める。
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