【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

文字の大きさ
95 / 107
6章

89話「新たな旅立ち」

しおりを挟む
 朝陽が王都の石畳に柔らかな光を落とし、長い夜の気配をゆっくりと溶かしていく。
 魔導士連続失踪事件――王都を揺るがせた一連の災厄は、ついに終焉を迎えた。
 だがノクティアの心には、今、もうひとつの“扉”が開かれようとしていた。

 「……本当に、終わったんだね」

 魔導士会のテラスで、ノクティアは遠く霞む王城の尖塔を眺めていた。
 昨日までの騒ぎが嘘のように静かな朝。けれど彼女の胸の中には、寂しさよりも静かな充実と、新しい決意が芽生えていた。

    * * *

 魔導士会の一室。
 事後処理に追われていたリュゼルは、書類の束からふと顔を上げた。

 (ノクティア……君は、どこへ行くのだろう)

 王都に君臨する第2皇子としての責務、そしてひとりの青年としての恋心。
 彼の胸の奥には、いまだ消えぬ未練と、彼女への“自由”を願う気持ちがせめぎ合っていた。

    * * *

 一方、砦の騎士団長・カイラスも、王都の北門の見張り台に立っていた。
 新しい風に長い髪をなびかせ、ゆっくりと遠い空を見つめる。

 (ノクティア……お前が選ぶ場所が、どこであっても)

 カイラスの想いもまた、静かな強さと切なさをたたえていた。

    * * *

 その日、ノクティアは王都の仲間たち――魔導士会、エイミーやレオナート、事件で絆を結んだ下町の人々――
 一人ひとりに挨拶をして回った。

 「ノクティアさん、もう王都を離れるんですか……?」

 エイミーが、目に涙をためて手を握る。

 「うん。ここに来て、本当にたくさんの大切なものを見つけた。でも今は、もう一度自分の“本当の居場所”を探したいの」

 「……また、きっと会えますよね?」

 「絶対に。みんなと過ごした日々を、絶対に忘れない」

 レオナートも寂しげに笑いながら、「ノクティアさんの勇気、ずっと僕の誇りです」と見送った。

    * * *

 出発の朝――

 王都北門の前に、ノクティアは小さな荷物を抱え立っていた。

 やがてカイラスが、無骨な旅装束のまま現れる。
 「遅れてすまない。少し、見送りたくてな」

 「ありがとう、カイラス。……本当に、ここまで一緒にいてくれて」

 「何度だって、どこへだって、俺はお前の味方だ」

 ふたりの間に流れるのは、恋でも友情でもあり、もっと深い信頼の色。

 カイラスは、そっとノクティアの肩を抱き寄せる。
 「どこへ行くんだ?」

 「決まっていない。でも、きっと新しい景色と、新しい自分に会える気がする」

 「怖くなったら、すぐ帰ってこいよ。……いや、呼ばれたら必ず駆けつける」

 ノクティアは笑顔で頷いた。

    * * *

 そこへ、リュゼルが馬で駆けつけてくる。
 王子としての気品をまといながらも、どこか無防備な表情。

 「ノクティア、やっぱり行くんだね」

 「うん」

 しばし、言葉が見つからないまま、ふたりは見つめ合った。

 「王都で過ごした時間……君のことを知れば知るほど、どうしようもなく惹かれていった。
 でも、君が“自由”でいてくれることが、今は一番の願いだ。
 また必ず、会いに行く。王子としてじゃなく、一人の男として、君に――」

 リュゼルの瞳は、最後までまっすぐだった。

 ノクティアは彼の手をそっと握る。

 「ありがとう、リュゼル。あなたの誇りも優しさも、きっと私を支えてくれる」

    * * *

 門の前には、王都で出会った多くの人々が集まっていた。

 「ノクティア様、お元気で!」

 「また王都に戻ってきてください!」

 皆の声がひとつになり、ノクティアの背を押す。

 最後にカイラスが、まっすぐな声で告げた。

 「ノクティア――約束だ。お前がどこにいても、俺たちは必ず“また会う”」

 ノクティアは振り返り、王都の空を見上げた。

 「うん。私も、約束する。
 ――もう、“ひとり”じゃないから」

    * * *

 小さな荷物を肩に、ノクティアはゆっくりと門をくぐる。
 石畳の先に続く新しい道。
 迷いはある。でも、恐れよりも希望が、今は胸を満たしている。

 (たくさんの出会い、たくさんの想い。
 そして、私自身の願い――)

 空には、春の雲がゆっくりと流れていた。

 ――自分の“居場所”はきっと、これから自分で作っていける。

 そう思えた瞬間、ノクティアは大きく息を吸い、新たな一歩を踏み出した。

    * * *

 王都の北門を見送るカイラスとリュゼル。
 ふたりの間に、静かな決意が交差する。

 「……これでいいのか?」

 カイラスがぽつりと呟くと、リュゼルが微笑む。

 「君も、僕も、彼女にとって“特別な人”であり続ければいい。
 ノクティアの幸せが、僕たちの幸せだろう?」

 「……そうだな。だけど、負ける気はない」

 ふたりは肩を並べ、春の空を見上げた。

    * * *

 ノクティアの新たな旅が始まる。
 過去も、傷も、出会いも全部背負いながら。

 未来へ続くその道に、かつてない希望と優しさが満ちていた――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

追放令嬢は辺境の廃村で美食の楽園を創る〜土と炎で紡ぐ、真の幸福レストラン〜

緋村ルナ
ファンタジー
華やかな公爵令嬢アメリアは、身に覚えのない罪で辺境の荒野へ追放された。絶望と空腹の中、泥まみれになって触れた土。そこから芽吹いた小さな命と、生まれたての料理は、アメリアの人生を大きく変える。土と炎、そして温かい人々との出会いが、彼女の才能を呼び覚ます!やがて、その手から生み出される「幸福の味」は、辺境の小さな村に奇跡を巻き起こし、追放されたはずの令嬢が、世界を変えるレストランのオーナーとして輝き始める!これは復讐ではない。自らの手で真の豊かさを掴む、美食と成長の成り上がり物語!

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...