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忍び寄る影
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激しい言い合いの末、充輝が低い声ではっきりと言い放った。
「これ以上付き纏うようなら、警察に通報する」
その一言に泰斗は言葉を止めると、憎悪を滲ませた視線を充輝に向けた後で何も言わず背を向けて立ち去っていく。
訪れた静寂の中、「向坂さん、もう大丈夫だよ」という声を聞いた来海は玄関のドアを開けて充輝の姿を目にした瞬間、張り詰めていた糸が切れたのか、抑えていた感情が溢れ出したことで瞳から涙が零れ落ちていた。
「……少しだけ、お邪魔してもいいかな?」
近隣への配慮からそう尋ねる充輝に来海は小さく頷くと、二人は静かに部屋の中へと入っていく。
ドアが閉まり、涙を拭おうとする来海の仕草を見た充輝は思わず腕を伸ばすと、彼女を抱き締めた。
「羽柴……くん……?」
「ごめん。泣いてるのを見たら、放っておけなくて」
突然の行為に戸惑いながらも来海は充輝の腕から離れようとはしなかった。
連絡一つですぐに駆けつけてくれたこと。
傍にいるだけで感じられる安心感。
それらが少しずつ来海の中の不安を溶かしていく。
「……来てくれて、ありがとう」
「頼ってくれて嬉しかったよ。俺で力になれることは何でもするから、遠慮しないで言ってね」
「……うん」
少しして落ち着きを取り戻した来海が「もう大丈夫」と言ったことで充輝は「また明日」と言い残して部屋を後にした。
その背中をベランダから見送りながら来海は願った。
これで終わってほしいと。
けれど、拒絶された泰斗の怒りは鎮まるどころか更に膨れ上がり、この日を境に来海への嫌がらせは悪化していくことになるのだった。
ある休日の朝、来海はドアポストに何かが入っていることに気付き、何気なく取り出して中身を確認すると、入っていたのは数枚の写真で写っているのは今よりも少し昔――学生時代と思われる来海自身。
眠っている横顔や無防備な姿などが収められていて、それらはいずれも来海の記憶にない場面ばかりで明らかに隠し撮りされたものだった。
(何これ……もしかして、付き合ってた時に泰斗が撮ったの?)
写真を目にした途端背筋を冷たいものが走り、来海は恐怖に足の力を奪われて床に崩れ落ちそうになる。
恐怖と気持ち悪さでどうにかなりそうな来海は自分一人の胸にしまっておくことは出来なくて、今日は休日で特に予定もなく充輝が訪ねて来る約束もないのだけど、迷わず連絡を入れた。
連絡を受けた充輝は三十分程でアパートに駆け付けた。
そして写真を見た瞬間、充輝の表情には抑えきれない怒りが滲んでいく。
けれど、ここで感情に任せて動けば事態が悪化することを理解しているので、充輝はまず来海を一人にしないこと、泰斗の行動を予測することを優先した上で来海の身に危険が及ばぬよう冷静に対策を考えていた。
しかし、嫌がらせは止むどころか悪化する一方で、来海の精神は限界に近い状態まで追い詰められていく。
そんな状態を見過ごせないと、以前から泰斗について調べていた充輝は彼が以前関わったことのある大手企業の社員である事実を突き止めた。
しかも泰斗はそれなりの役職に就いていることもあり、それならばと充輝は匿名で企業にメールを入れた。
その内容というのは、来海へのストーカー行為や嫌がらせの数々とその証拠について。
大手企業ともなれば、それが事実だと証明されればそれなりの処分が下されるはずだと思い事態が動き出すのを待っていると、それから数日後、泰斗の職場では来海に対するストーカー行為が問題視されて、泰斗本人への聞き取りを行った末、証拠を提示されたことで本人が認めざるを得なかったこともあり、職場からは降格処分が下された。
泰斗にとって、その処分は致命的だったに違いない。
表向きには反省した態度を見せて降格を素直に受け入れたものの、実際怒りは消えるどころか来海と充輝へ向けられた。
そして、泰斗は証拠を提示したのは充輝だろうと考え、どう復讐してやろうかという物騒な考えばかりが彼の脳内を支配していた。
「これ以上付き纏うようなら、警察に通報する」
その一言に泰斗は言葉を止めると、憎悪を滲ませた視線を充輝に向けた後で何も言わず背を向けて立ち去っていく。
訪れた静寂の中、「向坂さん、もう大丈夫だよ」という声を聞いた来海は玄関のドアを開けて充輝の姿を目にした瞬間、張り詰めていた糸が切れたのか、抑えていた感情が溢れ出したことで瞳から涙が零れ落ちていた。
「……少しだけ、お邪魔してもいいかな?」
近隣への配慮からそう尋ねる充輝に来海は小さく頷くと、二人は静かに部屋の中へと入っていく。
ドアが閉まり、涙を拭おうとする来海の仕草を見た充輝は思わず腕を伸ばすと、彼女を抱き締めた。
「羽柴……くん……?」
「ごめん。泣いてるのを見たら、放っておけなくて」
突然の行為に戸惑いながらも来海は充輝の腕から離れようとはしなかった。
連絡一つですぐに駆けつけてくれたこと。
傍にいるだけで感じられる安心感。
それらが少しずつ来海の中の不安を溶かしていく。
「……来てくれて、ありがとう」
「頼ってくれて嬉しかったよ。俺で力になれることは何でもするから、遠慮しないで言ってね」
「……うん」
少しして落ち着きを取り戻した来海が「もう大丈夫」と言ったことで充輝は「また明日」と言い残して部屋を後にした。
その背中をベランダから見送りながら来海は願った。
これで終わってほしいと。
けれど、拒絶された泰斗の怒りは鎮まるどころか更に膨れ上がり、この日を境に来海への嫌がらせは悪化していくことになるのだった。
ある休日の朝、来海はドアポストに何かが入っていることに気付き、何気なく取り出して中身を確認すると、入っていたのは数枚の写真で写っているのは今よりも少し昔――学生時代と思われる来海自身。
眠っている横顔や無防備な姿などが収められていて、それらはいずれも来海の記憶にない場面ばかりで明らかに隠し撮りされたものだった。
(何これ……もしかして、付き合ってた時に泰斗が撮ったの?)
写真を目にした途端背筋を冷たいものが走り、来海は恐怖に足の力を奪われて床に崩れ落ちそうになる。
恐怖と気持ち悪さでどうにかなりそうな来海は自分一人の胸にしまっておくことは出来なくて、今日は休日で特に予定もなく充輝が訪ねて来る約束もないのだけど、迷わず連絡を入れた。
連絡を受けた充輝は三十分程でアパートに駆け付けた。
そして写真を見た瞬間、充輝の表情には抑えきれない怒りが滲んでいく。
けれど、ここで感情に任せて動けば事態が悪化することを理解しているので、充輝はまず来海を一人にしないこと、泰斗の行動を予測することを優先した上で来海の身に危険が及ばぬよう冷静に対策を考えていた。
しかし、嫌がらせは止むどころか悪化する一方で、来海の精神は限界に近い状態まで追い詰められていく。
そんな状態を見過ごせないと、以前から泰斗について調べていた充輝は彼が以前関わったことのある大手企業の社員である事実を突き止めた。
しかも泰斗はそれなりの役職に就いていることもあり、それならばと充輝は匿名で企業にメールを入れた。
その内容というのは、来海へのストーカー行為や嫌がらせの数々とその証拠について。
大手企業ともなれば、それが事実だと証明されればそれなりの処分が下されるはずだと思い事態が動き出すのを待っていると、それから数日後、泰斗の職場では来海に対するストーカー行為が問題視されて、泰斗本人への聞き取りを行った末、証拠を提示されたことで本人が認めざるを得なかったこともあり、職場からは降格処分が下された。
泰斗にとって、その処分は致命的だったに違いない。
表向きには反省した態度を見せて降格を素直に受け入れたものの、実際怒りは消えるどころか来海と充輝へ向けられた。
そして、泰斗は証拠を提示したのは充輝だろうと考え、どう復讐してやろうかという物騒な考えばかりが彼の脳内を支配していた。
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