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忍び寄る影
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充輝の治療の為、二人はそのまま病院へと運ばれた。
処置室を出る頃には夜はすっかり更け、静まり返った院内には遅い時間特有の空気が漂っていた。
充輝の腕には白い包帯が巻かれており、その姿は痛々しく見えたものの医師の診断では幸いにも軽傷で日常生活にも支障はないという。
事情聴取は後日に回されたこともあって二人はタクシーに乗り込むと来海の住むアパートへと向かった。
車内ではほとんど言葉が交わされることは無くて無言だったけれど、それは気まずさからではなくて互いの無事を確かめ合うような穏やかな静けさだった。
アパートに到着し充輝はそのまま帰ろうとしたが、来海は少し迷った末に小さな声で言った。
「……よかったら、上がっていきませんか?」
その問いかけに断る理由の無い充輝は頷いて部屋へと上がる。
来海の胸の奥には事件の記憶がまだ生々しく残っており、一人になることへの恐怖が消えずにいた。
それでも「傍にいてほしい」と素直に口にする勇気は出ないし、自分のせいで充輝に怪我まで負わせてしまったことへの罪悪感で胸は締め付けられたまま。
けれど、そんな来海の様子を充輝は見逃さなかった。
「……あのさ、今日は土曜で仕事も休みだし、向坂さんさえ良かったら……なんだけど……君が落ち着くまで、傍に居させてほしいんだけど……良いかな?」
充輝の提案に来海は一瞬驚いたように目を瞬かせ、それから静かに頷いた。
「……お願いします」
充輝がまだここに居てくれる――それだけで、張り詰めていた心が少しずつ解けていくのを感じていた。
二人はリビングのソファーに並んで腰を下ろした。
「……巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」
その声には、申し訳なさと自分を責める気持ちが滲んでいたけれど、充輝は静かに首を振って穏やかな笑みを浮かべた。
「守ることが出来て良かった。それだけだよ」
その言葉に来海の胸が小さく震えた。
命の危険が迫る中でも自分を最優先にしてくれたこと、そして今も変わらず傍にいようとしてくれること。
その一つ一つが心の奥へと温かく染み込んでいく。
(もっと……羽柴くんのことを、知りたい)
ふと芽生えた想いに来海自身が驚いていたけれど、それは確かに惹かれている証だった。
でも、これを「恋」と呼んでいいのかはまだ分からず、だからこそ今は正直な気持ちだけを言葉にする。
「……助けてくれて嬉しかったし、今もこうして傍に居てくれて、心強い……です。私、今までは元カレのこともあって異性を知ることも、近づくことも、怖かった。信じて裏切られるかもしれないと思ったら、どうしても信じきれなかった。だけど……私……羽柴くんのことなら、信じてもいいって、思えた……。自分勝手かもしれないけど、私は……あなたを、もっと知りたいと思ったの……。だから、これからは……羽柴くんのこと、もっと知りたい……です」
控えめながらも確かに向けられた想い。
充輝はその言葉に驚くと共に、ずっと一方通行だと思っていた想いが届き、来海が自分に興味を向け始めてくれたことが嬉しくなり、それだけで胸が満たされていく。
「そう思ってくれたの、すごく嬉しい。知りたいことがあれば何でも聞いて欲しいし、俺も向坂さんのこと、もっと知っていきたい」
「羽柴くん……」
「勿論、まだ俺たちは同僚っていう立ち位置なのは分かってる。けど、今はそれよりも少しだけ、親密になれたってことで……いいのかな?」
「うん……その、まだこれが恋愛とか、そういう感情なのかは断言出来ないから……お友達……として、仲良くしていけたらと思ってる」
「分かった」
こうして二人の距離はまた一つ、確実に一歩近づいていくのだった。
処置室を出る頃には夜はすっかり更け、静まり返った院内には遅い時間特有の空気が漂っていた。
充輝の腕には白い包帯が巻かれており、その姿は痛々しく見えたものの医師の診断では幸いにも軽傷で日常生活にも支障はないという。
事情聴取は後日に回されたこともあって二人はタクシーに乗り込むと来海の住むアパートへと向かった。
車内ではほとんど言葉が交わされることは無くて無言だったけれど、それは気まずさからではなくて互いの無事を確かめ合うような穏やかな静けさだった。
アパートに到着し充輝はそのまま帰ろうとしたが、来海は少し迷った末に小さな声で言った。
「……よかったら、上がっていきませんか?」
その問いかけに断る理由の無い充輝は頷いて部屋へと上がる。
来海の胸の奥には事件の記憶がまだ生々しく残っており、一人になることへの恐怖が消えずにいた。
それでも「傍にいてほしい」と素直に口にする勇気は出ないし、自分のせいで充輝に怪我まで負わせてしまったことへの罪悪感で胸は締め付けられたまま。
けれど、そんな来海の様子を充輝は見逃さなかった。
「……あのさ、今日は土曜で仕事も休みだし、向坂さんさえ良かったら……なんだけど……君が落ち着くまで、傍に居させてほしいんだけど……良いかな?」
充輝の提案に来海は一瞬驚いたように目を瞬かせ、それから静かに頷いた。
「……お願いします」
充輝がまだここに居てくれる――それだけで、張り詰めていた心が少しずつ解けていくのを感じていた。
二人はリビングのソファーに並んで腰を下ろした。
「……巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」
その声には、申し訳なさと自分を責める気持ちが滲んでいたけれど、充輝は静かに首を振って穏やかな笑みを浮かべた。
「守ることが出来て良かった。それだけだよ」
その言葉に来海の胸が小さく震えた。
命の危険が迫る中でも自分を最優先にしてくれたこと、そして今も変わらず傍にいようとしてくれること。
その一つ一つが心の奥へと温かく染み込んでいく。
(もっと……羽柴くんのことを、知りたい)
ふと芽生えた想いに来海自身が驚いていたけれど、それは確かに惹かれている証だった。
でも、これを「恋」と呼んでいいのかはまだ分からず、だからこそ今は正直な気持ちだけを言葉にする。
「……助けてくれて嬉しかったし、今もこうして傍に居てくれて、心強い……です。私、今までは元カレのこともあって異性を知ることも、近づくことも、怖かった。信じて裏切られるかもしれないと思ったら、どうしても信じきれなかった。だけど……私……羽柴くんのことなら、信じてもいいって、思えた……。自分勝手かもしれないけど、私は……あなたを、もっと知りたいと思ったの……。だから、これからは……羽柴くんのこと、もっと知りたい……です」
控えめながらも確かに向けられた想い。
充輝はその言葉に驚くと共に、ずっと一方通行だと思っていた想いが届き、来海が自分に興味を向け始めてくれたことが嬉しくなり、それだけで胸が満たされていく。
「そう思ってくれたの、すごく嬉しい。知りたいことがあれば何でも聞いて欲しいし、俺も向坂さんのこと、もっと知っていきたい」
「羽柴くん……」
「勿論、まだ俺たちは同僚っていう立ち位置なのは分かってる。けど、今はそれよりも少しだけ、親密になれたってことで……いいのかな?」
「うん……その、まだこれが恋愛とか、そういう感情なのかは断言出来ないから……お友達……として、仲良くしていけたらと思ってる」
「分かった」
こうして二人の距離はまた一つ、確実に一歩近づいていくのだった。
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