さくらと遥香

youmery

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Wセンター 編

決意の背中

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34枚目シングルのプロモーションはあっという間に過ぎていき、12月上旬にはCDの発売日を迎えた。

その前後では歌番組への出演も続いて忙しかったけど、幸運にもかっきーと一緒にこたつでまったり過ごす時間が取れた。グループの動画配信サイトのスタッフさんが企画を用意してくれたのだ。

お仕事とは思えないくらい自由にやらせてもらえる企画で、こたつに入りっぱなしでお菓子を食べたりゲームをしたり。
ほぼプライベートな時間だった。

いつか、2人ともグループを卒業して一緒に暮らせる日が来たら。
その時は、こうやってのんびりと年末年始を過ごしたい。
そんなことを一人で妄想していたけど、かっきーはどう思ってたのかな…?

でも、それはまだ先の話。
いまは、グルーブのみんなと過ごす慌ただしい中に身を置いていよう。

そして迎えた、今年最後の日……

~~~~~~~~~~~

マネ「じゃあみんな、遅くまでお疲れさまでした。実家に帰る子も旅行に行く子も、家で引きこもる子も、年始の休みでしっかりリフレッシュしてください」

マネージャーさんの言葉に、「はーい」と揃った返事が深夜の楽屋に響いた。

2023年も、大晦日は午前中から歌合戦のリハーサル。夜に本番を終えるとカウントダウン番組のスタジオへ移動して、また別の曲を披露する。
毎年のことながら、ライブ当日と同じくらい時間に追われるスケジュールだ。

私とかっきーのWセンター曲はカウントダウン番組での披露で、それもついさっき無事に終えたところ。

これで年末年始の過密スケジュールも一区切りだ。
それと同時に、年末に発売されたこの曲の披露も一段落付いたことになる。

大きなトラブルもなくここまで新曲を披露できた安堵と、ほんの少しの寂しさをかっきーと共有していると…

「かっきー、さくちゃん、ここまで本当におつかれさま」

1人の先輩メンバーが、私たち2人に優しく声をかけてくれた。

「私さ、今回の曲かなり気に入ってて、大好きなんだ。2人にしか出せない空気もパフォーマンスにあらわれてて、すごく尊いって感じがするし。きっと、これからグループを代表する曲の一つになっていくと思う。ううん、絶対なる!」

私達がちょっと困っちゃうくらいに、今回のWセンター曲を絶賛してくれる。

「いえいえ!みんなが頑張って良いパフォーマンスをしてくれるから、良い曲になってるんです。だよね?さくちゃん?」
「うん。いつも、かっきーにもみんなにも助けてもらってます。でも、すごく嬉しいです。ありがとうございます」

本心だった。センターといういちばん目立つ立場ではあるけど、曲はみんなで作っているものだから。

「ふふふ、2人とも謙虚だなぁ。そんなところも素敵だよ。だからね…私、これからもこの曲が披露されるのを楽しみにしてる」

今年もがんばろうね、と笑顔で言い残すとこちらへ背を向けて、先輩は3期生メンバーの輪の中へ戻っていった。

なぜか分からないけど、私はその背中から目が離せなかった。

力強くて。
カッコよくて。
すごく美しい。
だけど、ほんの少しだけ寂しそう。

あぁ。
そうか。

あれは、した人の背中だ。
ここにはないものを求めて、ここから旅立つ決意をした、そういう背中だ。

私たち4期生がグループに加入して6年経つ。
その間に何人も先輩を見送ってきた今だから、なんとなく分かってしまう。

(かっきーは、どう思ったんだろう…)

もしかしたら、私の思い過ごしかもしれない。声をかけようとした瞬間、不意にかっきーが私の手を握ってきた。
その視線は、私と同じで先輩の背中へ向けられている。
寂しさと驚きが混ざったその横顔が、すべてを物語っていた。

(やっぱり、かっきーも今ので気付いたんだ…)

私の右手を力強く握ってきたかっきーの左手。
でも、なんでだろう。
握り返したら潰れてしまいそうなほど、その手はひどく繊細に感じた。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

年始のお仕事で、次のシングルの選抜メンバーが発表された。

私とかっきーは、2列目の中央で隣同士のシンメというありがたいポジション。
続けて、1列目のメンバーに3期生の先輩たちの名前が次々と呼ばれて各ポジションに立っていく。

そして、最後に名前を呼ばれて、私とかっきーの目の前に立った先輩。
その背中からは、あの日と同じ決意を感じた。

あの日、私とかっきーのWセンター曲を大好きだと言ってくれたその先輩は。
かっきーがずっとずっと、オーディションを受ける前からずっと憧れてきた人で。
月がとても綺麗な夜に生まれたから、という理由で『美月』と名付けられた美しい人。

選抜発表の最後には、美月さん自身の口から私たちメンバーに向けて卒業が発表された。

隣で聞いていたかっきーも、私と同じでこうなることを予感していたのかもしれない。
特に驚いた様子はなく、うつむいたままじっと動かなかった。

~続く~
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