【完結】「第一王子に婚約破棄されましたが平気です。私を大切にしてくださる男爵様に一途に愛されて幸せに暮らしますので」

まほりろ

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8話「緑の瞳の天使様」

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――ミハエル・オーベルト視点――


ふわふわとした感覚に包まれている。

甘く優しい香りが鼻孔をくすぐる。

この香りを昔嗅いだことがある。

いつ嗅いだだろう?

確かあれは……三年前の食堂。

レーア様と言葉を交わしたとき……。











目を開けると、真っ白な空間にいた。

目の前に赤い髪に緑の瞳の見目麗しい天使がいた。

天使様はレーア様に似ていた。

「気が付かれましたか?」

天使様の、気品のある高い声はレーア様によく似ていた。

でもレーア様が僕の目の前にいるはずがない。

こんな風に優しく話しかけ、ほほ笑んでくださるはずがない。

きっとこれは夢だ。

いい夢だな……。

夢なら覚めなければいいのに……。

どうして僕は寝ているんだっけ?

そうだ食堂に行ったらレーア様が第一王子に罵倒されていて。

第一王子がレーア様に冤罪をかけ国外追放すると言うから、レーア様の無実を証明するために、レーア様の前に飛び出して……。

えっとそれから……。

第一王子はさり際に「覚えていろ」と言っていた。

きっと僕は報復され、第一王子に殺されたんだ……。

ということは、ここはあの世?

この世界をお作りになられた神様は優しい方のようだ。

だって、レーア様にそっくりの見目麗しい天使を僕につかわして下さったのだから。

そうか僕は死んだのか……。

死んだのならなんだって言える。

「天使様。
天使様はレーア様にそっくりですね」

「えっ?」

天使様が驚いた顔をしている。

天使様のほほ笑みは大人っぽいけど、驚いた顔はあどけなくて可愛らしいのだな。

レーア様も驚いたときはこんな顔をするのかな?

レーア様の驚いた顔を見てみたかったな。

「天使様。
僕の独り言だと思って聞いてください」

天使様はほほ笑みを浮かべうなずいた。

「僕、生前好きな人がいたんです」

「それは……」

「レーア・カイテル様。
男爵の身分の僕にとって、公爵家の令嬢である彼女は雲の上の存在でした」

相手が天使様だからかな?

話しやすい。

「レーア様はお優しい方でした。
学園に入学仕立ての僕が、食堂で上級生に絡まれていたとき、颯爽と現れて僕を助けてくれたのです」

「そう……あなたあのときの」

「レーア様は僕の事なんか覚えていないでしょうけど、僕はそのときとても嬉しかった。
レーア様にもう一度会いたくて、食堂や廊下を意味もなくウロウロしました。
三年生になったとき、二時間目と三時間目の休み時間に、教室の窓から裏庭にレーア様のお姿を見かけたときは嬉しかった。
あの時間が僕の憩いの時間でした。
レーア様がいて下さったから僕は父の死を乗り越えられた。
慣れない男爵の仕事もこなせなさたのです」

レーア様が聞いたらドン引きするだろうな。

一度助けただけの相手がずっと自分を目で追っていたなんて。

しかも自分の知らないところで、勝手に心の支えにされていたなんて。

レーア様にとっては、カエルにキスされるぐらい気持ち悪いかもしれない。

「僕はずっとレーア様に恩返しがしたかったんです」

「…………」

「今日その恩がやっと返せました。良かった。本当に良かった……」

知らない間に目から涙が溢れていた。

「でも……母さんや領民には迷惑をかけてしまった」

死んでも涙って流れるんだな。

「ぐずっくすっ……死にたくない……! 
ああ、もう死んでるんだった……!」

涙で視界が歪む。

天使様が僕の手を握ってくれた。

天使様のては温かかった。

死んでも温度って感じるんだな。

「ぐずっひっく……。
天使様、お願いがあります。
僕は地獄に落ちても構いません
でも母さんと領民が、僕の愚かな行動のせいで、報いを受けるのは嫌なんです……!
天使様お願いします! 
どうか彼らを助けて下さい!」

自分でも都合のいいお願いだと思う。

今日の一件が国王陛下の耳に入り、城に連行されたらしい。

地べたに頭を擦りつけ国王陛下に母と領民の命を助けてくださるように、お願いするつもりだった。

でも食堂で倒れて、そのまま死んでしまったのでは、国王陛下に申し開きも、嘆願もできない。

僕が死んだことで、こたびのことが不問に付されているといいが。

もしそうじゃなかったら?

第一王子が母さんや領民に嫌がらせをしたら?

もしそんなことになったら、僕は成仏できない。

「どうか、どうか……! 後生ですから……!」

「分かりました。
私があなたの願いを必ず叶えます」

天使様はそう言って穏やかにほほ笑んだ。

女神のように慈愛に満ちた、美しい笑顔だった。

「よかった……。
僕を迎えに来てくれたのが、あなたのような優しい天使様で……」

そうして僕はまた、意識を手放した。

最後に嗅いだのは、優しく甘い薔薇の香りだった。



☆☆☆☆☆☆
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