【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ

文字の大きさ
2 / 5

2話「平均睡眠時間2時間」

しおりを挟む


四年後。

私は善意に殺された。

一時間仕事をすれば血反吐を吐いて一週間寝込む殿下。

殿下の治療にかかりきりで、王太子妃のマナーやこの国の文字を習う暇もない聖女様。

側室になって四年、私は働き詰めだった。

「ふーー、やっと終わった」

いつものように殿下と聖女様の仕事を変わりにこなした私は、執務室で窓から差し込む朝日を浴びながら背伸びをしていた。

「さすがに二十歳を越えてからの三徹はきついわ~~」

私は執務机の上のベルを鳴らしメイドを呼んだ。

早朝にも関わらずメイドは飛んできた。

「お呼びでございますか、ティアローズ様」

「熱々のコーヒーをブラックで頂戴。
 それとチョコレートもよろしくね」

脳みそをフル稼働したあとは糖分が必要なのだ。

「承知いたしました」

メイドは一度下がるとワゴンにコーヒーとチョコレートを載せて戻ってきた。

「あらいい香りね?
 コーヒーやチョコレートとは違うようだけど?」

「気持ちの落ち着く効果のあるお香をお持ちいたしました。
 不快ならお下げしますが」

「いいえ、気に入ったわ。
 そのままにしておいて」

「かしこまりました」

「もう下がっていいわ」

メイドは一礼して下がって言った。

「お香があるなら窓は開けない方がいいわね」

朝の新鮮な空気を吸い込みたかったが、もう少しあとからにしよう。

「ひと仕事終えたあとは甘いチョコレートとブラックコーヒーに限るわ~~」

口の中に入れたチョコレートが熱々のコーヒーによって溶けていく。

疲れた心と体に染みるわね。

でもほどほどにしないと、次のパーティーのために作らせたドレスが入らなくなったら困るもの。

「えっ……?」

ガシャーーン!

グラリとめまいがし、私の手からカップがスルリと滑り落ち、床に叩きつけられたカップが派手な音を立てた。

足に力が入らず、床に崩れ落ちた。

「なぜかしら……すごく眠い。
 だめよ……シャワーを浴びたら……来週王城で開くパーティーの警備についての最終確認を大臣とする……予定なんだから……隣国の皇太子をお招きするのに……そそうがあったら大……変。
 その後は会議に出席して……孤児院の建設について……話し合わなくちゃ……」

私は目を必死に開けようとしたが、まぶたが重くてとても動かせそうになかった。

早朝の執務室で私は死んだ。

死因は弱っていた体で過度の睡眠薬を接種したことによる睡眠薬中毒。

……それは全て善意だった。

働き詰めの私を心配して殿下が睡眠薬入りのチョコレートを用意し、聖女様がコーヒーに睡眠薬を入れ、陛下が眠り薬入りのお香を差し入れしてくれたのだ。

全ては働きすぎの私を心配してのこと……。

ただそれぞれがバラバラに用意したものを一度に接種したため、長年の疲労と睡眠不足でボロボロだった私の体は耐えられず、永久に眠りにつくことになったのだ。

なぜ私がこんなことを知っているのかというと……。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

愛されない妻は死を望む

ルー
恋愛
タイトルの通りの内容です。

ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~

水無月あん
恋愛
私は伯爵家の娘ローザ。同じ年の侯爵家のダリル様と婚約している。が、ある日、私とはまるで性格が違う従姉妹のフランを預かることになった。距離が近づく二人に心が痛む……。 婚約者を奪われた側と奪った側の二人の少女のお話です。 5話で完結の短いお話です。 いつもながら、ゆるい設定のご都合主義です。 お暇な時にでも、お気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

聖女が帰らなかったので婚約は破棄された

こうやさい
恋愛
 殿下はわたくしとの婚約を破棄して聖女と結婚なさるそうです。  いや『聖女は帰らなかったけど婚約は破棄された』の時に、聖女が帰らない婚約破棄の場合はふつー違うよなと考えた話。けどこれもなんかずれてる気が。  直接的に関係はないです。  プロフィール少し編集しました。 URL of this novel:https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/678728800

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

【完結】わたしの欲しい言葉

彩華(あやはな)
恋愛
わたしはいらない子。 双子の妹は聖女。生まれた時から、両親は妹を可愛がった。 はじめての旅行でわたしは置いて行かれた。 わたしは・・・。 数年後、王太子と結婚した聖女たちの前に現れた帝国の使者。彼女は一足の靴を彼らの前にさしだしたー。 *ドロッとしています。 念のためティッシュをご用意ください。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

処理中です...