17 / 37
二章
17話「連れ去られた母」アビー編
しおりを挟む
【アビー編】
僕は三歳まで穏やかな父さんと明るい母さんと三人で、山奥の小屋で幸せに暮らしていた。
父さんは幼い頃から人里はなれた山奥で暮らしていたから少し天然で、母さんは父さんと結婚する前別の世界で暮らしていたせいかちょっと風変わりだった。
でも二人ともとっても優しかった。
母さんは元いた世界で、高校というところに通っていたらしい。
普通の女の子だった母さんは、ある日突然悪い王子にこの世界に呼び出された。
そして王子との結婚をエサにされ、過酷な環境で過労死寸前まで働かされた。
母さんの働きにより三年で瘴気の浄化作業は終わったらしい。
それなのに王族も大臣も教会も、瘴気が浄化されたらあっさりと母さんを捨てた。
母さんは王子の借金のかたにハゲでデブの五十過ぎの辺境伯に嫁がされそうになった。
それを知った母さんは、お城から逃げ出した。
追ってから隠れるために森に入った母さんは、森で道に迷い、カゲから落ちて怪我をした。
そこで母さんを助けたのが父さんなんだって。
「初めて会った時のコルトは、ちょっぴりシャイで可愛かったわ」
母さんは頬を染めながら、父さんとの馴れ初めを話してくれた。
父さんには内緒だけど、母さんは僕と二人だけのとき「出会った時の父さんはとってもカッコよかったのよ。お姫様のピンチに現れて助けてくれる物語の騎士みたいだったわ」と言ってよくのろけていた。
母さんは、元いた世界の話をよく僕に聞かせてくれた。
僕は母さんの話を聞くのが大好きだった。
飛行機、自動車、自転車、洗濯機、乾燥機、電気ポット、温度を感知して明かりがつく街灯などなど……。
母さんがいた世界はこの世界より何倍も文明が進んでいたみたいだった。
母さんは絵を描くのが得意で、お話だけではイメージできないものを紙に描いて説明してくれた。
この世界にはないものを自分の手で作り出したいと思ったのはいつからだろう?
母さんの元いた世界にあった便利な道具を作ったら母さんは喜んでくれるかな?
幼い頃の僕はそんなことを考えていた。
☆
そんなある日、僕たちの前に自称神様が現れた。
自称神様は、
「一生大切に扱うっていうから王族に聖女召喚を許可したのに。
こんな山奥のボロ小屋に捨て置くとはね。
かわいそうに、そこの男にむりやり手籠にされ、子供を産まされたんだね。
大丈夫だよ、私が元の世界に戻してあげるからね。
ここでの忌まわしい記憶を消してね」
と言って母さんを連れて去ってしまった。
その日、僕は母さんがいなくなったのが悲しくて、父さんの腕の中でわんわんと泣いてしまった。
父さんはそんな僕をひと晩中あやしてくれた。
僕より母さんとの付き合いの長い父さんの方が辛いのに、僕よりも泣きたいのは父さんの方なのに。
父さんは僕を心配させないように、僕の前では涙を見せずにいた。
僕はこの日から母さんを見つけるまで泣かないと決めた。
僕がいつまでもめそめそしてたら、父さんが悲しめなくなってしまうから。
自称神様は母さんを元の世界に戻すと言ってた。
つまり母さんがどこに連れて行かれたのか断定できるということだ。
悪い王子が母さんをこの世界に呼び出して、自称神様が母さんを元いた世界に戻してしまった。
それはつまりこの世界と母さんのいる世界を繋ぐ方法があるってことだ。
悪い王子や自称神様にできることが僕にできないはずがない!
僕は母さんと再会するまで、絶対にあきらめない!
僕は三歳まで穏やかな父さんと明るい母さんと三人で、山奥の小屋で幸せに暮らしていた。
父さんは幼い頃から人里はなれた山奥で暮らしていたから少し天然で、母さんは父さんと結婚する前別の世界で暮らしていたせいかちょっと風変わりだった。
でも二人ともとっても優しかった。
母さんは元いた世界で、高校というところに通っていたらしい。
普通の女の子だった母さんは、ある日突然悪い王子にこの世界に呼び出された。
そして王子との結婚をエサにされ、過酷な環境で過労死寸前まで働かされた。
母さんの働きにより三年で瘴気の浄化作業は終わったらしい。
それなのに王族も大臣も教会も、瘴気が浄化されたらあっさりと母さんを捨てた。
母さんは王子の借金のかたにハゲでデブの五十過ぎの辺境伯に嫁がされそうになった。
それを知った母さんは、お城から逃げ出した。
追ってから隠れるために森に入った母さんは、森で道に迷い、カゲから落ちて怪我をした。
そこで母さんを助けたのが父さんなんだって。
「初めて会った時のコルトは、ちょっぴりシャイで可愛かったわ」
母さんは頬を染めながら、父さんとの馴れ初めを話してくれた。
父さんには内緒だけど、母さんは僕と二人だけのとき「出会った時の父さんはとってもカッコよかったのよ。お姫様のピンチに現れて助けてくれる物語の騎士みたいだったわ」と言ってよくのろけていた。
母さんは、元いた世界の話をよく僕に聞かせてくれた。
僕は母さんの話を聞くのが大好きだった。
飛行機、自動車、自転車、洗濯機、乾燥機、電気ポット、温度を感知して明かりがつく街灯などなど……。
母さんがいた世界はこの世界より何倍も文明が進んでいたみたいだった。
母さんは絵を描くのが得意で、お話だけではイメージできないものを紙に描いて説明してくれた。
この世界にはないものを自分の手で作り出したいと思ったのはいつからだろう?
母さんの元いた世界にあった便利な道具を作ったら母さんは喜んでくれるかな?
幼い頃の僕はそんなことを考えていた。
☆
そんなある日、僕たちの前に自称神様が現れた。
自称神様は、
「一生大切に扱うっていうから王族に聖女召喚を許可したのに。
こんな山奥のボロ小屋に捨て置くとはね。
かわいそうに、そこの男にむりやり手籠にされ、子供を産まされたんだね。
大丈夫だよ、私が元の世界に戻してあげるからね。
ここでの忌まわしい記憶を消してね」
と言って母さんを連れて去ってしまった。
その日、僕は母さんがいなくなったのが悲しくて、父さんの腕の中でわんわんと泣いてしまった。
父さんはそんな僕をひと晩中あやしてくれた。
僕より母さんとの付き合いの長い父さんの方が辛いのに、僕よりも泣きたいのは父さんの方なのに。
父さんは僕を心配させないように、僕の前では涙を見せずにいた。
僕はこの日から母さんを見つけるまで泣かないと決めた。
僕がいつまでもめそめそしてたら、父さんが悲しめなくなってしまうから。
自称神様は母さんを元の世界に戻すと言ってた。
つまり母さんがどこに連れて行かれたのか断定できるということだ。
悪い王子が母さんをこの世界に呼び出して、自称神様が母さんを元いた世界に戻してしまった。
それはつまりこの世界と母さんのいる世界を繋ぐ方法があるってことだ。
悪い王子や自称神様にできることが僕にできないはずがない!
僕は母さんと再会するまで、絶対にあきらめない!
16
あなたにおすすめの小説
【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」
仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。
「で、政略結婚って言われましてもお父様……」
優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。
適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。
それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。
のんびりに見えて豪胆な令嬢と
体力系にしか自信がないワンコ令息
24.4.87 本編完結
以降不定期で番外編予定
侯爵令嬢セリーナ・マクギリウスは冷徹な鬼公爵に溺愛される。 わたくしが古の大聖女の生まれ変わり? そんなの聞いてません!!
友坂 悠
恋愛
「セリーナ・マクギリウス。貴女の魔法省への入省を許可します」
婚約破棄され修道院に入れられかけたあたしがなんとか採用されたのは国家の魔法を一手に司る魔法省。
そこであたしの前に現れたのは冷徹公爵と噂のオルファリド・グラキエスト様でした。
「君はバカか?」
あたしの話を聞いてくれた彼は開口一番そうのたまって。
ってちょっと待って。
いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないですか!!?
⭐︎⭐︎⭐︎
「セリーナ嬢、君のこれまでの悪行、これ以上は見過ごすことはできない!」
貴族院の卒業記念パーティの会場で、茶番は起きました。
あたしの婚約者であったコーネリアス殿下。会場の真ん中をスタスタと進みあたしの前に立つと、彼はそう言い放ったのです。
「レミリア・マーベル男爵令嬢に対する数々の陰湿ないじめ。とても君は国母となるに相応しいとは思えない!」
「私、コーネリアス・ライネックの名においてここに宣言する! セリーナ・マクギリウス侯爵令嬢との婚約を破棄することを!!」
と、声を張り上げたのです。
「殿下! 待ってください! わたくしには何がなんだか。身に覚えがありません!」
周囲を見渡してみると、今まで仲良くしてくれていたはずのお友達たちも、良くしてくれていたコーネリアス殿下のお付きの人たちも、仲が良かった従兄弟のマクリアンまでもが殿下の横に立ち、あたしに非難めいた視線を送ってきているのに気がついて。
「言い逃れなど見苦しい! 証拠があるのだ。そして、ここにいる皆がそう証言をしているのだぞ!」
え?
どういうこと?
二人っきりの時に嫌味を言っただの、お茶会の場で彼女のドレスに飲み物をわざとかけただの。
彼女の私物を隠しただの、人を使って階段の踊り場から彼女を突き落とそうとしただの。
とそんな濡れ衣を着せられたあたし。
漂う黒い陰湿な気配。
そんな黒いもやが見え。
ふんわり歩いてきて殿下の横に縋り付くようにくっついて、そしてこちらを見て笑うレミリア。
「私は真実の愛を見つけた。これからはこのレミリア嬢と添い遂げてゆこうと思う」
あたしのことなんかもう忘れたかのようにレミリアに微笑むコーネリアス殿下。
背中にじっとりとつめたいものが走り、尋常でない様子に気分が悪くなったあたし。
ほんと、この先どうなっちゃうの?
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
氷の公爵家に嫁いだ私、実は超絶有能な元男爵令嬢でした~女々しい公爵様と粘着義母のざまぁルートを内助の功で逆転します!~
紅葉山参
恋愛
名門公爵家であるヴィンテージ家に嫁いだロキシー。誰もが羨む結婚だと思われていますが、実情は違いました。
夫であるバンテス公爵様は、その美貌と地位に反して、なんとも女々しく頼りない方。さらに、彼の母親である義母セリーヌ様は、ロキシーが低い男爵家の出であることを理由に、連日ねちっこい嫌がらせをしてくる粘着質の意地悪な人。
結婚生活は、まるで地獄。公爵様は義母の言いなりで、私を庇うこともしません。
「どうして私がこんな仕打ちを受けなければならないの?」
そう嘆きながらも、ロキシーには秘密がありました。それは、男爵令嬢として育つ中で身につけた、貴族として規格外の「超絶有能な実務能力」と、いかなる困難も冷静に対処する「鋼の意志」。
このまま公爵家が傾けば、愛する故郷の男爵家にも影響が及びます。
「もういいわ。この際、公爵様をたてつつ、私が公爵家を立て直して差し上げます」
ロキシーは決意します。女々しい夫を立派な公爵へ。傾きかけた公爵領を豊かな土地へ。そして、ねちっこい義母には最高のざまぁを。
すべては、彼の幸せのため。彼の公爵としての誇りのため。そして、私自身の幸せのため。
これは、虐げられた男爵令嬢が、内助の功という名の愛と有能さで、公爵家と女々しい夫の人生を根底から逆転させる、痛快でロマンチックな逆転ざまぁストーリーです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる