聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした・完結

まほりろ

文字の大きさ
16 / 37
二章

16話「お仕事と親の威厳」コルト視点

しおりを挟む

【コルト視点】


日本に来て二週間が経過した。

リコはこの世界の学校に通っていて、今年の三月に卒業するらしい。

次元を超える機械が故障してしまったこともあり、それまでこの世界に滞在することになった。

リコ一人の稼ぎで家族三人を養うのは大変だ。

俺も職探しに行こうとしたのだが……。

アビーに、
「父さん、この世界は身分証がないと働けないんだよ。
 外をふらふらとうろついて、この世界の騎士団や自警団に不法滞在の外国人と間違えられて捕縛されると母さんに迷惑がかかるから、父さんはあまり外を出歩かないで。
 お金は僕が稼ぐから」
と言われてしまった。

アビーはリコからスマートフォンと呼ばれる薄い板のようなものを借りると、恐ろしいほどの速さでこの世界の常識を理解していった。

そしてアビーは、俺にはよくわからない方法であっという間にお金を稼いだ。

アビー曰く「悪いお金じゃないから安心して」とのことだ。

次元を超える機械の修理の費用とか、次元を超える機械を隠しておく倉庫とか、俺たちの滞在費用とか……色々とお金がかかるからアビーがお金を稼いでくれたのは正直非常に嬉しかった。

しかし、息子に大金を稼がれて養われたのでは父親としての俺の立場が……。

元の世界では人足の仕事は身分証がなくても出来た。

他国の移民が、河川工事などの日雇いの仕事に就いていたのを目にしたことがある。

この世界でもそれが可能なら、俺が人足の仕事をしてリコとアビーを養おうと思っていたのに……。

本当は本職の木こりの仕事をしたかったのだが、「山には持ち主がいるから勝手に木を切ってはいけないのよ」とリコに釘を刺されてしまった。

木彫りの置物を作って売ろうにも、木材を買わなくてはいけない。

木を彫る道具は持ってきたけど、材料は持ってきてないからどうしたものか?

俺が色々と考えている間に、アビーがリコが借りている部屋の隣の部屋を借り、俺のアトリエにしてくれた。

その上、木彫りの置物を作る木材と道具も手配してくれた。

それからこの世界の服とか靴も、アビーが「いんたーねっとつうはん」というもので購入してくれた。

うちの息子は気が利いていて、優しくて、賢い。

木を掘る道具は元の世界からも持ってきてはいた。

しかし、リコのいる世界の道具は元いた世界のものより遥かに進化していて使いやすかった。

この世界の技術は凄いな。

俺にはアビーのようにこの世界の道具の仕組みまでは理解できないが、元の世界の数倍……いや数百倍進んでいるのがわかる。

妻や息子にばかり働かせておくわけにはいかない。

俺も木彫りの置物を作ってリコに楽をさせないと!

モチーフはクリスマスの日に、空を飛んでいたトナカイの引くソリに乗ったおじいさんにしよう。

リコの話では彼はこの世界の有名人でこの時期の人気者らしいから。

俺は意気込んで製作に取り掛かったのだが……。

「父さんの作った木彫りの置物は一体、一万円で売れたよ。
 材料費込みでトントンてところだね」

現実は厳しい。

「父さん、僕たちの目的は母さんを連れて元の世界に戻ることだよ。
 そのために大事なのはお金を稼ぐことよりも、目立つ行いをして母さんに迷惑をかけないことだと思うんだ。
 お金は僕が沢山稼いだから、父さんは母さんの家事を手伝って上げてよ」

うちの息子は本当に、優秀で冷静で状況の分析力に長けている。

やはりアビーは天才……?

いやいや、親の欲目でそう見えるだけ。

アビーに余計なプレッシャーをかけてはいけない。

僕は炊事、洗濯、掃除をしながら、家事の合間に木彫りの置物を作ることにした。

この世界の材料や道具や調味料に慣れるには時間がかかったが、リコやアビーが「美味しい」と言ってくれると苦労が報われた気がした。






余談だがアビーがアトリエとして借りてくれた部屋には簡易ベッドがある。 

アビーが「疲れたときはそこで休んで」と言って用意してくれたものだ。

アビーの希望で夜はリコのシングルベッドに、リコとアビーと俺の三人で川の字になって寝ている。

「川」というのはリコの世界の文字で、子供を真ん中にして親子三人で寝ると、「川」という字に見えることから、そう呼ばれているらしい。

四年ぶりに親子三人で川の字で寝られることに、最初はとても感動した。

今でもその気持ちは変わらない。

変わらないのだが……。

アトリエにある簡易ベッドを見るとつい思い出してしまう。

リコが自称神様に日本に連れて行かれる前。

リコと「そろそろ二人目がほしいな。次はあたしそっくりの女の子がいいな」と話していたことを……。

二人目→子作り→子作りの為の夫婦のいとなみ……夜こっそり抜け出してこの部屋でリコと……。

いやいやダメだろ!

アビーが夜中に目を覚ましたとき、俺たちが側にいなかったらきっと心配する。

しっかりしていてもアビーはまだ七歳だ。

アビーは母親を目の前で連れ去られたので、一人になるのを嫌がる。

この世界にはアビーの子守をしてくれるケットシーもケルベロスも雷竜もいない。

アビーが深夜に目を覚ましたとき、俺たちが隣で寝ていないことに気づいて泣き出したら……。

しかもその原因が、俺がリコとスケベな事をしたいからだとしたら……。

親としてダメダメだろ!

リコとの子作りするのは、元の世界に帰って落ち着いてからにしよう。

元の世界に戻ったら子供部屋と寝室を分けたいな……。

ああ……でも、昼間のアトリエでリコと
ちょっとだけイチャつくだけなら……!

四年振りのスキンシップだし、キスしたら止まらなくなりそうだ……!

リコが以前話していたシャンプーやリンスの効果なのか、リコの髪は元の世界にいたときよりずっとつやつやしていて、しかもいい香りがした。

きめ細やかだったリコの肌は、さらにきめ細かく白く輝いていて……。

元々綺麗だったリコが十割増しで美しく見えて……彼女と二人きりになったら理性が保てそうにない。

元の世界に帰るまでエッチなことは我慢しよう……!

そう思っていたのだが……。







ある日、俺がアトリエで一人で作業していると。

「コルト、作業はかどってる?
 お茶とお菓子持ってきたよ」

リコが差し入れを持ってきてくれた。

それは良いのだが、問題はリコの格好だ。

リコは膝が見えるような短いスカートを履いていた。

リコの着ているセーターは胸元が大きく開いている。

この世界では足を見せる格好も普通なようだが、俺は素足に耐性がない。

「ありがとう、そこに置いといて」

俺はサッとリコから視線を逸らす、

「コルトったらそっけない。
 四年会わない間にあたしに関心なくなっちゃった?」

「あるよ!
 俺はリコのことが今もすごく大好きだ!」

「家族としての情じゃなくて?」

「異性として魅力を感じてるし、リコを愛してる!」

リコが俺の隣に座り、俺の指に自分の指を絡めてきた。

「ちょっ……リコ!」

元の世界に帰るまで我慢しようって決めたのに、理性をゴリゴリ削られていく。

「アビーのことなら大丈夫だよ。
 今倉庫に次元を超える機械の修理に行ってるから。
 夕方まで二人きりだよ」

リコが俺の頬に手を添え、彼女の唇が俺の唇に触れた。

「リコ……!」

当然俺の理性は崩壊した。

俺とリコがアトリエで何をしたのかは、ご想像にお任せする。





☆☆☆☆☆






俺たちが元の世界に帰ってから数十年後の世界で、制作者不明の木彫りの置物に高値がつくことになるのだが……そのことを俺が知ることはない。



――コルト編・終わり――


次はアビー編です!
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さくら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

処理中です...