転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫

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本編

お茶会の罠

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 私とラジェの作法にウィルさんが感心しながらうなずく。

「二人ともこの短い期間でよく作法の勉強をしたな。これなら何も問題はないだろう」
「ありがとうございます!」

 ラジェと一緒にガッツポーズを取ると、ウィルさんが苦笑いをする。大丈夫、王女様の前でガッツポーズはしないから!
 礼儀作法の研修も終わった。これで、ようやくお茶会へ挑める。なんだかすでにエネルギーはごっそりと削られているような気がするけど……
 ウィルさんの案内でオーレリア王女が滞在する伯爵邸の別館へ馬車で向かう。同じ敷地内なのに馬車で行く距離……伯爵邸は広大だ。
 途中、馬車の小窓からすれ違う数人の紺を基調とした騎士を見掛ける。王国の騎士は銀を基調としているので、これはブルガル帝国の騎士なのだと思う。
 馬車が静かに停止、ウィルさんが先に下り手を伸ばしてくる。

「足元に気を付けなさい」
「ありがとうございます」

 ウィルさんの手を取ると手慣れたように抱っこをされ、馬車から降ろされたので驚く。
 ラジェを降ろしたウィルさんが眉間に皺を寄せながら尋ねる。

「なぜ、そのような顔で私を見る」
「いえ、ずいぶんと子供慣れされているのですね」
「婚約者が――いや、この話はいいだろう」

 いつものウィルさん口調に戻る。婚約者――そういえば、以前ザックさんがウィルさんの婚約者はまだ幼いというようなことを言っていた。それで子供の扱いに慣れているのか。納得する。

「トレンチ男爵!」

 別邸に足を踏み入れようとすれば、ウィルさんが誰かに呼び止められる。

「これは……カステロ大臣。本日は視察に向かわれるのでは?」
「別件のため、本日、我らは商業ギルドの視察に午後から向かう予定だ」

 カステロ大臣から視線を感じたので、顔を上げる。すると、ザ貴族のような中肉中背の大臣と目が合う。顔に張り付いた作り笑顔が貴族感をより引き立てる。後ろにいる騎士はブルガルの者なので、どうやらこの人はブルガルの大臣のようだ。
 大臣のすぐ後ろにいる男に目が行く。あれ、この人、どこかで見たことがある……

(ああ、そうだ。港で見たんだ)

 数日前に絵を買ってくれた船長と言い争いをしていた人だ。たぶん……そう。あの時と外見の雰囲気が違うので、初めて見掛けた時は変装をしていたのかもしれない。でも、特徴のあるイボが鼻にあるので同じ人だと思う。あの時、船員も帝国の貴族だと言っていたし……こんな偶然があるのかな?
なんだか違和感を覚えつつも、ウィルさんと大臣の二人の会話が終わるまで大人しくラジェと待つ。

(は、話が長い……)

 しばらく会話が終わるのを待っていたけど……えーと、話が全然終わらない。大臣、よくこんなに話題が続くね……ウィルさんも笑みを浮かべながら虚無顔をしている。それでも、邪険にはできない相手のようで会話は続く。

「そうそう、ぜひ、トレンチ男爵にナシャダ領についてお伺いしたいことがあったのだ。本日、視察までの間、話につき合ってくれないか」
「カステロ大臣、本日はオーレリア王女様のお茶会に客人を案内している」
「女、子供の茶会に貴殿が? それは……損な役割であるな」

 カステロ大臣が呆れた顔で笑う。とても感じが悪い。私とラジェは確かに子供だけど、オーレリア王女は自国の王女様じゃないの? 自国の王族に対してこの態度は大丈夫なのだろうか?
 軽く咳をして、ウィルさんを見上げる。

「時間、大丈夫ですか?」

 小声で伝えると、ウィルさんがうなずきながら大臣と距離を取る。

「それでは、時間が押しておりますので失礼する」

 やや強引にだが、ウィルさんが話を切り上げる。大臣は納得のいかない顔をしているけど、ウィルさんは流れるようにお茶会のある中庭へと向かった。
案内された中庭は別邸なのに結構立派で広かった。テニスコート何倍分の広さだろう……ともかく広い。
 オーレリア王女の到着はまだのようで胸を撫でおろす。貴族のマナーでは爵位の高い人が最後に席に着くようになっている。私は平民なので、一番に到着しないといけない。大臣の長話のせいで遅れてしまうところだった。遅れたらお茶会に参加できないというルールを行使する貴族もいるという。貴族のルール、その一端しか習っていないけど……とても面倒そうだ。
 指定された中庭のガゼボのテーブルに着くと、すぐにオーレリア王女が現れた。ギリギリだったけど間に合った。
 オーレリア王女が満面の笑みになる。

「やはりそのドレスは貴女によく似合いますわね。まるで小さな女神様のようね」
「殿下に選んでいただいたおかげです」
「まぁ、お上手ね」

 オーレリア王女とのお茶会が始まる。ウィルさんは一応独身の貴族なので席を外し、代わりにラナさんがサポートに付いてくれた。騎士は王国と帝国から一人ずつ見張りに付いた。
 最初に紅茶が配膳されると聞いていたが、実際に配膳された飲み物の香りにテンションが上がる。
 リュヤさんが私たちのサイドに二つカップを置くと、オーレリア王女の一番年上の侍女とラナさんが毒見をする。これも先に聞いていたことだけど、王族っていろいろ大変だなと思う。
 侍女とラナさんがうなずくと、私とラジェの前にも極上の匂いの一杯が注がれる。

(やっぱりチョコレートの飲み物だ!)

 でも、ココアとは少し違う。シナモンのようなスパイスの香りが漂うこれは、前世で言うショコラトルだ。
 オーレリア王女が笑顔を向ける。

「これが我が国で飲まれるチョコレートです。さぁ、どうぞ」
「いただきます!」

 興奮を抑え、ゆっくりとカップを持ち上げ口をつける。
 芳醇で深みがある。でも……もう少し砂糖が欲しい!
 これはチョコレートと呼ばれているけど、前世ならカカオ豆を磨り潰して飲むショコラトルに似た飲み物だと思う。ショコラトルは苦い水という意味で、チョコレートの起源となる飲み物だ。これは正にその通りだ。
 オーレリア王女は満足気に飲んでいるので、ここではこの味が正解のようだ。別に不味いわけではないけど、ココアを期待していたので少しだけ驚いただけだ。チョコレート関係ならなんでもウエルカムだ。
少し苦いけど分かる、、これは最高級のカカオだ。
 爺さんのマナー講座を思い出す。

『出された飲み物は最後まできちんと飲むこと。美味しいからと飲み過ぎてはすぐにトイレに行きたくなるから、お主は特に気を付けるのじゃ』

 言われた時は、もうそんな子供じゃないからと思ったけど……これはチビチビと飲んでいこう。もう一口飲みオーレリア王女に笑顔を向ける。

「香りがいいです!」
「いつもの作り方で出しましたけど、子供たちにはもう少し砂糖を入れてあげてちょうだい」

 オーレリア王女がそう言うと、私とラジェのカップに砂糖が追加される。

(よし! やったね!)

 隣を見れば、ラジェのカップはすでに半分程になっていた。ラジェは砂糖控えめでも好きな味だったようだ。
 ゴクリと大きな一口を飲む。

「ああ、美味しい……」

 砂糖を入れたチョコレートは最高だ。世の中の問題はすべて砂糖で解決する! うん!
 それからオーレリア王女がチョコレートについて説明を始めた。説明によると、カカオのような実が発見されたのはさほど前ではないようだ。だから、まだ改良が進んでいないようだ。 
 うなずきながら興味深くオーレリア王女の話を聞いていたら、なんだか急に眠気がした。

(昨日、十分に寝られなかったのかな? そんなことないと思うけど……こんなところで寝てしまったら爺さん鬼に叱られてしまう……)

 必死に目を開けていると、オーレリア王女の後ろに立っていた侍女が地面に倒れてしまう。

「ばあや!」

 オーレリア王女が声を上げ立ち上がったが、すぐに膝をついて倒れてしまう。肩にぐいっと重さを感じると、ラジェが気を失ってのしかかってきた。
 これって……いったい……急いでラジェにヒールを掛けようとしたが、その前に瞼が閉じてしまう。
 瞼が閉じる瞬間、リュヤさんの声が聞こえる。

「この子たちには可哀想だけど、これは必要不可欠な犠牲よ」
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