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本編
茜色に染まる中
足下を見れば、ふんわり浮かぶ巨大なクッションのような雲の上に立っていた。
目の前にラジェを発見する。
「ラジェ!」
雲の上で汚れたまま倒れていたラジェに駆け寄り、急いでヒールとクリーンを掛けるが……ラジェは起きない。何度もヒールを掛け続けると、ラジェの身体からふわふわの綿菓子が溢れ出る。
どうして綿菓子が? あ、これは夢――
――ブォーン
身体に響く重低音で目を開く。
「ん……朝……?」
ボーッとした頭で目の前の知らない扉を見上げる。
(あれ? どうして床で寝ているんだろ……)
立ち上がろうとして、腕と足が縛られているのに気付く。
「え?」
完全に拘束されている……とりあえず、拘束を解こう。
風魔法で身体を起こし、縛られていた縄を切る。辺りを見回しながら眉間に皺を寄せる。
「えーと……ここはどこ?」
木製の壁で覆われた狭く古い部屋は、家具が一つもない部屋だけど……埃一つない。
手首を見れば、きつく縛られていたせいで充血している。手首以外はどこも怪我していないし、汚れてもいない。もしかして、眠ったままクリーンとヒールを連発した? なんかそんな夢を見たような……
ヒールを全身に掛けると、頭がすっきりする。
「最後に覚えているのはお茶会――」
そうだ、私はお茶会に参加していたんだ。振る舞われたチョコレートを飲んで眠くなった辺りで記憶は途切れている……お茶会にはラジェもいて――あ! ラジェはどこ!
「ラジェ!」
ラジェの名前を呼ぶが、狭い部屋で私の声が響くだけだった。
「どうしよう……」
(と、とにかく落ち着こう)
深呼吸をしていると、足元がぐらりと揺れた。え? この感覚……もしかして、ここって船の中?
急いで風魔法で浮遊し、壁に小さな穴を空けて外を覗く。
「海だ……」
皮肉にも海面に映る夕陽が綺麗だった。ここは船の中で間違いない。
小さな穴越しに広がる海を呆然と見渡しながら、背中にジワリと冷たい汗が浮かんだ。
(どうしてこんなことに……)
記憶が途切れる直前、リュヤさんが初めて耳にするどこかの言葉で口にした内容を思い出す。
――この子たちには可哀想だけど、これは必要不可欠な犠牲よ。
しばらく眉間に皺を寄せ、頭をフル回転させながら状況を整理した結果、答えに達した。
「完全に巻き込まれ被害だよ……」
これは拉致だ。目的は、オーレリア王女だと思う。私とラジェはそれに巻き込まれたのだと思う。
犯人にとってラジェと私はただの平民のはずだけど……途中で私たちをどうにかする時間がなかった……?
「海にポイポイとかされなくてよかった」
この船にオーレリア王女もラジェも乗っているのだろうか?
首元を触れば、爺さんから貰ったネックレスが魔力満タンのままだった。乱暴には扱われなかったようだ。
「それは一安心だけど……」
犯人はオーレリア王女の侍女であるリュヤさん。あの場には、双方の国の騎士も一人ずついたし、こんな大きな船まで逃走に用意している。
これはリュヤさんだけではなく、組織的に計画された拉致に間違いないと思う。
「でも、この船はどこに向かっているんだろう」
お茶会はちょうど正午の開催だった。夕陽が海に映っているということは……五時くらいだ。拉致されて五時間くらい経っている。
伯爵邸からコソコソと私たちを船まで運び、さらに出航時間を考える。商業ギルドで船の見学をした際に出航までは手間が多く、すぐに出航できないと言っていた。案外、船は出たばかりかもしれない。
あ、さっきの重低音は出発の合図だ!
それなら、そこまで離れてはいないはずだ……でも、外から確認しないとアジュールからどれくらい離れたか分からない。
「とにかくこの部屋から出よう!」
扉のドアノブに手を掛ける。予想はしていたけど外から鍵が掛かっている。
風魔法を使い飛びながら扉の隙間から鍵を確認する。大きなスライド錠の鍵が二つある。月光さんに教わったやり方を応用して、風魔法でゆっくり鍵を動かすと簡単に開いた。
扉から下に続く階段を降りると、大量の大型の箱が鎖に繋がれていた。どうやらここは船倉のようだ。
部屋から外に出たのはいいけどどうしよう……とにかくラジェを見つけないと。
船倉の入り口付近に近づくと男たちの声が聞こえた。
「ああ、今日からまた船の上の生活かぁ! 故郷まで二か月、ようやく帰れるのはいいが、また野郎どもに囲まれる日々かよ!」
「そうでもないだろ? 貴族の女が乗っているらしい。目つきは悪いが美人だぞ」
「馬鹿野郎。あの支払いのいい胡散臭い帝国の貴族の連れの女だろ。ろくな話じゃねぇだろ。下手に首を突っ込むと死ぬぞ。海に落とされたくねぇだろ」
「それは勘弁したいな」
男たちは豪快に笑うとどこかへと向かった。
目つきの悪い美人、リュヤさんの顔が浮かぶ。それならオーレリア王女もこの船に乗っているはずだ。
目の前にラジェを発見する。
「ラジェ!」
雲の上で汚れたまま倒れていたラジェに駆け寄り、急いでヒールとクリーンを掛けるが……ラジェは起きない。何度もヒールを掛け続けると、ラジェの身体からふわふわの綿菓子が溢れ出る。
どうして綿菓子が? あ、これは夢――
――ブォーン
身体に響く重低音で目を開く。
「ん……朝……?」
ボーッとした頭で目の前の知らない扉を見上げる。
(あれ? どうして床で寝ているんだろ……)
立ち上がろうとして、腕と足が縛られているのに気付く。
「え?」
完全に拘束されている……とりあえず、拘束を解こう。
風魔法で身体を起こし、縛られていた縄を切る。辺りを見回しながら眉間に皺を寄せる。
「えーと……ここはどこ?」
木製の壁で覆われた狭く古い部屋は、家具が一つもない部屋だけど……埃一つない。
手首を見れば、きつく縛られていたせいで充血している。手首以外はどこも怪我していないし、汚れてもいない。もしかして、眠ったままクリーンとヒールを連発した? なんかそんな夢を見たような……
ヒールを全身に掛けると、頭がすっきりする。
「最後に覚えているのはお茶会――」
そうだ、私はお茶会に参加していたんだ。振る舞われたチョコレートを飲んで眠くなった辺りで記憶は途切れている……お茶会にはラジェもいて――あ! ラジェはどこ!
「ラジェ!」
ラジェの名前を呼ぶが、狭い部屋で私の声が響くだけだった。
「どうしよう……」
(と、とにかく落ち着こう)
深呼吸をしていると、足元がぐらりと揺れた。え? この感覚……もしかして、ここって船の中?
急いで風魔法で浮遊し、壁に小さな穴を空けて外を覗く。
「海だ……」
皮肉にも海面に映る夕陽が綺麗だった。ここは船の中で間違いない。
小さな穴越しに広がる海を呆然と見渡しながら、背中にジワリと冷たい汗が浮かんだ。
(どうしてこんなことに……)
記憶が途切れる直前、リュヤさんが初めて耳にするどこかの言葉で口にした内容を思い出す。
――この子たちには可哀想だけど、これは必要不可欠な犠牲よ。
しばらく眉間に皺を寄せ、頭をフル回転させながら状況を整理した結果、答えに達した。
「完全に巻き込まれ被害だよ……」
これは拉致だ。目的は、オーレリア王女だと思う。私とラジェはそれに巻き込まれたのだと思う。
犯人にとってラジェと私はただの平民のはずだけど……途中で私たちをどうにかする時間がなかった……?
「海にポイポイとかされなくてよかった」
この船にオーレリア王女もラジェも乗っているのだろうか?
首元を触れば、爺さんから貰ったネックレスが魔力満タンのままだった。乱暴には扱われなかったようだ。
「それは一安心だけど……」
犯人はオーレリア王女の侍女であるリュヤさん。あの場には、双方の国の騎士も一人ずついたし、こんな大きな船まで逃走に用意している。
これはリュヤさんだけではなく、組織的に計画された拉致に間違いないと思う。
「でも、この船はどこに向かっているんだろう」
お茶会はちょうど正午の開催だった。夕陽が海に映っているということは……五時くらいだ。拉致されて五時間くらい経っている。
伯爵邸からコソコソと私たちを船まで運び、さらに出航時間を考える。商業ギルドで船の見学をした際に出航までは手間が多く、すぐに出航できないと言っていた。案外、船は出たばかりかもしれない。
あ、さっきの重低音は出発の合図だ!
それなら、そこまで離れてはいないはずだ……でも、外から確認しないとアジュールからどれくらい離れたか分からない。
「とにかくこの部屋から出よう!」
扉のドアノブに手を掛ける。予想はしていたけど外から鍵が掛かっている。
風魔法を使い飛びながら扉の隙間から鍵を確認する。大きなスライド錠の鍵が二つある。月光さんに教わったやり方を応用して、風魔法でゆっくり鍵を動かすと簡単に開いた。
扉から下に続く階段を降りると、大量の大型の箱が鎖に繋がれていた。どうやらここは船倉のようだ。
部屋から外に出たのはいいけどどうしよう……とにかくラジェを見つけないと。
船倉の入り口付近に近づくと男たちの声が聞こえた。
「ああ、今日からまた船の上の生活かぁ! 故郷まで二か月、ようやく帰れるのはいいが、また野郎どもに囲まれる日々かよ!」
「そうでもないだろ? 貴族の女が乗っているらしい。目つきは悪いが美人だぞ」
「馬鹿野郎。あの支払いのいい胡散臭い帝国の貴族の連れの女だろ。ろくな話じゃねぇだろ。下手に首を突っ込むと死ぬぞ。海に落とされたくねぇだろ」
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