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本編
天草と茶わん蒸し
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炊いているのは天草だ。今回は砂浜で自然乾燥していた天草と、魔法で乾燥させた天草を調理している。
両方に酢を加え、強火で炊いた天草の鍋の中にブクブク泡が立つ。火を弱め十分ほど煮込むと、双方にとろみが付いてきた。ここまでの二つの違いは特にない。
「ここからさらに二、三十分ほど煮込めば、ドロドロになってくると思います」
「これで、この海藻が美味しくなるのですか?」
「使うのは海藻ではなく、液のほうです」
「汁のほうを……? どのようなものができるか想像ができない」
エルさんは天草については、半信半疑のようだ。考えてみれば、その辺の浜辺に落ちていた草を酢で煮込んだら美味しい物ができる、などと言われてもピンとはこないだろう。
天草の煮上がりを待つ間、許可を取り台所の氷室の確認をする。昨日、エルさんが氷を補給して綺麗に掃除してくれた。
猫亭のものよりも小型な箱型の氷室だけど、まだそんなに物は入っていない。ところてんを冷やすには十分のスペースだ。
氷室の中にある、水に浸けてあった貝が目に入った。
「これは大きな貝ですね」
「はい。アジュールで採れる貝ですが、大きいのに濃厚な味です」
貝を一つ手に取ってみると、ハマグリのような形の貝だった。一つが子供の手の平くらいの大きさだ。
ペーパーダミー商会のモチーフもハマグリなので、なんだか嬉しくて小さく笑う。
この貝に特に名前はないという。濃厚なので、スープなどにも入れるという。出汁にも使え――あ! 出汁に使える。これなら、ウニを使ったアレが出来そうだ。
「あの、この貝を使ってもいいですか?」
「今晩の料理につかう予定でした。ですが、後でパスタを作るのだと聞いて、貝の使い道にちょうど困っていたところでした」
貝を使う許可が下りたので、早速、ハマグリで煮汁を作る。ラッキーなことに、砂抜きはもう済んでいる。
爺さんが飲み残した白ワインのボトルの残りと水を小鍋に入れ、貝を投下する。綺麗なフキンで煮汁を濾し、貝の剥き身を入れれば西洋風の煮汁の完成だ。
軽く味見をして、目を見開く。
「濃い!」
これは少し調整が必要かもしれない。この出汁を使って作ろうと思っているのは、ウニの茶わん蒸しだ。卵もちょうどあるので、使わせてもらう。もちろん後で買い出しに行った時に使った物は買ってくる予定だ。
使う材料は、先ほど作った出汁、卵、それからウニだ。
天草の鍋を軽く回しながらエルさんが言う。
「お嬢様、片方の鍋は少しドロドロになってきている」
「本当だ」
魔法乾燥した天草の方が早くドロドロになってきた、この調子なら後十分くらいで出来ると思う。自然乾燥していた天草はまだそこまでドロドロとはなっていない。状態によってドロドロになる時間が前後するようだ。その後に使う用途に影響が出なければ、誤差だ。
エルさんが鍋を見ている間、ウニをいくつか掃除して準備をする。エルさんの目を盗んで風魔法を使いながら、貝の出汁と溶き卵を素早くかき混ぜてから濾す。その中に濾したウニも加える。
小さな陶器の容器に流し込んだら、後は蒸すだけだ。蓋はなかったので小皿を上に乗せた。
天草の鍋を確認すると、双方の鍋とも中がドロドロの状態だった。火を止め、エルさん濾してもらう。
今日は濾す作業ばっかりだね。
出来上がった天草の液を容器に流し込む、やり方があって入れば二、三十分で固まってくるはずだ。
「お嬢様、残った海藻は捨てますか?」
「あ、まとめてもう一度少なめで水を入れるとまたドロドロの液ができますので」
せっかくみんなで拾ってきた海藻だ。最後まで絞り取らないと!
別の鍋に水を入れ沸騰させると、茶わん蒸しの元が入った容器を並べ蒸した。
茶わん蒸しを待つ間、エルさんに尋ねる。
「こうやって蒸す料理もアジュールにあったりしますか?」
「うーむ。魚や野菜なら――あ、ある。エビや貝を野菜をエールで蒸した料理が」
エビ、貝、トウモロコシに芋などをエールで蒸して、特製のソースと絡めて食べる料理を提供している店があるという。聞けば、以前も行った市場の奥にその店はあるという。そんな美味しそうな店を見逃していただなんて! これはぜひ、爺さんにおねだりして連れて行ってもらおう!
そんな話をしていたら、茶わん蒸しができる。
椅子に登り、鍋掴みようの手袋をはめ、鍋の中から茶わん蒸しをひとつずつ取り出す。隣にいるエルさんは、私が怪我しないかとハラハラしているけど……大丈夫です! 魔法で調整しているから。
蓋の小皿を取り、ニマニマ笑う。
「最高の出来!」
後は味が美味しければ百点満点の料理だ。
残しておいたウニを茶わん蒸しの上に乗せ、スプーンで掬いフーフーしてから口に入れる。
「はぁ、至極……」
フワっとした食感と出汁の際立つ香り。天に昇る至極のウニプリンだ。
茶碗蒸しの美味しさにうっとりしてしまう。これは満点の出来だ。
エルさんは一口茶わん蒸しを食べ『んふ』という、聞いたこともない声を出した。
「申し訳ない。あまりに濃厚かつ美味で……つい声が出てしまいました」
「美味しいから仕方ないですよ。熱い内にお祖父ちゃんにも食べてもらいましょう!」
ドヤ顔で爺さんに茶わん蒸しを持っていく。
「家にあるものだけで……これを作ったのか?」
「はい。熱々が一番おいしいので早く食べてください!」
茶碗蒸しをスプーンでつんつんしていた爺さんを急かす。
爺さんは茶わん蒸しを一口食べると、流れ作業のように一気にすべてを口に運び完食した。
「いかがでしたか?」
「やはり、お主は爆弾だ」
爺さんはそれだけ言うと、茶わん蒸しのお代わりを要求してきた……。
両方に酢を加え、強火で炊いた天草の鍋の中にブクブク泡が立つ。火を弱め十分ほど煮込むと、双方にとろみが付いてきた。ここまでの二つの違いは特にない。
「ここからさらに二、三十分ほど煮込めば、ドロドロになってくると思います」
「これで、この海藻が美味しくなるのですか?」
「使うのは海藻ではなく、液のほうです」
「汁のほうを……? どのようなものができるか想像ができない」
エルさんは天草については、半信半疑のようだ。考えてみれば、その辺の浜辺に落ちていた草を酢で煮込んだら美味しい物ができる、などと言われてもピンとはこないだろう。
天草の煮上がりを待つ間、許可を取り台所の氷室の確認をする。昨日、エルさんが氷を補給して綺麗に掃除してくれた。
猫亭のものよりも小型な箱型の氷室だけど、まだそんなに物は入っていない。ところてんを冷やすには十分のスペースだ。
氷室の中にある、水に浸けてあった貝が目に入った。
「これは大きな貝ですね」
「はい。アジュールで採れる貝ですが、大きいのに濃厚な味です」
貝を一つ手に取ってみると、ハマグリのような形の貝だった。一つが子供の手の平くらいの大きさだ。
ペーパーダミー商会のモチーフもハマグリなので、なんだか嬉しくて小さく笑う。
この貝に特に名前はないという。濃厚なので、スープなどにも入れるという。出汁にも使え――あ! 出汁に使える。これなら、ウニを使ったアレが出来そうだ。
「あの、この貝を使ってもいいですか?」
「今晩の料理につかう予定でした。ですが、後でパスタを作るのだと聞いて、貝の使い道にちょうど困っていたところでした」
貝を使う許可が下りたので、早速、ハマグリで煮汁を作る。ラッキーなことに、砂抜きはもう済んでいる。
爺さんが飲み残した白ワインのボトルの残りと水を小鍋に入れ、貝を投下する。綺麗なフキンで煮汁を濾し、貝の剥き身を入れれば西洋風の煮汁の完成だ。
軽く味見をして、目を見開く。
「濃い!」
これは少し調整が必要かもしれない。この出汁を使って作ろうと思っているのは、ウニの茶わん蒸しだ。卵もちょうどあるので、使わせてもらう。もちろん後で買い出しに行った時に使った物は買ってくる予定だ。
使う材料は、先ほど作った出汁、卵、それからウニだ。
天草の鍋を軽く回しながらエルさんが言う。
「お嬢様、片方の鍋は少しドロドロになってきている」
「本当だ」
魔法乾燥した天草の方が早くドロドロになってきた、この調子なら後十分くらいで出来ると思う。自然乾燥していた天草はまだそこまでドロドロとはなっていない。状態によってドロドロになる時間が前後するようだ。その後に使う用途に影響が出なければ、誤差だ。
エルさんが鍋を見ている間、ウニをいくつか掃除して準備をする。エルさんの目を盗んで風魔法を使いながら、貝の出汁と溶き卵を素早くかき混ぜてから濾す。その中に濾したウニも加える。
小さな陶器の容器に流し込んだら、後は蒸すだけだ。蓋はなかったので小皿を上に乗せた。
天草の鍋を確認すると、双方の鍋とも中がドロドロの状態だった。火を止め、エルさん濾してもらう。
今日は濾す作業ばっかりだね。
出来上がった天草の液を容器に流し込む、やり方があって入れば二、三十分で固まってくるはずだ。
「お嬢様、残った海藻は捨てますか?」
「あ、まとめてもう一度少なめで水を入れるとまたドロドロの液ができますので」
せっかくみんなで拾ってきた海藻だ。最後まで絞り取らないと!
別の鍋に水を入れ沸騰させると、茶わん蒸しの元が入った容器を並べ蒸した。
茶わん蒸しを待つ間、エルさんに尋ねる。
「こうやって蒸す料理もアジュールにあったりしますか?」
「うーむ。魚や野菜なら――あ、ある。エビや貝を野菜をエールで蒸した料理が」
エビ、貝、トウモロコシに芋などをエールで蒸して、特製のソースと絡めて食べる料理を提供している店があるという。聞けば、以前も行った市場の奥にその店はあるという。そんな美味しそうな店を見逃していただなんて! これはぜひ、爺さんにおねだりして連れて行ってもらおう!
そんな話をしていたら、茶わん蒸しができる。
椅子に登り、鍋掴みようの手袋をはめ、鍋の中から茶わん蒸しをひとつずつ取り出す。隣にいるエルさんは、私が怪我しないかとハラハラしているけど……大丈夫です! 魔法で調整しているから。
蓋の小皿を取り、ニマニマ笑う。
「最高の出来!」
後は味が美味しければ百点満点の料理だ。
残しておいたウニを茶わん蒸しの上に乗せ、スプーンで掬いフーフーしてから口に入れる。
「はぁ、至極……」
フワっとした食感と出汁の際立つ香り。天に昇る至極のウニプリンだ。
茶碗蒸しの美味しさにうっとりしてしまう。これは満点の出来だ。
エルさんは一口茶わん蒸しを食べ『んふ』という、聞いたこともない声を出した。
「申し訳ない。あまりに濃厚かつ美味で……つい声が出てしまいました」
「美味しいから仕方ないですよ。熱い内にお祖父ちゃんにも食べてもらいましょう!」
ドヤ顔で爺さんに茶わん蒸しを持っていく。
「家にあるものだけで……これを作ったのか?」
「はい。熱々が一番おいしいので早く食べてください!」
茶碗蒸しをスプーンでつんつんしていた爺さんを急かす。
爺さんは茶わん蒸しを一口食べると、流れ作業のように一気にすべてを口に運び完食した。
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