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本編
火の実
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天草を干す作業はひとまず終了した。
手で目を遮りながら空を確認する。雨は降らなさそうだ。
水に漬けた海辺ですでに乾燥していた天草、それから魔法で乾燥させた天草を別々に入れたボウルを持って台所へと戻る。すると、台所ではサリさんが食事の準備をしていた。お昼の献立は焼いた魚と野菜をパンで挟む、前世でいう魚サンドのようだ。
「美味しそうですね」
「これは魚パンといって、エンリケ様の大好物なんですよ。お嬢様の分もありますが、朝食が遅かったと聞きました」
普通の子供ならまだお腹は空いていないだろうけど……作業と魔法で体力を使ったので、それなりにお腹は空いている。
「食べてみたいです」
「では、お嬢様の分もすぐに作りますね」
私の魚パンを作ってもらう間、爺さんの食事を届ける。
爺さんは、私室とは別の執務室で何やら真剣に作業をしていた。執務室は、王都の別邸と同じでシンプル……というか机と椅子が二つしかない。机や椅子は上質そうだけど、非常に殺風景だ。
「昼食をお持ちしました」
「む。そんな時間なのか」
「机の上に置きますね」
「おお、魚パンか。久し振りだな」
目を輝かせながら爺さんが魚パンを頬張る。普通に美味しそうだ。
机の上の書類をチラ見すると、今後の輸入品の一覧と書いてあった。
「お仕事、忙しそうですね」
「うむ。明後日に一度アジュールの商業ギルドに行く予定だ。お主も来るか?」
「いいんですか?」
「せっかくだしの。それまでにハズレ針のレシピが登録できれば、ついでに登録をしよう」
爺さんが魚パンを食べながら言う。そんな食べる姿を凝視していたら、爺さんが食べるのを止めて尋ねる。
「なんじゃい、そんな顔で見て。お主の分はないのか?」
「今、作ってもらっています」
「そうか。これはこのレモンを絞り、少し辛めの実をつけて食べるとより美味い」
爺さんがトレーに載っていた茶色の粒を魚パンに塗る。爺さんのほくほく顔を見ていたら、お腹がクゥと鳴る。
「お嬢様、お待たせいたしました」
「わーい。ありがとうございます」
ナイスタイミングでサリさんが魚パンと果汁水を持って来てくれる。
さっそく魚パンを頬張る。
(ああ、これ、美味しい!)
魚は脂が乗った鯖のような味がした。お魚、最高すぎる。
私のトレーにはあの茶色の粒がない。爺さんのトレーに載る茶色の粒を見つめる。
「これはお主にはまだ早い」
「少しだけ試してみたいです」
「辛いぞ」
「少しだけ付けます」
「……いいだろう。本当に少しだけにしないと、泣いても知らないぞ」
数粒を魚パンに付けて食べてみる。あ、辛い。でも、これ、たぶん辛めのマスタードだ。あ、辛い。子供舌には早すぎた!
「辛いです!」
「だから早いと言っただろ。ほれ、果汁水を飲め」
果汁水を飲みながら、舌にヒールを掛ける。
「これはなんですか?」
「火の実と呼ばれておる。この地域では魚や肉料理と共によく出されておる。たっぷり塗るのが大人の味じゃ」
爺さんが高笑いしながら火の実を魚パンに追加する。塗りすぎじゃない?
「それ以上塗ったら辛くて食べられないと思います」
「そうか、そうか。子供はそうであるよな」
爺さんが魚パンにさらにべったりと火の実を塗ると、得意顔で私を見た。我慢比べの勝負ではないんだけど。
爺さんが魚パンを頬張ると、目を開け咳込む。
「どうやら、ギルド長にもまだ早かったようですね」
「お主……」
やせ我慢をしながら食べる爺さんの隣で、私も大きな口を開けて魚パンを食べた。
昼食後、爺さんは再び仕事に戻った。私はというと、エルさんと一緒に大きな鍋の中を見つめていた。
手で目を遮りながら空を確認する。雨は降らなさそうだ。
水に漬けた海辺ですでに乾燥していた天草、それから魔法で乾燥させた天草を別々に入れたボウルを持って台所へと戻る。すると、台所ではサリさんが食事の準備をしていた。お昼の献立は焼いた魚と野菜をパンで挟む、前世でいう魚サンドのようだ。
「美味しそうですね」
「これは魚パンといって、エンリケ様の大好物なんですよ。お嬢様の分もありますが、朝食が遅かったと聞きました」
普通の子供ならまだお腹は空いていないだろうけど……作業と魔法で体力を使ったので、それなりにお腹は空いている。
「食べてみたいです」
「では、お嬢様の分もすぐに作りますね」
私の魚パンを作ってもらう間、爺さんの食事を届ける。
爺さんは、私室とは別の執務室で何やら真剣に作業をしていた。執務室は、王都の別邸と同じでシンプル……というか机と椅子が二つしかない。机や椅子は上質そうだけど、非常に殺風景だ。
「昼食をお持ちしました」
「む。そんな時間なのか」
「机の上に置きますね」
「おお、魚パンか。久し振りだな」
目を輝かせながら爺さんが魚パンを頬張る。普通に美味しそうだ。
机の上の書類をチラ見すると、今後の輸入品の一覧と書いてあった。
「お仕事、忙しそうですね」
「うむ。明後日に一度アジュールの商業ギルドに行く予定だ。お主も来るか?」
「いいんですか?」
「せっかくだしの。それまでにハズレ針のレシピが登録できれば、ついでに登録をしよう」
爺さんが魚パンを食べながら言う。そんな食べる姿を凝視していたら、爺さんが食べるのを止めて尋ねる。
「なんじゃい、そんな顔で見て。お主の分はないのか?」
「今、作ってもらっています」
「そうか。これはこのレモンを絞り、少し辛めの実をつけて食べるとより美味い」
爺さんがトレーに載っていた茶色の粒を魚パンに塗る。爺さんのほくほく顔を見ていたら、お腹がクゥと鳴る。
「お嬢様、お待たせいたしました」
「わーい。ありがとうございます」
ナイスタイミングでサリさんが魚パンと果汁水を持って来てくれる。
さっそく魚パンを頬張る。
(ああ、これ、美味しい!)
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私のトレーにはあの茶色の粒がない。爺さんのトレーに載る茶色の粒を見つめる。
「これはお主にはまだ早い」
「少しだけ試してみたいです」
「辛いぞ」
「少しだけ付けます」
「……いいだろう。本当に少しだけにしないと、泣いても知らないぞ」
数粒を魚パンに付けて食べてみる。あ、辛い。でも、これ、たぶん辛めのマスタードだ。あ、辛い。子供舌には早すぎた!
「辛いです!」
「だから早いと言っただろ。ほれ、果汁水を飲め」
果汁水を飲みながら、舌にヒールを掛ける。
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爺さんが高笑いしながら火の実を魚パンに追加する。塗りすぎじゃない?
「それ以上塗ったら辛くて食べられないと思います」
「そうか、そうか。子供はそうであるよな」
爺さんが魚パンにさらにべったりと火の実を塗ると、得意顔で私を見た。我慢比べの勝負ではないんだけど。
爺さんが魚パンを頬張ると、目を開け咳込む。
「どうやら、ギルド長にもまだ早かったようですね」
「お主……」
やせ我慢をしながら食べる爺さんの隣で、私も大きな口を開けて魚パンを食べた。
昼食後、爺さんは再び仕事に戻った。私はというと、エルさんと一緒に大きな鍋の中を見つめていた。
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