勇者のフリして異世界へ? 〜この世界は勇者インフレみたいです〜

あおいー整備兵

文字の大きさ
58 / 124

58話 が、頑張ってくださいね! 義雄様

しおりを挟む

 203高地マテリアル採掘基地。念のためにマテリアルの上には踏み入らず、少し離れた所から様子を伺う俺たち。メンバーは俺、エイブル、グリセンティ、ノボリトに案内のアケノの五人。まずは偵察という事で動きの取りやすい少人数での構成だ。
 ひよこはルイスに預けてきた。子供に夜更かしはさせれないもんな。グズらないのかって? うちの子は聞き分けが良いのだよ。面倒を見るお姉さんも大勢いるし、そこは安心さね。

 建築資材の陰に身を潜ませ時が来るのを待つ俺たち。やがて日が落ち、辺りは夕闇に包まれる。夜空に満点の星々が瞬き始めた頃。

「出るぞ」

 アケノが短く呟くと、それに合わせるように各々がMP40を構える。弾種は火魔法弾。前もってアケノから危険はないとは聞いているが用心に越した事はない。なんせアンデッド戦は本来なら神聖魔法一択、普通はさっさと神殿に駆け込むのが常識だそうだ。ただしソルティアの常識なんだよな。


「義雄様、あれ……」
「なんだ……これは?」

 俺達の目に映ったのは想像を絶する光景だった。ゴーレム戦を経て、かなりの実力と胆力をつけたはずのエイブル達ですら言葉を失い、ただその場に立ち尽くすしかなかった。

 203高地にゆらゆらと湧き上がる亡者の群れ。203高地の中腹を帯状にぐるりと覆いつくすかのように無数の亡者が立ち尽くす。おそらくそこが彼ら、彼女らの終焉の地なのだろう。男、女、老人、子供、農民、商人、貴族、騎士、様々な時代のものだろう意匠の異なる服装の亡者。その表情はその最後の一瞬を焼き付けたように騎士は剣を支えに天を睨み、母親は我が子を抱きしめる。

 彼らに俺たちは見えていないのだろうか、襲ってくる気配は無い。その為だろうか、これだけの数の亡霊を目の当たりにしているにもかかわらず恐怖感はない。ただあるのは寂寥感だ。衣擦れの音も、嘆きの声も無く、ただ目の前に繰り広げられる死の記憶。

「熱源……感知できません。ここにいるのは皆、亡者です」
 赤外線暗視装置をつけたノボリトが小さく呟く。
 
 一人二人では無い。数万人の犠牲者の霊が、一斉に目覚めたのだ。あまりの事に頭の中が真っ白になってしまい、なにも思い浮かばない。かろうじて出せた指示はたった一つ。

「撤収する」

 返事はなかった。ただ無言で転送ポータルへと向かうメイド達。全員がレィネラへ引き上げたのを見届けて俺はもう一度、203高地を振り返る。

「くそ……!」

 吐き捨てるように出た悪態は理不尽な死への怒りだろうか、何もできない無力な自分への怒りだろうか。



 カレーの勇者さまレィネラ店二階。撤収の後、俺は部屋に主だったものを集め、今後の対策を話し合うことにした。

「まずは状況を理解したい。皆答えられること、考えられる事を言ってくれ」

「アレは……やはり、203高地の、ゴーレムの犠牲者なのか?」
「おそらくそうでしょう。身なりとかを見ますと犠牲者は古いものは1000年以上前、ファドリシア建国時代に遡る者もいるようです」

「一体、どれくらいの……犠牲者がいるんだ?」
「正確な人数は分かりません。なにせ、足を踏み入れて30分経過でゴーレムが起動、対象を飽和攻撃というエゲツないやり方で生存者を出さなかったのですから、把握のしようがありません」
「ファドリシア側の犠牲者にレィネラ側の犠牲者……」

1000年……1年に10人が犠牲になれば一万人。そんな数じゃない。二万? 三万?

「なんで今頃現れたと思う?」

 挙手とともにノボリトが立ち上がる。

「わ、私の考えとしては、ゴーレム起動用の魔力の供給が絶たれたせいではないかと思います。犠牲者を覆っていたマテリアルから魔力が失われ、それまで魔力、もしくはゴーレムによって押さえ込まれていたのが一気に解放されたせいかと」
「そうね。ゴーレム掃討中は誰も亡霊を見ていない。時系列で考えてもアレの出現は203高地の魔力が途切れてからと見るべきよね」

「203高地を覆っていた魔力が封印の役割をしていたという訳か、でもさ、なんで1000年も封じ込める事が出来たんだ? なぜ悪霊化しなかった?」
「……」
「その、あの土地は呪われたとか言われる割に、こう、なんというか邪気みたいなものを一切感じなかったんですよ」

 サイガが獣人ならではの直観的な感想を口にすると、その手のカンの鋭いメイド達もうんうんとうなずく。ただ、問いに対する明確な答えは誰も持ち合わせていない。おそらく俺が答えに一番近いところにいる気がする。

「最後に。あの亡者の群れはほっといていいものなのか?」
「!!」

 皆が黙り込む。あんまり楽観的なビジョンが見えてこないのだろう。俺もそうだ。今、203高地には無数の亡者が今は、あの地の呪縛に囚われている。俺の言葉で言えば成仏してないのだ。

「いずれにせよ、放っておけば悪霊化します。それは彼らの意思ではなく、流れ着いた悪霊がいればその悪意が爆発的に感染します。それらの憎悪はやがて生きる者に向けられます」
「アンデッドのパンデミックか、しかもあの数だ。ただでは済まないよな?」
「国家災害級です。国の一つ二つが一夜で滅ぶ。そんな神話が再現されます。その矛先は……」
「隣接するファドリシア、レィネラか」

 皆の顔がこわばる。そりゃそうだ。魔王どころの騒ぎではない。下手をすればファドリシアが、この世界が死者に呑み込まれる。

「有効な対策法あるか?」
「ソルティアならば神聖魔法で対抗出来るかも知れません。我々が使える手段となると……」
 それ以上の言葉をナカノは持たなかった。

「大丈夫です」

 力強い言葉に、皆の視線が集まる。その先には、ひよこの様子を見に行っていたエイブルの姿があった。

「……根拠は?」

 あまりに無責任だろう? 世界が滅ぶかもって状況での言葉の軽さに、流石に不快感を抑える事が出来ず、俺の声のトーンも、低くなる。

「それは勿論、義雄様ですから」
「へっ?」

 臆する事無く、笑顔で返すエイブルさん。シレッと言ってくれるよ。俺に対する絶対の信頼を、疑うこともなく、真っ正面からぶつけてきた。まるで俺が勇者みたいじゃないか。
 そんなやりとりを見させられたメイド隊からは固さが消え、苦笑いを浮かべる余裕すら戻っている。

「仕方がないな、なんとかするさ。みんな、手伝ってくれよな」
「ええ、いつもの事です」



とは言ったものの……

「どうすべえ……」

 宿舎として用意されたマドセン商会の一室。窓辺に立ち、夜更けの街並みをただまんじりともせずに眺めていると、扉がノックされた。

「義雄様、もうお休みですか?」
「いや、起きてるよ」
「あの……お邪魔してもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。どうぞ」

  辺りに気を遣うように静かに入ってくるエイブルさん。いや、その。ドキドキするのよ。わかっちゃいるけどさ。
 街を眺める俺の横に並ぶように立つエイブルさん。

「先程は煽るようなこと言って申し訳ございません」

 やっぱ、そっちですよね~ ドキドキしてすいません。

「ソルティア教なら神聖魔法があります。マドセン様を通じて……」
「それは、ダメだ。彼らをあんな目に合わせたのはおそらくソルティアだ。奴らの手を借りるのは本当に彼らを成仏させることになるとは思えない」

 何より、203高地に連中を近づけたくない。ひよこの事とか知られたくないことが多いしなあ。もっともソルティア教の人間があそこに近づくとも思えないけど。

「あの~、【成仏】ってなんですか?」

 聞きなれない言葉なのだろう、エイブルさんが首を傾げて質問してきた。そりゃそうだ。普通に言ってるけど成仏って向こうの世界の言葉だもんな。

「成仏てのは俺のいた世界の言葉で魂を慰めて、あるべきところの送る事だよ……んん?」

 そうか!! 俺は何を考えているんだ。なんだかこの世界の常識に囚われていたな。この世界を救うために俺は送られてきた。なら俺は、俺の思う事をやればいいんじゃないか? 一番したいことをすればいいんだ。

「エイブル。ありがとう! やることが決まった」
「え? いえ私は何も」
「明日から準備だ! みんなに頑張ってもらう。ファドリシア王にも手伝ってもらうぞ!」
「わかりました。そちらはお任せを」
「うん。よろしく頼む」
「あと……」
「ん?」

 ふりかえった俺の唇に重なる柔らかな感触。

「が、頑張ってくださいね! 義雄様」

 ええええええええええええっ!?

 そそくさと部屋を出るエイブルさんの猫耳がふるふると震えているのが見えた。

 こ、これはご褒美? ご褒美の前渡しですか!?
しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】 自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】 普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます) 【まじめなあらすじ】  主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、 「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」  転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。  魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。  友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、 「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」 「「「違う、そうじゃない!!」」」  これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。 ※他サイトにも投稿中 ※旧タイトル 病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

処理中です...