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第57話 あ、グッズは全部ください
しおりを挟む「準備!」とヴィラ-ル。
「完了!」とペロサ。
「わああああああああああ-!!」×全員
店内に湧き上がる歓声と拍手。
レィネラに来て二日目。ファドリシア本店のノウハウがあるとはいえ驚異的なスピ-ドで開店にこぎつけたわけだが、転送ポ-タルの効果は大きいよな。
「本日は義雄様の案内は私がしますね」
グリセンティが開店の総責任者になったそうで、今日の案内も彼女が付いて説明してくれる。マドセン商会とのコネクションとかうちの作戦担当が適任だな。料理関係だから双子かなとも思ったけど、双子は絶対なんかやらかしそうだよな、最悪店をつぶしかねない
「義雄様?」
「何?」
双子が俺の視線に感づいたのかこっちを見て首をかしげてる。鋭いなw 俺は双子をスル-してグリセンティと話を続けた。
「すごいな。こんなに早いとは思わなかった」
「一応、調理施設関連は大霊廟で作って転送ポ-タルで持ってきました。ただし、カレ-ル-はファドリシアで作ったル-を持ち込んでこちらでは温めておいたものをお出しします」
「なるほど!」
カレ-って、ちまちま作らずに大鍋でつくるもんな。設備の整った大霊廟で調理すれば、こっちでは調理の必要がないわけだ。しかもカレ-ってたくさん作れば作るほどうまい。これほどチェ-ン店にふさわしい料理はないな。
「しばらくは運営責任者をメイド隊から一名派遣して、接客や簡単な調理は現地採用した者に任せます」
「その、秘密とか大丈夫か? 転送ポ-タルとか」
「問題ありません。転送ポ-タルは別の部屋に設置してあります。ルーは開店前に現地スタッフが出勤前に持ち込みます。スタッフに関してもメイド隊のリクル-トと203高地への移住者の選定も絡めますので将来を見据えた人選を進めます」
先の先まで考えてるとか、本当にうちのメイドさんは優秀だよなあ……
「なお、イメージキャラクターを採用し、お店のイメ-ジアップを図ります!」
「イメ-ジキャラクター?」
「はい! ではお願いします!」
「は~い♪」
なんと!!
グリセンティの呼びかけに奥の部屋から出てきたのはひよこだった! 俺の前に駆け寄るとふわりと一回転。ミニメイド服をピンクストライプの柄にし、白いエプロンを付けた姿はマジ天使! ひよこかわいいよ! ひよこ!
「どうですか? 将来的にはポイント制度を導入しひよこちゃんグッズを貯めたポイント数でプレゼントします!」
「グリセンティ……お前、天才か!」
「ちなみに、メニュ-はカレ-とひよこちゃん監修のひよこサラダとひよこスイ-ツです!」
「とりあえず、ひよこシリ-ズを食わせろ!!」
グリセンティ……恐ろしい子!
「このデザインを制服として店舗スタッフに着せます。色は黄色のストライプで、ピンクはひよこちゃんのオリジナルカラ-です」
「もう、全てグリさんにお任せします。あ、グッズは全部ください」
☆
「では開店しま-す!!」
「ひよこちゃん、お願いね」
「は~い♪」
皆の見守る中、とことこっと駆け出し、店の前に立つひよこ。その姿に通りを行きかう人々が思わず足を止める。
「カレ-のおみせ、『カレ-のゆうしゃさまっ』おーぷんです! みなさまたべてくだしゃ……さいっ!」
噛んだー!!
ひよこのエリアエフェクトの萌え攻撃の直撃を受け、スタッフ全員が癒され、自然に笑顔が溢れる。さらに耳まで赤くなってもじもじするひよこの姿が追加効果を生み出す!
直撃を食らった通行人がふらふらと引き込まれるように店内に入るや、とどめのメイド隊による「いらっしゃいませ♪」の飽和攻撃。とどめの双子の誇るカレーの味に衝撃を受けた客はほぼKO状態で店を後にする。どーよこのコンボ! 俺たちが大成功を確信した時だ。
「主を呼べいっ!!」
開店から大盛況の店内に唐突に男の怒声が響き渡る。
「受けて」とヴィラール。
「立つ!」とペロサ。
べたなセリフがヴィラールとペロサの琴線に触れたのか、今にもホールに乗り込もうとするのをグリセンティが制する。
「問題ありません。想定内です」
余裕の表情でホールへ向かうグリセンティ。俺たちはバックヤードから事の成り行きを見守るべくホールを覗くと、店の入り口にはいかにも小役人風な小太りの中年男が部下を引き連れて立ちふさがっていた。ひよこは既にエイブルが抱き上げて安全圏にいる。ナイスアシスト!
「いらっしゃいませ。どのような御用でしょうか?」
飛び切りの笑顔で応対するグリセンティに小役人が突っかかる。
「ああん? 貴様が責任者か? 営業許可はどうした? なぜ私のところに話を通さずに店を出した!!」
「はい。何か問題がございますでしょうか?」
「大ありだ!ここで商売を続けたいならわかっているであろう?」
うわー、スゲーな。こんなベタな展開あるんだ! おそらくこの手合いはこの手口でいろんな商店から小金を稼いでいるんだろうな。
ひとしきり感心している俺の横でマドセンさんがものすごい形相で小役人をにらみつけている。
「すでにこの国の官僚への根回しは済んでおります。おそらく余りに時間が短かったため下にまで通達が届いていないのでしょう。とはいえ、こ、木っ端役人がグ、グリセンティ様にあのような物言いを……」
あれ? グリセンティ『様』?
「会頭、いかがいたしましょう?」
マドセンさんに耳打ちするのはここの支店長さんだが、なんでしょうマドセン商会から手伝いに来た人たちから殺気が俺でも分かるくらいだだもれなんですが。
なんだろう、色々後でグリセンティから聞きたいけど……
「義雄様、乙女には色々ヒミツがあるのですよ。マドセン様、ご自重を。あの子に任せておけば問題ありません」
おおう、エイブルさんいつの間に。空気の読みっぷりが既にチートだよ。俺たちが固唾をのんで見守る中、グリセンティが動いた!
「えっ?」
軽くこぶしを握ったグリセンティがスッと腰を沈めた直後、一瞬で間合いが詰められ、拳がえぐりこむように小役人の腹に打ち込まれる。
「ぐふぇええええええええ!?」
ものすごい勢いで通りの中ほどまで吹き飛ばされる小役人。グリセンティは動きを止めることなく、相手に状況を理解する間も与えずに小役人の背後にいた部下をも次々と吹き飛ばす。
「わ、私にこのような真似をしてただで済むと……」
吹き飛ばされた小役人が腹を抱えながらグリセンティを睨む。かろうじて意識を保てた? いや違う! グリセンティは小役人の言葉が終わらぬうちに再び間合いをつめると、意識を飛ばさない程度にコントロールした打撃を演武のように、あえて顔と急所を外して打ち込んでいた!
「えぐいな。意識を刈り取られない分、苦痛から逃れる事も抵抗することも出来ず蹂躙され続けるのかよ」
「うう、グリセンティ様、ご立派になられて……」
「ええ!?」
いや、マドセンさん? そこ感動するところですか?
「正解です。さすがうちの作戦参謀です」
「ええええええっ!?」
正解? これまるっきり脳筋の答えでしょ?
グリセンティの動きの流麗さに、尋常じゃない暴力の嵐にも拘らず魅了される観衆。
やがて、舞い終えたかのようにグリセンティは動きを止めると、心をへし折られ、ただ怯えるだけの小役人の前に立つ。
「ご理解いただけましたか? 不服がおありなら上に訴えていただいても結構ですよ。いずれにせよ答えは同じです」
グリセンティの言葉にただただうなずくだけの小役人。既に意識を取り戻し傍観するしかなかった部下たちが小役人を抱え場を離れようとするのを呼び止めるグリセンティ。
「私の目が届くところで同じ様な事をされるようでしたら、今後は代わりに私がお答えしますね」
「~!!」
声にならない悲鳴をあげ、転がるように逃げ出す背中に向かって丁寧に頭を下げるグリセンティ。同時に周囲の商店主たちから割れんばかりの拍手がまきおこった。
どうやら、あの小役人はここら辺の商店主からかなり嫌われていたようだな。まあ、あれだけコテンパンにされれば、多分二度と見ることはないんだろうな。
☆
レィネラに来て5日目、カレーの勇者さまレィネラ店も軌道に乗り、俺たちもそろそろ王都に戻ろうかと考えていた矢先、突然、アケノがやって来た。その表情は硬く、事の深刻さが伝わってくる。
「203高地に来てくれって、どうゆう事です?」
「その、なんだ……203高地で、ワシらの手に負えない事が起こっておるのじゃ。ワシらは本格的にマテリアルの採掘を進めるための拠点作りを進めていたんだが……どっかで落ち着いて話せないかのう?」
「じゃあ二階の事務所で聞きましょう。すまないエイブル。ナカノとグリセンティ、あとベイカーにも来るように伝えてくれ」
店の二階に設けられた事務所兼応接室。来客用のソファーにどっかりと座り込んだアケノは、疲れ切った表情で重い口を開いた。
「実は、出るんじゃよ……」
「もしかして、幽霊とか?」
「それじゃ! 里から来る連中の宿舎を建てて、完成した夜に試しに泊まってみたらのう……こりゃワシらの手にゃ負えんと」
ゴーレムの次は幽霊か。ああ、まあ事故物件というか多くの人が犠牲になった土地だから多かれ少なかれそういう事はあるかなって思ってはいましたけどさ。
「今のところはおとなしいんだが、あの手合いはほっときゃ悪霊化する。そうなる前に早めに手を打ちたいのじゃが、どうにもな……このままでは皆を呼び寄せる事も出来ん」
「ふーん」
アケノの歯切れの悪い話しぶりも気になるが、203高地は俺にとっても大事な収入源だし、アーティファクトの開発が進めば需要はさらに増える。このままにしとくわけにはいかない。
ただでさえ今まで呪われた土地だの言われていた所に幽霊騒ぎまで起これば、今後移住者を集めるのもさらに難しくなる。
「わかった。とりあえず行ってみよう。グリセンティ、対アンデット戦の作戦立案を進めてくれ。……グリセンティ?」
んん? グリセンティまで表情が暗いな。もしかして幽霊とか苦手なのかな?
「どうした?」
「その、私達……と言いますか、ファドリシアはアンデットに対して有効な手段を持っていないのです。この世界であれに対抗できるのはソルティアだけです」
「え? ああ! 神聖魔法か!」
基本的にソルティアの協力を得られない者にとってはアンデットは鬼門だ。さすが203高地。一筋縄ではいかない、まさに事故物件だよな。
「とりあえず見に行こう。対策はそれからかな」
まずは現地をしっかり偵察しようか、自分の足と目での現場確認は大事だってオットー・カリウスさんも言ってたかな。
※オットー・カリウス
ドイツ軍の戦車戦エース。第二次世界大戦中のドイツ国防軍の軍人で最終階級は中尉。 戦車長として150両以上の敵戦車を撃破。義雄の言うのは多分「泥まみれの虎」のエピソード。今のところハルトマンやバルクホルンの様に「娘化」はされていない。「豚化」されてるけどね。
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