勇者のフリして異世界へ? 〜この世界は勇者インフレみたいです〜

あおいー整備兵

文字の大きさ
56 / 124

第56話 すごいコネなんです

しおりを挟む


 レィネラ国

 国としては、この世界においては平均的だそうだ。レィネラ国の大きさはファドリシアと俺が領有化した203高地を足した面積より一回り大きい程度らしい。大陸での位置はぶっちゃけ辺境だよなって言ってもいいと思う。
 ただし面と向かって言ったら、お前んところは秘境だろうがって言い返される程度にプライドが高いそうな。

 そんな国の王都「トーニル」の目抜き通りに一際目を惹く建物があった。
 マドセン商会レィネラ支店。
 マドセン商会。本店をクレンカレ帝国の帝都マイセンに置き、この大陸でも名の知れた商会。歴史の比較的浅い商会であるにもかかわらず手広く商売を広げ、『魔族以外は全てお客様』をモットーに各国の都に支店を開設し、各国の王族や貴族との付き合いも深い。
 今、その応接室に通された2人はフードを目深にかぶり、面会相手の現れるのを待っていた。姿勢良くソファーに浅く座ったその佇まいは市井の民のものではない。

「寸鉄も帯びてはいないのだな?」
「はい。武具の類は持ち込んでおりません。むしろ、そこが不気味です」
「紹介状は本物であった。それだけに扱いは慎重にせねばならん」
「次の間には警護のものをすでに配備しております。一気に踏み込みますか?」
「紹介状は本物だと言ったであろう」

 隠し窓から2人の様子を観察している2人の男。2人共その眼光は鋭く、数々の修羅場を乗り越えてきた者だけが至りうる世界の住人であることは想像に難くない。

「私が出ましょう」
「いや、私がここに来た理由は分かっているだろう? この目で直接見極めよう」
「はっ」

 一方の応接室の2人も目を合わすことなく小さく呟く。

「見られてますね」
「はい。信用出来ないのでしょう」

 やがて扉が開かれ、身なりの良い壮年の男性とティーセットを持った老執事が部屋に入ってきた。二人の前に男性が腰を掛け、老執事が手際よく茶を入れる。

「お待たせしました。ナカノ様。私が当商会の支店長のウエブリィです」
「お目通りいただきありがとうございます。ナカノと申します。この度は良いお話が進められれば……」
「その事なのですが……」

 執事の老人が部屋を出ることなく、扉を施錠する。
 カチャリという小さな金属音に部屋の空気が一変する。

「この紹介状は、どちらで手に入れられました?  失礼だがフードを取ってもらいましょうか?」
「……」
「紹介とありますがここに記された家名を騙られるのは、我々としてはあまり愉快ではありませんな」

 ナカノがフードを取ると、その特徴的な風貌にウエブリィの表情が強張る。

「エルフがなぜ……何が目的だ? この家名が何を意味するか分かっているのか!?」

 その返事は別のところから返ってきた。
 ナカノの隣に座っていた者がフードに手をかけ、立ち上がるや、支店長をではなく背後に立つ老執事に向き合う。

「家名に何か意味があるのかしら? すでに廃された私にはなんの意味も持たないわ」
「な!!」

 老人の目が大きく見開かれ、目の前の人物ーーグリセンティの姿を凝視する。

「お久しぶりね。まさか爺がここまで来ているとは思わなかったわ」

 爺と呼ばれた老執事はグリセンティの声に滂沱の涙を流しながらその場に崩れ落ちた。その姿に支店長を名乗った男が慌てて駆け寄り力の抜けた身体を支える。

「会頭!! まさか!? この方は?」

 老人の震える手が目の前のグリセンティにゆっくりと伸ばされる。その手を包みこむように優しく握るグリセンティ。

「ベレッタ様、よくぞ生きて……大きくなられて……」
「今はグリセンティです。爺、早速で悪いのだけれど、私のお願いを聞いていただける?」

 グリセンティの言葉に、爺と支店長がかしずく。

「御心のままに。我らが姫よ」

 ☆

「おお! ここがレィネラ国かあ! てか、なんでナカノやグリセンティがいるの?」

 王都へとあと少しというところで俺たちを出迎えたのはナカノとグリセンティ率いるメイド隊の面々だった。俺たちは用意された引き馬をM113に繋ぎ、荷馬車の体を整えてレィネラ国王都へと入った。

「機獣で乗り込む気だったのですか? 引き馬もない馬車が動いてたら悪目立ちもすぎますよ」
「まあ、近場で手配しようとは思ってたよ……手に入らなかったけど」
「義雄様って結構無頓着ですよね。行き当たりばったりっていうか、結果オーライっていうか」
「大丈夫ですよ二人とも。そのために私達がいるのですから」

 エイブルさん、それフォローじゃないよね。うん、サラリとダメ認定されてるような……まあいいけどね。君らがいれば、大概のことは片付いちゃうしさ。

「あれ? 義雄様すねてます?」
「別にぃ、さっさとカレー屋の話、進めようぜ」
「あっ、それなんですけど……」
 答えるグリセンティが含みのあるような笑顔で言葉を返してきた。こういう笑顔の時のうちのメイドさんは大概、何かやらかしてるよな。まあ、もう驚かないけどね。

 ☆

「なにこれ? どゆこと? ちょっとグリさんや!?」

 不覚にも驚いてしまった。くうっ! 何度も何度も人の想像の斜め上をいきよって! 
 なんせグリセンティに案内されて着いたところは、王都の目抜き通りに面した一等地に立つ、石造りの店舗兼居住施設だった。店内では既にメイドたちや手配された職人によって開店に向けての準備が進んでいた。

「えっと……ちょっと知り合いにお願いしたのです」

 そう言ってはにかむグリセンティ。さすがうちの作戦部長だよ。もう素直に感心しとこう。

「すごいコネだなあ!」
「すごいコネなんです」

 そんなやり取りを店先で見ていた老人が俺たちのほうに近づいてきた。なんだろう俺のことをすげー睨んでないか?
 場の雰囲気をいち早く察したのか老人が口を開きかけると、機先を制するようにグリセンティが老人と俺の間に割って入った。
 その様子に驚く老人をしり目にグリセンティがまるで辺りに聞かせるように大きめの声で老人の紹介を始めた。

「こちらの方は今回、全面的にご協力いただいたマドセン商会の会頭のマドセン様です! マドセン様、こちらが私がお仕えするタカツキさまです。私たちは親しく義雄様とお呼びしております!」
「は、はあ」

 グリセンティの勢いにのまれたのか、毒気の抜けた返事を返す老人。
 たたみかけるようにグリセンティは言葉を続ける。

「義雄様、こちらのマドセン様が率いるマドセン商会は大陸でも屈指の大商会です。各国にも支店をお持ちになられ、今回の出店にも多大な尽力をしてくださったのです!」
「えっ、それはどうもありがとうございます。俺、いや私、義雄と言います。一応ファドリシアの勇者です」

 なんかこっちまで勢いにのまれて間抜けな挨拶になっちゃったじゃないか。

「タカツキ様は……」
「義雄様はわ た し の大切なご主人様なのですよ!! 大切な!!」
「え、何で二度言ったの?」
「大事なことは二度言うのですよ!」

 そ、そうなんだ。なんかスゲー圧を感じるんですけど。

「……なるほど、分りました」

 なんか納得顔のマドセンさん。
 わかるんかい!?
 先程とは打って変わった晴れ晴れとした表情でいきなり俺の手を両手で固く握りしめると、破顔するマドセンさん。

「義雄様、とお呼びしてもよろしいですかな?」
「ええ、いいですよ」
「末永く、末永く! よろしくお願いいたします!」

 なぜにあんたまで二度言う?

「こ、こちらこそよろしくお願いいたします」

 心なしかグリセンティの顔が赤い?

「……たらしです」

 なぜにナカノは半目で俺を見るのかな?

「仕方ありません。義雄様ですから」

 エイブルさんや、何がしかたないんですかねえ?

「おとうさんはたらし?」

 これこれ、ひよこ、変な言葉を覚えたらだめだぞ。

「な、義雄殿は既婚者? 子持ち? まさかできちゃった!?」

 って、聞いてたマドセンさんが突然卒倒したぞ!! 何が起こったんだ? 微妙に既視感を感じるんだが?

 そのままマドセンさんは部下の人に担がれて連れ出されてしまった。付き添ったグリセンティもしばらく帰ってこなかった。まあ大事なコネだし、しっかり看病してもバチはあたらないでしょ。
しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...