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第56話 すごいコネなんです
しおりを挟むレィネラ国
国としては、この世界においては平均的だそうだ。レィネラ国の大きさはファドリシアと俺が領有化した203高地を足した面積より一回り大きい程度らしい。大陸での位置はぶっちゃけ辺境だよなって言ってもいいと思う。
ただし面と向かって言ったら、お前んところは秘境だろうがって言い返される程度にプライドが高いそうな。
そんな国の王都「トーニル」の目抜き通りに一際目を惹く建物があった。
マドセン商会レィネラ支店。
マドセン商会。本店をクレンカレ帝国の帝都マイセンに置き、この大陸でも名の知れた商会。歴史の比較的浅い商会であるにもかかわらず手広く商売を広げ、『魔族以外は全てお客様』をモットーに各国の都に支店を開設し、各国の王族や貴族との付き合いも深い。
今、その応接室に通された2人はフードを目深にかぶり、面会相手の現れるのを待っていた。姿勢良くソファーに浅く座ったその佇まいは市井の民のものではない。
「寸鉄も帯びてはいないのだな?」
「はい。武具の類は持ち込んでおりません。むしろ、そこが不気味です」
「紹介状は本物であった。それだけに扱いは慎重にせねばならん」
「次の間には警護のものをすでに配備しております。一気に踏み込みますか?」
「紹介状は本物だと言ったであろう」
隠し窓から2人の様子を観察している2人の男。2人共その眼光は鋭く、数々の修羅場を乗り越えてきた者だけが至りうる世界の住人であることは想像に難くない。
「私が出ましょう」
「いや、私がここに来た理由は分かっているだろう? この目で直接見極めよう」
「はっ」
一方の応接室の2人も目を合わすことなく小さく呟く。
「見られてますね」
「はい。信用出来ないのでしょう」
やがて扉が開かれ、身なりの良い壮年の男性とティーセットを持った老執事が部屋に入ってきた。二人の前に男性が腰を掛け、老執事が手際よく茶を入れる。
「お待たせしました。ナカノ様。私が当商会の支店長のウエブリィです」
「お目通りいただきありがとうございます。ナカノと申します。この度は良いお話が進められれば……」
「その事なのですが……」
執事の老人が部屋を出ることなく、扉を施錠する。
カチャリという小さな金属音に部屋の空気が一変する。
「この紹介状は、どちらで手に入れられました? 失礼だがフードを取ってもらいましょうか?」
「……」
「紹介とありますがここに記された家名を騙られるのは、我々としてはあまり愉快ではありませんな」
ナカノがフードを取ると、その特徴的な風貌にウエブリィの表情が強張る。
「エルフがなぜ……何が目的だ? この家名が何を意味するか分かっているのか!?」
その返事は別のところから返ってきた。
ナカノの隣に座っていた者がフードに手をかけ、立ち上がるや、支店長をではなく背後に立つ老執事に向き合う。
「家名に何か意味があるのかしら? すでに廃された私にはなんの意味も持たないわ」
「な!!」
老人の目が大きく見開かれ、目の前の人物ーーグリセンティの姿を凝視する。
「お久しぶりね。まさか爺がここまで来ているとは思わなかったわ」
爺と呼ばれた老執事はグリセンティの声に滂沱の涙を流しながらその場に崩れ落ちた。その姿に支店長を名乗った男が慌てて駆け寄り力の抜けた身体を支える。
「会頭!! まさか!? この方は?」
老人の震える手が目の前のグリセンティにゆっくりと伸ばされる。その手を包みこむように優しく握るグリセンティ。
「ベレッタ様、よくぞ生きて……大きくなられて……」
「今はグリセンティです。爺、早速で悪いのだけれど、私のお願いを聞いていただける?」
グリセンティの言葉に、爺と支店長がかしずく。
「御心のままに。我らが姫よ」
☆
「おお! ここがレィネラ国かあ! てか、なんでナカノやグリセンティがいるの?」
王都へとあと少しというところで俺たちを出迎えたのはナカノとグリセンティ率いるメイド隊の面々だった。俺たちは用意された引き馬をM113に繋ぎ、荷馬車の体を整えてレィネラ国王都へと入った。
「機獣で乗り込む気だったのですか? 引き馬もない馬車が動いてたら悪目立ちもすぎますよ」
「まあ、近場で手配しようとは思ってたよ……手に入らなかったけど」
「義雄様って結構無頓着ですよね。行き当たりばったりっていうか、結果オーライっていうか」
「大丈夫ですよ二人とも。そのために私達がいるのですから」
エイブルさん、それフォローじゃないよね。うん、サラリとダメ認定されてるような……まあいいけどね。君らがいれば、大概のことは片付いちゃうしさ。
「あれ? 義雄様すねてます?」
「別にぃ、さっさとカレー屋の話、進めようぜ」
「あっ、それなんですけど……」
答えるグリセンティが含みのあるような笑顔で言葉を返してきた。こういう笑顔の時のうちのメイドさんは大概、何かやらかしてるよな。まあ、もう驚かないけどね。
☆
「なにこれ? どゆこと? ちょっとグリさんや!?」
不覚にも驚いてしまった。くうっ! 何度も何度も人の想像の斜め上をいきよって!
なんせグリセンティに案内されて着いたところは、王都の目抜き通りに面した一等地に立つ、石造りの店舗兼居住施設だった。店内では既にメイドたちや手配された職人によって開店に向けての準備が進んでいた。
「えっと……ちょっと知り合いにお願いしたのです」
そう言ってはにかむグリセンティ。さすがうちの作戦部長だよ。もう素直に感心しとこう。
「すごいコネだなあ!」
「すごいコネなんです」
そんなやり取りを店先で見ていた老人が俺たちのほうに近づいてきた。なんだろう俺のことをすげー睨んでないか?
場の雰囲気をいち早く察したのか老人が口を開きかけると、機先を制するようにグリセンティが老人と俺の間に割って入った。
その様子に驚く老人をしり目にグリセンティがまるで辺りに聞かせるように大きめの声で老人の紹介を始めた。
「こちらの方は今回、全面的にご協力いただいたマドセン商会の会頭のマドセン様です! マドセン様、こちらが私がお仕えするタカツキさまです。私たちは親しく義雄様とお呼びしております!」
「は、はあ」
グリセンティの勢いにのまれたのか、毒気の抜けた返事を返す老人。
たたみかけるようにグリセンティは言葉を続ける。
「義雄様、こちらのマドセン様が率いるマドセン商会は大陸でも屈指の大商会です。各国にも支店をお持ちになられ、今回の出店にも多大な尽力をしてくださったのです!」
「えっ、それはどうもありがとうございます。俺、いや私、義雄と言います。一応ファドリシアの勇者です」
なんかこっちまで勢いにのまれて間抜けな挨拶になっちゃったじゃないか。
「タカツキ様は……」
「義雄様はわ た し の大切なご主人様なのですよ!! 大切な!!」
「え、何で二度言ったの?」
「大事なことは二度言うのですよ!」
そ、そうなんだ。なんかスゲー圧を感じるんですけど。
「……なるほど、分りました」
なんか納得顔のマドセンさん。
わかるんかい!?
先程とは打って変わった晴れ晴れとした表情でいきなり俺の手を両手で固く握りしめると、破顔するマドセンさん。
「義雄様、とお呼びしてもよろしいですかな?」
「ええ、いいですよ」
「末永く、末永く! よろしくお願いいたします!」
なぜにあんたまで二度言う?
「こ、こちらこそよろしくお願いいたします」
心なしかグリセンティの顔が赤い?
「……たらしです」
なぜにナカノは半目で俺を見るのかな?
「仕方ありません。義雄様ですから」
エイブルさんや、何がしかたないんですかねえ?
「おとうさんはたらし?」
これこれ、ひよこ、変な言葉を覚えたらだめだぞ。
「な、義雄殿は既婚者? 子持ち? まさかできちゃった!?」
って、聞いてたマドセンさんが突然卒倒したぞ!! 何が起こったんだ? 微妙に既視感を感じるんだが?
そのままマドセンさんは部下の人に担がれて連れ出されてしまった。付き添ったグリセンティもしばらく帰ってこなかった。まあ大事なコネだし、しっかり看病してもバチはあたらないでしょ。
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