勇者のフリして異世界へ? 〜この世界は勇者インフレみたいです〜

あおいー整備兵

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59話 お黙り、双子トキシン!

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 翌日はエイブルさんの顔がまともに見れないとか、普通にヘタレ全開ですがなにか? と、兎にも角にも未曾有の危機だ! 今は全力で対処していかなければならない! ならないのだ!!

「おとうさんのおみみあかいよ?」
「うっ!」

 まずは下準備だよ、俺の考えは、ある種の様式美的なものが含まれるので、そのためには舞台設営とか色々準備が必要なので今回はファドリシアの手を借りることにした。時間はあるような無いような……前世の世界で言えばエボラとかの大規模な感染の封じ込めに似ている。急がねばならないが、抜本的な解決を講じなければ意味がない。

 チート持ちの勇者なら「ズガーン!ズババーン!! ドガシャーン!!」 はい、解決しました。なんだろうが、こっちは無い無い尽くしだ。考えて考えて、いくつもの案を導き出してその中から最適解を出す。それは既存の答えと同じではダメというキッツイ縛り付きときたもんだ。

「同じことを繰り返した結果がこの世界だもんなあ……」



 203高地。マテリアル採掘場予定地。ここが今回の作戦の本部になった。アケノ爺さんsが施設を整備してくれていたのを流用できるし、ファドリシア側の山嶺で人目につきにくいあたり、これ以上の場所はない。

 数日後、手筈通りにファドリシア本国より応援が到着した。転送ポータルは今のところ秘密なので陸路で来てもらった。さすがにこれからやる事はメイド隊だけでは手が足りないと王様に手配を頼んだんだが……

「なんで王様が指揮してるんすか? てか近衛動かしたんですか?」

 やって来たのは近衛騎士団。しかも王様付き。いや、なんかややこしいな。王様がおまけ?な訳がない。

「口が固く、体力がある。近衛の騎士が適任であろう?」
「そりゃそうですが、王様がなんで付いてくるんですか?」
「ひとをおまけみたいに言うでない!」

 すいません。おまけです。いや、邪魔かな?

「近衛騎士が王の警護を離れられる訳なかろうが。ならば王が引き連れてくれば良い」
「いやいや! だからって……」
「まあ、聞け。義雄殿がやろうとしている事の詳細は聞いた。事情がわかった以上、王が動くには十分だ。ここに眠る者の中には少なからず我らに関わる者もいるのだよ」

「ファドリシアを頼って亡命の道中、この地で消息を絶った方や、国の指示で調査に向かい、行方不明になられた方の事でしょう」
「!」

 エイブルがそっと耳打ちをしてくれた。

「ここに眠る者達の魂を慰めることは、王の果たすべき義務だよ」

 ノブレス・オブリージュか……

「分かりました。そういう事なら王様にはここで全てを見届けていただきます」
「うむ。よろしく頼む。あとな……」
「エイブル~! ひよこちゃ~ん!! 来たわよ~!!」

 突然、馬車から飛び出すや、王様との話を遮ってハイテンションで駆け寄る猫耳御婦人って! エイブルのかーちゃんじゃん!
 一気に間合いを詰めて、抵抗する間も無くエイブルをハグする。さすが猫耳持ち、動きのキレがハンパないわ。

「これ! 話はまだ終わっておらんとゆうに!」
「だって、貴方の話長いんですもの!」
「なニャニャ! お、お母様?」
「寂しいんだもん、来ちゃった~♪」

 場の空気が一気にゆる~く弛緩する。

「来ちゃったって……どうゆう事っすかね王様? これもノブレス・オブリージュっすか?」

「いや、仕事だからって言ったんだがな、どうしてもついて来るって。え、エイブル! お前がいかんのだ! 最近ずっと顔を見せんし、たまには食事くらい一緒にできるだろ! ひよこちゃんまで連れ出すし!」
「し、仕事ですよ! 仕方ないでしょ! それに、他国の目もあるんだからそういうのはしないって、前にも言ったじゃない!」
「いいじゃない! 今日は誰も見てないんでしょ?」

 しかしなんだろう、このやり取り。王族の会話じゃないよ、普通のご家庭のノリだよ。エイブルさんがご近所の目を気にする出戻り娘に見えるんだけど。

「その、大丈夫ですか? 他国の、いや、ソルティアとか」
「そんなもん知らん」
「ええっ!?」

 言い切っちゃいましたよ王様。何、吹っ切れてるんですか?

「ここまでやらかしてくれたんだ。我らファドリシアは義雄殿につく! どうせ、遅かれ早かれ連中は嗅ぎつけるであろう? 責任は取ってもらうぞ」
「お、俺のせいですか? いや、結構気を使って事を進めてますよ! 結果、ひよこがらみで多少イキったところは認めますけど」
「エイブル達を幸せにしてくれるのであろう? ついでにファドリシアも幸せにしてくれ!」

 チート無しの絶賛システムエラー中のなんちゃって勇者に、期待かけすぎだってば!

「あと、遠くに行くなら、せめてひよこちゃんを預けてくれればいいのに! お母さん、エイブルニウムとひよこニウム欠乏症で泣いちゃうから!」

 なんだその新元素?  異世界レアメタルですか?

「あ~あ、しばらくエイブル様は仕事になりませんかねえ」
「とりあえずの指揮はナカノ様とグリセンティでやってもらいましょうか」
「と、いいますか、エイブルニウムとひよこニウムの補給済んだら、アレハグ全員にしますよ王妃様」
「ナカノニウム」とヴィラール。
「サイガニウム」とペロサ。
「お黙り、双子トキシン!」

 メイド隊も諦めてる? 呆れてる? つか君ら全員王妃様の必須元素かよ! 双子は毒扱いですか?

「まあ、私達、メイド隊の古参メンバーは実情を知る王妃様に引き取られてエイブル様のお世話係兼学友として育ちましたので。王妃様は政治には一切関わられませんが、その分、御家族の絆を、私たちを含めて殊の外大切にされますから」

 ナカノがそんな王家のやり取りを生暖かい目で見守るようにつぶやき、近くのメイド隊メンバーもうんうんとうなづく。

「周りへの気配りも素敵です。王妃様は私達にも常に気をかけておいでで、キメ台詞は『泣く子はいねかあ? 』です」

 どこのナマハゲだよ?  つか王族の距離感がおかしいだろ? アットホームな職場すぎるぞファドリシア王家。

 王妃様はハグしたまま、エイブルにハッパをかける。

「エイブルも頑張りなさい。貴女はみんなのお姉さんなのだから」
「はい!」
「あなた!」
「な、なんだ?」
「仕事しなさい。ここでも出来るでしょ」
「はい……」

 さすがエイブルのかーちゃんだな、こりゃ誰も勝てんわ。

「義雄様」
「はい?」

 ええっ? この流れで俺にもとばっちりが来るんですか? 

「まだまだ至らないところもあるけどこの子達をヨロシクね♪」
「は、はい!」

 普通の事を言われたはずなんだが、王妃様の笑顔が素敵怖すぎて思わず即答してしまった……んん? なんか含みがあるような気がするけど、そこは知らんぷりで。外堀をゆる~く埋められたような気がするのは何故ですかね?
 とりあえず、今はいらん事は言わずにこっちも準備を進めるか……

「エイブル、メイド隊の皆を集めてくれ。状況が変わった。緊急作戦会議を始めよう」

 作戦指揮所にしたM113の前に集まったメイド隊。俺の膝の上にはひよこ。隣に王様と王妃様の席を設け、正面前列にはメイド隊メインメンバー。その後ろに他のメイドが控える。あくまでも応援要員の近衛騎士はベイカーの案内で待機所で休息を取ってもらった。

「あー、みんな集まってもらったので、次の予定を発表します」

 やもすれば顔に露骨に出そうになる感情を、一呼吸入れる事で落ち着かせ、言葉を続ける。

「一度、ファドリシアに帰ろう」
「ええ!?」×ALL

 皆がざわつく。今更何を言い出すんですかって言いたげな皆の視線が痛い。

「メイド隊としては」とヴィラール。
「承服しかねる」とペロサ。

 お前らどこの帝国陸軍だ。ネタがハイブロー過ぎて皆が付いてこれんぞ。

「どう言う事だ! 何か問題でもあるのか?」

 追い打ちをかけるように王様が驚いた表情で立ち上がり、俺に詰め寄ってきた。問題だって? 大有りだよ、この元凶が!

「ええ、大問題が発生しましたともさ。あんたらに決まってるでしょ! どこの世界にまつりごとほっぽらかして、夫婦で僻地に来る王家がありますか!」

「しかしだなぁ、こんな面白い事に乗らんのは……」

 いま、面白いことって言ったよな? どこに行ったノブリスオブなんちゃらは!

「しかしもカカシも無いですから! 王妃様もコレ、止めて下さいよ!」
「コレって、わし、王様……」
「でもでも、ひよこニウムがね……」
「ちょっと、エイブりゅううぅさあぁぁぁん!! この残念王族そっちでどうかしてもらえませんかねぇ?」
「すいません! すいません! 両親がすいません!!」

 一連のやり取りで、とりあえずみんな納得してくれたようです。うん、残念そうなモノを見るかの様に皆の生温かい視線がこの国のトップの御夫婦に降り注いでますもん。

「まずはこのお二人をさっさと王都へ送り返す。現場の祭壇とかの設営準備はアケノ爺さんsに任して、転送ポータルの警護とかはベイカーと近衛の一部に頼もう。俺たちも大霊廟で本格的に準備するさ」
「転送ポータルの事が私たち以外に、ばれちゃいますよ?」

 うん、わかっているけどね。この人達、野放しにするよりはましだと思うんだよ。それにファドリシアの命運丸投げされて隠す意味が無くなったし。

「王様、近衛の騎士は『口が固い』ですよね?」
「もちろんそうだ。その為に近衛を送り込んだのだ」
「なら、結構。あと、これから見るものも、起こることも他言無用ですよ」
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