あなたの幸せを願うから

豆狸

文字の大きさ
7 / 8

第七話 アレッシアの幸せ

しおりを挟む
「オルランド様、お待ちしておりました」

 夜会のときに解放されているいくつかの休憩室のひとつには、イザッコ様とファータ、そして王国騎士団の騎士と従者の方々が勢揃いしていらっしゃいました。従者のひとりがオルランド様を迎えます。
 思わずお父様のお顔を覗き込んでしまいます。
 な、なにかなさったんですか? 視線で尋ねると、お父様は大丈夫だ、とでも言うように微笑んでくださいました。

 ……お父様を信じても良いのでしょうか。
 同行なさっていたオルランド様の様子を窺うと彼も、大丈夫だ、とでも言うように首肯してくださいます。
 オルランド様に促されて、私達は休憩室にあった長椅子に腰かけました。イザッコ様とファータが前に並んでいて、私はお父様とオルランド様に挟まれています。

 わ、私、なにもしていませんよ?

「お呼びして申し訳ありませんでした、イザッコ殿。どうしてもお話したいことがあるのです」
「私に?」

 イザッコ様は目を丸くした後で、私とオルランド様の顔を交互に見つめました。
 そうですね。私も他人だったなら、私とオルランド様が不貞をしてイザッコ様に婚約解消をお願いしに来たのだと思います。
 でもそんな事実はありません。もしかして、あのダンスの申し込みを受けたのが、求愛に応えたということになったのでしょうか?

 ……あり得ませんよね。オルランド様が地味な壁の花令嬢の私になど。

「はい。単刀直入に申し上げますが、貴殿には国家反逆罪の疑いがかかっています」
「はあっ?」
「貴殿の隣にいる……貴殿が俺の従者のウーゴに声をかけられるまで睦み合っていた浮気相手のファータは隣国の工作員です。貴殿が問われるままに教えていた国境近くの貴族家騎士団の巡回予定は、すべてその女から隣国へ流れていました。騎士団の巡回予定を知って避けていたから、盗賊達は捕まっていないのです」

 先ほどのイザッコ様のように私も目を丸くしました。
 まさかファータがイザッコ様の浮気相手だったなんて。
 でも考えてみれば、イザッコ様を探しに行ったファータが戻って来たとき、いつも顔が赤らんでいたような気がします。

 私は驚いていましたが、壁の花だったときのように泣きたい気分にはなっていませんでした。
 隣国の工作員と言われたら、イザッコ様の浮気相手だったことなど些少なことです。
 隣のお父様は笑顔のままコメカミに青筋を立てていらっしゃいました。隣国の工作員を雇っていただなんて知られたら、我が家まで国家反逆罪の疑いをかけられてしまいますから当然でしょう。

 そういえば、ファータは……

「すべての黒幕はネーリ男爵です。ネーリ男爵はジョルダーノ辺境伯家の寄子であることを利用して、同じ寄子貴族の家へ工作員達を送り込んでいました。そして工作員達に若い青年貴族や貴族子息達を誘惑させて情報を引き出していたのです。しかし彼らには決まった相手がいます。家で浮気をしたら家人に咎められるのを見越して、ネーリ男爵夫人を囮にして夜会で睦み合えるようにしていたのです」

 なにもご存じなかったのか、イザッコ様のお顔が青くなっていきます。
 逆にファータは、自信に満ちた顔になって口を開きました。

「私の住んでいた国境近くの村は盗賊に襲われて、私は奴隷にされたわ。民も守れない国など隣国に滅ぼされてしまえばいいのよ! ネーリ男爵こそが救世主なのだから!」
「……盗賊や違法奴隷商の裏にいたのはネーリ男爵だ。行商人だったころから、ずっとね」

 オルランド様の言葉に、ファータの顔色が変わります。

「他人に襲わせた後で助けて恩人の振りをするというのは良くある話だろう?」
「う、嘘よ……」

 ファータの声が震えています。

「嘘かどうかは、これからの取り調べで君に見せる資料を読んで考えれば良い。ただ……口で正しそうなことを言っていても、他人の幸せを打ち砕くことに疑問を抱かない人間は救世主ではなく悪党と呼ぶのだと思うよ」

 それからオルランド様はイザッコ様にお話をなさいました。
 これからの取り調べで聞かれたことには正直に話したほうが良い、今ならまだ騙されただけだとして罪が軽くなる可能性があるのだから、と。という言葉に力が籠っているように感じたのは、イザッコ様を誘導するための王国騎士話術でしょうか。
 最後にお父様がイザッコ様に私との婚約の解消を申し出ました。この状況では仕方がないでしょう。イザッコ様が頷き、私も受け入れました。

 震えた声での反論の後、ファータはなにも言わなくなりました。
 なにか思い当ることがあったのかもしれません。
 私とイザッコ様の婚約解消が終わると、ふたりはオルランド様以外の騎士と従者に連れられて休憩室を出て行ったのです。

「……アレッシア嬢」
「オルランド様?」
「俺の役目上、こういう結果になってしまいました。先ほどあの女に偉そうなことを言っていましたが、俺の行動があなたの幸せを打ち砕いてしまったでしょうか?」

 怯えたようにおっしゃるオルランド様に私は、いいえ、と首を横に振って見せました。
 事態が大き過ぎて、イザッコ様とファータの浮気の件などどうでも良くなってしまったのもありますが、ファータの甘言に溺れてイザッコ様と向き合う努力から逃げていた私にも問題があったのです。
 ただ待っているだけの壁の花令嬢はもう卒業します、という気持ちで微笑むと、オルランド様はなぜかお顔を真っ赤にされて、私から視線を逸らしました。お父様は理由がわかっているのか、なんだかニヤニヤしています。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから

よどら文鳥
恋愛
 私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。  五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。  私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。  だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。 「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」  この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。  あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。  婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。  両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。  だが、それでも私の心の中には……。 ※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。 ※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。

【完結】あなたの愛は今どこにありますか

野村にれ
恋愛
頭では理由を付けて分かった振りをしても、理屈ではない。 分かりたくないことは、受け入れられない。 どうしても、叶わないことはある。 それならば、私はどうするべきか。どう生きて行くべきか。 (ひどく捻くれた話になっております)

噂(うわさ)―誰よりも近くにいるのは私だと思ってたのに―

日室千種・ちぐ
恋愛
身に覚えのない噂で、知らぬ間に婚約者を失いそうになった男が挽回するお話。男主人公です。

悪女の私を愛さないと言ったのはあなたでしょう?今さら口説かれても困るので、さっさと離縁して頂けますか?

輝く魔法
恋愛
システィーナ・エヴァンスは王太子のキース・ジルベルトの婚約者として日々王妃教育に勤しみ努力していた。だがある日、妹のリリーナに嵌められ身に覚えの無い罪で婚約破棄を申し込まれる。だが、あまりにも無能な王太子のおかげで(?)冤罪は晴れ、正式に婚約も破棄される。そんな時隣国の皇太子、ユージン・ステライトから縁談が申し込まれる。もしかしたら彼に愛されるかもしれないー。そんな淡い期待を抱いて嫁いだが、ユージンもシスティーナの悪い噂を信じているようでー? 「今さら口説かれても困るんですけど…。」 後半はがっつり口説いてくる皇太子ですが結ばれません⭐︎でも一応恋愛要素はあります!ざまぁメインのラブコメって感じかなぁ。そういうのはちょっと…とか嫌だなって人はブラウザバックをお願いします(o^^o)更新も遅めかもなので続きが気になるって方は気長に待っててください。なお、これが初作品ですエヘヘ(о´∀`о) 優しい感想待ってます♪

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。

【完結】魅了魔法のその後で──その魅了魔法は誰のため? 婚約破棄した悪役令嬢ですが、王太子が逃がしてくれません

瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
その魅了魔法は誰のため? 一年前、聖女に婚約者である王太子を奪われ、婚約破棄された悪役令嬢リシェル・ノクティア・エルグレイン。 それが私だ。 彼と聖女との婚約披露パーティの噂が流れてきた頃、私の元に王太子が訪れた。 彼がここに来た理由は──。 (全四話の短編です。数日以内に完結させます)

悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。

ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」  ぱんっ。  愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。  甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。  ──え?  打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。

あなたに恋した私はもういない

梅雨の人
恋愛
僕はある日、一目で君に恋に落ちてしまった。 ずっと僕は君に恋をする。 なのに、君はもう、僕に振り向いてはくれないのだろうか――。 婚約してからあなたに恋をするようになりました。 でも、私は、あなたのことをもう振り返らない――。

処理中です...