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第七話 アレッシアの幸せ
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「オルランド様、お待ちしておりました」
夜会のときに解放されているいくつかの休憩室のひとつには、イザッコ様とファータ、そして王国騎士団の騎士と従者の方々が勢揃いしていらっしゃいました。従者のひとりがオルランド様を迎えます。
思わずお父様のお顔を覗き込んでしまいます。
な、なにかなさったんですか? 視線で尋ねると、お父様は大丈夫だ、とでも言うように微笑んでくださいました。
……お父様を信じても良いのでしょうか。
同行なさっていたオルランド様の様子を窺うと彼も、大丈夫だ、とでも言うように首肯してくださいます。
オルランド様に促されて、私達は休憩室にあった長椅子に腰かけました。イザッコ様とファータが前に並んでいて、私はお父様とオルランド様に挟まれています。
わ、私、なにもしていませんよ?
「お呼びして申し訳ありませんでした、イザッコ殿。どうしてもお話したいことがあるのです」
「私に?」
イザッコ様は目を丸くした後で、私とオルランド様の顔を交互に見つめました。
そうですね。私も他人だったなら、私とオルランド様が不貞をしてイザッコ様に婚約解消をお願いしに来たのだと思います。
でもそんな事実はありません。もしかして、あのダンスの申し込みを受けたのが、求愛に応えたということになったのでしょうか?
……あり得ませんよね。オルランド様が地味な壁の花令嬢の私になど。
「はい。単刀直入に申し上げますが、貴殿には国家反逆罪の疑いがかかっています」
「はあっ?」
「貴殿の隣にいる……貴殿が俺の従者のウーゴに声をかけられるまで睦み合っていた浮気相手のファータは隣国の工作員です。貴殿が問われるままに教えていた国境近くの貴族家騎士団の巡回予定は、すべてその女から隣国へ流れていました。騎士団の巡回予定を知って避けていたから、盗賊達は捕まっていないのです」
先ほどのイザッコ様のように私も目を丸くしました。
まさかファータがイザッコ様の浮気相手だったなんて。
でも考えてみれば、イザッコ様を探しに行ったファータが戻って来たとき、いつも顔が赤らんでいたような気がします。
私は驚いていましたが、壁の花だったときのように泣きたい気分にはなっていませんでした。
隣国の工作員と言われたら、イザッコ様の浮気相手だったことなど些少なことです。
隣のお父様は笑顔のままコメカミに青筋を立てていらっしゃいました。隣国の工作員を雇っていただなんて知られたら、我が家まで国家反逆罪の疑いをかけられてしまいますから当然でしょう。
そういえば、ファータは……
「すべての黒幕はネーリ男爵です。ネーリ男爵はジョルダーノ辺境伯家の寄子であることを利用して、同じ寄子貴族の家へ工作員達を送り込んでいました。そして工作員達に若い青年貴族や貴族子息達を誘惑させて情報を引き出していたのです。しかし彼らには決まった相手がいます。家で浮気をしたら家人に咎められるのを見越して、ネーリ男爵夫人を囮にして夜会で睦み合えるようにしていたのです」
なにもご存じなかったのか、イザッコ様のお顔が青くなっていきます。
逆にファータは、自信に満ちた顔になって口を開きました。
「私の住んでいた国境近くの村は盗賊に襲われて、私は奴隷にされたわ。民も守れない国など隣国に滅ぼされてしまえばいいのよ! ネーリ男爵こそが救世主なのだから!」
「……盗賊や違法奴隷商の裏にいたのはネーリ男爵だ。行商人だったころから、ずっとね」
オルランド様の言葉に、ファータの顔色が変わります。
「他人に襲わせた後で助けて恩人の振りをするというのは良くある話だろう?」
「う、嘘よ……」
ファータの声が震えています。
「嘘かどうかは、これからの取り調べで君に見せる資料を読んで考えれば良い。ただ……口で正しそうなことを言っていても、他人の幸せを打ち砕くことに疑問を抱かない人間は救世主ではなく悪党と呼ぶのだと思うよ」
それからオルランド様はイザッコ様にお話をなさいました。
これからの取り調べで聞かれたことには正直に話したほうが良い、今ならまだ騙されただけだとして罪が軽くなる可能性があるのだから、と。今ならという言葉に力が籠っているように感じたのは、イザッコ様を誘導するための王国騎士話術でしょうか。
最後にお父様がイザッコ様に私との婚約の解消を申し出ました。この状況では仕方がないでしょう。イザッコ様が頷き、私も受け入れました。
震えた声での反論の後、ファータはなにも言わなくなりました。
なにか思い当ることがあったのかもしれません。
私とイザッコ様の婚約解消が終わると、ふたりはオルランド様以外の騎士と従者に連れられて休憩室を出て行ったのです。
「……アレッシア嬢」
「オルランド様?」
「俺の役目上、こういう結果になってしまいました。先ほどあの女に偉そうなことを言っていましたが、俺の行動があなたの幸せを打ち砕いてしまったでしょうか?」
怯えたようにおっしゃるオルランド様に私は、いいえ、と首を横に振って見せました。
事態が大き過ぎて、イザッコ様とファータの浮気の件などどうでも良くなってしまったのもありますが、ファータの甘言に溺れてイザッコ様と向き合う努力から逃げていた私にも問題があったのです。
ただ待っているだけの壁の花令嬢はもう卒業します、という気持ちで微笑むと、オルランド様はなぜかお顔を真っ赤にされて、私から視線を逸らしました。お父様は理由がわかっているのか、なんだかニヤニヤしています。
夜会のときに解放されているいくつかの休憩室のひとつには、イザッコ様とファータ、そして王国騎士団の騎士と従者の方々が勢揃いしていらっしゃいました。従者のひとりがオルランド様を迎えます。
思わずお父様のお顔を覗き込んでしまいます。
な、なにかなさったんですか? 視線で尋ねると、お父様は大丈夫だ、とでも言うように微笑んでくださいました。
……お父様を信じても良いのでしょうか。
同行なさっていたオルランド様の様子を窺うと彼も、大丈夫だ、とでも言うように首肯してくださいます。
オルランド様に促されて、私達は休憩室にあった長椅子に腰かけました。イザッコ様とファータが前に並んでいて、私はお父様とオルランド様に挟まれています。
わ、私、なにもしていませんよ?
「お呼びして申し訳ありませんでした、イザッコ殿。どうしてもお話したいことがあるのです」
「私に?」
イザッコ様は目を丸くした後で、私とオルランド様の顔を交互に見つめました。
そうですね。私も他人だったなら、私とオルランド様が不貞をしてイザッコ様に婚約解消をお願いしに来たのだと思います。
でもそんな事実はありません。もしかして、あのダンスの申し込みを受けたのが、求愛に応えたということになったのでしょうか?
……あり得ませんよね。オルランド様が地味な壁の花令嬢の私になど。
「はい。単刀直入に申し上げますが、貴殿には国家反逆罪の疑いがかかっています」
「はあっ?」
「貴殿の隣にいる……貴殿が俺の従者のウーゴに声をかけられるまで睦み合っていた浮気相手のファータは隣国の工作員です。貴殿が問われるままに教えていた国境近くの貴族家騎士団の巡回予定は、すべてその女から隣国へ流れていました。騎士団の巡回予定を知って避けていたから、盗賊達は捕まっていないのです」
先ほどのイザッコ様のように私も目を丸くしました。
まさかファータがイザッコ様の浮気相手だったなんて。
でも考えてみれば、イザッコ様を探しに行ったファータが戻って来たとき、いつも顔が赤らんでいたような気がします。
私は驚いていましたが、壁の花だったときのように泣きたい気分にはなっていませんでした。
隣国の工作員と言われたら、イザッコ様の浮気相手だったことなど些少なことです。
隣のお父様は笑顔のままコメカミに青筋を立てていらっしゃいました。隣国の工作員を雇っていただなんて知られたら、我が家まで国家反逆罪の疑いをかけられてしまいますから当然でしょう。
そういえば、ファータは……
「すべての黒幕はネーリ男爵です。ネーリ男爵はジョルダーノ辺境伯家の寄子であることを利用して、同じ寄子貴族の家へ工作員達を送り込んでいました。そして工作員達に若い青年貴族や貴族子息達を誘惑させて情報を引き出していたのです。しかし彼らには決まった相手がいます。家で浮気をしたら家人に咎められるのを見越して、ネーリ男爵夫人を囮にして夜会で睦み合えるようにしていたのです」
なにもご存じなかったのか、イザッコ様のお顔が青くなっていきます。
逆にファータは、自信に満ちた顔になって口を開きました。
「私の住んでいた国境近くの村は盗賊に襲われて、私は奴隷にされたわ。民も守れない国など隣国に滅ぼされてしまえばいいのよ! ネーリ男爵こそが救世主なのだから!」
「……盗賊や違法奴隷商の裏にいたのはネーリ男爵だ。行商人だったころから、ずっとね」
オルランド様の言葉に、ファータの顔色が変わります。
「他人に襲わせた後で助けて恩人の振りをするというのは良くある話だろう?」
「う、嘘よ……」
ファータの声が震えています。
「嘘かどうかは、これからの取り調べで君に見せる資料を読んで考えれば良い。ただ……口で正しそうなことを言っていても、他人の幸せを打ち砕くことに疑問を抱かない人間は救世主ではなく悪党と呼ぶのだと思うよ」
それからオルランド様はイザッコ様にお話をなさいました。
これからの取り調べで聞かれたことには正直に話したほうが良い、今ならまだ騙されただけだとして罪が軽くなる可能性があるのだから、と。今ならという言葉に力が籠っているように感じたのは、イザッコ様を誘導するための王国騎士話術でしょうか。
最後にお父様がイザッコ様に私との婚約の解消を申し出ました。この状況では仕方がないでしょう。イザッコ様が頷き、私も受け入れました。
震えた声での反論の後、ファータはなにも言わなくなりました。
なにか思い当ることがあったのかもしれません。
私とイザッコ様の婚約解消が終わると、ふたりはオルランド様以外の騎士と従者に連れられて休憩室を出て行ったのです。
「……アレッシア嬢」
「オルランド様?」
「俺の役目上、こういう結果になってしまいました。先ほどあの女に偉そうなことを言っていましたが、俺の行動があなたの幸せを打ち砕いてしまったでしょうか?」
怯えたようにおっしゃるオルランド様に私は、いいえ、と首を横に振って見せました。
事態が大き過ぎて、イザッコ様とファータの浮気の件などどうでも良くなってしまったのもありますが、ファータの甘言に溺れてイザッコ様と向き合う努力から逃げていた私にも問題があったのです。
ただ待っているだけの壁の花令嬢はもう卒業します、という気持ちで微笑むと、オルランド様はなぜかお顔を真っ赤にされて、私から視線を逸らしました。お父様は理由がわかっているのか、なんだかニヤニヤしています。
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