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第五話 賞金首ですわ!
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三年前の事件で、お母様が王都にあるウリャフト伯爵邸へ連れ込んだ情夫に殺されたと噂されているのは、その日伯爵邸で見知らぬ男が目撃されていたからです。
そして一番怪しい父と愛人親娘はべつの場所にいました。
無関係の人間が貴族の家に入り込むのは難しいことです。強盗団は新人メイドなどを誑かして引き込み役にします。
トゥリホマス様と数人の王国騎士団の騎士様が連れてきたのは、父と同じ年ごろのやつれ果てた男性でした。
あの事件のとき我が家で目撃された男の似顔絵に似ている気もしますが、もっと最近どこかで見たことのある顔のような気がしました。
これまで紅蜘蛛会に匿われていたという賞金首の男性は、愛人とメイド長を順番に見つめて口を開きました。
「……俺は、この家の奥方様を殺した男です。そして、そこの女の亭主です。あのとき家に入れてくれたのは、そこのメイドさんでした」
「な、なに言ってるのよ! そんなことだれも信じるわけないでしょ!」
「……」
指差されて荒ぶる愛人と対照的に、メイド長は青い顔で俯いています。
「調べてもらえばわかります。神殿で式こそ挙げていませんが、下町で親子三人仲良く暮らしていたのを近所の人が覚えているでしょう。もっとも俺は職人として各地に呼び出されていたので、俺がいない間に通っていた人のほうが記憶されてるかもしれませんけど」
「煩い煩いっ! 黙れぇーっ!」
男の瞳は愛人親娘やメイド長とは違って欲望に満ちてはいません。
間違って犯した犯罪を今も悔やみ続けている人間の絶望に沈んだ瞳です。
彼はどうして罪を償わず逃げていたのでしょうか。
騎士様達がさりげなく騒ぎそうな人間の近くに移動しています。
愛人は叫ぶのをやめました。
そもそもまだ証拠が出てきたわけでもないのに、なぜあんなに……私は男がアポティヒアにそっくりなことに気づきました。だから父は黙っているのでしょう。
父と男とアポティヒアは髪と瞳の色が同じです。
でも三人を見比べれば、どのふたりが血縁関係なのかはすぐにわかります。
アポティヒアも沈黙していますが、その瞳は憤怒に燃えています。イリスィオ様は不安げな顔でアポティヒアの隣から離れたそうに身をよじっていました。でもアポティヒアの指はイリスィオ様の腕から離れません。
「……考えてみると、俺はそちらの旦那さんと同じ色の髪と瞳を持っていたから選ばれたんでしょうね。とにかく子どもを作って、旦那さんの種だと思わせるために。俺が各地に呼び出される種類の職人だったのも良かったんだろうなあ。いなくなっても仕事に出てると言えば、だれも怪しまない」
男は、妻のところへ父が通っていることに気づいていなかったそうです。
父も仕事でいない男の影に気づくこともなく、愛人の家へ通っていました。
そして三年前、私と同い年のアポティヒアが十五歳になったとき、男は妻に言われたのだそうです。男と会う前に付き合っていた貴族の奥方に殺されそうになっている、だから自分や娘が殺される前に向こうを殺してきてくれ、と。
「人殺しなんか出来るわけないじゃないですか! 俺はそれなら引っ越そうって言ったんです。でもアイツはどうしても聞かなくて。毎日毎日殺してくれの一点張りなんです。娘にもこのままじゃ結婚も出来ないと泣きつかれて、相手になにをされたのかもよくわからないまま、俺は奥方様を殺すことになってしまったんです」
メイド長は横領をしていました。
お母様は近日中に暇を出すおつもりだったようです。
父からそれらの事情を聞いていた愛人は、買い物に出ていたメイド長と接触し、男を伯爵邸へ引き入れてくれたら後妻に入ってから重用すると約束をしました。だからメイド長は最初から愛人親娘に懐いていた……逆らえなかったのですね。
「奥方様は人殺しが家の中にいるなんて思ってもいなかったし、男と女では力の差があります。殺人自体は驚くほど簡単に終わって、家を出た俺は青百足会のならず者に襲われました。襲ってきたのが青百足会とわかったのは、紅蜘蛛会に助けられたからです」
紅蜘蛛会は青百足会の下っ端が動いているのを知って、抗争の前触れかと思って見張っていました。
実際は青百足会の補佐は自分の妾達を貴族に近づけて子どもを作らせ、貴族家を乗っ取ろうと企んでいたようです。それで適当な理由をつけて下っ端に貴族街をうろつかせていたとか。
乗っ取るといっても本人が貴族になりたがっていたわけではなく、最終的には貴族家の資産と権力を利用して青百足会の長を追い落として下克上をするという計画でした。貴族家乗っ取りは目的のための道具に過ぎなかったのです。
それらのことは、男の告白の合間にトゥリホマス様が補足してくださいました。
「俺を殺して奥方様との心中に見せかけるつもりだったんじゃないですかね? そうでなくても犯人がいなくなれば真実も見えなくなる。それから俺は指名手配にされてることよりも、青百足会の追っ手から逃げるために紅蜘蛛会で……職人としての腕を使って贋作を作らされたりしてました」
紅蜘蛛会は情に厚いと言われているけれど、裏社会の犯罪組織であることに変わりはありません。裏社会とは関わらないのが一番ですよね、お母様。
そして一番怪しい父と愛人親娘はべつの場所にいました。
無関係の人間が貴族の家に入り込むのは難しいことです。強盗団は新人メイドなどを誑かして引き込み役にします。
トゥリホマス様と数人の王国騎士団の騎士様が連れてきたのは、父と同じ年ごろのやつれ果てた男性でした。
あの事件のとき我が家で目撃された男の似顔絵に似ている気もしますが、もっと最近どこかで見たことのある顔のような気がしました。
これまで紅蜘蛛会に匿われていたという賞金首の男性は、愛人とメイド長を順番に見つめて口を開きました。
「……俺は、この家の奥方様を殺した男です。そして、そこの女の亭主です。あのとき家に入れてくれたのは、そこのメイドさんでした」
「な、なに言ってるのよ! そんなことだれも信じるわけないでしょ!」
「……」
指差されて荒ぶる愛人と対照的に、メイド長は青い顔で俯いています。
「調べてもらえばわかります。神殿で式こそ挙げていませんが、下町で親子三人仲良く暮らしていたのを近所の人が覚えているでしょう。もっとも俺は職人として各地に呼び出されていたので、俺がいない間に通っていた人のほうが記憶されてるかもしれませんけど」
「煩い煩いっ! 黙れぇーっ!」
男の瞳は愛人親娘やメイド長とは違って欲望に満ちてはいません。
間違って犯した犯罪を今も悔やみ続けている人間の絶望に沈んだ瞳です。
彼はどうして罪を償わず逃げていたのでしょうか。
騎士様達がさりげなく騒ぎそうな人間の近くに移動しています。
愛人は叫ぶのをやめました。
そもそもまだ証拠が出てきたわけでもないのに、なぜあんなに……私は男がアポティヒアにそっくりなことに気づきました。だから父は黙っているのでしょう。
父と男とアポティヒアは髪と瞳の色が同じです。
でも三人を見比べれば、どのふたりが血縁関係なのかはすぐにわかります。
アポティヒアも沈黙していますが、その瞳は憤怒に燃えています。イリスィオ様は不安げな顔でアポティヒアの隣から離れたそうに身をよじっていました。でもアポティヒアの指はイリスィオ様の腕から離れません。
「……考えてみると、俺はそちらの旦那さんと同じ色の髪と瞳を持っていたから選ばれたんでしょうね。とにかく子どもを作って、旦那さんの種だと思わせるために。俺が各地に呼び出される種類の職人だったのも良かったんだろうなあ。いなくなっても仕事に出てると言えば、だれも怪しまない」
男は、妻のところへ父が通っていることに気づいていなかったそうです。
父も仕事でいない男の影に気づくこともなく、愛人の家へ通っていました。
そして三年前、私と同い年のアポティヒアが十五歳になったとき、男は妻に言われたのだそうです。男と会う前に付き合っていた貴族の奥方に殺されそうになっている、だから自分や娘が殺される前に向こうを殺してきてくれ、と。
「人殺しなんか出来るわけないじゃないですか! 俺はそれなら引っ越そうって言ったんです。でもアイツはどうしても聞かなくて。毎日毎日殺してくれの一点張りなんです。娘にもこのままじゃ結婚も出来ないと泣きつかれて、相手になにをされたのかもよくわからないまま、俺は奥方様を殺すことになってしまったんです」
メイド長は横領をしていました。
お母様は近日中に暇を出すおつもりだったようです。
父からそれらの事情を聞いていた愛人は、買い物に出ていたメイド長と接触し、男を伯爵邸へ引き入れてくれたら後妻に入ってから重用すると約束をしました。だからメイド長は最初から愛人親娘に懐いていた……逆らえなかったのですね。
「奥方様は人殺しが家の中にいるなんて思ってもいなかったし、男と女では力の差があります。殺人自体は驚くほど簡単に終わって、家を出た俺は青百足会のならず者に襲われました。襲ってきたのが青百足会とわかったのは、紅蜘蛛会に助けられたからです」
紅蜘蛛会は青百足会の下っ端が動いているのを知って、抗争の前触れかと思って見張っていました。
実際は青百足会の補佐は自分の妾達を貴族に近づけて子どもを作らせ、貴族家を乗っ取ろうと企んでいたようです。それで適当な理由をつけて下っ端に貴族街をうろつかせていたとか。
乗っ取るといっても本人が貴族になりたがっていたわけではなく、最終的には貴族家の資産と権力を利用して青百足会の長を追い落として下克上をするという計画でした。貴族家乗っ取りは目的のための道具に過ぎなかったのです。
それらのことは、男の告白の合間にトゥリホマス様が補足してくださいました。
「俺を殺して奥方様との心中に見せかけるつもりだったんじゃないですかね? そうでなくても犯人がいなくなれば真実も見えなくなる。それから俺は指名手配にされてることよりも、青百足会の追っ手から逃げるために紅蜘蛛会で……職人としての腕を使って贋作を作らされたりしてました」
紅蜘蛛会は情に厚いと言われているけれど、裏社会の犯罪組織であることに変わりはありません。裏社会とは関わらないのが一番ですよね、お母様。
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