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第十三話 運命の恋じゃない<二度目の公爵令息>
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マルクス王太子殿下は話の途中で僕を突き飛ばし、走り出した。
おそらくプロスティトゥタが死んだことと、殺したのがジルベルト伯爵家の次男カルロスだということくらいしか聞いてくれてない。
慌てて追いかけて王都にあるガレアーノ侯爵邸へ辿り着いたときは、すべてが終わっていた。そこには、この王国の守護女神が宿るという宝剣を胸に突き立てて事切れている殿下と──
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
吐き気を催すほど不快な悪夢から目を覚ます。
自分の手足が妙に小さい気がするけれど、今はそんなことはどうでも良い。
夢の内容を思い出すんだ。あれは大事なことだった。忘れてはいけないことだった。なのに、なのに、
「思い出せない……」
泣きじゃくる僕に驚いたメイドが母を呼んできて、嬉しそうな顔をした母に尋ねられた。
「ミゲルの泣き顔を見るのは何年振りかしら。どうしたの? 怖い夢でも見たの?」
「見ました。怖い怖い夢を。でも思い出さなくちゃいけないのです。思い出して防がないといけないことなのです。だって、だって……」
大事なことだったのはわかっているのに、どうしても夢の内容が思い出せない。
母が優しく僕を抱き締める。
「大丈夫よ、ミゲル。その夢の内容が大事なことならば、きっといつか思い出すわ。今思い出せないのは今すぐには必要ないことだからよ」
「そうでしょうか?」
「そうよ、きっと。……ところでマルクス殿下の十歳の誕生パーティはどうする? 夢見が悪くて疲れているのなら欠席しても良いのよ?」
「そういうわけにはいきません。王太子殿下の……いえ、未来の王太子殿下になられるかもしれない方の誕生パーティなのですから」
「そうね。三人の王子様方は皆様王妃殿下のお子様だし、年齢も近く能力に大きな差異もないと言われているわ。王子様方の婚約者がどなたになるかが問題ね」
婚約者の実家は、そのまま王子殿下方の後ろ盾となる。
個人の能力に大きな違いがなければ、後ろ盾の大きさが王子殿下方の価値を決めることだろう。
王家の遠戚である我が家、グスマン公爵家にも他人事ではない。
僕はマルクス殿下の誕生パーティへ行くことを決め、涙を拭って服を着替えた。
先ほどマルクス殿下が王太子になると確信していた自分に疑問を抱きながら。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そして、王宮の中庭で開催されたパーティ会場で僕は出会った。
ガレアーノ侯爵家のロゼット嬢と。
出会ったというのは妥当な言葉ではないかもしれない。まだ挨拶もしていない。
彼女は会場の片隅で、青い顔をして俯いていた。
気分でも悪いのだろうか。胸がざわめく。
僕は近くのテーブルから飲み物を取って、彼女のところへ行った。
「……初めまして、僕はグスマン公爵家のミゲルです。体調が悪いのでしたら、少し唇を潤してみてはいかがでしょう」
「ありがとうございます」
僕から受け取った飲み物に口をつけ、彼女は飲んだ。
緊張で喉が渇いていたのかもしれない
渡した杯を飲み干して、彼女が僕に微笑む。
その瞬間わかった。いや、わかるというよりも落ちたのかもしれない。
僕は彼女が好きだ。
思い出せない夢の中の大事な存在は彼女だ。
あの夢が悪夢だったのは、夢の中の僕が彼女を喪ってしまったからだ。もう嫌だ。二度と喪いたくない。僕は彼女を愛している。彼女にとってはそうでなかったとしても、僕にとっては彼女こそが運命の恋の相手だ。
マルクス殿下に儀礼的な挨拶だけ済ませて、僕と彼女はパーティの間中話し続けた。
僕が一方的に話しかけたともいう。
パーティが終わって王都のグスマン公爵邸へ戻った僕は両親に、ガレアーノ侯爵家のロゼット嬢との婚約を結んで欲しいと頼んだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ミゲル様」
この国の貴族子女が通う学園の入学式が終わって講堂を出た僕に、同じように講堂から出てきたロゼットが声をかけてくれた。
振り返って微笑む。
彼女が笑顔を返してくれる。光り輝くような笑顔だ。
「学園へようこそ、ロゼット。馬車のところまで送ろうか」
伸ばした手に、そっと自分の手を重ねてロゼットが首を傾げる。
「どうしたの?」
「ミゲル様は生徒会役員ではないのですね」
「うん。王族が在籍しているときは、その王族が生徒会長を務めるのがこの学園の慣例だけど、僕は王家の遠戚といってもかなり前に分かれた公爵家の人間だし、マルクス殿下の側近候補でもないからね」
本当は一度誘われたのだけど、ロゼットが入学してきた後で時間を自由に使いたかったので断った。
だって今でも感じるんだ。ロゼットの本当の運命の恋の相手は僕じゃないって。
でもだからって彼女を諦めるつもりはない。
ロゼットの手を握り締めて、僕は歩き始める。
「うちの馬車か君の馬車で、おしゃべりしながら帰ろうか」
「はい」
運命の恋じゃなくても、今のロゼットは僕を慕ってくれている。
だからこそ、この想いを本当の運命にするために、僕は彼女と生きていく。二度と……夢の中でも喪ったりしない。
光り輝くような笑顔で見つめてくれる、僕の大事な大事な婚約者。
おそらくプロスティトゥタが死んだことと、殺したのがジルベルト伯爵家の次男カルロスだということくらいしか聞いてくれてない。
慌てて追いかけて王都にあるガレアーノ侯爵邸へ辿り着いたときは、すべてが終わっていた。そこには、この王国の守護女神が宿るという宝剣を胸に突き立てて事切れている殿下と──
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
吐き気を催すほど不快な悪夢から目を覚ます。
自分の手足が妙に小さい気がするけれど、今はそんなことはどうでも良い。
夢の内容を思い出すんだ。あれは大事なことだった。忘れてはいけないことだった。なのに、なのに、
「思い出せない……」
泣きじゃくる僕に驚いたメイドが母を呼んできて、嬉しそうな顔をした母に尋ねられた。
「ミゲルの泣き顔を見るのは何年振りかしら。どうしたの? 怖い夢でも見たの?」
「見ました。怖い怖い夢を。でも思い出さなくちゃいけないのです。思い出して防がないといけないことなのです。だって、だって……」
大事なことだったのはわかっているのに、どうしても夢の内容が思い出せない。
母が優しく僕を抱き締める。
「大丈夫よ、ミゲル。その夢の内容が大事なことならば、きっといつか思い出すわ。今思い出せないのは今すぐには必要ないことだからよ」
「そうでしょうか?」
「そうよ、きっと。……ところでマルクス殿下の十歳の誕生パーティはどうする? 夢見が悪くて疲れているのなら欠席しても良いのよ?」
「そういうわけにはいきません。王太子殿下の……いえ、未来の王太子殿下になられるかもしれない方の誕生パーティなのですから」
「そうね。三人の王子様方は皆様王妃殿下のお子様だし、年齢も近く能力に大きな差異もないと言われているわ。王子様方の婚約者がどなたになるかが問題ね」
婚約者の実家は、そのまま王子殿下方の後ろ盾となる。
個人の能力に大きな違いがなければ、後ろ盾の大きさが王子殿下方の価値を決めることだろう。
王家の遠戚である我が家、グスマン公爵家にも他人事ではない。
僕はマルクス殿下の誕生パーティへ行くことを決め、涙を拭って服を着替えた。
先ほどマルクス殿下が王太子になると確信していた自分に疑問を抱きながら。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そして、王宮の中庭で開催されたパーティ会場で僕は出会った。
ガレアーノ侯爵家のロゼット嬢と。
出会ったというのは妥当な言葉ではないかもしれない。まだ挨拶もしていない。
彼女は会場の片隅で、青い顔をして俯いていた。
気分でも悪いのだろうか。胸がざわめく。
僕は近くのテーブルから飲み物を取って、彼女のところへ行った。
「……初めまして、僕はグスマン公爵家のミゲルです。体調が悪いのでしたら、少し唇を潤してみてはいかがでしょう」
「ありがとうございます」
僕から受け取った飲み物に口をつけ、彼女は飲んだ。
緊張で喉が渇いていたのかもしれない
渡した杯を飲み干して、彼女が僕に微笑む。
その瞬間わかった。いや、わかるというよりも落ちたのかもしれない。
僕は彼女が好きだ。
思い出せない夢の中の大事な存在は彼女だ。
あの夢が悪夢だったのは、夢の中の僕が彼女を喪ってしまったからだ。もう嫌だ。二度と喪いたくない。僕は彼女を愛している。彼女にとってはそうでなかったとしても、僕にとっては彼女こそが運命の恋の相手だ。
マルクス殿下に儀礼的な挨拶だけ済ませて、僕と彼女はパーティの間中話し続けた。
僕が一方的に話しかけたともいう。
パーティが終わって王都のグスマン公爵邸へ戻った僕は両親に、ガレアーノ侯爵家のロゼット嬢との婚約を結んで欲しいと頼んだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ミゲル様」
この国の貴族子女が通う学園の入学式が終わって講堂を出た僕に、同じように講堂から出てきたロゼットが声をかけてくれた。
振り返って微笑む。
彼女が笑顔を返してくれる。光り輝くような笑顔だ。
「学園へようこそ、ロゼット。馬車のところまで送ろうか」
伸ばした手に、そっと自分の手を重ねてロゼットが首を傾げる。
「どうしたの?」
「ミゲル様は生徒会役員ではないのですね」
「うん。王族が在籍しているときは、その王族が生徒会長を務めるのがこの学園の慣例だけど、僕は王家の遠戚といってもかなり前に分かれた公爵家の人間だし、マルクス殿下の側近候補でもないからね」
本当は一度誘われたのだけど、ロゼットが入学してきた後で時間を自由に使いたかったので断った。
だって今でも感じるんだ。ロゼットの本当の運命の恋の相手は僕じゃないって。
でもだからって彼女を諦めるつもりはない。
ロゼットの手を握り締めて、僕は歩き始める。
「うちの馬車か君の馬車で、おしゃべりしながら帰ろうか」
「はい」
運命の恋じゃなくても、今のロゼットは僕を慕ってくれている。
だからこそ、この想いを本当の運命にするために、僕は彼女と生きていく。二度と……夢の中でも喪ったりしない。
光り輝くような笑顔で見つめてくれる、僕の大事な大事な婚約者。
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