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第十四話 運命の恋は一度だけ<二度目の王子>
この国の貴族子女が通う学園では、そのとき在籍している王族が生徒会長を務めるという慣例がある。
私は舞台で挨拶をしながら、講堂に集まった人間の顔を見回した。
今日は入学式なのだ。ひとつ年下の新入生の中に見覚えのある顔を見つける。
──ガレアーノ侯爵令嬢ロゼット。時間が戻る前の私の婚約者。
彼女と婚約しなかった私は、今も王太子には選ばれていない。
ガレアーノ侯爵家の後ろ盾がないせいもあるだろうし、王子として任されている公務で目覚ましい結果を見せていないからもあるだろう。
どうしても考えてしまうのだ。こんなことをしても焼け石に水だ、大河を整備すればすべてが一気に良いほうへと向かうはずなのに、と。
前のときも大河整備の結果は、少しずつ出始めていたところだったのに。
自分が興して、ガレアーノ侯爵家の財力を利用して押し進めた大事業を放り出してまで、時間を遡ることを望んだのは私自身なのに。
プロスティトゥタの事件については、自分でも調べて納得している。
彼女はそういう人間だったのだ。
異母姉の婚約者に執着されているとか、私の婚約者に殺意を向けられているとかいう嘘をついて──演技をして、他人を騙して操り誘導することに長けていたのだ。
他人の事件だったなら、騙された人間が悪いとまでは言わない。
しかしプロスティトゥタの件に関しては、騙された私と男爵が愚かだったと言うしかない。
不貞をしている罪悪感から目を逸らすために、彼女の演技に酔いしれたのは自分達だ。
結局のところ、ロゼットは権力目当てで私に近寄って来たのではなかったのだと思う。
彼女は、彼女なりの理由で、本当に私を愛してくれていたのだ。
王宮ですれ違うときに、婚約者同士の定例茶会で会話したときに、彼女が浮かべていた笑顔は眩しいほどに光り輝いていた。私の心が曇っていたから、それに気づいていなかっただけなのだ。
このままでは弟達のどちらかが王太子になるに違いない。
私には後ろ盾になってくれる婚約者はいないし、大した結果も残していないから今後後ろ盾になりたいという貴族家も現れないと思われる。
現れたとしても、王家と縁続きになれば得をすると勘違いしている低位貴族くらいだろう。あのプロスティトゥタの父親だと思い込まされていた男爵のような。
弟達は、どちらが未来の王となっても、父王と母上には王都から出て離宮で隠遁してもらうつもりだと言っていた。
確かに近くにいたら母上が口出しをしてきそうだ。父王は母上を止めてくれないし、いるだけで母上の後ろ盾になってしまう。
今も弟達は婚約者のことで母上と言い争いが絶えない。
弟達の力になりたいと思っているのだが、私は母上への対応がわからない。
前のときはなにをやっても褒め称えてくれる母上に誘導されるまま、ロゼットの悪口を言って良い気分になっていた。
自分の口から言うことで、私は母上の望み通りにロゼットのことを誤解していったのだろう。母上もまたそういう人間だったということだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
入学式が終わり、講堂を出た。
まだ生徒会室で仕事が残っている。ミゲルが側近候補だった前のときは、大河の整備事業で多忙だったにもかかわらず、もっと手際よく仕事を終えられていた気がする。
今回のミゲルは側近候補ではなく、生徒会に誘っても断られてしまった。
視界の隅に、手をつないで歩いているミゲルとロゼットの姿が過ぎった。
ロゼットは光り輝くような笑顔を浮かべている。
今の彼女はミゲルを愛しているのだ。
今回の十歳の誕生パーティのとき、彼女は自分より身分の高い男なら、だれでも良いのかもしれない、などと失礼なことを思ったけれど、そうではない。
ロゼットはちゃんと相手を見て、好きになっているのだ。
ミゲルは、前の私とは比べものにならないほど婚約者の彼女を大切にしている。
運命の恋を手に入れるための機会はきっと一度しか巡ってこない。
どんなに愛しても愛されても、その機会を逃せば失ってしまうのだ。
守護女神様が愚かな私の願いを叶えて時間を戻してくださったのは、たぶんプロスティトゥタを救わせるためではない。愚かな私を王にせず、この国を守るためだったのだろう。
……運命の恋は一度だけ。
ロゼットに愛されていたことに今さら気づいても、彼女は私に微笑まない。
私が自分で捨ててしまったのだ、彼女の笑顔を。
私は舞台で挨拶をしながら、講堂に集まった人間の顔を見回した。
今日は入学式なのだ。ひとつ年下の新入生の中に見覚えのある顔を見つける。
──ガレアーノ侯爵令嬢ロゼット。時間が戻る前の私の婚約者。
彼女と婚約しなかった私は、今も王太子には選ばれていない。
ガレアーノ侯爵家の後ろ盾がないせいもあるだろうし、王子として任されている公務で目覚ましい結果を見せていないからもあるだろう。
どうしても考えてしまうのだ。こんなことをしても焼け石に水だ、大河を整備すればすべてが一気に良いほうへと向かうはずなのに、と。
前のときも大河整備の結果は、少しずつ出始めていたところだったのに。
自分が興して、ガレアーノ侯爵家の財力を利用して押し進めた大事業を放り出してまで、時間を遡ることを望んだのは私自身なのに。
プロスティトゥタの事件については、自分でも調べて納得している。
彼女はそういう人間だったのだ。
異母姉の婚約者に執着されているとか、私の婚約者に殺意を向けられているとかいう嘘をついて──演技をして、他人を騙して操り誘導することに長けていたのだ。
他人の事件だったなら、騙された人間が悪いとまでは言わない。
しかしプロスティトゥタの件に関しては、騙された私と男爵が愚かだったと言うしかない。
不貞をしている罪悪感から目を逸らすために、彼女の演技に酔いしれたのは自分達だ。
結局のところ、ロゼットは権力目当てで私に近寄って来たのではなかったのだと思う。
彼女は、彼女なりの理由で、本当に私を愛してくれていたのだ。
王宮ですれ違うときに、婚約者同士の定例茶会で会話したときに、彼女が浮かべていた笑顔は眩しいほどに光り輝いていた。私の心が曇っていたから、それに気づいていなかっただけなのだ。
このままでは弟達のどちらかが王太子になるに違いない。
私には後ろ盾になってくれる婚約者はいないし、大した結果も残していないから今後後ろ盾になりたいという貴族家も現れないと思われる。
現れたとしても、王家と縁続きになれば得をすると勘違いしている低位貴族くらいだろう。あのプロスティトゥタの父親だと思い込まされていた男爵のような。
弟達は、どちらが未来の王となっても、父王と母上には王都から出て離宮で隠遁してもらうつもりだと言っていた。
確かに近くにいたら母上が口出しをしてきそうだ。父王は母上を止めてくれないし、いるだけで母上の後ろ盾になってしまう。
今も弟達は婚約者のことで母上と言い争いが絶えない。
弟達の力になりたいと思っているのだが、私は母上への対応がわからない。
前のときはなにをやっても褒め称えてくれる母上に誘導されるまま、ロゼットの悪口を言って良い気分になっていた。
自分の口から言うことで、私は母上の望み通りにロゼットのことを誤解していったのだろう。母上もまたそういう人間だったということだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
入学式が終わり、講堂を出た。
まだ生徒会室で仕事が残っている。ミゲルが側近候補だった前のときは、大河の整備事業で多忙だったにもかかわらず、もっと手際よく仕事を終えられていた気がする。
今回のミゲルは側近候補ではなく、生徒会に誘っても断られてしまった。
視界の隅に、手をつないで歩いているミゲルとロゼットの姿が過ぎった。
ロゼットは光り輝くような笑顔を浮かべている。
今の彼女はミゲルを愛しているのだ。
今回の十歳の誕生パーティのとき、彼女は自分より身分の高い男なら、だれでも良いのかもしれない、などと失礼なことを思ったけれど、そうではない。
ロゼットはちゃんと相手を見て、好きになっているのだ。
ミゲルは、前の私とは比べものにならないほど婚約者の彼女を大切にしている。
運命の恋を手に入れるための機会はきっと一度しか巡ってこない。
どんなに愛しても愛されても、その機会を逃せば失ってしまうのだ。
守護女神様が愚かな私の願いを叶えて時間を戻してくださったのは、たぶんプロスティトゥタを救わせるためではない。愚かな私を王にせず、この国を守るためだったのだろう。
……運命の恋は一度だけ。
ロゼットに愛されていたことに今さら気づいても、彼女は私に微笑まない。
私が自分で捨ててしまったのだ、彼女の笑顔を。
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