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第十二話 運命の恋を失って<一度目の公爵令息>
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僕は昔から無表情で無感情、子どもらしい可愛らしさがないとよく言われていた。
親バカの両親は、
「ミゲルは優秀過ぎるから、なにもかもが簡単でやり甲斐がないのかなあ」
「人には人の速度があるのだから、ほかの人よりなんでも早く出来るからって罪悪感を持ったりしなくてもいいのよ?」
なんて言っていたけれど、僕の無表情無感情の理由はそんなことじゃない。
……失恋をしたからだ。
まあ、前から感情表現が下手だったのは確かだ。でも本格的に感情を表に出せなくなったのは失恋のせいだ。
失恋の相手はガレアーノ侯爵家のロゼット嬢。
マルクス殿下の十歳の誕生パーティで出会った。
殿下に挨拶していたときの光り輝くような笑顔を見て好きになった。
そして、同時に失恋した。
彼女の笑顔が光り輝いていたのは、マルクス殿下に恋をしたからだと気づいたからだ。
好きになったからこそ、彼女の気持ちがわかったのだ。
それから、この国の貴族子女が通う学園に入学するまで彼女と会わないでいられたら、失恋の傷も癒えていったかもしれない。
けれど僕はマルクス殿下の側近候補に選ばれてしまった。
この王国を流れる大河を整備するという大事業をおこなう殿下には、優秀な側近が必要だからと抜擢されたのだ。学園を卒業するまでは候補でしかないが、かなり大きな権限も与えられた。
妃教育を受けるために王宮へ通っているロゼット嬢とすれ違うとき、マルクス殿下との定例茶会に付き添っているとき、僕は彼女を瞳に映すたびに恋をした。
そして彼女が王妃殿下の厳しい妃教育に耐えているのも、定例茶会で満面に笑みを浮かべているのもマルクス殿下に恋しているからだと気づいて、そのたびに失恋する。
無表情無感情にならざるを得ない。殿下の側近候補としての仮面を被るしかない。
ロゼット嬢が悪いわけじゃない。
もちろんマルクス殿下も悪くない。
人生なんてそんなものなんだ。
僕の運命の恋の相手はロゼット嬢だったけど、ロゼット嬢の運命の恋の相手はマルクス殿下だった。
それだけのこと。
せめてロゼット嬢にはいつも笑顔でいて欲しくて、なぜか彼女に冷たいマルクス殿下に口煩く忠告した。
──婚約者なのですから、ロゼット嬢にはいつも笑顔で接してください。
殿下が彼女に冷たく当たっていたら、王家とガレアーノ侯爵家の間に溝があると思われて、大河の整備事業にも支障が出ますよ。
王妃殿下もいろいろなお考えをお持ちだと思いますが、王妃殿下によるロゼット嬢の評価が絶対ではありません。殿下のお目でご確認くださいませ。
言いながら、心の中では泣き叫んでいた。
──どうして彼女を見ただけで笑顔になれないんですか?
僕は頬が緩むのを必死で堪えて、殿下の側近候補としての仮面を被っているのに。殿下の側近候補に過ぎない僕が、殿下の婚約者である彼女を愛していると知られてはいけないから。
彼女が頑張っているのは殿下のためなのに、彼女を本当の笑顔に出来るのは殿下だけなのに、どうして王妃殿下のお言葉だけを信じて彼女を見ようとしないんですか?
同い年の僕とマルクス殿下が学園に入学して、状況はさらに悪化した。
殿下に恋人が出来たのだ。彼は彼女こそが自分の運命の恋の相手だという。
マルクス殿下にもプロスティトゥタという名前のその男爵令嬢にも、婚約者がいるというのに。
窘めて忠告して諫言して、国王陛下や王妃殿下に報告してもマルクス殿下はご自身の行動を改めなかった。
殿下とロゼット嬢の婚約がガレアーノ侯爵家の財力目当てだという自覚がある国王陛下ご夫妻にいたっては、学園の間だけでも好きなようにさせてやりたい、なんて言い出す始末だ。
僕に出来るのは殿下の側近候補を続けて、殿下と男爵令嬢が一線を越えないよう見張ることくらいだった。
やがて、娘が王太子殿下の婚約者になれるかもしれないと欲を出した男爵が、令嬢の婚約を解消した。
もちろん国王陛下ご夫妻がガレアーノ侯爵家の財力を手放すはずがない。
マルクス殿下はロゼット嬢のせいだと思っていたようだが、殿下と侯爵令嬢の婚約解消を阻んでいたのは王家のほうで、令嬢への冷遇を知っていたガレアーノ侯爵は積極的に婚約解消を押し進めようとしていた。
僕はどうしたら良いのかわからないでいた。
ロゼット嬢の婚約が解消されたら自分にも好機が巡ってくるんじゃないか、なんて思う浅ましい心と、ロゼット嬢はまだマルクス殿下が好きなのだから婚約していたほうが幸せなんじゃないか、と思い悩む心が胸の中で渦巻き争っていた。
そして僕が答えを出す前に、その日がやって来た。
男爵令嬢が元婚約者に殺されたのだ。
状況を確認して、僕は心から安堵した。
男爵令嬢は屑だった。そもそも男爵令嬢ですらなかった。真実を知れば、殿下のお心はプロスティトゥタから離れるだろう。
遅くない。きっとまだ遅くない。
マルクス殿下はロゼット嬢の良さに気づいてくれるに違いない。きっと彼女を本当の笑顔にしてくれる。ふたりこそが運命の恋の相手同士なのだ。
僕はそんなふたりを見守っていければいい。
そんな風に思って、僕は殿下にプロスティトゥタの死の事情を説明したのだが──
親バカの両親は、
「ミゲルは優秀過ぎるから、なにもかもが簡単でやり甲斐がないのかなあ」
「人には人の速度があるのだから、ほかの人よりなんでも早く出来るからって罪悪感を持ったりしなくてもいいのよ?」
なんて言っていたけれど、僕の無表情無感情の理由はそんなことじゃない。
……失恋をしたからだ。
まあ、前から感情表現が下手だったのは確かだ。でも本格的に感情を表に出せなくなったのは失恋のせいだ。
失恋の相手はガレアーノ侯爵家のロゼット嬢。
マルクス殿下の十歳の誕生パーティで出会った。
殿下に挨拶していたときの光り輝くような笑顔を見て好きになった。
そして、同時に失恋した。
彼女の笑顔が光り輝いていたのは、マルクス殿下に恋をしたからだと気づいたからだ。
好きになったからこそ、彼女の気持ちがわかったのだ。
それから、この国の貴族子女が通う学園に入学するまで彼女と会わないでいられたら、失恋の傷も癒えていったかもしれない。
けれど僕はマルクス殿下の側近候補に選ばれてしまった。
この王国を流れる大河を整備するという大事業をおこなう殿下には、優秀な側近が必要だからと抜擢されたのだ。学園を卒業するまでは候補でしかないが、かなり大きな権限も与えられた。
妃教育を受けるために王宮へ通っているロゼット嬢とすれ違うとき、マルクス殿下との定例茶会に付き添っているとき、僕は彼女を瞳に映すたびに恋をした。
そして彼女が王妃殿下の厳しい妃教育に耐えているのも、定例茶会で満面に笑みを浮かべているのもマルクス殿下に恋しているからだと気づいて、そのたびに失恋する。
無表情無感情にならざるを得ない。殿下の側近候補としての仮面を被るしかない。
ロゼット嬢が悪いわけじゃない。
もちろんマルクス殿下も悪くない。
人生なんてそんなものなんだ。
僕の運命の恋の相手はロゼット嬢だったけど、ロゼット嬢の運命の恋の相手はマルクス殿下だった。
それだけのこと。
せめてロゼット嬢にはいつも笑顔でいて欲しくて、なぜか彼女に冷たいマルクス殿下に口煩く忠告した。
──婚約者なのですから、ロゼット嬢にはいつも笑顔で接してください。
殿下が彼女に冷たく当たっていたら、王家とガレアーノ侯爵家の間に溝があると思われて、大河の整備事業にも支障が出ますよ。
王妃殿下もいろいろなお考えをお持ちだと思いますが、王妃殿下によるロゼット嬢の評価が絶対ではありません。殿下のお目でご確認くださいませ。
言いながら、心の中では泣き叫んでいた。
──どうして彼女を見ただけで笑顔になれないんですか?
僕は頬が緩むのを必死で堪えて、殿下の側近候補としての仮面を被っているのに。殿下の側近候補に過ぎない僕が、殿下の婚約者である彼女を愛していると知られてはいけないから。
彼女が頑張っているのは殿下のためなのに、彼女を本当の笑顔に出来るのは殿下だけなのに、どうして王妃殿下のお言葉だけを信じて彼女を見ようとしないんですか?
同い年の僕とマルクス殿下が学園に入学して、状況はさらに悪化した。
殿下に恋人が出来たのだ。彼は彼女こそが自分の運命の恋の相手だという。
マルクス殿下にもプロスティトゥタという名前のその男爵令嬢にも、婚約者がいるというのに。
窘めて忠告して諫言して、国王陛下や王妃殿下に報告してもマルクス殿下はご自身の行動を改めなかった。
殿下とロゼット嬢の婚約がガレアーノ侯爵家の財力目当てだという自覚がある国王陛下ご夫妻にいたっては、学園の間だけでも好きなようにさせてやりたい、なんて言い出す始末だ。
僕に出来るのは殿下の側近候補を続けて、殿下と男爵令嬢が一線を越えないよう見張ることくらいだった。
やがて、娘が王太子殿下の婚約者になれるかもしれないと欲を出した男爵が、令嬢の婚約を解消した。
もちろん国王陛下ご夫妻がガレアーノ侯爵家の財力を手放すはずがない。
マルクス殿下はロゼット嬢のせいだと思っていたようだが、殿下と侯爵令嬢の婚約解消を阻んでいたのは王家のほうで、令嬢への冷遇を知っていたガレアーノ侯爵は積極的に婚約解消を押し進めようとしていた。
僕はどうしたら良いのかわからないでいた。
ロゼット嬢の婚約が解消されたら自分にも好機が巡ってくるんじゃないか、なんて思う浅ましい心と、ロゼット嬢はまだマルクス殿下が好きなのだから婚約していたほうが幸せなんじゃないか、と思い悩む心が胸の中で渦巻き争っていた。
そして僕が答えを出す前に、その日がやって来た。
男爵令嬢が元婚約者に殺されたのだ。
状況を確認して、僕は心から安堵した。
男爵令嬢は屑だった。そもそも男爵令嬢ですらなかった。真実を知れば、殿下のお心はプロスティトゥタから離れるだろう。
遅くない。きっとまだ遅くない。
マルクス殿下はロゼット嬢の良さに気づいてくれるに違いない。きっと彼女を本当の笑顔にしてくれる。ふたりこそが運命の恋の相手同士なのだ。
僕はそんなふたりを見守っていければいい。
そんな風に思って、僕は殿下にプロスティトゥタの死の事情を説明したのだが──
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