裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド

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16歳(2回目)

6、1回目の王位継承争いの勝利が消え、2回目は敗北寸前

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 ◆





アドの街では豪商ジョイロが「ゼルフ商会の商隊4台を襲った犯罪集団、サイレーズ旅団を雇った容疑」で警備隊に逮捕されていた。証拠はばっちりなので冤罪などではない。

何せ、アドの西郊外の森で生け捕りになったサイレーズ旅団12人(実は1人も死んでいなかった)が自供したので。

ジョイロの捕縛直後、アドの街の東の遺跡に潜んでいた残るサイレーズ旅団も危険を察して逃げたらしく、もうその姿はどこにも見当たらなかった。

それでも奪った積み荷が放置されており、東の遺跡がアジトとして使われていた、と発覚した。





これで一件落着ではない。

何せ、ジョイロは2回目である今回も1年前にアドの街で起こるはずだった「毒茸散布計画」の現地指揮官だったのだから。

そう、ジョイロは知り過ぎているのだ。1回目の時に男爵位を得たのもその所為なのだから。

第2王子ジョナサンの陣営は知り過ぎているジョイロが「それ」を喋る前に口封じをしなければならなかったし、ジョイロの方は腐っても豪商だ。それなりに人生経験があり、拷問に耐えて黙っていれば第2王子の一派が「ジョイロを助けてくれる」などという甘い妄想は抱かなかった。「助けるよりもジョイロを殺す」方がお手軽で、お偉方の身の安全が確保出来る事をジョイ口も理解していたので。

ならばピンチのジョイロは助かる為にどう動くか?

そんなの決まってる。

持ってる情報を土産にさっさと陣営の鞍替えだ。

「裏切り者?」 そのようなそしりは第1王子のウイリアムが次代の王位争いに勝利した暁には「ジョイロとかいう地方の商人のお陰だな」に変わるのだから。

勝てば官軍なのだ。敗者には何も残らない。絶対に勝ち馬に乗らないと駄目なのだ。アイン王国の最高権力国王の椅子を賭けたこの王位継承争いは。敗者には報復人事が待っているのだから。

なのでジョイロは逮捕直後から、

「執政官のシシュード・コリゼン子爵にお伝え願えませんか? 今回の騒動は王位継承争いが絡んでいると」

そう警備隊の取調官に告げて口を噤み、その内容を耳にした執政官のシシュードもさすがに無視出来ずにジョイロの前に出向いたのだった。第1王子陣営の末端だったので。

「司法取引をお願いしたい。私が知り得る限りの情報を伝えるので寛大なご処置を」

「無罪には出来んぞ」

「減刑で構いません」

との口約束の後にジョイロは、

「サイレーズ旅団を使ってアドの街で騒動を起こせ、というのが第2王子ジョナサン殿下の側近の御命令でした」

「目的はアドの街の第1王子派の執政官、つまりアナタ様を困らせる事、救援に来た第1王子派の手駒を潰す為だと聞いております」

「実は去年の毒茸流布騒動も本当に第2王子が画策しており、私も密命を受けて・・・」

「もちろん第1王子の仕業に見せかけて王位継承争いを有利に進める為ですよ。確か執政官殿の寄り親は王妃様の従弟様でございますよね?」

ペラペラペラペラと喋ったのだった。





 ◆





アドの街の冒険者ギルドのギルマス執務室にはギルマスのヒッポスが居た。

ヒッポスは50代。品以上に冷たさを感じさせる細身の切れ者風だ。

そのヒッポスは警備隊の取調室で口を開いたジョイロがもたらした情報に唸りながら室内に居るビキニ鎧のベロニカに、

「まさか、1年前に噂になった『第2王子のお忍び視察』と『王子暗殺の為の陽動の毒茸散布』が第1王子を失脚させる為の第2王子陣営の自作自演だったとはな。その陰謀を明るみにした今回のジョイロ逮捕に繋がるサイレーズ旅団の逮捕は大手柄となるぞ、ベロニカ」

「そりゃどうも。それよりもマジなのよね? あの剣えきで冒険者をやってるポーション屋の若旦那のカーターが騎士団長の血の繋がった孫って?」

「有名だぞ。知らなかったのか?」

「知る訳ないでしょ。そんな昔の事」

カーターの血統を遅蒔きに知ったベロニカは、

(道理で強いはずだわ。色々知ってたのも納得ね)

カーターの強さや情報源の秘密を「血統関係だ」と決め付けて勝手に納得したのだった。





よってカーターの「強さ」や「知り過ぎている」秘密が「1回目の経験があるから」と誰も疑わなかった。想像すらすまい。

その秘密のカモフラージュにカーターすら知らない系譜は本当に都合良く作用したのだった。





 ◆





豪商ジョイロがアドの警備隊の取調室で喋った内容は情報が凄過ぎて真偽が確認される前に王都シケンラの王宮の騎士団本部に届けられる事となった。

王位継承権に関連する情報だ。

当然、王都シケンラの騎士団本部の末端で留まる事はなく、その情報は上層部の耳にまで届いた。

元々、騎士団はアイン王国の全土に密偵は放っていたし、アドの街は騎士団長の三男坊が下町で食堂のコックをやっている関係上、特別に眼を光らせていたので。

シケンラ王宮の騎士団本部の上層部に情報が届けば、アイン王国の国王リチャードの耳にもその情報は入る。

第1王子や第2王子に味方する騎士団の幹部も居るので両王子の耳にも。





その為、1回目の時はこの年、アドの街の毒茸騒動の犯人が王妃の弟のバーレン公爵が濡れ衣を着せられて決着した事で失脚寸前の第1王子ウイリアムを押し退け、シケンラ王宮で次期国王として偉そうにしていた第2王子ジョナサンは、2回目の今回は実行すらしていない陰謀が明るみに出て絶対絶命のピンチに立たされる事となり、





王都シケンラの王宮の国王執務室で国王のリチャードからの不機嫌そうな顔での、

「ジョナサン、アドの街に毒茸を撒こうとしたのか?」

質問を受ける破目に陥っていた。

マジックアイテムの中には真偽を見分けるアイテムがある。だが、国同士の外交の場でそれらのアイテムを使われて心情が見抜かれた日には国益を損なうので王族はもちろん外交を担当する貴族もそれらに対抗する術を幼少期から訓練しており効果はなかった。

なので虚偽の答弁をしてもバレない訳で、

「はい? 何の事でしょうか?」

内心のドキドキはともかく、そうすっとぼけた。

「アドの街がどこかは聞かないのか?」

「アイン王国の地名は総て頭の中に叩き込んでおりますので。それにここだけの話、極秘で視察に行こうと考えた事もありまして」

「王妃の弟のバーレン公爵の寄り子の貴族の統治下に向かうねえ」

兄派閥の統治下の街に向かう不自然さを国王リチャードが馬鹿にしたように指摘しながら、

「まあ良かろう。おまえの側近4人は全員入れ替えだ。よいな」

そう軽く命令したが、これは完全な懲罰人事である。





そして新たに第2王子のジョナサンに付けられた側近は4人全員が子爵家や男爵家出身の同世代の令息達だった。

能力の優劣以前に下位貴族出身のこの側近達がアイン王国の政治の中枢を担う事はまずない。もしまかり間違って担ったら最後、下位貴族に指図されてプライドを刺激された高位貴族が一斉にジョナサンに反旗を翻すのだから。

つまりこの側近人事は第2王子のジョナサンが王位継承争いに敗れた事を意味した。

因果応報。身から出た錆である。

兄王子ウイリアムを陰謀に嵌めて失脚させる為にアドの街に毒茸を撒いて住民を大量毒殺しようとしたのだから。

だが、第2王子ジョナサンは自身の不徳を顧みず、

(クソ~。口の軽いアドの街の商人1人の所為で国王の椅子を失う事になろうとは。この恨み晴らさずにはおくべきか~っ!)

そう怒って、自室で調度品に壊したのだった。
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