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レオナルダ公爵と公子マルコ
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和平条約はバルベリ城の支城、バーベリー砦で行われることになった。バーベリー砦は、バルベリ城の北方、ノルラントとの最前線に位置する。
ブルフェン国王から全権委任を受けて調印することになったのは、ジュリエッタの父、レオナルダ公爵だった。
(お父さま、海から帰ってくるのね)
侯爵も公爵に随行することになるだろう。
レオナルダ公爵がバルベリに着く数日前、ジュリエッタは朝食の席で侯爵に言った。
「私も、バーベリー砦に行きますけど、よろしいわよね?」
侯爵はあんぐりと口を開けた。フォークからオムレツがぽとりと落ちる。
「いいわけがない」
「行きますから」
「ダメだ」
大抵のことはジュリエッタの望みを受け入れる侯爵だったが、さすがに今回ばかりは聞かなかった。しかし、ジュリエッタも譲りはしない。
(私だけ城にこもっているなんてできないわ。胸騒ぎがするんですもの)
「行きますから」
「ダメだ」
「止めても無駄だから」
「絶対にダメだ」
「ダニーも行けって言ってるわ、行けピョンって。ね、ダニー?」
「ダニーは行くなって言ってる、な、ダニー?」
「行けピョン、ジュリエッタ、行ってこいピョン」
「行くなピョン、行ってはダメだピョン」
床で人参を食べているダニーを引き合いに出して、二人はにらみ合う。
平行線は長く続いたが、結局は、いつものように侯爵が折れることになった。
ジュリエッタは、バーベリー砦の一つ手前の支城である、バッバリ砦まで行くことを許してもらえることとなった。
「何かあったらすぐに引き返すように」
「はい!」
「少しでも何かあったら引き返すように」
「はい!」
「何もなくても引き返すように」
「はい!」
(侯爵さまってときどき過保護なのよね)
ハンナから見れば過保護なのはときどきではなく常のことだったが、今回ばかりは過保護過ぎても無理はないと思った。
(姫さまが行くのならば、このハンナもついて行くまで!)
***
レオナルダ公爵一行がバルベリに到着した。見ればレオナルダの兄、マルコもくっついてきている。
(さすが仲良し父子)
二人とも日に焼けて真っ黒だ。父も兄も貴族らしい気品が溢れていたはずが、どことなく海の男らしい荒っぽさが漂っている。
「よう、エッタ、息災か」
「エッタ、元気そうじゃねえか」
二人とも口調まで荒っぽい。
(エッタって誰? もしかして、私?)
「で、バルベリ侯爵殿は、この御仁か」
二人は『黒い猛獣』にはそぐわない穏やかさを意外に思ったのか、しばし、見つめて、顔つきを真面目なものに変えた。
「娘が苦労かけてはおりませんか」
「ジュリエッタには手を焼いているでしょう。我が儘でお転婆ですから」
(我が儘だけど、お転婆ではないわ!)
ジュリエッタは内心で息巻くも、淑女らしくにっこりとほほ笑むだけにしておいた。侯爵が言う。
「ジュリエッタの我が儘でお転婆なところが私には可愛いのです」
(なっ……)
これにはジュリエッタも目を白黒させて、魂が口から出た。顔が真っ赤に染まっていく。
「これは侯爵、すっかり尻に敷かれておりますな」
「仲が良いようで安心しました」
ジュリエッタは素早く魂を吸い込み直して、息を整える。
(仲が良いも何も本当の夫婦ではないのに)
「で、結婚式はいつになさるおつもりです?」
「王都では私が新郎代理を務めさせていただきましたが、我が妹ながら見惚れるほどの美しさでした。領地でもぜひ行っていただきたい」
「そうだ、わしたちがバルベリにいる間に行えば良い」
「お父さま!」
「そうだ、母もここに呼びましょう」
「お兄さま!」
「「ん? 何か問題が?」」
仲良し父子らしく声がハモる。
(この二人といると頭痛がしてくるわ)
何しろ父も兄も能天気が過ぎる。いつも悩みなどなさそうに、楽しく生きている。母がいなければレオナルダ家は今ごろどうなっていることやら。しかし、動物的な勘が働くのか、何故か、レオナルダ家は常に危機を回避する。予知夢で王都が攻められたときも、たまたま父母と兄の三人は、使用人ら全員を引き連れて、領地に帰っていたことを思い出した。
***
その翌日、侯爵とジュリエッタは、公爵とマルコに城下を案内した。
公爵はマルコに耳打ちした。
「バルベリもまずまずだな」
公爵もマルコも城下自体に物珍しさは感じなかった。何しろ船で出かけてこれまで見たことがないものばかりを目にしている経験豊富な二人だ。
「普通に良いところですね」
二人とも、ジュリエッタの嫁ぎ先として及第点であることを確かめればそれで十分だった。
そんなことよりも城に帰ってからの侯爵とジュリエッタの行動に目を見開く。
侯爵にジュリエッタは、城に帰るなり侯爵の寝室に向かい、そして、出てきた侯爵は何やら抱っこしてあやしており、ジュリエッタは侯爵の腕に抱っこされたものに声をかけている。
「ダニー、ただいま、待っててくれたのね、お利口さんにしてた?」
「ダニー、ニンジンをちゃんと食べたか?」
公爵はマルコと目を見合わせる。
「「?!」」
(ひょっとして、お子?!)
(いつのまに!)
(わしもついにじいじに)
(私も伯父に)
公爵とマルコは歓喜して二人に声をかけた。
「ダニー! わしにもダニーを抱かせておくれ」
「ぜひ、私にもダニーを!」
そこで二人は、侯爵の腕の中にいるのが白うさぎだと気づいて、固まった。固まった二人に侯爵は戸惑いながら、ダニーを差し出してきた。
「ダニー、公爵閣下のところに、いく……?」
ダニーは、二人を見て、耳をふるると震わせて首を傾げた。
***
ジュリエッタがバッバリ砦に向かうことを知って、公爵とマルコは反対したが、ジュリエッタが言い出したら聞かないことを知っている二人だ。マルコがジュリエッタに同行することで納得した。
使節団以外の兵を動かしているのがノルラントに知られたら、あらぬ疑いをかけられるかもしれず、一行は修道士を装うことになった。
集団だと怪しまれるために、ジュリエッタたちはハンナもマルコも入れて6人で動くことになった。よって護衛騎士は3人だけだ。
(ハンナはともかく、ほとんど頼りにならないお兄さままでついてくることないのに)
バルベリ城からバッバリ砦まで馬で半日、バッバリ砦からバーベリー砦まで馬で一刻ほどの距離だ。途中の森まで騎乗し、森で馬を隠してそこからは徒歩で向かう。馬がいては修道士を装えないからだ。
(なんだかとても不安だわ)
予知夢では、少なくとも条約締結時に大きな混乱はなかったはずだった。それでも、ジュリエッタの胸騒ぎは治まらない。
そんなジュリエッタの胸騒ぎはハンナのおしゃべりで吹き飛んだ。
「姫さま、ハンナはもう、何も申し上げることはございませんわ。あとはお子ができるのを見守るばかりにございます」
「はい?」
「侯爵さまは王都に戻るまで、待っておいでなのですわね。赤ちゃんができてしまえば、おいそれと馬車旅にも出られませんから。ええ、このハンナ、侯爵さまと姫さまのお気持ちが一つになったのを確認できたことで、今は満足しておりますわ」
「一つって?」
「姫さま、すっとぼけなくてもいいんですのよ、夜も仲睦まじく一緒に寝られておいでですもの、いまだ本当の夫婦になっておらずとも、それも今日明日のこと、おほほ」
ハンナは毎晩ジュリエッタが侯爵の寝室に向かっていることを知っている上に、二人で清らかに眠っているだけのことも見抜いている。さすがハンナだ。
ジュリエッタはあっけらかんとした関係だからこそ、周囲の目も気にせずに、侯爵の寝室に向かっていたつもりだったが、そういえば朝になって侯爵の部屋から出てくれば、メイドらは目を逸らしていく。メイドたちまでハンナのように見通せるわけがなかった。
「私は侯爵さまの妻になる気は今もないわ」
「このハンナの目はごまかされません、姫さまの侯爵さまを見る目には間違いなく愛がこもっております」
「そうかしら。ただ心配なだけだけど」
「それを愛と呼ぶのです」
「そうかしら」
侯爵から逃げ出そうという気持ちはもうどこかへいった。守りたいという気持ちが芽生えている。
(涙を見て可哀想になっただけ。愛とは違うわ)
しかし、どう違うのか、ジュリエッタには説明できなかった。
一行はバッバリ砦へと着いた。
石造りの砦は駐留する兵士はおらず、空っぽだった。和平を結ぶというのに、兵士らを駐留させておくわけにもいかないのだろう。
(今頃、侯爵はバーベリー砦についている頃かしら)
公爵ら使節団一行は、ジュリエッタらよりも先に出たからもう着いているはずだ。
「夫人、この窓から、バーベリー砦が見えます」
ヤンスが筒状のものを渡してきた。望遠鏡だ。
覗いてみると、草原に石造りの建物が見えた。
ブルフェンの赤い国王旗に、バルベリの黒い侯爵旗が見える。やはり、侯爵旗は遠慮したように国王旗よりも低く掲げているところにジュリエッタはクスッと笑ってしまった。
(どこまでも遠慮深い人なのね)
まっすぐに立っている旗に、侯爵の身の安全を感じ、心が落ち着いてきた。
(もうそろそろ終わる頃かしら)
そこでふと、青い旗が目に入った。
(あれがノルラントの国旗……?)
望遠鏡を外したジュリエッタの顔が次第に青ざめていった。ジュリエッタはその旗を見たことがあった。
よりにもよってブルフェンの王都で。
ブルフェン国王から全権委任を受けて調印することになったのは、ジュリエッタの父、レオナルダ公爵だった。
(お父さま、海から帰ってくるのね)
侯爵も公爵に随行することになるだろう。
レオナルダ公爵がバルベリに着く数日前、ジュリエッタは朝食の席で侯爵に言った。
「私も、バーベリー砦に行きますけど、よろしいわよね?」
侯爵はあんぐりと口を開けた。フォークからオムレツがぽとりと落ちる。
「いいわけがない」
「行きますから」
「ダメだ」
大抵のことはジュリエッタの望みを受け入れる侯爵だったが、さすがに今回ばかりは聞かなかった。しかし、ジュリエッタも譲りはしない。
(私だけ城にこもっているなんてできないわ。胸騒ぎがするんですもの)
「行きますから」
「ダメだ」
「止めても無駄だから」
「絶対にダメだ」
「ダニーも行けって言ってるわ、行けピョンって。ね、ダニー?」
「ダニーは行くなって言ってる、な、ダニー?」
「行けピョン、ジュリエッタ、行ってこいピョン」
「行くなピョン、行ってはダメだピョン」
床で人参を食べているダニーを引き合いに出して、二人はにらみ合う。
平行線は長く続いたが、結局は、いつものように侯爵が折れることになった。
ジュリエッタは、バーベリー砦の一つ手前の支城である、バッバリ砦まで行くことを許してもらえることとなった。
「何かあったらすぐに引き返すように」
「はい!」
「少しでも何かあったら引き返すように」
「はい!」
「何もなくても引き返すように」
「はい!」
(侯爵さまってときどき過保護なのよね)
ハンナから見れば過保護なのはときどきではなく常のことだったが、今回ばかりは過保護過ぎても無理はないと思った。
(姫さまが行くのならば、このハンナもついて行くまで!)
***
レオナルダ公爵一行がバルベリに到着した。見ればレオナルダの兄、マルコもくっついてきている。
(さすが仲良し父子)
二人とも日に焼けて真っ黒だ。父も兄も貴族らしい気品が溢れていたはずが、どことなく海の男らしい荒っぽさが漂っている。
「よう、エッタ、息災か」
「エッタ、元気そうじゃねえか」
二人とも口調まで荒っぽい。
(エッタって誰? もしかして、私?)
「で、バルベリ侯爵殿は、この御仁か」
二人は『黒い猛獣』にはそぐわない穏やかさを意外に思ったのか、しばし、見つめて、顔つきを真面目なものに変えた。
「娘が苦労かけてはおりませんか」
「ジュリエッタには手を焼いているでしょう。我が儘でお転婆ですから」
(我が儘だけど、お転婆ではないわ!)
ジュリエッタは内心で息巻くも、淑女らしくにっこりとほほ笑むだけにしておいた。侯爵が言う。
「ジュリエッタの我が儘でお転婆なところが私には可愛いのです」
(なっ……)
これにはジュリエッタも目を白黒させて、魂が口から出た。顔が真っ赤に染まっていく。
「これは侯爵、すっかり尻に敷かれておりますな」
「仲が良いようで安心しました」
ジュリエッタは素早く魂を吸い込み直して、息を整える。
(仲が良いも何も本当の夫婦ではないのに)
「で、結婚式はいつになさるおつもりです?」
「王都では私が新郎代理を務めさせていただきましたが、我が妹ながら見惚れるほどの美しさでした。領地でもぜひ行っていただきたい」
「そうだ、わしたちがバルベリにいる間に行えば良い」
「お父さま!」
「そうだ、母もここに呼びましょう」
「お兄さま!」
「「ん? 何か問題が?」」
仲良し父子らしく声がハモる。
(この二人といると頭痛がしてくるわ)
何しろ父も兄も能天気が過ぎる。いつも悩みなどなさそうに、楽しく生きている。母がいなければレオナルダ家は今ごろどうなっていることやら。しかし、動物的な勘が働くのか、何故か、レオナルダ家は常に危機を回避する。予知夢で王都が攻められたときも、たまたま父母と兄の三人は、使用人ら全員を引き連れて、領地に帰っていたことを思い出した。
***
その翌日、侯爵とジュリエッタは、公爵とマルコに城下を案内した。
公爵はマルコに耳打ちした。
「バルベリもまずまずだな」
公爵もマルコも城下自体に物珍しさは感じなかった。何しろ船で出かけてこれまで見たことがないものばかりを目にしている経験豊富な二人だ。
「普通に良いところですね」
二人とも、ジュリエッタの嫁ぎ先として及第点であることを確かめればそれで十分だった。
そんなことよりも城に帰ってからの侯爵とジュリエッタの行動に目を見開く。
侯爵にジュリエッタは、城に帰るなり侯爵の寝室に向かい、そして、出てきた侯爵は何やら抱っこしてあやしており、ジュリエッタは侯爵の腕に抱っこされたものに声をかけている。
「ダニー、ただいま、待っててくれたのね、お利口さんにしてた?」
「ダニー、ニンジンをちゃんと食べたか?」
公爵はマルコと目を見合わせる。
「「?!」」
(ひょっとして、お子?!)
(いつのまに!)
(わしもついにじいじに)
(私も伯父に)
公爵とマルコは歓喜して二人に声をかけた。
「ダニー! わしにもダニーを抱かせておくれ」
「ぜひ、私にもダニーを!」
そこで二人は、侯爵の腕の中にいるのが白うさぎだと気づいて、固まった。固まった二人に侯爵は戸惑いながら、ダニーを差し出してきた。
「ダニー、公爵閣下のところに、いく……?」
ダニーは、二人を見て、耳をふるると震わせて首を傾げた。
***
ジュリエッタがバッバリ砦に向かうことを知って、公爵とマルコは反対したが、ジュリエッタが言い出したら聞かないことを知っている二人だ。マルコがジュリエッタに同行することで納得した。
使節団以外の兵を動かしているのがノルラントに知られたら、あらぬ疑いをかけられるかもしれず、一行は修道士を装うことになった。
集団だと怪しまれるために、ジュリエッタたちはハンナもマルコも入れて6人で動くことになった。よって護衛騎士は3人だけだ。
(ハンナはともかく、ほとんど頼りにならないお兄さままでついてくることないのに)
バルベリ城からバッバリ砦まで馬で半日、バッバリ砦からバーベリー砦まで馬で一刻ほどの距離だ。途中の森まで騎乗し、森で馬を隠してそこからは徒歩で向かう。馬がいては修道士を装えないからだ。
(なんだかとても不安だわ)
予知夢では、少なくとも条約締結時に大きな混乱はなかったはずだった。それでも、ジュリエッタの胸騒ぎは治まらない。
そんなジュリエッタの胸騒ぎはハンナのおしゃべりで吹き飛んだ。
「姫さま、ハンナはもう、何も申し上げることはございませんわ。あとはお子ができるのを見守るばかりにございます」
「はい?」
「侯爵さまは王都に戻るまで、待っておいでなのですわね。赤ちゃんができてしまえば、おいそれと馬車旅にも出られませんから。ええ、このハンナ、侯爵さまと姫さまのお気持ちが一つになったのを確認できたことで、今は満足しておりますわ」
「一つって?」
「姫さま、すっとぼけなくてもいいんですのよ、夜も仲睦まじく一緒に寝られておいでですもの、いまだ本当の夫婦になっておらずとも、それも今日明日のこと、おほほ」
ハンナは毎晩ジュリエッタが侯爵の寝室に向かっていることを知っている上に、二人で清らかに眠っているだけのことも見抜いている。さすがハンナだ。
ジュリエッタはあっけらかんとした関係だからこそ、周囲の目も気にせずに、侯爵の寝室に向かっていたつもりだったが、そういえば朝になって侯爵の部屋から出てくれば、メイドらは目を逸らしていく。メイドたちまでハンナのように見通せるわけがなかった。
「私は侯爵さまの妻になる気は今もないわ」
「このハンナの目はごまかされません、姫さまの侯爵さまを見る目には間違いなく愛がこもっております」
「そうかしら。ただ心配なだけだけど」
「それを愛と呼ぶのです」
「そうかしら」
侯爵から逃げ出そうという気持ちはもうどこかへいった。守りたいという気持ちが芽生えている。
(涙を見て可哀想になっただけ。愛とは違うわ)
しかし、どう違うのか、ジュリエッタには説明できなかった。
一行はバッバリ砦へと着いた。
石造りの砦は駐留する兵士はおらず、空っぽだった。和平を結ぶというのに、兵士らを駐留させておくわけにもいかないのだろう。
(今頃、侯爵はバーベリー砦についている頃かしら)
公爵ら使節団一行は、ジュリエッタらよりも先に出たからもう着いているはずだ。
「夫人、この窓から、バーベリー砦が見えます」
ヤンスが筒状のものを渡してきた。望遠鏡だ。
覗いてみると、草原に石造りの建物が見えた。
ブルフェンの赤い国王旗に、バルベリの黒い侯爵旗が見える。やはり、侯爵旗は遠慮したように国王旗よりも低く掲げているところにジュリエッタはクスッと笑ってしまった。
(どこまでも遠慮深い人なのね)
まっすぐに立っている旗に、侯爵の身の安全を感じ、心が落ち着いてきた。
(もうそろそろ終わる頃かしら)
そこでふと、青い旗が目に入った。
(あれがノルラントの国旗……?)
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よりにもよってブルフェンの王都で。
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読む前にご確認いただけると助かります。
1)西洋の貴族社会をベースにした世界観ではあるものの、あくまでファンタジーです
2)作中では第一王位継承者のみ『皇太子』とし、それ以外は『王子』『王女』としています
→ただ今『皇太子』を『王太子』へ、さらに文頭一文字下げなど、表記を改訂中です。
そのため一時的に『皇太子』と『王太子』が混在しております。
よろしくお願いいたします。
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誤字を教えてくださる方、ありがとうございます。
読み返してから投稿しているのですが、見落としていることがあるのでとても助かります。
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