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誰のもの?①
しおりを挟む帰るために馬車へ乗り込む。今日は宿に泊まり、時間をかけてゆっくりと伯爵家へ帰る予定だ。
(唇がとんがってる)
先程からずっと不機嫌そうに唇を尖らせているデューク様の姿を見つめる。原因はわかっているつもりだけど、どう話を切り出したらいいのかわからない。
「……あの、家族が失礼なことを言ってしまってごめんなさい」
結局謝罪以外に言葉が浮かばなかった。
不機嫌を滲ませた紅色の瞳が僕へと向けられる。見返すと眉間にシワが寄せられた。
「いつもあんな扱い受けてたのか?」
「……それは……」
「婚約破棄の件も初耳だった。あいつと婚約してたのかよ。まだ好きなのか?」
「デューク様、黙っていてごめんなさい、でも僕にとってジルバート様は憧れだったけれど好きとか愛してるとか、そんな気持ちはなかったんです」
誤解されたくなくて必死に伝える。デューク様を愛している。こんなにも心を温かくさせてくれる気持ちを向けたのはデューク様が初めてだ。だからありったけの気持ちを伝えたい。
「こっちにこい」
腕を引かれて引き寄せられる。対面するようにデューク様の膝の上に座ると、性急に唇を奪われた。愛おしさに目を細めると、腰に腕が回されて更に距離が縮まる。
潜り込んできた舌を受け入れながら、デュークの不貞腐れた表情を至近距離で観察する。
「あいつらムカつく……けど、俺に婚約破棄のことを隠してたアルビーにもムカついてる……あー……やべぇ……まじで嫉妬でおかしくなりそうだ」
ぶっきらぼうなのに甘く感じる言葉に胸がときめく。僕がオリビアに嫉妬したように、デューク様もジルバート様へ嫉妬してくれたんだ。そのことが嬉しく感じるのはだめだとわかっていても、笑みがこぼれてしまう。
痛かった鼻の奥も胸も痛まない。涙も止まっている。
「僕が好きなのはデューク様だけです」
「……うまく聞こえなかった。もう一回言ってくれ」
真剣な瞳でお願いされて顔を赤くさせる。大胆なことを口走ってしまい、羞恥心で顔が熱くなる。思わず腰を引いて逃げようと試みるけれど、筋肉質な逞しい腕に阻まれて動くことも叶わない。
答えるまで逃してくれない気がした。
「デューク様、僕っ……恥ずかしい……」
「大丈夫、聞いてるのは俺だけだ」
そういう問題ではない。けれど彼は言うまで離してくれない気がした。
「っ……愛しています……」
「誰のことを?」
「デューク様のこと……」
「ならアルビーは誰のものだ?」
「っ……デューク様、です……」
顔が熱くてたまらない。誰かに自分の気持ちを素直に伝えたことなんてなかった。けれどデューク様の側にいると気持ちが溢れてきて、心の中だけではしまっておけなくなってしまう。
「アルビーは世界一可愛いくて綺麗な俺の嫁だ」
「……へへ、嬉しいです」
へにょりと口元がゆるんで自然と笑顔が浮かぶ。デューク様に抱きしめられていると、愛に包み込まれているようだ感覚をもらえる。その瞬間が嬉しくて心地がいい。
僕の首元に顔を埋めた彼が、軽く甘噛みをしてきた。その微かな刺激すら愛おしく感じられる。目を閉じて与えられる感覚に身を委ねた。
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