身代わりの花は包愛に満たされる

天宮叶

文字の大きさ
46 / 51

これが最後

しおりを挟む
広間で話をした日から一週間程が経った。騎士団の皆はすぐに荷物をまとめ、遠征に向けて伯爵家を発ってしまった。日が昇り始める早朝に出発するため、デューク様に寝ているように言われてしまい見送りはできなかった。

 いつもは人で賑わっている食堂も閑散としていて、一人で食べるご飯は味気ない。

「すぐにお戻りになられますよ」

「ありがとうアリア」

 慰めようとしてくれたアリアに笑みを返す。見送りくらいはしたかった。けれど、顔を合わせても泣いてしまう自信しかなかったからこれで良かったのかもしれない。

 食事を終えて部屋に戻ると、使用人が一通の手紙を持ってきた。差出人を確認すると思わず眉を寄せてしまう。呼吸がつまる感覚がする。

(オリビアからの手紙だ)

 離縁すると宣言してからやり取りは一切ない。少しずつ離縁の準備を進めているため、いつかは顔を合わせる日が来ることは覚悟していた。

 オリビアのことを嫌いになったわけではなかった。

 可愛くて綺麗で純粋すぎるあまり人を傷つけていることにすら気付けない。そんな危うさを持っているオリビアのことが嫌だと思うときもあった。それでも嫌えなかったのは、結局僕はあの子の兄だから。そして、オリビアの魅力に惹き付けられていた一人だったからだ。

「オリビアが僕に会いたいって」

 紅茶を用意してくれていたアリアに話しかけると、彼女は手を止めて僕の方を見た。垂れた困り眉が視界に入り、僕も困り顔を浮かべる。

 逃げていても前には進めないことはもうわかっていた。だから僕はオリビアの手紙に了承の返事を送ることに決めた。

「アリア、僕は変われるのかな?」

「アルビー様はお変わりになられましたよ。私はお傍で努力される姿を見ていました」

「ありがとうアリア。僕はもう逃げないよ」

 席につくと、羽ペンを手に取る。真っ白な紙にゆっくり思いを噛みしめるように文字を綴る。オリビアに伝えたいことは沢山ある。そしてお互いの気持ちを伝えあって、ようやく僕達は兄弟として一歩踏み出せる気がした。

『僕もオリビアに会いたい。話をしよう』

 最後にそう付け足すと封を閉じてアリアに手渡す。

 手紙を受け取ったアリアが「お預かり致します」と返事をしてくれた。胸に一筋の緊張が走っている。大切でかわいい僕の弟。きっと彼と面と向かって話をするのは最後になるだろう。

 だから後悔のない時間にしたい。

 

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/01/23 19:00 アルファポリス版限定SS公開予定  累計で6300♡いいねと累計ポイント285000突破の御礼SSになります

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する

竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。 幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。 白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

釣った魚、逃した魚

円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。 王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。 王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。 護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。 騎士×神子  攻目線 一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。 どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。 ムーンライト様でもアップしています。

処理中です...