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一時の別れ
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広間の床の張替えが終わったのは、注文してから一ヶ月半を過ぎた頃だった。床に合わせて購入した青色の飾りカーテンは上品でとても美しい。
「すごいな。アルビーはセンスがいい」
「アルベルトさんにお手伝いしてもらったから出来たんです。……でも、褒めてもらえてとても嬉しいです」
一緒に広間へと来てくれたデューク様に笑み向ける。くしゃくしゃと髪を撫でられて、心を温かく包み込まれるような感覚がした。
──この瞬間のためなら僕はいくらだって頑張れる。
デューク様に褒めてもらえることが嬉しい。認めてもらえているようで安心できる。それに彼の役に立てたことがなによりも幸せだ。
「デューク様、踊っていただけませんか?」
素敵な広間で彼と二人きり。手を差し出すと、デューク様が艶のある笑みを浮かべながら手を取ってくれた。引き寄せられて、ふわりと彼の香りが鼻腔を抜けていく。この腕の中に包まれる瞬間が心地良い。
花を咲かせるように笑みを浮かべれば、デューク様が一つだけキスをしてくれた。そのすぐあと、中央に向かってステップを踏み出す。
「あんまりダンスは得意じゃないんだ。下手くそでも許してくれよ」
「ふふ、いいんです。誰も見ていませんし、僕はこの瞬間を楽しみたいから」
「それもそうだな」
笑い声が完成したばかりの美しい広間に響き渡る。音楽も歓声もない。存在するのはお互いの笑い声と、少しだけぎこちないステップの音。
そうして僕達の間にはお互いを包み込むような愛が存在していた。
「デューク様愛しています」
「俺も愛してる」
くるりと一回転すると、荒々しい呼吸を吐き出しながら動きを止める。僕の片手を取り、目の前に片膝をついたデューク様を温かな眼差しで見下ろす。
「聞いてくれ。俺は、国王の命令ですぐに伯爵家を発たなければいけない。レーヴェン国との戦争で被災した民のために新たな居住区を用意するそうだ。まだ開拓されていない土地で、騎士団が先行して調査に当たることになった」
「っ……いつお戻りになられるのですか?」
「……わからない。未開拓地だからな。獣も多く生息しているし、山賊や敵国の残党と出くわす可能性もある。危険だが民のために俺は行く。だが必ず戻ってくる。だから待っていてくれるか?」
ずっと覚悟はしていた。騎士団長であるデューク様は国を飛びまわり国民を守ることが務めだ。彼と出会った最初の頃、愛する人を作る気はなかったと話していたことを覚えている。
きっと僕は不安で仕方ない夜を繰り返すだろう。それでもデューク様のことを信じている。寂しさと心配で胸は痛む。けれど、それ以上に彼の安全を願っている。
「待っています。いつまででも。だから……だから必ず、無事に帰ってきてください」
「当たり前だ。俺はアルビーを決して一人にはしない。約束する」
手の甲に口付けが落とされた。
デューク様の精巧な顔を見つめながら、ひとつだけ涙をこぼす。愛しているからこそ縛り付けたくはない。それでも行かないでほしいと叫び出したくなる衝動が溢れてくる。
覚悟していたとしても、実際に彼と離れるときが来てしまうとこんなにも苦しくて辛い。
「泣くなよ」
立ち上がったデューク様が抱きしめてくれる。その温もりをずっとずっと感じていたかつた。
「泣き虫だな」
「っ……寂しくて……」
「ばーか。俺だって寂しい。だからすぐに調査を終わらせて帰ってくる」
「はいっ……」
「帰ってきたらアルビーを俺のものにする。だから覚悟しておけよ」
「~~っ……はい」
消え入りそうな声で返事をすると、さらに強く抱きしめられた。まるで愛おしいと言われているような気持ちになる。
もっとデューク様の体温を感じたくて目を閉じた。そうやって匂いや体温、彼のすべてを取り逃がさないようにしたかったんだ。
「すごいな。アルビーはセンスがいい」
「アルベルトさんにお手伝いしてもらったから出来たんです。……でも、褒めてもらえてとても嬉しいです」
一緒に広間へと来てくれたデューク様に笑み向ける。くしゃくしゃと髪を撫でられて、心を温かく包み込まれるような感覚がした。
──この瞬間のためなら僕はいくらだって頑張れる。
デューク様に褒めてもらえることが嬉しい。認めてもらえているようで安心できる。それに彼の役に立てたことがなによりも幸せだ。
「デューク様、踊っていただけませんか?」
素敵な広間で彼と二人きり。手を差し出すと、デューク様が艶のある笑みを浮かべながら手を取ってくれた。引き寄せられて、ふわりと彼の香りが鼻腔を抜けていく。この腕の中に包まれる瞬間が心地良い。
花を咲かせるように笑みを浮かべれば、デューク様が一つだけキスをしてくれた。そのすぐあと、中央に向かってステップを踏み出す。
「あんまりダンスは得意じゃないんだ。下手くそでも許してくれよ」
「ふふ、いいんです。誰も見ていませんし、僕はこの瞬間を楽しみたいから」
「それもそうだな」
笑い声が完成したばかりの美しい広間に響き渡る。音楽も歓声もない。存在するのはお互いの笑い声と、少しだけぎこちないステップの音。
そうして僕達の間にはお互いを包み込むような愛が存在していた。
「デューク様愛しています」
「俺も愛してる」
くるりと一回転すると、荒々しい呼吸を吐き出しながら動きを止める。僕の片手を取り、目の前に片膝をついたデューク様を温かな眼差しで見下ろす。
「聞いてくれ。俺は、国王の命令ですぐに伯爵家を発たなければいけない。レーヴェン国との戦争で被災した民のために新たな居住区を用意するそうだ。まだ開拓されていない土地で、騎士団が先行して調査に当たることになった」
「っ……いつお戻りになられるのですか?」
「……わからない。未開拓地だからな。獣も多く生息しているし、山賊や敵国の残党と出くわす可能性もある。危険だが民のために俺は行く。だが必ず戻ってくる。だから待っていてくれるか?」
ずっと覚悟はしていた。騎士団長であるデューク様は国を飛びまわり国民を守ることが務めだ。彼と出会った最初の頃、愛する人を作る気はなかったと話していたことを覚えている。
きっと僕は不安で仕方ない夜を繰り返すだろう。それでもデューク様のことを信じている。寂しさと心配で胸は痛む。けれど、それ以上に彼の安全を願っている。
「待っています。いつまででも。だから……だから必ず、無事に帰ってきてください」
「当たり前だ。俺はアルビーを決して一人にはしない。約束する」
手の甲に口付けが落とされた。
デューク様の精巧な顔を見つめながら、ひとつだけ涙をこぼす。愛しているからこそ縛り付けたくはない。それでも行かないでほしいと叫び出したくなる衝動が溢れてくる。
覚悟していたとしても、実際に彼と離れるときが来てしまうとこんなにも苦しくて辛い。
「泣くなよ」
立ち上がったデューク様が抱きしめてくれる。その温もりをずっとずっと感じていたかつた。
「泣き虫だな」
「っ……寂しくて……」
「ばーか。俺だって寂しい。だからすぐに調査を終わらせて帰ってくる」
「はいっ……」
「帰ってきたらアルビーを俺のものにする。だから覚悟しておけよ」
「~~っ……はい」
消え入りそうな声で返事をすると、さらに強く抱きしめられた。まるで愛おしいと言われているような気持ちになる。
もっとデューク様の体温を感じたくて目を閉じた。そうやって匂いや体温、彼のすべてを取り逃がさないようにしたかったんだ。
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