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お勉強②
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伯爵家は出来てから比較的新しく修繕する場所はそこまで多くはない。けれどデューク様が装飾に関して興味を持たれなかったため、他貴族の屋敷と比べると閑散としている。
「まずは装飾品の手配の仕方から始めてみましょう。物の価値や帳簿の付け方を学ぶこと
できますからね」
「わかりました。期待に応えられるように頑張ります」
「そんなに気負わなくてもいいんですよ。無理だけはしないでください」
胸元を強く押さえる。アルベルトさんが言うように無理をしてはいけないことはわかっているつもりだ。けれどどうしても心が焦ってしまう。
デューク様の役に立ちたい。地味な方だと言われて生きてきたからこそ、僕を大切にしてくれる彼や騎士団の皆に恩返しをしたかった。今までは自分自身の限界や能力を決めつけて見切りをつけてしまっていた。けれどデューク様が僕に大切な仕事を任せてくれたから、もっと努力したいと思えたんだ。
アルベルトさんと共に屋敷内を確認して回る。所々小さな修繕箇所も見つかった。
「この場所は客人を呼んでパーティーを行う際に使うのですが、今のままではとても使えませんね」
「たしかに照明も暗い気がします。絨毯や床も傷んでいる箇所が多いですね」
「……実は雨の日などはこの場所で訓練を行うことも多かったんです。そのため床や壁に破損箇所ができてしまいまして……。今は屋根付きの訓練場が建てられたため訓練には使われていないのですが、デューク様は多忙で修繕が後回しになってしまっているんです」
「それじゃあこの場所を素敵な広間に変えましょう!僕頑張ります。それに花瓶を買って屋敷全体に花を飾ればもっと明るくなると思うんです」
つい饒舌になってしまう。自分にやれることがあるこの瞬間が楽しくて幸せだと思えるからかもしれない。
「それではさっそく商人を呼びましょう」
「はい!」
心が踊っている。まるで楽しみにしていたお菓子を食べる瞬間のような気持ちだ。はやくはやく!と心が急かしてくる。それ以上に慎重に行動したいという思いが強かった。
すぐに来てくれた商人を部屋に通すと、商品表を見せてもらいながら説明を受ける。目利きには自信がないためアルベルトさんに一度確認してから購入する品を決めていく。
「床は傷の付きにくい素材で……これとかどうですか?」
「お目が高い!そちらは上質で貴重な大理石に特殊加工を施し傷が付きにくいようになっているのです。今ならお安くしておきますよ!」
「とても素敵ですね」
美しい大理石の敷き詰められた広間でデューク様と共にダンスを踊る想像をしてしまう。けれど予算は限られている。それに伯爵家は貴族の仲間入りをしたばかりだ。あまりにも高価な買い物をしたら予算や立場的に良くないかもしれない。
「……他の物も見せていただけますか」
考え過ぎかもしれない。けれど我慢することには慣れているし、自分だけの問題ではない。だから気持ちに蓋をしてしまう。
「価格を見せていただけますか?」
アルベルトさんが僕の手から商品表を取る。
「この値段なら予算内におさまりますよ」
「……それでも高価な品です。予算すべてを床に当てるわけにはいきませんから」
いつも納得できる理由を探して生きてきた。僕はいい兄であり、物分りのいい男爵家の長男。そうしていれば怒られることはなかったし、迷惑をかけることもなかった。
アルベルトさんから視線を感じる。まるで責められているような気持ちになった。
「ごめんなさい……」
つい謝罪の言葉が出てしまう。謝りたいわけではない。これも実家にいた頃の名残で、自然と口から出てしまった。
「謝る理由がわからない。そんなに自分を押さえ込んで、自分の気持ちから目を背けることが周りのためだとでも思っているのか──と、デューク様なら言うでしょうね」
「っ……」
アルベルトさんの言うとおりだ。デューク様ならそう言ってぶっきらぼうに背を押してくれる。僕はいつもその優しさや強さに甘えてきた。
変わりたいと思ったのはこんな自分が嫌だから。それなのにいつも肝心なところで足踏みしてしまう。
「アルベルトさん、ありがとうございます」
ぎこちなく笑みを浮かべる。
──馬鹿だなぁ……。皆に助けられてばかりだ。
僕が落ち込むたびに周りの人たちが支えてくれる。だから顔を上げて前へと一歩踏み出すことができるんだ。僕もそんなふうに大切な人を支えられる人になりたい。
「この床にします。それからこれに似合うカーテンと、屋敷に飾る花瓶も見ておきたいです。装飾はもう少し必要な気がします。あとは使用人用の生活用品や備品を買い揃えましょう」
「そうしましょう」
アルベルトさんから同意の返事をもらい胸をなでおろした。頭を使ったせいか疲労感は強い。それ以上に、自分自身と向かい合ういい機会にもなった気がする。
商人が帰るとアルベルトさんと共に休憩がてら食堂へと向かった。焼き菓子を用意してもらい、二人で切り分けて食べる。
「甘い物が好きだなんて意外です」
「疲れには糖分が必須ですから」
「わかる気がします」
焼き菓子を頬張るアルベルトさんを見ながら、僕も甘味を堪能する。たしかに疲れた体へスッと甘さが流れ込んでくる感覚がした。甘い物を食べていると気持ちが穏やかになっていく。悩みも辛さも甘さがすべて打ち消してくれる。
「僕はマドレーヌと同じだったんだと思うんです」
貝型のマドレーヌを手に取る。アルベルトさんが黙ったままマドレーヌを口へと放り込む。
「マドレーヌですか?」
「はい。型にはめられた人生を歩み続け、搾取されて自分自身を擦り減らしていた。あの頃はそれが当たり前だと思っていました」
「……アルビー様の中でなにかが変わったんですね」
「デューク様やアルベルトさん、騎士団の皆のおかげで僕は型から抜け出すことができました。だから今は自分がどこまで突き進んでいけるのか挑戦してみたいんです」
立ち止まることのない大きな背中を追いかけ続けたい。責任を背負い、自身の力で上り詰めたデューク様の隣に、顔を上げて立っていられるような人間になりたいと思った。
そのためにも努力を続けていこう。それが今の僕にできる唯一のことだから。
「まずは装飾品の手配の仕方から始めてみましょう。物の価値や帳簿の付け方を学ぶこと
できますからね」
「わかりました。期待に応えられるように頑張ります」
「そんなに気負わなくてもいいんですよ。無理だけはしないでください」
胸元を強く押さえる。アルベルトさんが言うように無理をしてはいけないことはわかっているつもりだ。けれどどうしても心が焦ってしまう。
デューク様の役に立ちたい。地味な方だと言われて生きてきたからこそ、僕を大切にしてくれる彼や騎士団の皆に恩返しをしたかった。今までは自分自身の限界や能力を決めつけて見切りをつけてしまっていた。けれどデューク様が僕に大切な仕事を任せてくれたから、もっと努力したいと思えたんだ。
アルベルトさんと共に屋敷内を確認して回る。所々小さな修繕箇所も見つかった。
「この場所は客人を呼んでパーティーを行う際に使うのですが、今のままではとても使えませんね」
「たしかに照明も暗い気がします。絨毯や床も傷んでいる箇所が多いですね」
「……実は雨の日などはこの場所で訓練を行うことも多かったんです。そのため床や壁に破損箇所ができてしまいまして……。今は屋根付きの訓練場が建てられたため訓練には使われていないのですが、デューク様は多忙で修繕が後回しになってしまっているんです」
「それじゃあこの場所を素敵な広間に変えましょう!僕頑張ります。それに花瓶を買って屋敷全体に花を飾ればもっと明るくなると思うんです」
つい饒舌になってしまう。自分にやれることがあるこの瞬間が楽しくて幸せだと思えるからかもしれない。
「それではさっそく商人を呼びましょう」
「はい!」
心が踊っている。まるで楽しみにしていたお菓子を食べる瞬間のような気持ちだ。はやくはやく!と心が急かしてくる。それ以上に慎重に行動したいという思いが強かった。
すぐに来てくれた商人を部屋に通すと、商品表を見せてもらいながら説明を受ける。目利きには自信がないためアルベルトさんに一度確認してから購入する品を決めていく。
「床は傷の付きにくい素材で……これとかどうですか?」
「お目が高い!そちらは上質で貴重な大理石に特殊加工を施し傷が付きにくいようになっているのです。今ならお安くしておきますよ!」
「とても素敵ですね」
美しい大理石の敷き詰められた広間でデューク様と共にダンスを踊る想像をしてしまう。けれど予算は限られている。それに伯爵家は貴族の仲間入りをしたばかりだ。あまりにも高価な買い物をしたら予算や立場的に良くないかもしれない。
「……他の物も見せていただけますか」
考え過ぎかもしれない。けれど我慢することには慣れているし、自分だけの問題ではない。だから気持ちに蓋をしてしまう。
「価格を見せていただけますか?」
アルベルトさんが僕の手から商品表を取る。
「この値段なら予算内におさまりますよ」
「……それでも高価な品です。予算すべてを床に当てるわけにはいきませんから」
いつも納得できる理由を探して生きてきた。僕はいい兄であり、物分りのいい男爵家の長男。そうしていれば怒られることはなかったし、迷惑をかけることもなかった。
アルベルトさんから視線を感じる。まるで責められているような気持ちになった。
「ごめんなさい……」
つい謝罪の言葉が出てしまう。謝りたいわけではない。これも実家にいた頃の名残で、自然と口から出てしまった。
「謝る理由がわからない。そんなに自分を押さえ込んで、自分の気持ちから目を背けることが周りのためだとでも思っているのか──と、デューク様なら言うでしょうね」
「っ……」
アルベルトさんの言うとおりだ。デューク様ならそう言ってぶっきらぼうに背を押してくれる。僕はいつもその優しさや強さに甘えてきた。
変わりたいと思ったのはこんな自分が嫌だから。それなのにいつも肝心なところで足踏みしてしまう。
「アルベルトさん、ありがとうございます」
ぎこちなく笑みを浮かべる。
──馬鹿だなぁ……。皆に助けられてばかりだ。
僕が落ち込むたびに周りの人たちが支えてくれる。だから顔を上げて前へと一歩踏み出すことができるんだ。僕もそんなふうに大切な人を支えられる人になりたい。
「この床にします。それからこれに似合うカーテンと、屋敷に飾る花瓶も見ておきたいです。装飾はもう少し必要な気がします。あとは使用人用の生活用品や備品を買い揃えましょう」
「そうしましょう」
アルベルトさんから同意の返事をもらい胸をなでおろした。頭を使ったせいか疲労感は強い。それ以上に、自分自身と向かい合ういい機会にもなった気がする。
商人が帰るとアルベルトさんと共に休憩がてら食堂へと向かった。焼き菓子を用意してもらい、二人で切り分けて食べる。
「甘い物が好きだなんて意外です」
「疲れには糖分が必須ですから」
「わかる気がします」
焼き菓子を頬張るアルベルトさんを見ながら、僕も甘味を堪能する。たしかに疲れた体へスッと甘さが流れ込んでくる感覚がした。甘い物を食べていると気持ちが穏やかになっていく。悩みも辛さも甘さがすべて打ち消してくれる。
「僕はマドレーヌと同じだったんだと思うんです」
貝型のマドレーヌを手に取る。アルベルトさんが黙ったままマドレーヌを口へと放り込む。
「マドレーヌですか?」
「はい。型にはめられた人生を歩み続け、搾取されて自分自身を擦り減らしていた。あの頃はそれが当たり前だと思っていました」
「……アルビー様の中でなにかが変わったんですね」
「デューク様やアルベルトさん、騎士団の皆のおかげで僕は型から抜け出すことができました。だから今は自分がどこまで突き進んでいけるのか挑戦してみたいんです」
立ち止まることのない大きな背中を追いかけ続けたい。責任を背負い、自身の力で上り詰めたデューク様の隣に、顔を上げて立っていられるような人間になりたいと思った。
そのためにも努力を続けていこう。それが今の僕にできる唯一のことだから。
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