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大切にする②
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じわりと視界が滲む。
「っ、ごめんなさい……」
「って、なに泣いてんだよ。クソッ。言い方が悪かった。謝るから泣くな」
涙が溢れだして頬を流れていく。その水滴を、デューク様が自分の袖で拭ってくれた。怒ったり焦ったり。本当になにを考えているのかわからない。
面倒だと思われたくないのに、その言葉を言わせてしまった自分が嫌だった。
「言ってくれないとわかんないんだよ。お貴族様特有の察してくれってのは、苦手なんだ。それに俺も気遣いが足りてなかった。悪かったよ。次からはなにかあったらなんでも話してくれ」
「……なんでも?」
「ああ。腹減ったでも、眠いでも、なんでもいい。どうでもいいことでも聞かせてほしい。お前が思ってることを知りたい」
「なんでっ、なんで僕に優しくしてくれるんですか?どうして、会ったばかりの、突然来た僕のことを気遣ってくれるんですか?」
与えられる優しさを素直に受け止めたい。それなのに、信じきれなかった。
人の優しさが怖い。こんなふうに大切に扱われることに慣れていなくて、戸惑ってしまう。
だって優しさも気遣いも、いつだって与えられるのは僕ではなかった。
「たしかに王様から無理矢理押し付けられた縁談だったけどさ。それはお前も同じだろ」
デューク様と僕が同じ立場にいるのかは判断できない。
報奨として受け取った縁談と、身代わりとして受け入れるしかなかった結婚。同じように思えて、本質は違う気がした。
きっと僕の気持ちの問題なんだ。
「それにこんな機会でもないと一生結婚なんてしなかっただろうしな」
「好きな人とかは居なかったんですか?」
「作らないようにしてたってのが正しいかもな。俺は騎士だ。前線に出ればいつ死んでもおかしくない。だから嫁をもらう気なんてなかった。お前にも重荷を背負わせることになる。むしろ迷惑かけるのは俺の方かもな。なぁ、アルビー」
「……はい」
「俺がお前に優しくするのは、村八分にされないためだ」
「……へ?」
よくわからなくて首を傾げると、前みたいに頭をクシャクシャと撫でられた。
「俺の生まれ育った村では、嫁を大切にしない男は村八分にされてた。政略だろうと、大恋愛だろうと関係ない。家族になったやつは全力で守る。大切にする。全力で助ける。俺はそう習って育てられた」
指の腹が、いまだに流れ続けている涙をすくい取ってくれる。
「それに、たぶん俺達がこうなることは運命的に決まってた気がするんだ」
「……運命?」
花人と天人の中にはまれに、『運命の番』と呼ばれる魂で惹かれ合う存在と出会う人達がいる。出会った瞬間、触れたとき、自然と心が通じ合い、運命を感じるのだと聞いたことがあった。
その惹かれ合う感覚を狂花と呼ぶこともある。
デューク様は、僕達が運命の番だと言いたいのだろうか?
「馬車に乗ってるアルビーを見たあの一瞬に感じたんだ。俺の運命はお前だって」
「っ、で、でも僕は……」
たしかにデューク様に触れると胸が温かくなる。もっと傍に居たいと感じてしまう。けれど、その感覚が運命の番だから感じるものなのかはわからない。
「わからなくてもいい。俺が勝手にそう思ってるだけだ。なぁ、お前にもう一つ謝りたいことがあるんだ」
「……なんですか?」
デューク様が僕に謝ることなんてあるのだろうか。
「まだ婚姻の契約書を提出してないんだ」
「えっ……」
嫁ぐ前に、記入したものを先に送っておいたはずだ。
記入するところを、お父様に監視されていたからよく覚えている。それなのにどうして……。
「やっぱり僕みたいな地味で取り柄のない花人が嫁いでくるのは嫌だったのですか?」
思わず本音が漏れてしまう。
美しいオリビアなら、デューク様ももっと喜んだのではないだろうか。ジルバート様のように、いつか彼も……。
胸の奥が痛くて辛い。
「そんなわけないだろう!俺の話を聞いていたのか?俺はお前でよかった!もうお前以外に考えられない。ただ、直接会って意思を確認したかったんだ。こちらが勝手に押し付けた結婚だ。お前には選択する権利があると思った」
「僕のために?」
本当に優しい人だ。
見た目はすごく怖いし、時々口も悪いけれど、僕のことを考えてくれていることが伝わってくる。だから、彼の言葉を信じたいと思った。
「僕は貴方と出会えて良かった。デューク様に嫁ぐことができて嬉しいです」
はっきりと気持ちを伝えられたのは、デューク様がなんでも話してほしいと言ってくれたから。
でも、婚約破棄のことや身代わりになったことだけは伝えられない気がした。過去のことをなかったことにはできない。けれど、前に進みたかった。
デューク様と過ごす未来に思いを馳せてみたいから。
僕の返答に満面の笑みを浮かべてくれたデューク様。伸びてきた筋肉質な腕が、強く抱きしめてくれる。力加減が下手くそなのか、少しだけ苦しい。それでも、今はそれが幸せだった。
この苦しさが、彼の元に嫁いできたのだと証明してくれている気がしたから。
「大切にする。約束だ」
「っ、はい……」
瞳から、また一つ涙が零れ落ちた。
「っ、ごめんなさい……」
「って、なに泣いてんだよ。クソッ。言い方が悪かった。謝るから泣くな」
涙が溢れだして頬を流れていく。その水滴を、デューク様が自分の袖で拭ってくれた。怒ったり焦ったり。本当になにを考えているのかわからない。
面倒だと思われたくないのに、その言葉を言わせてしまった自分が嫌だった。
「言ってくれないとわかんないんだよ。お貴族様特有の察してくれってのは、苦手なんだ。それに俺も気遣いが足りてなかった。悪かったよ。次からはなにかあったらなんでも話してくれ」
「……なんでも?」
「ああ。腹減ったでも、眠いでも、なんでもいい。どうでもいいことでも聞かせてほしい。お前が思ってることを知りたい」
「なんでっ、なんで僕に優しくしてくれるんですか?どうして、会ったばかりの、突然来た僕のことを気遣ってくれるんですか?」
与えられる優しさを素直に受け止めたい。それなのに、信じきれなかった。
人の優しさが怖い。こんなふうに大切に扱われることに慣れていなくて、戸惑ってしまう。
だって優しさも気遣いも、いつだって与えられるのは僕ではなかった。
「たしかに王様から無理矢理押し付けられた縁談だったけどさ。それはお前も同じだろ」
デューク様と僕が同じ立場にいるのかは判断できない。
報奨として受け取った縁談と、身代わりとして受け入れるしかなかった結婚。同じように思えて、本質は違う気がした。
きっと僕の気持ちの問題なんだ。
「それにこんな機会でもないと一生結婚なんてしなかっただろうしな」
「好きな人とかは居なかったんですか?」
「作らないようにしてたってのが正しいかもな。俺は騎士だ。前線に出ればいつ死んでもおかしくない。だから嫁をもらう気なんてなかった。お前にも重荷を背負わせることになる。むしろ迷惑かけるのは俺の方かもな。なぁ、アルビー」
「……はい」
「俺がお前に優しくするのは、村八分にされないためだ」
「……へ?」
よくわからなくて首を傾げると、前みたいに頭をクシャクシャと撫でられた。
「俺の生まれ育った村では、嫁を大切にしない男は村八分にされてた。政略だろうと、大恋愛だろうと関係ない。家族になったやつは全力で守る。大切にする。全力で助ける。俺はそう習って育てられた」
指の腹が、いまだに流れ続けている涙をすくい取ってくれる。
「それに、たぶん俺達がこうなることは運命的に決まってた気がするんだ」
「……運命?」
花人と天人の中にはまれに、『運命の番』と呼ばれる魂で惹かれ合う存在と出会う人達がいる。出会った瞬間、触れたとき、自然と心が通じ合い、運命を感じるのだと聞いたことがあった。
その惹かれ合う感覚を狂花と呼ぶこともある。
デューク様は、僕達が運命の番だと言いたいのだろうか?
「馬車に乗ってるアルビーを見たあの一瞬に感じたんだ。俺の運命はお前だって」
「っ、で、でも僕は……」
たしかにデューク様に触れると胸が温かくなる。もっと傍に居たいと感じてしまう。けれど、その感覚が運命の番だから感じるものなのかはわからない。
「わからなくてもいい。俺が勝手にそう思ってるだけだ。なぁ、お前にもう一つ謝りたいことがあるんだ」
「……なんですか?」
デューク様が僕に謝ることなんてあるのだろうか。
「まだ婚姻の契約書を提出してないんだ」
「えっ……」
嫁ぐ前に、記入したものを先に送っておいたはずだ。
記入するところを、お父様に監視されていたからよく覚えている。それなのにどうして……。
「やっぱり僕みたいな地味で取り柄のない花人が嫁いでくるのは嫌だったのですか?」
思わず本音が漏れてしまう。
美しいオリビアなら、デューク様ももっと喜んだのではないだろうか。ジルバート様のように、いつか彼も……。
胸の奥が痛くて辛い。
「そんなわけないだろう!俺の話を聞いていたのか?俺はお前でよかった!もうお前以外に考えられない。ただ、直接会って意思を確認したかったんだ。こちらが勝手に押し付けた結婚だ。お前には選択する権利があると思った」
「僕のために?」
本当に優しい人だ。
見た目はすごく怖いし、時々口も悪いけれど、僕のことを考えてくれていることが伝わってくる。だから、彼の言葉を信じたいと思った。
「僕は貴方と出会えて良かった。デューク様に嫁ぐことができて嬉しいです」
はっきりと気持ちを伝えられたのは、デューク様がなんでも話してほしいと言ってくれたから。
でも、婚約破棄のことや身代わりになったことだけは伝えられない気がした。過去のことをなかったことにはできない。けれど、前に進みたかった。
デューク様と過ごす未来に思いを馳せてみたいから。
僕の返答に満面の笑みを浮かべてくれたデューク様。伸びてきた筋肉質な腕が、強く抱きしめてくれる。力加減が下手くそなのか、少しだけ苦しい。それでも、今はそれが幸せだった。
この苦しさが、彼の元に嫁いできたのだと証明してくれている気がしたから。
「大切にする。約束だ」
「っ、はい……」
瞳から、また一つ涙が零れ落ちた。
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