身代わりの花は包愛に満たされる

天宮叶

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目を覚まして最初に見たのは、花瓶に生けられた野花だった。

道端でよく見かける花が、陽の光を反射するガラスの中で爛々と咲き誇っている。眠ったおかげか、頭はスッキリとしていた。

ぼーっと花束を見つめながら、自分がベッドで眠っている経緯を思い出す。

(食堂で倒れちゃったんだ……)

デューク様が運んでくれたのだろうか。

折角の歓迎会だったのに、申し訳ないことをしてしまった。泣きたい気持ちになったのは、料理や人の温かさに触れてしまったからかもしれない。

身体を起こすと、ほぼ同時に部屋の扉が開いた。

「起きたのか」

「……ご迷惑をおかけしました」

近づいてきたデューク様に頭を下げる。眉間のシワを見て、彼が怒っているような気がした。

怒られることは慣れている。迷惑をかけたのだから当然だ。それでも嫌われたくないし、面倒なやつだと思われたくなかった。

「体調が悪かったことをなぜ言わなかった?」

落ち着いた声音で問われる。

恐る恐る顔を上げると、無表情のデューク様と目が合う。なにを考えているのかわからない。

「……その……」

体調が悪いことを隠していたわけではなかった。ただ、伝える習慣がなかっただけだ。

僕がどれだけ不調を訴えても、耳を貸してもらえることは少なかった。高熱が出ても、オリビアが軽く熱を出すとそちらが優先された。

ひたすら眠って自力で治すこともあれば、使用人が気がついて民間の薬をくれることもあった。そんなことが長く続くと、不調を隠す癖がついてしまう。

だから故意に隠していたわけではない。

それに体調不良を忘れるほどに、食堂での出来事が楽しかったんだ。

言葉にして伝えたかった。自分の行動の理由を、どうにか形としてデューク様に聞いてほしい。

そう思うのに、上手く声が形作れない。

僕の気持ちを伝えたところで、聞いてもらえるのだろうか?

ふとそんな疑問の壁に突き当たってしまったからだ。

「はぁ、面倒くせえ」

口篭る僕に向かって、デューク様が言葉を吐き出す。その言葉が鋭利な刃物のように心に突き刺さった。

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