身代わりの花は包愛に満たされる

天宮叶

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一騒動②

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身体がよろけて、床へと崩れた僕のことを女性が驚いた表情で見ていた。

「大丈夫てすか!?どうして……」

女の子が僕を支えて立たせてくれる。女性は僕と女の子を睨みながら、フンッと軽く鼻を鳴らした。

「急に飛び込んできたバトラー夫人が悪いのでしょう。私は悪くないわ」

「ちょっと貴方!まずは謝罪すべきでしょう!」

女の子が言い返してくれるけれど、彼女はまったく聞く気はないようだった。

かなり強く叩かれたのか、頬がじんわりと熱い。もしかしたら赤くなっているかもしれない。

両親も怒ると、僕のことを叩くことがあった。その痛みに比べれば軽い方だ。

「貧乏平民の貴方が調子に乗るからわるいのよ」

相当プライドが高いのか、彼女は女の子へと言葉を続ける。使用人選びの場で、まさかこんな自体になるとは予想もしておらず、どうしたらいいのかもわからない。

こういうときデューク様ならどうするのだろうか。

「っ、出て行ってください!」

きっとこう言うはずだ。

勇気を振り絞って彼女に伝える。

叩かれたことよりも、人を見下す態度が許せなかった。オリビアと比べられて生きてきた僕だからこそ、一緒に過ごす人たちとは対等でありたいと思う。

「はぁ?なんで私が出ていかないといけないわけ?」

「貴方は、不採用です」

「はあ!!?どういうことよ!」

彼女が僕に掴みかかろうとしてくる。驚いて目を固くつぶって、衝撃に耐えるために身構えた。

その瞬間、短い悲鳴が聞こえてきて疑問が浮かぶ。来るはずの衝撃もない。恐る恐る目を開けると、床に倒れた彼女を見下ろすデューク様の姿が視界に飛び込んできた。

「聞こえなかったのか?お前は不採用だ。早く出ていけ」

冷ややかな瞳に見下されて、彼女は身体を震わせている。

デューク様が助けてくれたのだと気がつき、安堵感に包み込まれる。けれど、酷く怒っているのか、デューク様が少しだけ怖くも感じてしまう。

「わ、私は……マルイ大商店の娘ですよ……こんなことして父が許すとでも?」

「ああ?馬鹿かお前。マルイ大商店とは今後取引をするつもりはない。俺の嫁を傷つけたんだ。当然だよな」

商人にとって貴族の取引先は生命線だ。特にヴォルフ領の領主である、バトラー伯爵家との取引を失うのは痛手だろう。

戦意喪失した彼女は、デューク様が呼んだ騎士によって外に運び出された。

部屋に静寂が戻る。

「お前も出ていけ」

続いてデューク様が、僕のことを支えてくれていた女の子に向かって言い放つ。女の子は悲しそうにうつむきながら、僕から手を離した。

彼女は被害者だ。それに僕のことを心配してくれた。そんな彼女を追い出すような真似はできない。

「待ってくださいっ!」

震える声を振り絞る。気持ちをちゃんと伝えないといけない。デューク様に僕の思っていることを知ってほしかった。

「彼女に僕のお世話をお願いしたいです」

「アルビー、それがお前の気持ちなのか?」

デューク様に問われる。深く頷き返すと、デューク様は少しだけ困ったような表情を浮かべたあとに、了承してくれた。

「お前が追い出されなかったのはアルビーのおかげだ」

「っ、私、アルビー様にお仕えしてもいいんですか?」

「アルビーがいいと言っているからな」

女の子が僕の方へと身体ごと顔を向けてくれる。もううつむいてはいなかった。

僕も彼女に目を合わせる。深々とお辞儀をされて、少しだけ泣きそうになってしまう。勇気を振り絞り、気持ちを伝えてよかったと思った。

「あの、これからよろしくね」

手を差し出すと、女の子が僕の手を握り返してくれる。人の温かさを感じて、なんだか泣きたい気持ちになった。

「アリアといいます。一生懸命頑張りますっ。よろしくお願いします!」

小花が咲いたような笑みを向けられて、僕も表情をほころばせる。

アリアのことなら信じられるって思えたんだ。

 

 

 

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