身代わりの花は包愛に満たされる

天宮叶

文字の大きさ
20 / 51

どう思う?

しおりを挟む
「アリアを部屋に案内してやれ」

デューク様が使用人に指示を出す。

アリアは僕達に一礼してから、使用人と共に部屋を出ていった。二人きりになった部屋は、やけに静かだ。

歩み寄ってきたデューク様が、打たれた頬にそっと指を近づけてくる。微かな痛みに眉を寄せた。

「痛むか」

「平気です」

「……あの女は八つ裂きにしても足りないくらいだ」

発せられた言葉に目を見開く。デューク様の様子から、本気でそう思っていることが伝わってきた。

僕が打たれたことを心配してくれているのだろう。そう思うと、物騒な言葉も怖くは感じない。

「冷やさないとな」

僕の手を取り、ソファーへと促してくれる。それに従い大人しく腰掛けた。すると、デューク様が部屋に備え付けてある氷室から氷を取り出して、水と一緒に桶へと入れる。氷水でタオルを濡らして、絞ると僕の方へと持ってきてくれた。

「少し冷たいぞ」

労るように頬に添えられたタオルは、ひんやりとしていて心地がいい。

「ありがとうございます」

「もう無茶はするな。お前は屋敷にいる男共と違って細っこいし、心配になる。目を離せなくなっちまうだろ」

「っ、過保護すぎですよ。……僕だって男です」

花人にしては体格もいいし、ご令嬢のような扱いをされることなどほとんどない。花人は尊ばれる存在だけれど、僕にそれは当てはまらないと知っている。

だからデューク様が、僕のことをこんなにも大切にしてくれることに戸惑ってしまうんだ。

「お前は俺の嫁だ。だから過保護になるのは当たり前だろう」

開いている方の頰を撫でられて、心臓が高鳴る。やけに触り方が優しくて、逆に緊張してしまう。

「可愛い顔してる」

「……ど、どんな顔ですか……」

「……食っちまいたくなる顔」

デューク様の顔が近づいてきて、思わず強く目を閉じた。唇に柔らかな感覚がして、肩を跳ねさせる。

これまでにないくらい鼓動が揺らいでいた。

そっと目を開けると、デューク様の男らしい顔が目に飛び込んでくる。赤い瞳が僕だけを映し出していて、それがたまらないほどに幸せなのに恥ずかしい。

すぐに唇が離れる。驚きと羞恥心で、頬に当てていたタオルを落としてしまう。それを広い上げてくれたデューク様が、僕の代わりに頬に当て直してくれた。

「うぶだな」

「……は、初めてだったんです……」

きっと凄く変な顔をしている気がして、目そらす。

そんな僕の頬に、デューク様が再び唇を寄せてきた。動揺しながら視線を戻すと、デューク様がすごく優しい表情を浮かべているのに気が付く。

「結婚式をしようと思ってるんだ」

「……結婚式ですか?」

「ああ。そのときに婚姻契約書も提出する予定だ。アルビーはどう思う?」

言葉が出てこない。

今までの僕ににとって、婚姻契約や結婚式は義務的なものだったからだ。いつかジルバート様と婚姻するだろう……。曖昧に思い浮かべていた未来は断ち切られた。けれど僕の隣には、デューク様が寄り添ってくれている。

デューク様との結婚式を想像すると、嬉しいのに泣きたいような気持ちになってしまう。きっと幸せで胸が一杯になってしまうから。

「僕も結婚式したいです」

自信なさげに答えてしまったのは、いまだにデューク様の隣に居られることが信じられないからかもしれない。

デューク様が僕に優しくしてくれることが嬉しいのに、素直に受け取れないから。

「よし、両親や知り合いを呼んで盛大に行おう」

「……両親……」

思わず固まってしまう。僕の様子がおかしいことに気がついたデューク様が「どうした?」って尋ねてくれた。

 

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/01/23 19:00 アルファポリス版限定SS公開予定  累計で6300♡いいねと累計ポイント285000突破の御礼SSになります

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...