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誰でもいいから嘘だと言ってくれ!!!!
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婚約の話をされてから一週間ほどが経った。今日は伯爵家にルーカスが訪問してくる日だ。
朝から胃が痛かったため胃痛に効く薬草を煎じて飲んでおいた。
隣には緊張した面持ちのフィーロが居る。
ゼンとフィーロが破滅する原因を作った男が伯爵家に来る。ゼンは式典などで何度もルーカスと会ったことがあるけれど、記憶を取り戻してからは今回が初めてだ。顔を思い出すと緊張してしまう。
「ルーカス様がお見えです」
使用人が部屋へ呼びに来た。
「行くぞ」
声をかけてフィーロと共に部屋を出た。すぐ後ろをシャノンもついてきている。
客室に近づくにつれて爽やかな甘い香りが漂ってきた。ゼンは昔からこの香りがあまり好きではない。
「やぁ、ゼン久しぶりだね」
「……そうだな」
客室に入ると、ルーカスがこちらに気付いて顔をほころばせた。
清潔感のある整えられた金髪に、色気を含ませた紫の瞳はアメジストのように美しい。立ち上がったルーカスは、175cmはあるゼンと並んでもかなり背が高いことがわかる。
公爵家嫡男であり、騎士団長を務めるルーカスは高位のアルファだ。
ルーカスがゼンの方に一歩近づいてくる。彼が動くたびに香りが立ち昇り、鼻を押さえたくなった。嫌な匂いというわけではない。むしろその逆だからこそできるだけ避けたいと思ってしまう。
「ルーカス様、フィーロは器量だけはいいのですよ!」
ルーカスを出迎えていた両親がゴマをするように手を組みながら話しかけた。
フィーロは完全にアルファであるルーカスに圧倒されて震えている。そうなるのも無理はない。
「フィーロはまだ幼い。それにオメガでもない。婚約者に選ぶのならもっと適任がいるはずだ」
そう、例えばシャノンとかな!
かばうようにフィーロを背に隠して反論する。それから後ろに控えているシャノンへわざと何度も視線を送った。釣られるようにルーカスがシャノンを見た。
けれど笑みを浮かべただけですぐに視線をそらしてしまった。その行動に違和感を覚える。
「確かにそうかもしれない。それに俺は初めからそのつもりだよ」
「それならフィーロとの婚約話はなかったことにして他の者を選べ」
「もちろん。そうさせてもらおうかな」
さらに一歩ルーカスが距離を詰めてきた。
「なぜ寄ってくる」
できるだけ早くシャノンを連れて帰ってほしい。
主人公ともっと話してみたい気持ちはあったが、今は破滅ルートを回避するためにこの男と縁を切ることが先決だ。
「ゼンは一級魔術師だよね」
「だからなんだ」
とりあえず離れてほしい。
冷や汗が背筋を流れる。この男の近くには一分一秒だっていたくない。
キザったらしい整いすぎた顔や甘いボイスは苦手だし、昔からルーカスはやたらと距離を詰めようとしてくる。
前世の記憶がある今はヒーローであるルーカスの良さを知っているため嫌悪感は薄れている。けれど昔は本当にとことん彼のことが嫌いだったし、隙あらば蹴落としてやりたいと思っていた。
「騎士団長である俺と対応なのは君くらいだと思わないかい?」
「わけのわからないことをほざくな。俺はアルファだ。出生率の関係上、公爵位であればオメガを娶るのが常識だろう」
オメガはヒートと呼ばれる発情状態に入ると、相手がアルファの場合ほとんど100%の確率で子を身籠ることができる。
しかもアルファ同士で交配したときよりもアルファを生む確率が高いことも実証されていた。そのため高位貴族ほどオメガとの婚姻を推奨している。
「そうですよルーカス様!ゼンはアルファです。もっと適任がいるはず」
やけに慌てた様子で父親が援護してきた。
ため息をつきたくなってしまう。
口元に弧を描いたルーカスが一気にゼンとの距離を詰めた。
「ゼンの秘密を守るために俺を利用するのはどうかな?」
耳元で囁かれて、ぶわっと全身が熱くなる感覚がした。
冷や汗の量が尋常ではない。握りしめた拳が汗のせいで気持ち悪くてたまらなかった。
「それに婚約の話を受けてくれるのなら、フィーロ君をオメガだと偽っていたことにも気づかないふりをしてあげる」
フィーロを人質に取られて怒りが増した。けれど実際無礼を働いてしまったのはレゲンデア伯爵家だ。
このことが世間に知られれば伯爵家は間違いなく痛手を負ってしまうし、公爵家から多額の賠償金を請求されてもおかしくはない。フィーロもオメガだと偽ったベータとして後ろ指を指されて生きていくことになる。
実際に小説内でもフィーロはそんなレッテルを貼られてますます孤独の道を歩むことになってしまっていた。
「……あとで覚えてろよ」
「それは了承と捉えていいのかな。嬉しいよ。これからよろしくね俺の婚約者様」
満足そうに笑みを浮かべたルーカスがようやく離れてくれた。
父親は真っ青な表情を浮かべているし、シャノンも戸惑った表情を浮かべている。唯一、フィーロだけが無表情のまま固まっていた。
「サインをしようか」
「今か?」
「もちろん。君に時間を与えたら逃げられてしまうかもしれないからね」
「……チッ」
時間を稼いで逃げる方法を探そうと思っていたというのに、考えを読まれてしまっていたことが悔しい。
嬉しそうにテーブルへ婚約契約書を用意しているルーカスを睨みつける。
(あぁ……誰か嘘だと言ってくれ)
なんとしても破滅ルートだけは避けたい……。なのになぜこうなった?
ゼンはルーカスの考えがまったく理解できず、喉の奥で唸り声を出した。
朝から胃が痛かったため胃痛に効く薬草を煎じて飲んでおいた。
隣には緊張した面持ちのフィーロが居る。
ゼンとフィーロが破滅する原因を作った男が伯爵家に来る。ゼンは式典などで何度もルーカスと会ったことがあるけれど、記憶を取り戻してからは今回が初めてだ。顔を思い出すと緊張してしまう。
「ルーカス様がお見えです」
使用人が部屋へ呼びに来た。
「行くぞ」
声をかけてフィーロと共に部屋を出た。すぐ後ろをシャノンもついてきている。
客室に近づくにつれて爽やかな甘い香りが漂ってきた。ゼンは昔からこの香りがあまり好きではない。
「やぁ、ゼン久しぶりだね」
「……そうだな」
客室に入ると、ルーカスがこちらに気付いて顔をほころばせた。
清潔感のある整えられた金髪に、色気を含ませた紫の瞳はアメジストのように美しい。立ち上がったルーカスは、175cmはあるゼンと並んでもかなり背が高いことがわかる。
公爵家嫡男であり、騎士団長を務めるルーカスは高位のアルファだ。
ルーカスがゼンの方に一歩近づいてくる。彼が動くたびに香りが立ち昇り、鼻を押さえたくなった。嫌な匂いというわけではない。むしろその逆だからこそできるだけ避けたいと思ってしまう。
「ルーカス様、フィーロは器量だけはいいのですよ!」
ルーカスを出迎えていた両親がゴマをするように手を組みながら話しかけた。
フィーロは完全にアルファであるルーカスに圧倒されて震えている。そうなるのも無理はない。
「フィーロはまだ幼い。それにオメガでもない。婚約者に選ぶのならもっと適任がいるはずだ」
そう、例えばシャノンとかな!
かばうようにフィーロを背に隠して反論する。それから後ろに控えているシャノンへわざと何度も視線を送った。釣られるようにルーカスがシャノンを見た。
けれど笑みを浮かべただけですぐに視線をそらしてしまった。その行動に違和感を覚える。
「確かにそうかもしれない。それに俺は初めからそのつもりだよ」
「それならフィーロとの婚約話はなかったことにして他の者を選べ」
「もちろん。そうさせてもらおうかな」
さらに一歩ルーカスが距離を詰めてきた。
「なぜ寄ってくる」
できるだけ早くシャノンを連れて帰ってほしい。
主人公ともっと話してみたい気持ちはあったが、今は破滅ルートを回避するためにこの男と縁を切ることが先決だ。
「ゼンは一級魔術師だよね」
「だからなんだ」
とりあえず離れてほしい。
冷や汗が背筋を流れる。この男の近くには一分一秒だっていたくない。
キザったらしい整いすぎた顔や甘いボイスは苦手だし、昔からルーカスはやたらと距離を詰めようとしてくる。
前世の記憶がある今はヒーローであるルーカスの良さを知っているため嫌悪感は薄れている。けれど昔は本当にとことん彼のことが嫌いだったし、隙あらば蹴落としてやりたいと思っていた。
「騎士団長である俺と対応なのは君くらいだと思わないかい?」
「わけのわからないことをほざくな。俺はアルファだ。出生率の関係上、公爵位であればオメガを娶るのが常識だろう」
オメガはヒートと呼ばれる発情状態に入ると、相手がアルファの場合ほとんど100%の確率で子を身籠ることができる。
しかもアルファ同士で交配したときよりもアルファを生む確率が高いことも実証されていた。そのため高位貴族ほどオメガとの婚姻を推奨している。
「そうですよルーカス様!ゼンはアルファです。もっと適任がいるはず」
やけに慌てた様子で父親が援護してきた。
ため息をつきたくなってしまう。
口元に弧を描いたルーカスが一気にゼンとの距離を詰めた。
「ゼンの秘密を守るために俺を利用するのはどうかな?」
耳元で囁かれて、ぶわっと全身が熱くなる感覚がした。
冷や汗の量が尋常ではない。握りしめた拳が汗のせいで気持ち悪くてたまらなかった。
「それに婚約の話を受けてくれるのなら、フィーロ君をオメガだと偽っていたことにも気づかないふりをしてあげる」
フィーロを人質に取られて怒りが増した。けれど実際無礼を働いてしまったのはレゲンデア伯爵家だ。
このことが世間に知られれば伯爵家は間違いなく痛手を負ってしまうし、公爵家から多額の賠償金を請求されてもおかしくはない。フィーロもオメガだと偽ったベータとして後ろ指を指されて生きていくことになる。
実際に小説内でもフィーロはそんなレッテルを貼られてますます孤独の道を歩むことになってしまっていた。
「……あとで覚えてろよ」
「それは了承と捉えていいのかな。嬉しいよ。これからよろしくね俺の婚約者様」
満足そうに笑みを浮かべたルーカスがようやく離れてくれた。
父親は真っ青な表情を浮かべているし、シャノンも戸惑った表情を浮かべている。唯一、フィーロだけが無表情のまま固まっていた。
「サインをしようか」
「今か?」
「もちろん。君に時間を与えたら逃げられてしまうかもしれないからね」
「……チッ」
時間を稼いで逃げる方法を探そうと思っていたというのに、考えを読まれてしまっていたことが悔しい。
嬉しそうにテーブルへ婚約契約書を用意しているルーカスを睨みつける。
(あぁ……誰か嘘だと言ってくれ)
なんとしても破滅ルートだけは避けたい……。なのになぜこうなった?
ゼンはルーカスの考えがまったく理解できず、喉の奥で唸り声を出した。
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