弟を溺愛していたら、破滅ルートを引き連れてくる攻めに溺愛されちゃった話

天宮叶

文字の大きさ
5 / 45

誰でもいいから嘘だと言ってくれ!!!!

しおりを挟む
婚約の話をされてから一週間ほどが経った。今日は伯爵家にルーカスが訪問してくる日だ。
 朝から胃が痛かったため胃痛に効く薬草を煎じて飲んでおいた。
 隣には緊張した面持ちのフィーロが居る。
 ゼンとフィーロが破滅する原因を作った男が伯爵家に来る。ゼンは式典などで何度もルーカスと会ったことがあるけれど、記憶を取り戻してからは今回が初めてだ。顔を思い出すと緊張してしまう。

「ルーカス様がお見えです」

 使用人が部屋へ呼びに来た。

「行くぞ」

 声をかけてフィーロと共に部屋を出た。すぐ後ろをシャノンもついてきている。
 客室に近づくにつれて爽やかな甘い香りが漂ってきた。ゼンは昔からこの香りがあまり好きではない。

「やぁ、ゼン久しぶりだね」

「……そうだな」

 客室に入ると、ルーカスがこちらに気付いて顔をほころばせた。
 清潔感のある整えられた金髪に、色気を含ませた紫の瞳はアメジストのように美しい。立ち上がったルーカスは、175cmはあるゼンと並んでもかなり背が高いことがわかる。
 公爵家嫡男であり、騎士団長を務めるルーカスは高位のアルファだ。
 ルーカスがゼンの方に一歩近づいてくる。彼が動くたびに香りが立ち昇り、鼻を押さえたくなった。嫌な匂いというわけではない。むしろその逆だからこそできるだけ避けたいと思ってしまう。

「ルーカス様、フィーロは器量だけはいいのですよ!」

 ルーカスを出迎えていた両親がゴマをするように手を組みながら話しかけた。
 フィーロは完全にアルファであるルーカスに圧倒されて震えている。そうなるのも無理はない。

「フィーロはまだ幼い。それにオメガでもない。婚約者に選ぶのならもっと適任がいるはずだ」

 そう、例えばシャノンとかな!
 かばうようにフィーロを背に隠して反論する。それから後ろに控えているシャノンへわざと何度も視線を送った。釣られるようにルーカスがシャノンを見た。
 けれど笑みを浮かべただけですぐに視線をそらしてしまった。その行動に違和感を覚える。

「確かにそうかもしれない。それに俺は初めからそのつもりだよ」
「それならフィーロとの婚約話はなかったことにして他の者を選べ」
「もちろん。そうさせてもらおうかな」

 さらに一歩ルーカスが距離を詰めてきた。

「なぜ寄ってくる」

 できるだけ早くシャノンを連れて帰ってほしい。
 主人公ともっと話してみたい気持ちはあったが、今は破滅ルートを回避するためにこの男と縁を切ることが先決だ。 

「ゼンは一級魔術師だよね」
「だからなんだ」

 とりあえず離れてほしい。
 冷や汗が背筋を流れる。この男の近くには一分一秒だっていたくない。
 キザったらしい整いすぎた顔や甘いボイスは苦手だし、昔からルーカスはやたらと距離を詰めようとしてくる。

 前世の記憶がある今はヒーローであるルーカスの良さを知っているため嫌悪感は薄れている。けれど昔は本当にとことん彼のことが嫌いだったし、隙あらば蹴落としてやりたいと思っていた。

「騎士団長である俺と対応なのは君くらいだと思わないかい?」

「わけのわからないことをほざくな。俺はアルファだ。出生率の関係上、公爵位であればオメガを娶るのが常識だろう」

 オメガはヒートと呼ばれる発情状態に入ると、相手がアルファの場合ほとんど100%の確率で子を身籠ることができる。
 しかもアルファ同士で交配したときよりもアルファを生む確率が高いことも実証されていた。そのため高位貴族ほどオメガとの婚姻を推奨している。

「そうですよルーカス様!ゼンはアルファです。もっと適任がいるはず」

 やけに慌てた様子で父親が援護してきた。
 ため息をつきたくなってしまう。
 口元に弧を描いたルーカスが一気にゼンとの距離を詰めた。

「ゼンの秘密を守るために俺を利用するのはどうかな?」

 耳元で囁かれて、ぶわっと全身が熱くなる感覚がした。
 冷や汗の量が尋常ではない。握りしめた拳が汗のせいで気持ち悪くてたまらなかった。

「それに婚約の話を受けてくれるのなら、フィーロ君をオメガだと偽っていたことにも気づかないふりをしてあげる」

 フィーロを人質に取られて怒りが増した。けれど実際無礼を働いてしまったのはレゲンデア伯爵家だ。
 このことが世間に知られれば伯爵家は間違いなく痛手を負ってしまうし、公爵家から多額の賠償金を請求されてもおかしくはない。フィーロもオメガだと偽ったベータとして後ろ指を指されて生きていくことになる。
 実際に小説内でもフィーロはそんなレッテルを貼られてますます孤独の道を歩むことになってしまっていた。 

「……あとで覚えてろよ」

「それは了承と捉えていいのかな。嬉しいよ。これからよろしくね婚約者様」

 満足そうに笑みを浮かべたルーカスがようやく離れてくれた。
 父親は真っ青な表情を浮かべているし、シャノンも戸惑った表情を浮かべている。唯一、フィーロだけが無表情のまま固まっていた。

「サインをしようか」

「今か?」

「もちろん。君に時間を与えたら逃げられてしまうかもしれないからね」
「……チッ」

 時間を稼いで逃げる方法を探そうと思っていたというのに、考えを読まれてしまっていたことが悔しい。
 嬉しそうにテーブルへ婚約契約書を用意しているルーカスを睨みつける。

 (あぁ……誰か嘘だと言ってくれ)

 なんとしても破滅ルートだけは避けたい……。なのになぜこうなった?
 ゼンはルーカスの考えがまったく理解できず、喉の奥で唸り声を出した。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る

桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。

白い結婚だと思っていたら、(溺愛)夫にガブガブされて、番になっていたようです

まんまる
BL
フレア王国の第3王子シルティ(18歳.Ω)は、王宮騎士団の団長を務める、キーファ侯爵家現当主のアリウス(29歳.α)に、ずっと片想いをしている。 そんなシルティは、Ωの成人王族の務めとして、自分は隣国のαの王族に輿入れするのだろうと、人生を半ば諦めていた。 だが、ある日突然、父である国王から、アリウスとの婚姻を勧められる。 二つ返事でアリウスとの婚姻を受けたシルティだったが、何もできない自分の事を、アリウスは迷惑に思っていないだろうかと心配になる。 ─が、そんなシルティの心配をよそに、アリウスは天にも登る気持ち(無表情)で、いそいそと婚姻の準備を進めていた。 受けを好きすぎて、発情期にしか触れる事ができない攻めと、発情期の記憶が一切ない受けのお話です。 拗らせ両片想いの大人の恋(?) オメガバースの設定をお借りしています。ぼんやり設定です。 Rシーンは※つけます。 1話1,000~2,000字程度です。

悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

従者は知らない間に外堀を埋められていた

SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL 転生先は悪役令息の従者でした でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません だから知らんけど精神で人生歩みます

冤罪で追放された悪役令息、北の辺境で幸せを掴む~恐ろしいと噂の銀狼将軍に嫁いだら、極上の溺愛とモフモフなスローライフが始まりました~

水凪しおん
BL
「君は、俺の宝だ」 無実の罪を着せられ、婚約破棄の末に極寒の辺境へ追放された公爵令息ジュリアン。 彼を待ち受けていたのは、「北の食人狼」と恐れられる将軍グリーグとの政略結婚だった。 死を覚悟したジュリアンだったが、出会った将軍は、噂とは真逆の不器用で心優しいアルファで……? 前世の記憶を持つジュリアンは、現代知識と魔法でボロボロの要塞を快適リフォーム! 手作りスープで将軍の胃袋を掴み、特産品開発で街を救い、気づけば冷徹将軍から規格外の溺愛を受けることに。 一方、ジュリアンを捨てた王都では、破滅の足音が近づいていて――。 冤罪追放から始まる、銀狼将軍との幸せいっぱいな溺愛スローライフ、ここに開幕! 【オメガバース/ハッピーエンド/ざまぁあり/子育て/スパダリ】

処理中です...