6 / 66
隠し通さなければならない秘密もあるってことだ
婚姻契約書にサインを終えると、ルーカスはそれを満足気に確認してから鞄へとしまった。今すぐあの鞄ごと契約書を燃やしてしまえば無効にならないだろうか……。
「お兄様……僕は……」
「フィーロ、なにも心配しなくていい。お前は好きに生きていいんだ」
感情の抜けたような表情がクシャリと歪む。
頭を撫でてやろうと手を伸ばすと、勢い良く抱き着かれて驚いた。
「どうしたんだ?」
部屋にいる全員がフィーロの行動に驚いている。
「……お兄様は僕のお兄様なのに……僕が婚約したほうが良かった……」
なにかをつぶやく声が聞こえてきたけれど上手く聞き取れなかった。
聞き返そうと思ったけれど、フィーロがグリグリと胸に額を押し付けてくるため聞くにも聞けない。
(よくわからないけど今日もフィーロは可愛いな。そんなに婚約しなくて良くなって嬉しかったのか)
喜んでくれているのなら今回の婚約に承諾したかいもあるというものだ。
「兄弟仲がいいのはかまわないけれど、少し妬けちゃうな」
フィーロを引き離そうとしたのかルーカスが手を出してきた。
その手をはたき落とすと、にこりと笑みを向けられた。
「いたいな~」
「フィーロに触るな」
「俺は婚約者を返してもらおうとしただけなんだけどね」
わざとらしく困ったように肩をすくめたルーカスをじとりと睨む。
大切な弟にルーカスのような危険因子を近づけさせるわけにはいかない。
「お前たち、ルーカス様の前でみっともない!早く離れないか!」
「かまいませんよ伯爵。今日のところは帰らせていただきます。ゼンまた来るからね」
父親に礼をしたルーカスは鞄を持って颯爽と客室を出ていく。
(チッ、鞄を燃やしそこねた)
ルーカスの背が消えたのを確認してからフィーロを離した。
とりあえずフィーロが悪役令息になる要因は一つ取り除くことができたためよしとしよう。
「シャノン、フィーロを部屋に送ってくれ。俺は父と話があるからな」
「は、はい!フィーロ様行きましょう」
不満そうな表情で頬を膨らませているフィーロをシャノンがなだめながら連れて行く。
二人が客室から出たのを確認すると、父親へと視線を向けた。
「満足ですか」
「お前が邪魔をしなければ、役立たずな妾の子を嫁がせることができたものを!」
「望み通りエイリーク公爵家と縁はできただろう」
「一級魔術師のお前の秘密がバレればどうなることか!間違いなく一級魔術師の位は剥奪されるだろう。そうなれば伯爵家はおしまいだ」
父親がゼンの地位にしか興味がないことはわかっていた。
昔から人並外れた魔術の才能があったため、父親はその才能に目をつけてゼンに無理難題を強いてきた。その無理難題には一級魔術師の地位を手に入れることも含まれていた。
だがゼンには生まれたときから大きなハンデがある。
ルーカスに劣等感を抱くのもそのハンデの影響だ。
「疲れたので失礼します。それから、余計な企てはしないように」
父親が言い返そうと口を開いたのが見えたが無視をして客室を出た。
のんびりと中庭に面した通路を歩きながらこれからのことを考える。
──ルーカスはどうしてシャノンを連れて行かなかったんだ?
しかも婚約者に仲の悪いゼンを選んだのも謎だ。
運命の番として描かれていた二人が結ばれないなんてことがあるのだろうか?
わからないけれど、とりあえずフィーロはルーカスのことを好きにはなっていないようだったので作戦は成功だ。
「……気分が悪い」
考え事をしながら気を紛らわせていたけれどそろそろ限界が来そうだ。
視界が揺れてふらつく。壁に背を預けると、荒い息を吐き出した。
(ルーカスめ。不用意に近づきやがって……)
息が荒くなっていく。
これは治癒魔法では軽減できない症状のため部屋まで我慢するしかない。
体を引きずりながらなんとか部屋まで到着すると、カウチソファに倒れ込んだ。
「っ、くそっ、久しぶりにアルファのフェロモンを嗅いだから軽くヒートを起こしてるな……」
ジャケットを脱ぎネクタイを緩める。
全身がやけに熱い。ゼンがルーカスを遠ざける理由の大部分を占めるのがこれのせいだ。
ゼンはなぜかルーカスのフェロモンにものすごく反応を示してしまう。
幼い頃から優秀で、見た目もアルファのようだったゼンは、第二性別検査をするまでアルファだと思われていた。しかし結果はオメガ。
父親は絶望したが、すでに周りにはアルファだと触れ回っていたため今さらオメガだとは言い出せなかった。そのためゼンは第二性別結果を受けてから十九歳になった今までずっと、オメガであることを隠しアルファのふりをして生きてきた。
それがゼンの大きな秘密であり、優れたアルファであるルーカスを敵視してしまう理由だった。
立ち上がった下半身に視線を向けると、自身の耐え性の無い体に嫌気がさす。オメガがヒートを起こせば無条件にアルファを誘惑してしまう。
普段は強い薬を服用することで抑えているが、それもいつまで持つのかはわからない。
スラックスを脱ぎ捨てて下半身へ手を伸ばした。
(次会ったらあの憎たらしい顔に一発食らわせてやる……ッ)
ルーカスの笑みを思い浮かべて歯を食いしばる。それから無意識に彼から放たれる香りを思い出して手を動かし始めた。
「お兄様……僕は……」
「フィーロ、なにも心配しなくていい。お前は好きに生きていいんだ」
感情の抜けたような表情がクシャリと歪む。
頭を撫でてやろうと手を伸ばすと、勢い良く抱き着かれて驚いた。
「どうしたんだ?」
部屋にいる全員がフィーロの行動に驚いている。
「……お兄様は僕のお兄様なのに……僕が婚約したほうが良かった……」
なにかをつぶやく声が聞こえてきたけれど上手く聞き取れなかった。
聞き返そうと思ったけれど、フィーロがグリグリと胸に額を押し付けてくるため聞くにも聞けない。
(よくわからないけど今日もフィーロは可愛いな。そんなに婚約しなくて良くなって嬉しかったのか)
喜んでくれているのなら今回の婚約に承諾したかいもあるというものだ。
「兄弟仲がいいのはかまわないけれど、少し妬けちゃうな」
フィーロを引き離そうとしたのかルーカスが手を出してきた。
その手をはたき落とすと、にこりと笑みを向けられた。
「いたいな~」
「フィーロに触るな」
「俺は婚約者を返してもらおうとしただけなんだけどね」
わざとらしく困ったように肩をすくめたルーカスをじとりと睨む。
大切な弟にルーカスのような危険因子を近づけさせるわけにはいかない。
「お前たち、ルーカス様の前でみっともない!早く離れないか!」
「かまいませんよ伯爵。今日のところは帰らせていただきます。ゼンまた来るからね」
父親に礼をしたルーカスは鞄を持って颯爽と客室を出ていく。
(チッ、鞄を燃やしそこねた)
ルーカスの背が消えたのを確認してからフィーロを離した。
とりあえずフィーロが悪役令息になる要因は一つ取り除くことができたためよしとしよう。
「シャノン、フィーロを部屋に送ってくれ。俺は父と話があるからな」
「は、はい!フィーロ様行きましょう」
不満そうな表情で頬を膨らませているフィーロをシャノンがなだめながら連れて行く。
二人が客室から出たのを確認すると、父親へと視線を向けた。
「満足ですか」
「お前が邪魔をしなければ、役立たずな妾の子を嫁がせることができたものを!」
「望み通りエイリーク公爵家と縁はできただろう」
「一級魔術師のお前の秘密がバレればどうなることか!間違いなく一級魔術師の位は剥奪されるだろう。そうなれば伯爵家はおしまいだ」
父親がゼンの地位にしか興味がないことはわかっていた。
昔から人並外れた魔術の才能があったため、父親はその才能に目をつけてゼンに無理難題を強いてきた。その無理難題には一級魔術師の地位を手に入れることも含まれていた。
だがゼンには生まれたときから大きなハンデがある。
ルーカスに劣等感を抱くのもそのハンデの影響だ。
「疲れたので失礼します。それから、余計な企てはしないように」
父親が言い返そうと口を開いたのが見えたが無視をして客室を出た。
のんびりと中庭に面した通路を歩きながらこれからのことを考える。
──ルーカスはどうしてシャノンを連れて行かなかったんだ?
しかも婚約者に仲の悪いゼンを選んだのも謎だ。
運命の番として描かれていた二人が結ばれないなんてことがあるのだろうか?
わからないけれど、とりあえずフィーロはルーカスのことを好きにはなっていないようだったので作戦は成功だ。
「……気分が悪い」
考え事をしながら気を紛らわせていたけれどそろそろ限界が来そうだ。
視界が揺れてふらつく。壁に背を預けると、荒い息を吐き出した。
(ルーカスめ。不用意に近づきやがって……)
息が荒くなっていく。
これは治癒魔法では軽減できない症状のため部屋まで我慢するしかない。
体を引きずりながらなんとか部屋まで到着すると、カウチソファに倒れ込んだ。
「っ、くそっ、久しぶりにアルファのフェロモンを嗅いだから軽くヒートを起こしてるな……」
ジャケットを脱ぎネクタイを緩める。
全身がやけに熱い。ゼンがルーカスを遠ざける理由の大部分を占めるのがこれのせいだ。
ゼンはなぜかルーカスのフェロモンにものすごく反応を示してしまう。
幼い頃から優秀で、見た目もアルファのようだったゼンは、第二性別検査をするまでアルファだと思われていた。しかし結果はオメガ。
父親は絶望したが、すでに周りにはアルファだと触れ回っていたため今さらオメガだとは言い出せなかった。そのためゼンは第二性別結果を受けてから十九歳になった今までずっと、オメガであることを隠しアルファのふりをして生きてきた。
それがゼンの大きな秘密であり、優れたアルファであるルーカスを敵視してしまう理由だった。
立ち上がった下半身に視線を向けると、自身の耐え性の無い体に嫌気がさす。オメガがヒートを起こせば無条件にアルファを誘惑してしまう。
普段は強い薬を服用することで抑えているが、それもいつまで持つのかはわからない。
スラックスを脱ぎ捨てて下半身へ手を伸ばした。
(次会ったらあの憎たらしい顔に一発食らわせてやる……ッ)
ルーカスの笑みを思い浮かべて歯を食いしばる。それから無意識に彼から放たれる香りを思い出して手を動かし始めた。
あなたにおすすめの小説
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
従者は知らない間に外堀を埋められていた
SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL
転生先は悪役令息の従者でした
でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません
だから知らんけど精神で人生歩みます
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。番外編をちょこちょこ追加しています。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。