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第十二話
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デートした日から一週間経った。この間、フィクトルは毎日のようにエリヴィラをデートに誘い、エリヴィラも断らなかった。
セナはそんなエリヴィラの様子を見て、
「フィクトルさんとよくデートしているみたいね。もしかして、あの方のことが好きなのかしら?」
と質問した。エリヴィラはうーんと考え込む。以前は「恋愛感情なんてない」と否定できたのだが、今ははっきりと否定できない。
「好きというか、デートの誘いを断らないのはフィクトルが可哀想だから、デートしてあげてて、ただそれだけなの」
考えがまとまらないまま口に出してしまったから、意味の分からない言葉になった。それでも、セナは何かを察したらしく、
「好きじゃない相手なら可哀想なんて思わずに、はっきり断るはずよ。エリヴィラって結構はっきりした性格だし、フィクトルさんには自分の気持ちを正直に話すじゃない?」
「そうね。幼馴染だから」
「元婚約者でもあるわね」
セナがおかしそうに笑う。
「あなたたちが婚約を破棄したのって、エリヴィラが男性と一緒にいたところをフィクトルさんが目撃して怒ったことがきっかけだったのよね?」
「うん。そうよ。だから私も怒って、フィクトルだって私が婚約者なのを恥ずかしいと言ったり、他の女子生徒と仲良くしてるのを非難したの」
「それ、私からすれば痴話喧嘩にしか見えないわよ」
セナの言葉にエリヴィラは固まった。
「痴話喧嘩なんかじゃない!」
「あなたはそう言うだろうけど、私から見たら痴話喧嘩としか思えないって話よ」
「そうなのかな」
「エリヴィラは、フィクトルさんが他の女の子たちと仲良くしてるのが嫌だったのよね?どうしてそういう気持ちになったのかしら?たとえ婚約者でも何とも思ってないなら、他の女の子と仲良くしても気にならないでしょう?」
エリヴィラは「確かに」と言いつつも、表情は不満げだった。
「では、こう考えてみましょう。もし、ダヴィドさんがエリヴィラの婚約者だったとして、他の女の子と仲良くしていたらどう思う?」
「なぜここでダヴィドの名前が出てくるの?!」
「だって、エリヴィラと仲が良い男性って言ったらダヴィドさんとフィクトルさんしかいないでしょう?で、どう思うの?」
にべもない返答だ。エリヴィラは首を傾げて少し考えた上で口を開いた。
「ダヴィドだったら、何とも思わないかも。モテるのねって思うだけかもしれない。フィクトルが同じようなことをしていたら、モヤモヤするんだけど……」
「それなら、フィクトルに対して特別な感情を抱いているってことなのではないかしら」
セナの言葉を聞いてエリヴィラは黙ってしまった。そんな彼女に、セナは「じっくり考えてみたら?」と優しく言葉をかける。
「今日もデートの予定があるんでしょ?」
「いえ。今日は誘われてないの」
エリヴィラが首を横に振る。今は昼休みなのだが、まだフィクトルからデートに誘われていない。いつも昼休みまでには誘いに来るはずなのに、今日はそれがなかった。
「でも、明日にはまたデートに誘われるわよ」
セナがにこやかに言う。エリヴィラもそう思っていた。
しかし、それからというものフィクトルからデートに誘われることはなくなったのだ。
エリヴィラは「どういうことだ?!」と混乱に陥ったが、デートに誘われないならそれで良いじゃないかと無理やり自分を納得させた。でも、少しだけ寂しい気持ちになった。
セナはそんなエリヴィラの様子を見て、
「フィクトルさんとよくデートしているみたいね。もしかして、あの方のことが好きなのかしら?」
と質問した。エリヴィラはうーんと考え込む。以前は「恋愛感情なんてない」と否定できたのだが、今ははっきりと否定できない。
「好きというか、デートの誘いを断らないのはフィクトルが可哀想だから、デートしてあげてて、ただそれだけなの」
考えがまとまらないまま口に出してしまったから、意味の分からない言葉になった。それでも、セナは何かを察したらしく、
「好きじゃない相手なら可哀想なんて思わずに、はっきり断るはずよ。エリヴィラって結構はっきりした性格だし、フィクトルさんには自分の気持ちを正直に話すじゃない?」
「そうね。幼馴染だから」
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「うん。そうよ。だから私も怒って、フィクトルだって私が婚約者なのを恥ずかしいと言ったり、他の女子生徒と仲良くしてるのを非難したの」
「それ、私からすれば痴話喧嘩にしか見えないわよ」
セナの言葉にエリヴィラは固まった。
「痴話喧嘩なんかじゃない!」
「あなたはそう言うだろうけど、私から見たら痴話喧嘩としか思えないって話よ」
「そうなのかな」
「エリヴィラは、フィクトルさんが他の女の子たちと仲良くしてるのが嫌だったのよね?どうしてそういう気持ちになったのかしら?たとえ婚約者でも何とも思ってないなら、他の女の子と仲良くしても気にならないでしょう?」
エリヴィラは「確かに」と言いつつも、表情は不満げだった。
「では、こう考えてみましょう。もし、ダヴィドさんがエリヴィラの婚約者だったとして、他の女の子と仲良くしていたらどう思う?」
「なぜここでダヴィドの名前が出てくるの?!」
「だって、エリヴィラと仲が良い男性って言ったらダヴィドさんとフィクトルさんしかいないでしょう?で、どう思うの?」
にべもない返答だ。エリヴィラは首を傾げて少し考えた上で口を開いた。
「ダヴィドだったら、何とも思わないかも。モテるのねって思うだけかもしれない。フィクトルが同じようなことをしていたら、モヤモヤするんだけど……」
「それなら、フィクトルに対して特別な感情を抱いているってことなのではないかしら」
セナの言葉を聞いてエリヴィラは黙ってしまった。そんな彼女に、セナは「じっくり考えてみたら?」と優しく言葉をかける。
「今日もデートの予定があるんでしょ?」
「いえ。今日は誘われてないの」
エリヴィラが首を横に振る。今は昼休みなのだが、まだフィクトルからデートに誘われていない。いつも昼休みまでには誘いに来るはずなのに、今日はそれがなかった。
「でも、明日にはまたデートに誘われるわよ」
セナがにこやかに言う。エリヴィラもそう思っていた。
しかし、それからというものフィクトルからデートに誘われることはなくなったのだ。
エリヴィラは「どういうことだ?!」と混乱に陥ったが、デートに誘われないならそれで良いじゃないかと無理やり自分を納得させた。でも、少しだけ寂しい気持ちになった。
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