貴方との婚約は破棄されたのだから、ちょっかいかけてくるのやめてもらっても良いでしょうか?

ツキノトモリ

文字の大きさ
上 下
11 / 14

第十一話

しおりを挟む
“レヴリー”は恋人達の逢瀬の館。

一泊か、休憩3時間かを選ぶことができる。
愛人との逢瀬や一夜限りの男女も利用する。
だが俺は成人してから一室を専属契約していた。


「アンジェル」

「ディオン様」

「今日は朝までご一緒できますの?」

「夜に帰らないと」

「寂しいですわ」

「すまないな。後3年1ヶ月待ってくれ」

「約束の証にリスフィユ伯爵令嬢よりも大きな宝石の付いた指輪をくださいませ。ディオン様の愛があるのは私だと感じ取りたいのです」

「分かった。今度見に行こう」

「嬉しいですわ」




プリムヴェル子爵家の長女アンジェルとは3ヶ月前から交際をしている。今まで何人かと交際してきたが、何回か体を重ねると飽きてしまった。だがアンジェルとはまだ続いている。時々貴族令嬢らしくない部分を見せるところに面白みを感じていた。

アンジェルを正妻にするには家格的に難しいし、我がロテュス侯爵家にとってプリムヴェル家との婚姻は旨みが無い。それに俺には1ヶ月後に婚姻を控えた婚約者がいる。リスフィユ伯爵家の次女ミアーナだ。父上が纏めた縁談だった。

リスフィユ伯爵家は王家や公爵家に何度も娘を送り出している。安定した家門でもあり美貌の伯爵家としても有名だ。ミアーナの姉は隣国の王太子妃になったばかり。兄は婚約者がいるにも関わらず ずっと王女が付き纏っていたほどの美男子だ。

友人達はミアーナと婚姻出来ることを羨ましいと口々に言うが あのキツそうな美人は俺の好みではない。ツンとすましていて他の令嬢達のように愛想が無い。俺が18歳 ミアーナが16歳の時に婚約して以来、月に1度の交流も俺と目を合わさない。きっと彼女も乗り気では無いのだろう。

ミアーナとの婚姻は決まったことで覆らない。だから18歳になり成人すると社交に出て恋人を作った。一夜限りの女も少なくない。


屋敷に戻り湯を浴びた。

3年後までアンジェルを飽きずに抱けるだろうか。
飽きてしまったら妾に迎える意味がない。あまり会いすぎるのも良くないかもしれない。

いざというときの慰謝料となるよう大きな宝石の付いた指輪を買い与えよう。





婚姻数日前になると侯爵邸はミアーナを迎え入れる準備の仕上げをしていた。

「あの、本当に若奥様のお部屋はあの場所でよろしいのでしょうか」

「別に夫婦の間の続き部屋を使わせなくてはならないわけではない。あそこだって良い部屋だろう」

「大旦那様が…」

「父上は常に領地にいるし、ミアーナの部屋を確認なんかしないだろう。お前達が漏らさなければ済む話だ。全て高級品で揃えたのだろう?景色もいいし部屋も広い。後はお前達がちゃんと持て成せばいい」

「かしこまりました」

ミアーナを孕ませるつもりはない。3年不妊にしてアンジェルを妾に迎えるつもりだ。アンジェルもそのつもりで待っている。
婚前契約書に先日署名させた。
ミアーナの顔が少し曇った気がしたが、文句言わずに署名した。
ロテュス侯爵家のルールに従い、夫に干渉しないこと。子作りは月に1度。社交と来客と両親への対応は妻として完璧に務めること。それ以外は自由にしていいというものだ。
“節度を守れば恋人も作って構わない”
そう告げると俺を見た。初めて表情を変えた。ほんの一瞬。俺はそれを“歓喜”だと受け取った。ミアーナの異性関係の噂は聞いたことが無いが、もう既に男がいるのかもしれない。



婚姻3日前、アンジェルを連れて宝飾店を訪ねた。
大きめの石の指輪をいくつか持ってきてくれと言うと5~10ctの宝石を用意された。
10ctだと色付きで高い石ではないが大きさ故に値は張る。

「ディオン様、これにします」

アンジェルが選んだのは10ctの桃色の石だった。

「ではこれをもらおう」

「ありがとうございます。指のサイズを測らせていただきます」

既にある台座に嵌め込み、直ぐにアンジェルの指に通した。大喜びではしゃいでいた。

帰りはレヴリーに寄って体を重ねた。

「もうすぐディオン様はリスフィユ伯爵令嬢と初夜を迎えるのですね」

「義務で抱くだけだ」

「それでも…ディオン様が令嬢のナカで果てると思うと」

「外に出したらバレるだろう」

「では、口付けはしないでくださいね」

「する気になるわけがない」

「リスフィユ伯爵令嬢の指輪の宝石はどのくらい大きいのですか」

「1ctを真ん中にして、小さな石も付けたものだ」

「小さな石?」

「全部合わせても2ctを少し超える程度だ」

「終わったら共寝なんてしないでくださいね」

「直ぐに自室に戻って洗い流すよ。そろそろ帰ろう」

「次はいつ会えますか」

「連絡するよ」

アンジェルを送って屋敷に戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇太子から愛されない名ばかりの婚約者と蔑まれる公爵令嬢、いい加減面倒臭くなって皇太子から意図的に距離をとったらあっちから迫ってきた。なんで?

下菊みこと
恋愛
つれない婚約者と距離を置いたら、今度は縋られたお話。 主人公は、婚約者との関係に長年悩んでいた。そしてようやく諦めがついて距離を置く。彼女と婚約者のこれからはどうなっていくのだろうか。 小説家になろう様でも投稿しています。

どう見ても貴方はもう一人の幼馴染が好きなので別れてください

ルイス
恋愛
レレイとアルカは伯爵令嬢であり幼馴染だった。同じく伯爵令息のクローヴィスも幼馴染だ。 やがてレレイとクローヴィスが婚約し幸せを手に入れるはずだったが…… クローヴィスは理想の婚約者に憧れを抱いており、何かともう一人の幼馴染のアルカと、婚約者になったはずのレレイを比べるのだった。 さらにはアルカの方を優先していくなど、明らかにおかしな事態になっていく。 どう見てもクローヴィスはアルカの方が好きになっている……そう感じたレレイは、彼との婚約解消を申し出た。 婚約解消は無事に果たされ悲しみを持ちながらもレレイは前へ進んでいくことを決心した。 その後、国一番の美男子で性格、剣術も最高とされる公爵令息に求婚されることになり……彼女は別の幸せの一歩を刻んでいく。 しかし、クローヴィスが急にレレイを溺愛してくるのだった。アルカとの仲も上手く行かなかったようで、真実の愛とか言っているけれど……怪しさ満点だ。ひたすらに女々しいクローヴィス……レレイは冷たい視線を送るのだった。 「あなたとはもう終わったんですよ? いつまでも、キスが出来ると思っていませんか?」

真実の愛の取扱説明

ましろ
恋愛
「これは契約結婚だ。私には愛する人がいる。 君を抱く気はないし、子供を産むのも君ではない」 「あら、では私は美味しいとこ取りをしてよいということですのね?」 「は?」 真実の愛の為に契約結婚を持ち掛ける男と、そんな男の浪漫を打ち砕く女のお話。 ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ・話のタイトルを変更しました。

婚約破棄された公爵令嬢は心を閉ざして生きていく

お面屋 おいど
恋愛
「アメリアには申し訳ないが…婚約を破棄させてほしい」 私はグランシエール公爵家の令嬢、アメリア・グランシエール。 決して誰かを恨んだり、憎んだりしてはいけない。 苦しみを胸の奥に閉じ込めて生きるアメリアの前に、元婚約者の従兄、レオナールが現れる。 「俺は、アメリアの味方だ」 「では、残された私は何のためにいるのですか!?」

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」  はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。 「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」  ──ああ。そんな風に思われていたのか。  エリカは胸中で、そっと呟いた。

最初から間違っていたんですよ

わらびもち
恋愛
二人の門出を祝う晴れの日に、彼は別の女性の手を取った。 花嫁を置き去りにして駆け落ちする花婿。 でも不思議、どうしてそれで幸せになれると思ったの……?

【完結】あなたから、言われるくらいなら。

たまこ
恋愛
 侯爵令嬢アマンダの婚約者ジェレミーは、三か月前編入してきた平民出身のクララとばかり逢瀬を重ねている。アマンダはいつ婚約破棄を言い渡されるのか、恐々していたが、ジェレミーから言われた言葉とは……。 2023.4.25 HOTランキング36位/24hランキング30位 ありがとうございました!

戦場からお持ち帰りなんですか?

satomi
恋愛
幼馴染だったけど結婚してすぐの新婚!ってときに彼・ベンは徴兵されて戦場に行ってしまいました。戦争が終わったと聞いたので、毎日ご馳走を作って私エミーは彼を待っていました。 1週間が経ち、彼は帰ってきました。彼の隣に女性を連れて…。曰く、困っている所を拾って連れてきた です。 私の結婚生活はうまくいくのかな?

処理中です...