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第十一話
しおりを挟む“レヴリー”は恋人達の逢瀬の館。
一泊か、休憩3時間かを選ぶことができる。
愛人との逢瀬や一夜限りの男女も利用する。
だが俺は成人してから一室を専属契約していた。
「アンジェル」
「ディオン様」
「今日は朝までご一緒できますの?」
「夜に帰らないと」
「寂しいですわ」
「すまないな。後3年1ヶ月待ってくれ」
「約束の証にリスフィユ伯爵令嬢よりも大きな宝石の付いた指輪をくださいませ。ディオン様の愛があるのは私だと感じ取りたいのです」
「分かった。今度見に行こう」
「嬉しいですわ」
プリムヴェル子爵家の長女アンジェルとは3ヶ月前から交際をしている。今まで何人かと交際してきたが、何回か体を重ねると飽きてしまった。だがアンジェルとはまだ続いている。時々貴族令嬢らしくない部分を見せるところに面白みを感じていた。
アンジェルを正妻にするには家格的に難しいし、我がロテュス侯爵家にとってプリムヴェル家との婚姻は旨みが無い。それに俺には1ヶ月後に婚姻を控えた婚約者がいる。リスフィユ伯爵家の次女ミアーナだ。父上が纏めた縁談だった。
リスフィユ伯爵家は王家や公爵家に何度も娘を送り出している。安定した家門でもあり美貌の伯爵家としても有名だ。ミアーナの姉は隣国の王太子妃になったばかり。兄は婚約者がいるにも関わらず ずっと王女が付き纏っていたほどの美男子だ。
友人達はミアーナと婚姻出来ることを羨ましいと口々に言うが あのキツそうな美人は俺の好みではない。ツンとすましていて他の令嬢達のように愛想が無い。俺が18歳 ミアーナが16歳の時に婚約して以来、月に1度の交流も俺と目を合わさない。きっと彼女も乗り気では無いのだろう。
ミアーナとの婚姻は決まったことで覆らない。だから18歳になり成人すると社交に出て恋人を作った。一夜限りの女も少なくない。
屋敷に戻り湯を浴びた。
3年後までアンジェルを飽きずに抱けるだろうか。
飽きてしまったら妾に迎える意味がない。あまり会いすぎるのも良くないかもしれない。
いざというときの慰謝料となるよう大きな宝石の付いた指輪を買い与えよう。
婚姻数日前になると侯爵邸はミアーナを迎え入れる準備の仕上げをしていた。
「あの、本当に若奥様のお部屋はあの場所でよろしいのでしょうか」
「別に夫婦の間の続き部屋を使わせなくてはならないわけではない。あそこだって良い部屋だろう」
「大旦那様が…」
「父上は常に領地にいるし、ミアーナの部屋を確認なんかしないだろう。お前達が漏らさなければ済む話だ。全て高級品で揃えたのだろう?景色もいいし部屋も広い。後はお前達がちゃんと持て成せばいい」
「かしこまりました」
ミアーナを孕ませるつもりはない。3年不妊にしてアンジェルを妾に迎えるつもりだ。アンジェルもそのつもりで待っている。
婚前契約書に先日署名させた。
ミアーナの顔が少し曇った気がしたが、文句言わずに署名した。
ロテュス侯爵家のルールに従い、夫に干渉しないこと。子作りは月に1度。社交と来客と両親への対応は妻として完璧に務めること。それ以外は自由にしていいというものだ。
“節度を守れば恋人も作って構わない”
そう告げると俺を見た。初めて表情を変えた。ほんの一瞬。俺はそれを“歓喜”だと受け取った。ミアーナの異性関係の噂は聞いたことが無いが、もう既に男がいるのかもしれない。
婚姻3日前、アンジェルを連れて宝飾店を訪ねた。
大きめの石の指輪をいくつか持ってきてくれと言うと5~10ctの宝石を用意された。
10ctだと色付きで高い石ではないが大きさ故に値は張る。
「ディオン様、これにします」
アンジェルが選んだのは10ctの桃色の石だった。
「ではこれをもらおう」
「ありがとうございます。指のサイズを測らせていただきます」
既にある台座に嵌め込み、直ぐにアンジェルの指に通した。大喜びではしゃいでいた。
帰りはレヴリーに寄って体を重ねた。
「もうすぐディオン様はリスフィユ伯爵令嬢と初夜を迎えるのですね」
「義務で抱くだけだ」
「それでも…ディオン様が令嬢のナカで果てると思うと」
「外に出したらバレるだろう」
「では、口付けはしないでくださいね」
「する気になるわけがない」
「リスフィユ伯爵令嬢の指輪の宝石はどのくらい大きいのですか」
「1ctを真ん中にして、小さな石も付けたものだ」
「小さな石?」
「全部合わせても2ctを少し超える程度だ」
「終わったら共寝なんてしないでくださいね」
「直ぐに自室に戻って洗い流すよ。そろそろ帰ろう」
「次はいつ会えますか」
「連絡するよ」
アンジェルを送って屋敷に戻った。
一泊か、休憩3時間かを選ぶことができる。
愛人との逢瀬や一夜限りの男女も利用する。
だが俺は成人してから一室を専属契約していた。
「アンジェル」
「ディオン様」
「今日は朝までご一緒できますの?」
「夜に帰らないと」
「寂しいですわ」
「すまないな。後3年1ヶ月待ってくれ」
「約束の証にリスフィユ伯爵令嬢よりも大きな宝石の付いた指輪をくださいませ。ディオン様の愛があるのは私だと感じ取りたいのです」
「分かった。今度見に行こう」
「嬉しいですわ」
プリムヴェル子爵家の長女アンジェルとは3ヶ月前から交際をしている。今まで何人かと交際してきたが、何回か体を重ねると飽きてしまった。だがアンジェルとはまだ続いている。時々貴族令嬢らしくない部分を見せるところに面白みを感じていた。
アンジェルを正妻にするには家格的に難しいし、我がロテュス侯爵家にとってプリムヴェル家との婚姻は旨みが無い。それに俺には1ヶ月後に婚姻を控えた婚約者がいる。リスフィユ伯爵家の次女ミアーナだ。父上が纏めた縁談だった。
リスフィユ伯爵家は王家や公爵家に何度も娘を送り出している。安定した家門でもあり美貌の伯爵家としても有名だ。ミアーナの姉は隣国の王太子妃になったばかり。兄は婚約者がいるにも関わらず ずっと王女が付き纏っていたほどの美男子だ。
友人達はミアーナと婚姻出来ることを羨ましいと口々に言うが あのキツそうな美人は俺の好みではない。ツンとすましていて他の令嬢達のように愛想が無い。俺が18歳 ミアーナが16歳の時に婚約して以来、月に1度の交流も俺と目を合わさない。きっと彼女も乗り気では無いのだろう。
ミアーナとの婚姻は決まったことで覆らない。だから18歳になり成人すると社交に出て恋人を作った。一夜限りの女も少なくない。
屋敷に戻り湯を浴びた。
3年後までアンジェルを飽きずに抱けるだろうか。
飽きてしまったら妾に迎える意味がない。あまり会いすぎるのも良くないかもしれない。
いざというときの慰謝料となるよう大きな宝石の付いた指輪を買い与えよう。
婚姻数日前になると侯爵邸はミアーナを迎え入れる準備の仕上げをしていた。
「あの、本当に若奥様のお部屋はあの場所でよろしいのでしょうか」
「別に夫婦の間の続き部屋を使わせなくてはならないわけではない。あそこだって良い部屋だろう」
「大旦那様が…」
「父上は常に領地にいるし、ミアーナの部屋を確認なんかしないだろう。お前達が漏らさなければ済む話だ。全て高級品で揃えたのだろう?景色もいいし部屋も広い。後はお前達がちゃんと持て成せばいい」
「かしこまりました」
ミアーナを孕ませるつもりはない。3年不妊にしてアンジェルを妾に迎えるつもりだ。アンジェルもそのつもりで待っている。
婚前契約書に先日署名させた。
ミアーナの顔が少し曇った気がしたが、文句言わずに署名した。
ロテュス侯爵家のルールに従い、夫に干渉しないこと。子作りは月に1度。社交と来客と両親への対応は妻として完璧に務めること。それ以外は自由にしていいというものだ。
“節度を守れば恋人も作って構わない”
そう告げると俺を見た。初めて表情を変えた。ほんの一瞬。俺はそれを“歓喜”だと受け取った。ミアーナの異性関係の噂は聞いたことが無いが、もう既に男がいるのかもしれない。
婚姻3日前、アンジェルを連れて宝飾店を訪ねた。
大きめの石の指輪をいくつか持ってきてくれと言うと5~10ctの宝石を用意された。
10ctだと色付きで高い石ではないが大きさ故に値は張る。
「ディオン様、これにします」
アンジェルが選んだのは10ctの桃色の石だった。
「ではこれをもらおう」
「ありがとうございます。指のサイズを測らせていただきます」
既にある台座に嵌め込み、直ぐにアンジェルの指に通した。大喜びではしゃいでいた。
帰りはレヴリーに寄って体を重ねた。
「もうすぐディオン様はリスフィユ伯爵令嬢と初夜を迎えるのですね」
「義務で抱くだけだ」
「それでも…ディオン様が令嬢のナカで果てると思うと」
「外に出したらバレるだろう」
「では、口付けはしないでくださいね」
「する気になるわけがない」
「リスフィユ伯爵令嬢の指輪の宝石はどのくらい大きいのですか」
「1ctを真ん中にして、小さな石も付けたものだ」
「小さな石?」
「全部合わせても2ctを少し超える程度だ」
「終わったら共寝なんてしないでくださいね」
「直ぐに自室に戻って洗い流すよ。そろそろ帰ろう」
「次はいつ会えますか」
「連絡するよ」
アンジェルを送って屋敷に戻った。
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