12 / 14
第十二話
しおりを挟む
デートした日から一週間経った。この間、フィクトルは毎日のようにエリヴィラをデートに誘い、エリヴィラも断らなかった。
セナはそんなエリヴィラの様子を見て、
「フィクトルさんとよくデートしているみたいね。もしかして、あの方のことが好きなのかしら?」
と質問した。エリヴィラはうーんと考え込む。以前は「恋愛感情なんてない」と否定できたのだが、今ははっきりと否定できない。
「好きというか、デートの誘いを断らないのはフィクトルが可哀想だから、デートしてあげてて、ただそれだけなの」
考えがまとまらないまま口に出してしまったから、意味の分からない言葉になった。それでも、セナは何かを察したらしく、
「好きじゃない相手なら可哀想なんて思わずに、はっきり断るはずよ。エリヴィラって結構はっきりした性格だし、フィクトルさんには自分の気持ちを正直に話すじゃない?」
「そうね。幼馴染だから」
「元婚約者でもあるわね」
セナがおかしそうに笑う。
「あなたたちが婚約を破棄したのって、エリヴィラが男性と一緒にいたところをフィクトルさんが目撃して怒ったことがきっかけだったのよね?」
「うん。そうよ。だから私も怒って、フィクトルだって私が婚約者なのを恥ずかしいと言ったり、他の女子生徒と仲良くしてるのを非難したの」
「それ、私からすれば痴話喧嘩にしか見えないわよ」
セナの言葉にエリヴィラは固まった。
「痴話喧嘩なんかじゃない!」
「あなたはそう言うだろうけど、私から見たら痴話喧嘩としか思えないって話よ」
「そうなのかな」
「エリヴィラは、フィクトルさんが他の女の子たちと仲良くしてるのが嫌だったのよね?どうしてそういう気持ちになったのかしら?たとえ婚約者でも何とも思ってないなら、他の女の子と仲良くしても気にならないでしょう?」
エリヴィラは「確かに」と言いつつも、表情は不満げだった。
「では、こう考えてみましょう。もし、ダヴィドさんがエリヴィラの婚約者だったとして、他の女の子と仲良くしていたらどう思う?」
「なぜここでダヴィドの名前が出てくるの?!」
「だって、エリヴィラと仲が良い男性って言ったらダヴィドさんとフィクトルさんしかいないでしょう?で、どう思うの?」
にべもない返答だ。エリヴィラは首を傾げて少し考えた上で口を開いた。
「ダヴィドだったら、何とも思わないかも。モテるのねって思うだけかもしれない。フィクトルが同じようなことをしていたら、モヤモヤするんだけど……」
「それなら、フィクトルに対して特別な感情を抱いているってことなのではないかしら」
セナの言葉を聞いてエリヴィラは黙ってしまった。そんな彼女に、セナは「じっくり考えてみたら?」と優しく言葉をかける。
「今日もデートの予定があるんでしょ?」
「いえ。今日は誘われてないの」
エリヴィラが首を横に振る。今は昼休みなのだが、まだフィクトルからデートに誘われていない。いつも昼休みまでには誘いに来るはずなのに、今日はそれがなかった。
「でも、明日にはまたデートに誘われるわよ」
セナがにこやかに言う。エリヴィラもそう思っていた。
しかし、それからというものフィクトルからデートに誘われることはなくなったのだ。
エリヴィラは「どういうことだ?!」と混乱に陥ったが、デートに誘われないならそれで良いじゃないかと無理やり自分を納得させた。でも、少しだけ寂しい気持ちになった。
セナはそんなエリヴィラの様子を見て、
「フィクトルさんとよくデートしているみたいね。もしかして、あの方のことが好きなのかしら?」
と質問した。エリヴィラはうーんと考え込む。以前は「恋愛感情なんてない」と否定できたのだが、今ははっきりと否定できない。
「好きというか、デートの誘いを断らないのはフィクトルが可哀想だから、デートしてあげてて、ただそれだけなの」
考えがまとまらないまま口に出してしまったから、意味の分からない言葉になった。それでも、セナは何かを察したらしく、
「好きじゃない相手なら可哀想なんて思わずに、はっきり断るはずよ。エリヴィラって結構はっきりした性格だし、フィクトルさんには自分の気持ちを正直に話すじゃない?」
「そうね。幼馴染だから」
「元婚約者でもあるわね」
セナがおかしそうに笑う。
「あなたたちが婚約を破棄したのって、エリヴィラが男性と一緒にいたところをフィクトルさんが目撃して怒ったことがきっかけだったのよね?」
「うん。そうよ。だから私も怒って、フィクトルだって私が婚約者なのを恥ずかしいと言ったり、他の女子生徒と仲良くしてるのを非難したの」
「それ、私からすれば痴話喧嘩にしか見えないわよ」
セナの言葉にエリヴィラは固まった。
「痴話喧嘩なんかじゃない!」
「あなたはそう言うだろうけど、私から見たら痴話喧嘩としか思えないって話よ」
「そうなのかな」
「エリヴィラは、フィクトルさんが他の女の子たちと仲良くしてるのが嫌だったのよね?どうしてそういう気持ちになったのかしら?たとえ婚約者でも何とも思ってないなら、他の女の子と仲良くしても気にならないでしょう?」
エリヴィラは「確かに」と言いつつも、表情は不満げだった。
「では、こう考えてみましょう。もし、ダヴィドさんがエリヴィラの婚約者だったとして、他の女の子と仲良くしていたらどう思う?」
「なぜここでダヴィドの名前が出てくるの?!」
「だって、エリヴィラと仲が良い男性って言ったらダヴィドさんとフィクトルさんしかいないでしょう?で、どう思うの?」
にべもない返答だ。エリヴィラは首を傾げて少し考えた上で口を開いた。
「ダヴィドだったら、何とも思わないかも。モテるのねって思うだけかもしれない。フィクトルが同じようなことをしていたら、モヤモヤするんだけど……」
「それなら、フィクトルに対して特別な感情を抱いているってことなのではないかしら」
セナの言葉を聞いてエリヴィラは黙ってしまった。そんな彼女に、セナは「じっくり考えてみたら?」と優しく言葉をかける。
「今日もデートの予定があるんでしょ?」
「いえ。今日は誘われてないの」
エリヴィラが首を横に振る。今は昼休みなのだが、まだフィクトルからデートに誘われていない。いつも昼休みまでには誘いに来るはずなのに、今日はそれがなかった。
「でも、明日にはまたデートに誘われるわよ」
セナがにこやかに言う。エリヴィラもそう思っていた。
しかし、それからというものフィクトルからデートに誘われることはなくなったのだ。
エリヴィラは「どういうことだ?!」と混乱に陥ったが、デートに誘われないならそれで良いじゃないかと無理やり自分を納得させた。でも、少しだけ寂しい気持ちになった。
150
あなたにおすすめの小説
私の願いは貴方の幸せです
mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」
滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。
私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。
皇太子から愛されない名ばかりの婚約者と蔑まれる公爵令嬢、いい加減面倒臭くなって皇太子から意図的に距離をとったらあっちから迫ってきた。なんで?
下菊みこと
恋愛
つれない婚約者と距離を置いたら、今度は縋られたお話。
主人公は、婚約者との関係に長年悩んでいた。そしてようやく諦めがついて距離を置く。彼女と婚約者のこれからはどうなっていくのだろうか。
小説家になろう様でも投稿しています。
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さくら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
君を幸せにする、そんな言葉を信じた私が馬鹿だった
白羽天使
恋愛
学園生活も残りわずかとなったある日、アリスは婚約者のフロイドに中庭へと呼び出される。そこで彼が告げたのは、「君に愛はないんだ」という残酷な一言だった。幼いころから将来を約束されていた二人。家同士の結びつきの中で育まれたその関係は、アリスにとって大切な生きる希望だった。フロイドもまた、「君を幸せにする」と繰り返し口にしてくれていたはずだったのに――。
【完結】冷遇・婚約破棄の上、物扱いで軍人に下賜されたと思ったら、幼馴染に溺愛される生活になりました。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
恋愛
【恋愛151位!(5/20確認時点)】
アルフレッド王子と婚約してからの間ずっと、冷遇に耐えてきたというのに。
愛人が複数いることも、罵倒されることも、アルフレッド王子がすべき政務をやらされていることも。
何年間も耐えてきたのに__
「お前のような器量の悪い女が王家に嫁ぐなんて国家の恥も良いところだ。婚約破棄し、この娘と結婚することとする」
アルフレッド王子は新しい愛人の女の腰を寄せ、婚約破棄を告げる。
愛人はアルフレッド王子にしなだれかかって、得意げな顔をしている。
誤字訂正ありがとうございました。4話の助詞を修正しました。
氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。
吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
婚約破棄寸前、私に何をお望みですか?
みこと。
恋愛
男爵令嬢マチルダが現れてから、王子ベイジルとセシリアの仲はこじれるばかり。
婚約破棄も時間の問題かと危ぶまれる中、ある日王宮から、公爵家のセシリアに呼び出しがかかる。
なんとベイジルが王家の禁術を用い、過去の自分と精神を入れ替えたという。
(つまり今目の前にいる十八歳の王子の中身は、八歳の、私と仲が良かった頃の殿下?)
ベイジルの真意とは。そしてセシリアとの関係はどうなる?
※他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる