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本編
いじわるな幼馴染
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翌日、学園に到着して歩いていると大きな影が私にかかる。
「エリー、また婚約破棄されたんだって?」
幼馴染のヴァールハイト公爵令息のエドモンド様によく通る声で話しかけられ、まわりにいた生徒たちの注目を集めてしまったので、あわててエドの腕を引いて人気のない場所へ移動する。
「婚約破棄はされてないわよ。婚約を前提にお付き合いしていたのを、なかったことにしたいって言われたのよ……っ」
「まあ、似たようなものだろう?」
「全然ちがうわよ!」
「わかったわかった――それで、今回の理由は?」
私が婚約を結ぶことを前提としたお付き合いをなかったことにしてほしいと言い渡されるのは、恥ずかしいことに初めてではない――なぜか毎回『真実の愛』を理由に断られてしまう。
アラン様とは、まだ正式に婚約していたわけではない。婚約するには両家の親の許可が必要になるけれど、学園の出会いからお付き合いをして、親の許可を得て婚約、結婚する方もそれなりにいるのだ。アラン様とは今度こそうまくいくと思っていたのに……。
はじめてお付き合いした方には、どうしても納得できなくてしつこく尋ねてようやく理由を教えてくださる約束をしたのに、なぜかお約束の前日に学園を辞められてしまった。それ以降、どの殿方も「真実の愛だから」の一点張りになってしまって途方にくれている。
「また『真実の愛』と言われてしまって……。どうして、私には真実の愛が現れないのかしら?」
「さあな」
そう言うと、なぜか目の前で両手を広げ、まぶしいものでも見ているように紫色の瞳を細めたエドに首をかしげてしまう。
「エリー、真実の愛なら目の前にあるぞ」
紫色の髪をきらきら煌めかせ、とびきりの笑みを浮かべて冗談を言ってくるエドをきつくにらみつける。
「エドになんて相談しなければよかった……っ!」
エドといると貴族令嬢の話しかたをすっかり忘れて話してしまうから幼馴染はやっかいだと思う。
幼いころは私より背が低くて可愛らしかったのに今ではエドの肩までしか背が届かない。幼いころはいつも手をつないでいたのに、いつからかエドと手をつないではいけないと知って距離を置きたいのに、意地悪するためにいつも近づいてくる。
エドはいつもご令嬢に囲まれていて完璧に振る舞うところや端正な顔立ちと相まって紫の貴公子なんて呼ばれているのに、私は意地悪を言われたり、からかわれてばかり……。
顔をそむけて怒っていると子どもをあやすように頭をぽんぽんとなでられて、むすっと見上げればエドの紫色の瞳と目があった。
「エリー、ヒビスクス伯爵と伯爵夫人になにか言われたか?」
「――真実の愛なら仕方ない、と」
「お二人らしいな」
エドが納得するようにうなずくから、私は盛大にため息をついてしまう。
ヒビスクス伯爵家には、私しか娘がいないから立派なお婿さまを見つけようと頑張っているのに、お父様もお母様もちっとも焦っていないどころか、お母様なんて「意外と近くにいい人がいるものよ」とのほほんと笑っていた。
お母様、近くにいい人がいたら普通は気づくと思いますーー心の中でお母様に文句を言っていると、頭の上から低音のエドの声が響いてきた。
「エリー、今年もランターンフェスタは一人で行くのか?」
「うっ……、べ、別に一人じゃない……そ、その、メアリーとリックと行くつもり」
エドから呆れた視線を向けられて、そっと視線を外した。
マルダムール国では、昔から夏の夜に水の精霊へ豊穣を感謝するランターンを夜空へ一斉に放つランターンフェスタというお祭りが行われている。
この水の精霊は、マルダムール国で『縁結びの精霊』と呼ばれ、運命の人に出会っていない二人の糸をつないで真実の愛を結ばせ、また、結婚している二人には子供を授けてくださると言われている。
恋人同士でランターンを放つと幸せになれると言われており、恋人とランターンフェスタに行くことを憧れている年ごろの女の子は多く、私ももちろんその一人だ。
そして、ヒビスクス伯爵家の侍女のメアリーと従者のリックは付き合いはじめたばかり……。
二人が付きあいはじめたことが嬉しくて二人のことを知るエドを思わず捕まえて一時間以上も話してしまったのは、ついこの間のこと。
私だって野暮なことをしているとわかっているけれど、ランターンフェスタにお友達を誘ってもなぜかみんなに断られてしまったことをメアリーの前で口にしたら、あれよあれよと三人で行くことになってしまった。
「なあ、俺が一緒に付き合ってやってもいいぞ」
「それは絶対にいや!」
「…………少しも迷わないんだな」
「当たり前でしょう? 幼いころから真実の愛で結ばれた恋人同士でランターンフェスタに行くのに憧れているのに、幼馴染のエドと一緒に行くなんて絶対にいやよ」
なぜか動きの止まったエドを置き去りにして、今度こそ教室へ向かった。
「エリー、また婚約破棄されたんだって?」
幼馴染のヴァールハイト公爵令息のエドモンド様によく通る声で話しかけられ、まわりにいた生徒たちの注目を集めてしまったので、あわててエドの腕を引いて人気のない場所へ移動する。
「婚約破棄はされてないわよ。婚約を前提にお付き合いしていたのを、なかったことにしたいって言われたのよ……っ」
「まあ、似たようなものだろう?」
「全然ちがうわよ!」
「わかったわかった――それで、今回の理由は?」
私が婚約を結ぶことを前提としたお付き合いをなかったことにしてほしいと言い渡されるのは、恥ずかしいことに初めてではない――なぜか毎回『真実の愛』を理由に断られてしまう。
アラン様とは、まだ正式に婚約していたわけではない。婚約するには両家の親の許可が必要になるけれど、学園の出会いからお付き合いをして、親の許可を得て婚約、結婚する方もそれなりにいるのだ。アラン様とは今度こそうまくいくと思っていたのに……。
はじめてお付き合いした方には、どうしても納得できなくてしつこく尋ねてようやく理由を教えてくださる約束をしたのに、なぜかお約束の前日に学園を辞められてしまった。それ以降、どの殿方も「真実の愛だから」の一点張りになってしまって途方にくれている。
「また『真実の愛』と言われてしまって……。どうして、私には真実の愛が現れないのかしら?」
「さあな」
そう言うと、なぜか目の前で両手を広げ、まぶしいものでも見ているように紫色の瞳を細めたエドに首をかしげてしまう。
「エリー、真実の愛なら目の前にあるぞ」
紫色の髪をきらきら煌めかせ、とびきりの笑みを浮かべて冗談を言ってくるエドをきつくにらみつける。
「エドになんて相談しなければよかった……っ!」
エドといると貴族令嬢の話しかたをすっかり忘れて話してしまうから幼馴染はやっかいだと思う。
幼いころは私より背が低くて可愛らしかったのに今ではエドの肩までしか背が届かない。幼いころはいつも手をつないでいたのに、いつからかエドと手をつないではいけないと知って距離を置きたいのに、意地悪するためにいつも近づいてくる。
エドはいつもご令嬢に囲まれていて完璧に振る舞うところや端正な顔立ちと相まって紫の貴公子なんて呼ばれているのに、私は意地悪を言われたり、からかわれてばかり……。
顔をそむけて怒っていると子どもをあやすように頭をぽんぽんとなでられて、むすっと見上げればエドの紫色の瞳と目があった。
「エリー、ヒビスクス伯爵と伯爵夫人になにか言われたか?」
「――真実の愛なら仕方ない、と」
「お二人らしいな」
エドが納得するようにうなずくから、私は盛大にため息をついてしまう。
ヒビスクス伯爵家には、私しか娘がいないから立派なお婿さまを見つけようと頑張っているのに、お父様もお母様もちっとも焦っていないどころか、お母様なんて「意外と近くにいい人がいるものよ」とのほほんと笑っていた。
お母様、近くにいい人がいたら普通は気づくと思いますーー心の中でお母様に文句を言っていると、頭の上から低音のエドの声が響いてきた。
「エリー、今年もランターンフェスタは一人で行くのか?」
「うっ……、べ、別に一人じゃない……そ、その、メアリーとリックと行くつもり」
エドから呆れた視線を向けられて、そっと視線を外した。
マルダムール国では、昔から夏の夜に水の精霊へ豊穣を感謝するランターンを夜空へ一斉に放つランターンフェスタというお祭りが行われている。
この水の精霊は、マルダムール国で『縁結びの精霊』と呼ばれ、運命の人に出会っていない二人の糸をつないで真実の愛を結ばせ、また、結婚している二人には子供を授けてくださると言われている。
恋人同士でランターンを放つと幸せになれると言われており、恋人とランターンフェスタに行くことを憧れている年ごろの女の子は多く、私ももちろんその一人だ。
そして、ヒビスクス伯爵家の侍女のメアリーと従者のリックは付き合いはじめたばかり……。
二人が付きあいはじめたことが嬉しくて二人のことを知るエドを思わず捕まえて一時間以上も話してしまったのは、ついこの間のこと。
私だって野暮なことをしているとわかっているけれど、ランターンフェスタにお友達を誘ってもなぜかみんなに断られてしまったことをメアリーの前で口にしたら、あれよあれよと三人で行くことになってしまった。
「なあ、俺が一緒に付き合ってやってもいいぞ」
「それは絶対にいや!」
「…………少しも迷わないんだな」
「当たり前でしょう? 幼いころから真実の愛で結ばれた恋人同士でランターンフェスタに行くのに憧れているのに、幼馴染のエドと一緒に行くなんて絶対にいやよ」
なぜか動きの止まったエドを置き去りにして、今度こそ教室へ向かった。
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