4 / 8
4
しおりを挟む
◇
青空にもくもくした雲が浮かび、庭の向日葵が元気に咲いている。リュークとわたしは、休みになると会うようになっていた。
今日は、秋の新作『秋鮭とキノコのキッシュ』と『ごろごろ栗のキッシュ』の試食をお願いしていた。リュークが秋鮭のキッシュに迷わず手を伸ばす。
「リュークってお魚好きだよね?」
「おう、ペンギン獣人だからな」
「リュークって人族じゃなかったの?!」
リュークの返事にびっくりして、目がまんまるになった。
「ん、言ってなかったか?」
「聞いてない! 全然わからなかった……」
「よく言われる。でも、ミーナのこと助けられたのも、泳ぎの得意なペンギンだったからだぜ」
「ペンギンは、水を飛ぶように泳ぐって言うもんね。本当にありがとう」
美味しそうに頬張るリュークをじっと見つめる。
リス獣人のわたしは、耳と尻尾がシマリスっぽい。リュークにペンギンらしさを探しても、クチバシはないし、腕も羽毛は生えていない。じろじろ見ていたら、ニカッと笑ったリュークと目が合った。
「ミーナはわかってないな。このワイルドな髪とイカした金髪が特徴だぜ」
「その髪型、ペンギンの特徴だったんだ!」
「超カッコイイだろ!」
「えっ、怖い人だと思ったよ」
「えっ、マジ?」
鍛冶屋で思っていたことを口にしたら、栗のキッシュを持ったまま固まっている。怖いのに、かわいい。
「うん、マジ。今は怖くないよ。怖い気持ちは、どんぐりと一緒に埋めちゃった」
「なんだそれ」
リュークと視線がぶつかって、一緒に笑う。ずっとこんな時間が続いたらいいなと思うと、心臓がムズムズする。
「ミーナ」
笑っていたリュークの顔がまじめになったので、つられて尻尾を正した。
「俺、鍛冶屋をひらくのが夢なんだ」
「? うん」
「もうすぐ親方から独り立ちの許可が出そうなんだ」
「おめでとう! 今度、お祝いしなくちゃだね」
なぜこんな話が始まったかわからないけど、夢が叶いそうなリュークの話に自然と笑顔になっていく。
「春になったら、故郷に戻って鍛冶屋をやる。故郷に帰ったら、ミーナに会えなくなる」
「え…………?」
リュークと会えなくなるなんて、考えたことがなかった。これからも会えるって思っていたから、驚きすぎて言葉も出てこない。
「俺、ミーナのことが好きだ──ミーナが作るキッシュも旨いし、ちっさい口で食べてる仕草もかわいいし、がんばって働いてる姿も好きだ。ミーナの大事なもんが、全部ここにあるの知ってるから、好きだって言わないで、友達のまま別れようと思ってた。でも、」
言葉を切ったリュークに見つめられる。赤い瞳に熱がこもっていて、目をそらせない。
「やっぱりミーナが好きだ! 俺の故郷で結婚してほしい! でも、だめならキッパリは無理だけど、諦めて故郷に行く」
「……キッパリじゃないんだ?」
「キッパリは無理だろ?」
真面目な話だったのに、リュークが拗ねたように笑うから吹き出してしまった。緊張してたのがほぐれて、素直な気持ちが口からこぼれる。
「わたしもリュークが好き。でも、一緒にリュークの故郷に行くのは、ごめん──自信ない」
ペンギンの住むのは、北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまうリス獣人のわたしが、一年中氷のある国で暮らすのは無理だと思う。
「だよな…………、? えっ、マジ? ミーナ、俺のこと好きなの?」
「えっ、う、うん……」
「ミーナ、悪い! 俺、諦めるの諦めたわ。好きな子に好きって言われて諦めるなんて、絶対無理」
「ええ──っ?!」
「ペンギンは結婚する番相手を決めたら一生変えないんだ。俺は、ミーナがいい。お試しでもいい! 春まででもいい! 俺と付き合ってほしい」
変わり身の早さに素っ頓狂な声をあげたのに、リュークがニカッと笑ったから、つられて笑ってしまった。
向日葵にしましまの種がずっしり実る頃、わたしとリュークは春までの恋人になった。
青空にもくもくした雲が浮かび、庭の向日葵が元気に咲いている。リュークとわたしは、休みになると会うようになっていた。
今日は、秋の新作『秋鮭とキノコのキッシュ』と『ごろごろ栗のキッシュ』の試食をお願いしていた。リュークが秋鮭のキッシュに迷わず手を伸ばす。
「リュークってお魚好きだよね?」
「おう、ペンギン獣人だからな」
「リュークって人族じゃなかったの?!」
リュークの返事にびっくりして、目がまんまるになった。
「ん、言ってなかったか?」
「聞いてない! 全然わからなかった……」
「よく言われる。でも、ミーナのこと助けられたのも、泳ぎの得意なペンギンだったからだぜ」
「ペンギンは、水を飛ぶように泳ぐって言うもんね。本当にありがとう」
美味しそうに頬張るリュークをじっと見つめる。
リス獣人のわたしは、耳と尻尾がシマリスっぽい。リュークにペンギンらしさを探しても、クチバシはないし、腕も羽毛は生えていない。じろじろ見ていたら、ニカッと笑ったリュークと目が合った。
「ミーナはわかってないな。このワイルドな髪とイカした金髪が特徴だぜ」
「その髪型、ペンギンの特徴だったんだ!」
「超カッコイイだろ!」
「えっ、怖い人だと思ったよ」
「えっ、マジ?」
鍛冶屋で思っていたことを口にしたら、栗のキッシュを持ったまま固まっている。怖いのに、かわいい。
「うん、マジ。今は怖くないよ。怖い気持ちは、どんぐりと一緒に埋めちゃった」
「なんだそれ」
リュークと視線がぶつかって、一緒に笑う。ずっとこんな時間が続いたらいいなと思うと、心臓がムズムズする。
「ミーナ」
笑っていたリュークの顔がまじめになったので、つられて尻尾を正した。
「俺、鍛冶屋をひらくのが夢なんだ」
「? うん」
「もうすぐ親方から独り立ちの許可が出そうなんだ」
「おめでとう! 今度、お祝いしなくちゃだね」
なぜこんな話が始まったかわからないけど、夢が叶いそうなリュークの話に自然と笑顔になっていく。
「春になったら、故郷に戻って鍛冶屋をやる。故郷に帰ったら、ミーナに会えなくなる」
「え…………?」
リュークと会えなくなるなんて、考えたことがなかった。これからも会えるって思っていたから、驚きすぎて言葉も出てこない。
「俺、ミーナのことが好きだ──ミーナが作るキッシュも旨いし、ちっさい口で食べてる仕草もかわいいし、がんばって働いてる姿も好きだ。ミーナの大事なもんが、全部ここにあるの知ってるから、好きだって言わないで、友達のまま別れようと思ってた。でも、」
言葉を切ったリュークに見つめられる。赤い瞳に熱がこもっていて、目をそらせない。
「やっぱりミーナが好きだ! 俺の故郷で結婚してほしい! でも、だめならキッパリは無理だけど、諦めて故郷に行く」
「……キッパリじゃないんだ?」
「キッパリは無理だろ?」
真面目な話だったのに、リュークが拗ねたように笑うから吹き出してしまった。緊張してたのがほぐれて、素直な気持ちが口からこぼれる。
「わたしもリュークが好き。でも、一緒にリュークの故郷に行くのは、ごめん──自信ない」
ペンギンの住むのは、北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまうリス獣人のわたしが、一年中氷のある国で暮らすのは無理だと思う。
「だよな…………、? えっ、マジ? ミーナ、俺のこと好きなの?」
「えっ、う、うん……」
「ミーナ、悪い! 俺、諦めるの諦めたわ。好きな子に好きって言われて諦めるなんて、絶対無理」
「ええ──っ?!」
「ペンギンは結婚する番相手を決めたら一生変えないんだ。俺は、ミーナがいい。お試しでもいい! 春まででもいい! 俺と付き合ってほしい」
変わり身の早さに素っ頓狂な声をあげたのに、リュークがニカッと笑ったから、つられて笑ってしまった。
向日葵にしましまの種がずっしり実る頃、わたしとリュークは春までの恋人になった。
56
あなたにおすすめの小説
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
【完結】ドジっ子のうさみみメイドは、なぜか強面魔王さまの膝に転んじゃう
楠結衣
恋愛
強面な魔王さまに拾われたうさぎ獣人のメイドは、頑張って働いて大好きな魔王さまのお役に立ちたいのに、いつも失敗ばっかり。
今日も魔王城で一生懸命働くつもりが、なぜか強面魔王さまの膝の上に転んじゃって……。
「全く、お前は俺に抱かれたいのか?」
「も、も、申し訳ございませんんん!!!」
強面なのに本音がポロポロこぼれる魔王さまとうさみみをぷるぷる震わせるドジっ子うさぎ獣人メイドのいちゃこら溺愛ハッピーエンドです。
✳︎一話完結の短編集です
✳︎表紙イラストは、りすこ様に描いていただきました
✳︎管澤捻さまのツイッター企画『#架空の小説タイトルからイラストを描く』で参加した架空のタイトル「ドジっ子うさぎちゃんメイドは頑張って働きたいのに、なぜか強面魔王さまの膝の上に転んじゃう」におはなしを添えたものです。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
星森
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる