ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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特級ダンジョン ウミノトモ

第463話 ウミノトモ その1

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 昨日はクリーン浴だけで眠ったけれど、しっかりゆっくり眠れました。
 朝食を食べたら各々準備を整えて、早速ダンジョンへ向かいましょう。

「こんなに静かに眠れたのは久しぶりだったけど、たまには良いね」

 ダンジョンが楽しみだとお喋りしている中、ひとりだけ違う感想を述べたのはイブさん。確かにエルフのお里には精霊さんが大量にいるし、人型の精霊は結構お喋りな子が多い。
 鳥型はチュンチュン、ピヨピヨ鳴くし、猫型はニャーンと鳴く。風の精霊の中には形が定まっていないけれど風がそよぐ音を届けてくれる子もいるし、音楽のような音を鳴らす子もいる。無音状態というのがないのが特徴かもしれない。
 蛙の合唱も、ムクドリの鳴き声も、暴走バイクの爆音も、救急車のサイレンも、生活音だと思えば気にならなくなるのと同じだけど、こうして全く聞こえない場所に来ると「あれ? 音がない」という事に気付くんだよね。

 野営地は平地に戻し、私たちはダンジョンに向かう。
 昨日の話では例の金ランク達が同行するかもしれないという事だったけど、ダンジョンの前にいる訳ではなさそうだね。
 まあ流石にこんな早朝からベテラン冒険者が活動するなんて思っていないのかもしれないね。
 お父さんとの活動時間は早かったし、チアキさんも早い。イブさんだけが「早くない?」と驚いていたけれど、ルイスさん達も早いから強制的に起こされてましたよ。

「あいつらの話じゃオークナイトぐらいだったが、海ダンジョンは基本的に魚のドロップアイテムは美味い切り身が多い。あいつらが一緒になったらヴィオが楽しんで料理できないだろ?」

 チアキさんが早起きだった理由はちょっと思ってたのと違ったけど、まあ確かに知らない人の前で料理をしようとは思わない。
 知らない人に食べたいとか言われても困るし、魚はどんな種類があるのか気になるから早く行きたい。
 そう言われたイブさんは、ダラダラ歩いていたのが嘘のようにシャッキリ歩きはじめ、いや、ちょっと速足になっているかもしれない。美味しい物に釣られ過ぎではありませんか? 大丈夫? 伝説の白金ランクさん。

 先頭を歩くのはダルスさんとバレンさん、次に私とイブさん、ルイスさんが中央で、殿をチアキさんと白雪さんが歩いている。私めっちゃ場違いじゃない?
 伝説の勇者とハイエルフ、聖獣、竜人族の中に子供のヒト族ですよ。これはあの冒険者たちが自分達も参加したいって言い出したのも仕方がないね。
 そう思いながらも、まあ美味しい料理を楽しみにしてもらえてるし良いかと思い直した。

 さて、初めての特級ダンジョンに入りますよ!
 気合十分で足を踏み入れた先は――

「南国~~~~」
「おぉ、これは眩しいな」

 真っ白な砂浜、チラホラ見える短い緑の草は南国の写真でもよく見たことがある景色に見えるけど、あれは引っこ抜いたらパテトが出てくるとか無いかな?
 ヤシの木っぽいしなる木も点々と生えているけど、多分ヤシの木ではなさそう。トレントだったりするのかな?
 いやいや、まずはこの雄大な景色を楽しむべきだったね。
 思わずダンジョンと思って観察しちゃったけど、空は高く真っ青で、見えないけど太陽があるのだろう明るさが砂浜に反射して眩しい。
 ここから海は見えないけれど、このフィールドで海じゃないというのは残念過ぎるし、あの人たちの報告では海というコメントがあったからそのうち見えるのだろう。

【索敵】をかなり拡げても、どこまでも続いているこのフィールドは先がどれくらいあるのか分からないね。ただ、横幅は相当広いけど果てがあったので、縦横無尽にどこかへ行くというよりは、まずは直進しながらってことで良いと思う。

「バレン頼めるか?」
「勿論だ、行ってくる」

【索敵】で分かった事を伝えれば、バレンさんがドラ化して飛んで行った。

「……反則ですね」
「あ、これならアリオールを連れてきたら良かったな。来たがってたのに水に入る可能性があるからと断ったのは可哀想な事をしたな」

 アリオールさんは翼人族の族長さんだね、彼は鷲の鳥人さんということで偵察に長けていると言っていた。針鼠の事を教えてくれたのもそうだし、そのダンジョンには一緒に行けたら良いね。
 バレンさんは二階があるのか、危険な場所があるのかなどを確認しに行ってくれているので、私たちはとりあえず進むことになった。

「チアキさん、あの海岸植物っぽいの確認しても良いですか?」
「何か気になるのか?」
「ただの植物かもしれないんですけど、もしかしたら食べられる素材かもしれないと思って」
「え? 食材系ってあんな普通に生えている草なの?」
「上に実がついている普通の食材もありますけど、豊作ダンジョンの素材は野草というか、雑草っぽい草であることが多いですよ。引っこ抜いたら色んな素材が出てくるんです」

 畑などで育つ野菜と同じものでも、ダンジョンの中だと全く違う形でドロップするから不思議だよね。特に地上での野菜を見ている人は気付けないのも仕方がないと思う。
 ということで、点々と見えている雑草まで皆で歩いていくことに。
 今のところオークの姿は見えないけれど、海だからだろうか、カモメが飛んでいるのが遠目に見えている。あ、そういえばカモメに見えるけど魔鳥なんだよね。気を付けておこう。

「これがそう? 普通の草にしか見えないんだけど」
「ちょっと待ってくださいね、ああ、こっちの背の高い草は素材ですね。抜いてみてください」

 土の中を探索魔法で確認すれば、短い草は普通の草で、膝丈まである草の下には何かドロップアイテムがあるのが分かった。他の皆さんも散らばって背の高い草をどんどん引っ張ってくれているので、イブさんも目の前の草をグイっと引っこ抜いた。
 出てきたのは大きなキャベチキャベツだった。キャベチは焼きそばにも、お好み焼きにも、野菜炒めにも使うから消費が早い野菜だから嬉しいね。

「おぉ! ホントに出てきた! 凄い! 面白い! 他もそうなの? やるやる!」

 本当に少年のような人だね。出てきたキャベチを私に預けて隣の草を引っこ抜き、鈴生りのパテトが出てきて驚いているけど、次の瞬間には一人で大爆笑している。楽しそうで何よりですよ。
 豊作ダンジョンのように大量にある訳ではないけれど、ちょこちょこ草の場所はあったので、食材に困ることはなさそうです。
 入って直ぐの採集地を狩り尽したところでバレンさんが戻ってきました。

「チャーキ様、先はかなり長いですね。このまましばらく砂浜が続きますが、途中で浅い水辺がありました。水生生物もそれなりにいそうですね。後半は岩場と海になりますので、かなり足場が悪いと思った方が良いでしょう。海の中か、その近辺がボスに続く場所だと思われます。階段は見当たりませんでしたが、奥に入れない感じでしたので、多分この広いフィールドだけのダンジョンでしょうね」
「成程、特定の条件を達成しないと入れないボスゾーンなのかパーティーで入るべきなのか分からないな。ヴィオ、岩場が危険だったらルイスの背に乗って移動でもいいかもしれない。無理なら戻ってもいいし、臨機応変に行こうと思っているが大丈夫か?」
「大丈夫です。ちょっとやってみたい魔法もあるので」

 詳しく聞かれることもなく、ならやってみようと言ってくれるのは信頼のあかしなのか、それともチアキさんの何とかなるだろう精神なのか。どっちもかな?
 点々とある採集地に寄り道をしながら、ゆっくり進む私達。
 誰も警戒しているように見えないけれど、一応私は【索敵】をしながら歩いていますよ。

「あ! 鳥が来ます」
「打ち落とす?」
「あれは食べれるのか?」

 イブさんは弓を背負っているけど、魔法も使える人だしどっちが使いやすいんだろうね。そしてダルスさん、カモメは可食部が少ない気がしますよ。
 結構高度を保っているのでやるなら魔法かな? と思っていたら、鳥が何かを落としてきた。ヒラヒラと舞い落ちてくるのは花びらというより花そのもの。

「歓迎の花? な訳ないですよね?」
「鳥はどっか行ったね」

 鳥はいくつかの花を落として飛び去ってしまい、私たちは何となく花が落ちてくるのを皆で待っていた。ここはダンジョンで、ダンジョンにいるのは魔鳥だと分かっていたんだけど、あまりにもファンシーなこれが、まさか攻撃だと思わなかったよね。


「うわっ、キモっ! 無理!!!」
「わわっ! 何ですかこれ! 【ファイアボール】」
「あいつ戻ってきやがったぞ。多分これで捕まえて動けなくなったところを攻撃してくるって事だな。【ウエイト】」
「どうやら他の魔獣も呼び寄せるタイプの魔鳥ですね。敵が集まってきていますよ」

 鳥が落とした花は、私達の手が届きそうな高さまで落ちてきたところで突然弾けた。弾けたというか、花から種が飛び出したというのが正解だったんだけど、その種はあちこちにばら撒かれ、地に着いた途端蔓性植物が周囲に立っていた私達に絡まり付こうとしてきたのだ。
 私は結界鎧をしているし、種が弾けた瞬間に【エアウォール】を張ったから大丈夫だったけど、盾に蔓が巻き付いており非常に気持ち悪い。

 そしてチアキさんの発言通り、消えた筈の鳥が戻ってきており、私達の頭上でケーケー鳴きながらクルクル旋回していやがりますよ。
 ルイスさんの言葉を聞いて【索敵】を広げれば、確かに鳥の声に呼ばれたのか、遠くから魔獣が走ってくるのが分かる。くそめんどくさい敵さんですよ。
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