ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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特級ダンジョン ウミノトモ

第462話 夕食と準備

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「イブさん、放っておいていいんですか?」
「いいよ、ダンジョン内は自己責任。僕はヴィオがどんな魔法を使うのかにしか興味がないし、お腹が空いた」

 あ~ね。最後の言葉が一番の理由な気がしないでもないけれど、ハイエルフのイブさんに私の魔法を楽しみにしてもらえているというのは非常に嬉しかったりする。
 見慣れた石造りの野営地はルイスさん作。まだベッドまで一緒に作るのは無理だし、中の間仕切りまで作るのは難しいけど、安全な野営地を作る練習を頑張っている。
 今まではそんなものが無くても安全な場所まで飛んで行けばよかった人たちだけど、今は私という無力なヒト族が一緒だからね。ベル君もダンジョンに行くようになったから、安全地帯に行けなくても安全な場所を作れるようにと練習するようになったんだよ。ルイスさんも結構オカン属性が強い気がするね。

 中は間仕切りがない分広く、流石にいつものお料理スタイルをまだ知らない人たちがいる前でやる訳にもいかなかったから、中に入ってからキッチン台を作った。
 お鍋を並べ、鉄板もミドウ村で作ってもらったので鉄板を置けるようにダルスさんにテーブルを作ってもらう。

「え~、何このテーブル、真ん中に鉄の板を置くの? 何で?」
「この下で火をくべれば鉄板で調理ができるんです。熱々のまま食べられるし、調理台が少なくて済むんですよ」
「ナニソレ、凄い面白いこと考えるね。これもヴィオが考えたの?」
「ん~、お兄ちゃん達と旅をしている時に便利だねって考えて作ってもらったんです」
「あ、何かごめん……」

 鉄板テーブルを見て興味津々なイブさんは250歳を超えているはずだけど、まだまだ知らない事があるんですね。ウキウキしている様は少年のようですよ。
 お兄ちゃん達と考えた事を伝えれば謝られたけど、最近はお手紙で近況報告をしあっているからもう淋しくないのだ。前に泣いちゃったから心配してくれているんだと思うけど、優しい人だね、ありがとうございます。

「あ~、腹減ったぁ~」
「おお、チャーキおかえり。思ったより時間がかかったね」

 炊飯魔道具で米が炊きあがった頃にチアキさんと白雪さんが帰ってきた。ダンジョン近くにいた人々の気配が遠ざかっているので、町に戻ったのだろう。

「もうすぐでき上がりますから座って待っててくださいね」
「帰ってきて直ぐに温かい飯が食えるとか幸せだな。ヴィオは良い嫁さんになるだろうな」

 時代が時代だとその言葉はモラハラ旦那だとツッコまれそうだけど、疲れて帰ってきただろうにテーブルにカトラリーを並べ、ルイスさんがよそったスープを各自の場所に持っていく姿を見ていれば、チアキさんこそ良い旦那さんなんだろうなと思いますよ。
 今日の晩御飯は豚汁と見せかけたオークナイト汁、ミドリハナヤサイブロッコリーの胡麻和え、鉄板では何度目になるかの焼きそば。
 イブさんは初めてだからソースの匂いにさっきから小鼻がピクピクしっぱなしですけどね。
 全員でいただきますをしてから一緒にご飯を食べられるのも嬉しい。

「あ、ご飯も炊いてたのに出してなかったです」
「焼きそば定食か! 最高だな。ああ、ヴィオは座ってて良いぞ。米までは食えんだろう? 食べたい奴が自分でよそえばいい」

 おにぎりでも作るつもりだったんだけど、丁度チアキさんが帰ってきたから忘れてたよ。炊き立てごはんがあることを知って、そそくさ立ち上がり自分でご飯をよそってくれるチアキさん。皆もマイ茶碗を持って炊飯魔道具に集まっている。

 焼きそばとご飯、お好み焼きとご飯の組み合わせは関西人セットとか馬鹿にされていた事があったけど、ラーメンと餃子とチャーハンだって同じじゃない? 
 お蕎麦屋さんでかつ丼とかセットで頼んでるのも飯と麺だよね? 
 きりたんぽも、せんべい汁も、ご飯と一緒に食べると言ってた友人がいるけど、何故それは良くて焼きそばとお好み焼きは突っ込まれるんだろうか。

「へぇ、このヤキソバが濃いから、ご飯で口の中がリセットされて良いね」
「だろ? 米、焼きそば、汁で食えば永久機関だぞ」
「美味しいですね。ヴィオ様お米はよろしいですか?」

 はっ! ちょっと理不尽な炭水化物問題に思いを馳せていたら、トリップしていたらしい。ルイスさんが聞いてくれるけど、私はこの量で充分です。お米とセットで食べるのは好きなんだけど、焼きそばの麺が太いし、量が多いからね。
 チアキさんはイブさんに食べ方を伝授しているけど、永久機関ではないと思いますよ。また米を取りに行かないとですね。


「は~、お腹いっぱい。こんなに外で美味しいご飯が食べられるとか、チャーキがダンジョン活動を再開した理由に納得だよ」
「だろ? ヴィオはダンジョンで食べられる素材を見つける天才なんだよ。その上それを美味く食えるように調理までできるんだぞ。凄いだろ?」

 知らない食材は焼く、煮る、和えるで誤魔化しているだけですけどね。ダンジョン産の素材は美味しいものが多いし、食べられるかどうかは鑑定眼鏡がジャッジしてくれるから助かってます。

「んで? あの連中はどうするの?」
「ああ、ついてこられても面倒だから断った」
「え? そうなんですか? ダンジョンに入ったことがある人たちだったんですよね?」

 自信満々だったし、金ランクの初級とか言ってたからついてくるものだと思ってたよ。

「いや、砂地に入ったところで足を取られて魔獣にやられるレベルだからなぁ。足手纏いだろ?」
「結局ああだこうだとゴネおってな、来るなら勝手についてこればええが、こちらは手助けすることもないとは言うておる」

 ここまで静かにしていた白雪さんがお茶を飲みながらシレッとそんな事を言うけれど、どうやら何かあったみたいですね。

「ああ、もしかしてヴィオ?」
「見た目は子供じゃからな。それが入れるなら問題ないじゃろうと言いおったわ。我に回復魔法の指導ができる腕前の魔法使いじゃぞ? 相手の力量を見れん馬鹿共じゃ」

 イブさんの質問に答えた白雪さんはプリプリしているけど、その理由に顔がニヤケそうになる。
 まあ例のナンチャラの剣さん達は、凄腕冒険者のチアキさんとイブさんを尊敬していて、その二人と一緒にダンジョンに行けるチャンスを逃したくないというのが一つ。
 自分達の腕が認められたらパーティーに入ってもらいたいというのが一つ。
 あわよくば魔法使いたちは二人から魔法を見て欲しい、指導してほしいというのが一つ。という事らしい。

 成程なるほど、それは面倒臭そうな相手ですね。
 自分たちは奥まで入ることができなかった特級ダンジョンで、オークナイトやトレントのような魔草が居たくらいしか情報が無かったみたいだし、砂浜では何かに足を引っ張られて身動きが取れなくなっている間に、貝類からの攻撃を受けて全滅の危機に瀕したとかじゃね。そんな人たちがついて来ても何の役に立つというのだろうか。
 まあ、私は関わらないようにしておこう。
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